175号 WINTER 目次を見る
キーワード:初心者でも導入しやすいシステム/新表面処理によりスピーディなインテグレーションを獲得
目 次
- ≫ はじめに
- ≫ SPIインプラントシステム
- ≫ 超親水性表面「INICELL®」
- ≫ 臨床例
- ≫ おわりに
はじめに
令和と年号が変わり、すでに2年が経とうとしている現在、我々の歯科医療界においてはIOSの応用をはじめとしたデジタルワークフローを中心に様々な分野での技術革新およびそれらの情報が溢れている。なかには残念ながら一時的に話題となりながらも姿を消してしまったものもあるのもまた事実である。欠損補綴修復の分野におけるインプラント治療は、北欧スウェーデンでの登場と臨床応用から既に半世紀以上が経ち、世界中のメーカー、研究者、臨床家らの不断の努力により、その有効性は疑う余地がないものとなっている。
今回筆者が、日常臨床でのインプラント治療で使用しているThommen Medical 社のSPI( Swiss Precision and Innovation)インプラントシステムの特徴およびその臨床応用、またその進化について紹介したい。
SPIインプラントシステム
Thommen Medical社のSPIインプラントシステムの歴史は既に四半世紀を超え、本国スイスをはじめ欧米各国や日本などのアジアでの臨床応用は数多い。またシステムの研究開発から製造までの全てをスイス本社で一括管理し、我々臨床現場の声も行き届きやすい仕組みとなっている。
インプラントフィクスチャーのデザインはストレートタイプ(シリンダー型)とテーパードタイプ(コニカル・シリンダー型)があり、いずれもセルフタッピング構造を有し、先端はドーム状形態となっている(図1)。スレッドデザインも両者で違いがあり双方にスレッドピッチなど特徴あるものとなっているが、ここでの詳細な解説は割愛させていただく。
筆者は臨床応用での大半は、埋入深度の調整が容易なストレートタイプを使用しているが、隣接歯の歯根近接やフィクスチャー先端部の骨幅の小さい症例、抜歯即時埋入または上顎洞底に関わる症例などではテーパードタイプの使用が奨励されよう。
またフィクスチャーのカラー部は機械研磨されたスムーズな面となっており、その幅も0.5mmから2.5mmとバリエーションに富んでいる。原則的には機械研磨されたカラー部は骨縁上に位置させるとされているが、前歯部などの審美領域や歯肉の薄い症例においては、カラー部を骨縁下まで埋入できるようなドリリングステップも用意されている(図2)。
最後に筆者がこのシステムのデザインにおいて最も特色あるものと感じている特徴が、インプラントコネクションである(図3)。既に挙げた特徴も含めて、開発以来全く変更していないことがこのシステムの信頼性を象徴しているもので、従来のインターナルコネクションとテーパードコネクションの利点を兼ね合わせたような構造に関して個人的に好感を持っている。すなわちバットジョイントのインターナルコネクション構造に見られるような側方圧によるアバットメントとフィクスチャーとのマイクロリーケージ、またテーパードジョイントにおける垂直圧によるフィクスチャー本体に対する楔状応力といった、生物学的および構造力学的なリスクを可及的に防いでいる(図4)。またフィクスチャーのプラットフォーム状にはエクスターナル補強リングなる構造が付与され(図5)、アバットメントへの応力をサポートし、それによりアバットメントスクリューの径が小さくなり、アバットメント、フィクスチャー双方の側壁に厚みを持たせることを可能にしている。このシステムを導入当初、アバットメントスクリューの小さいことに驚いたということは後日談である。
図1 エレメント、コンタクト両方のデザインの画像-
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図2 プロファイルドリル使用のシェーマ -
図3 コネクション部の特徴がわかるシェーマ -
図4 コネクション部の断面図 -
図5 補強リング
超親水性表面「INICELL®」
インプラントフィクスチャーの表面性状は開発における最大のトピックともいえ、インプラントの歴史を語るうえで欠かせないものであろう。筆者もインプラント治療を始めて十数年というまだ短い臨床経験ではあるが、導入当初から各社が凌ぎを削って研究開発、発表する場面に幾度となく遭遇してきた。
そのようななかで確実な骨とのインテグレーションに関して評価の高かったSPIインプラントの表面は、現在のゴールドスタンダードともいえるサンドブラスト・熱酸エッチング処理によるマイクロラフ表面である(図6)。
諸先輩先生方とのPersonal commu-nicationにおいても以前からその評価は高く、筆者がこのシステムを導入する大きな要素となった。
今回、そのフィクスチャー表面に対し埋入直前にコンディショニングを行い、表面の親水性を血液の自発的浸潤が生じるまでに高めるというシステムが導入可能となった(図7)。具体的にはコンディショニング液がカートリッジに入った専用ケースでデリバリーされるが、埋入直前にアプリケーターにカートリッジを押し込み、フィクスチャーがコンディショニング液に浸された状態で数回シェイキングし、その後にフィクスチャーにキャリアーを付けて取り出し、埋入する。
結果的にこの処理を行うことによりインテグレーションの速度を加速させることが可能となり、骨質にもよると思うが、大半の症例において3週間で通常負荷を与えることが可能となった。
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図6 フィクスチャー表面の電顕写真 -
図7 INICELL® のパッケージ
臨床例
患者は50歳代男性。下顎右側大臼歯部の疼痛を主訴に来院した。診査の結果、下顎右側第二大臼歯遠心根に歯根破折を認め抜歯となった(図9)。
患者との協議の末、同部位はインプラント治療を行うこととした。抜歯後約4ヵ月の治癒期間を経て(図10)、SPI®ELEMENT RC INICELL φ4.0mm×11.0mm(図11、12)を埋入した。埋入直後のISQ値は頰舌方向で68、近遠心方向で69を示し、十分な初期固定を得られたものと判断、1回法とした(図13~16)。
埋入後約3週で、スクリュー固定のプロビジョナルレストレーション作製のための印象を行った。その際にオステルビーコン(図8)にてISQ値を測定したところ、頰舌方向で70、近遠心方向で71と埋入時よりも僅かながら数値の上昇が確認された(図17~19)。これは骨との機械的な固定(一次固定)から、生物学的な固定(二次固定)へと正常に移行していることを示唆するものと考えられる。
その後、装着されたプロビジョナルレストレーション(図20)によって決定された歯肉貫通部の形状を反映させることを目的としたカスタムインプレッションコーピングを作製し、アバットメント作製のための印象を行った(図21、22)。
SPIインプラントはアバットメントスクリューの径が小さいことから、最終上部構造をスクリュー固定することでの優位性があるとの見解もあるが、筆者はほとんどの症例においてセメント固定を採用している。
今回は患者の持つ強い咬合力、第二大臼歯部の補綴修復という条件からチタンアバットメントを採用した(図23、24)。最終上部構造はPFZクラウンとし(図24)、歯科技工士の設定した咬合接触点を調整、付与した(図25、26)。
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図8 歯接触分析装置「オステルビーコン」 -
図9 初診時。 -
図10 抜歯窩は治癒している。 -
図11 埋入直前のコンディショニング。 -
図12 コンディショニングを終えたフィクスチャー。 -
図13 サージカルステントを用いたドリリング。 -
図14 機械研磨部を骨縁下に位置させる完全埋入。 -
図15 ジンジバルフォーマーを装着し、1回法とした。 -
図16 埋入直後のX線画像。 -
図17 埋入後約3週。切開線が残っていることがわかる。 -
図18 オステルビーコンを使用し、ISQ値を測定。 -
図19 印象用コーピングを装着し、クローズトレー法にて印象を行った。 -
図20 スクリュー固定されたプロビジョナルレストレーション。 -
図21 プロビジョナルレストレーションを元に作製されたカスタムインプレッションコーピング。 -
図22 カスタムインプレッションコーピングを用いたアバットメント印象。 -
図23 チタン製カスタムアバットメントおよびプロビジョナルレストレーション。 -
図24 最終的な補綴物はPFZとした。 -
図25 歯科技工士があらかじめ設定した咬合接触点を再現するよう咬合調整する。 -
図26 術後のデンタルX線画像。
おわりに
SPIインプラントシステムの利点は、そのシンプルさにある。特にフィクスチャーのデザイン、サイズは選択が容易であり、また埋入時のドリリングステップにおいても切削力に高くブレにくい、先端部に特徴的な形状を持つベクトドリルで少ないステップで埋入窩を形成できるなど、初心者でも導入しやすいシステムである。
また、INICELL®という新しい表面処理によりスピーディなインテグレーションの獲得が可能となったことは心強い。今回供覧した症例では埋入後約3週という治癒期間で次のステップへと進めたが、もう少し軟組織の十分な治癒を待つ必要性を感じたことは否めない。逆に言えば埋入後に通常の治癒期間を経れば、より確実なインテグレーションを獲得できることを意味している。
今後はIOSなどを活用したサージカルガイドやアバットメント、最終上部構造のデザイン、作製といったデジタルソリューションを取り入れ、患者に負担の少ない、スマートなインプラント治療の提供を目指したい。
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