175号 WINTER 目次を見る
キーワード:GBRのマネージメント/GBRにおけるセーフティ機構
目 次
はじめに
患者には様々なバックグラウンドがあるため、理想的な治療計画を適用するのが困難なことがある。このような場合、現実的には健口を維持する方法から考えてオプションを引き算式に設計する必要が出てくることが多い。
いずれにしても低侵襲かつ安全性を最優先することに変わりはなく、今回は、その選択肢としてTiハニカムメンブレン(TiHM)を用いた骨再生誘導法(GBR)について報告する。
フェーズ1:診査診断~手術中のマネージメント
インプラント治療におけるクラウンダウンコンセプトでは、GBRの適応はインプラント埋入前または埋入中に検討されることが多い。また術前に角化歯肉や軟組織の厚みが共に3mm以上ない場合は先に歯肉の増生が必要な場合もある1)。
Case1では診療用ガイド上のCBCT像から骨の不足が確認できる(図1)。TiHMの応用は、GBRの基本的な術式に基づく。歯槽頂切開は、舌側の減張のしにくさや増骨後の縫合のしやすさに有利に働くように、角化粘膜内の頰側寄りに設定する。その後、先に減張切開を行うことでどの程度増骨が可能なのかを見極める。
縫合は、水平マットレス縫合と単純縫合を行うが、この際減張切開にてフラップにテンションがかかっていないことが重要である(図6)。
TiHMは賦形が容易で、骨に沿わせて位置づけする(図2)。メンブレンの固定には、皮質骨を貫く際の操作性の観点から、筆者はチタン製マイクロスクリューを用いている(図5)。試適時にメンブレン側の固定位置に短針等で穴を開けておくと、メンブレンの巻込みが減少する。骨側にも必要に応じてパイロットホールを形成する。
Case1
図1 理想的な歯冠形態から作製した診療用ガイドを用いたCT像では骨量が大きく不足している。-
図2 メンブレン試適時。肩の部分の骨が目減りしないように意識して賦形する。 -
図3 術前の同部位のCT像と比較して、十分な骨量が確認できる。
フェーズ2:術後管理~インプラント埋入のマネージメント
GBRでは術式に関連する合併症、特にメンブレン露出が起こりやすい。小さな露出の場合は、クロルヘキシジンによる含嗽、清掃により軟組織閉鎖を待つ。大きな露出や排膿等が認められる場合は、即時にメンブレンを除去し感染した補填材を取り除く2、3)。
Case2では、全顎的な治療後3年でレントゲン上も問題なく推移している(図4)。この症例では上顎の両側に骨欠損が認められたため、右側はチタンメッシュによる骨増生を、左側はその後発売されたTiHMによる骨増生をそれぞれ行った(図5)。チタンメッシュの穿通孔は大きく、軟組織との癒着のために除去は困難であったが、TiHMの穿通孔は20μmで癒着がなく、除去はスムーズであった。チタンメッシュを用いた右側は術後残った露出部分からは排膿が認められ、所定期間前に撤去が必要となった。TiHMを用いた左側は術後3週後に露出部分が認められた(図7)が炎症はなく、消毒を継続して歯肉閉鎖まで経過観察した結果埋入に問題のない造骨が達成された。
Case3ではショートインプラントでも対応困難な骨量であり、TiHMを用いたGBRを計画した。術後4週で1mmのホールから排膿が認められたが、含嗽清掃により排膿は収まり歯肉は閉鎖したため、術後4ヵ月でメンブレンを除去した(図10)。埋入後3年の現在も安定した骨レベルを維持している(図9)。
またCase4のように側方のみの骨増生であればリスクのある縫合部直下には メンブレンを置かず血流を確保する目的で側方部のみに設置する方法も考えられる(図11、12)。このようにできる限りリスクを下げる配慮も重要である。
Case2
-
図4 まだ術後3年の経過であるが、骨レベルは安定している。 -
図5 メンブレンをマイクロスクリューにて固定。歯肉の厚みを確保する目的にてPRFを使用。 -
図6 頰側寄りの切開により、骨増生後の縫合時切開線は歯槽頂付近に位置できる。 -
図7 外科3w後(写真上)遠心にメンブレン露出。その3w後(写真下)自然に閉鎖した。
Case3
図8 CBCT像の比較。骨増生により下歯槽管までの距離が確保できた。-
図9 術後3年の経過であるが、メインテナンスにより慎重に管理している。 -
図10 メンブレン除去時。周囲軟組織との癒着はなく、非常に容易に除去できる。
Case4
図11 側方にのみメンブレンを設置。最後に角を残さないように注意する。-
図12 側方への十分な増骨が確認できる。
フェーズ3:治療終了~メンテナンス管理のマネージメント
インプラント周囲の角化歯肉に関しての報告は多様だが骨増生後に関しては注意を要し、角化歯肉が失われている場合や歯肉の厚みが少ない場合は長期的に不利に働くことがある。
角化歯肉の欠如が歯肉退縮または骨吸収のリスクを高めるとの報告4~6)もあることから、患者の負担を熟慮しながら歯肉移植の有無を検討している。
また角化歯肉が少なくても安定している長期ケースでは初期の機械仕上げのインプラントの埋入例が多く、近年の中等度の粗面を有するものとは区別すべきである。
おわりに
人間の行為に完璧がない限り、起こりうるトラブルに着実に対応ができるセーフティ機構が求められる。GBRにおけるTiHMは除去時も低侵襲であり、感染のリスクに有利なセーフティ機構を備える選択肢であるといえる。
謝辞
末筆ながら、日頃より多くの長期症例を経験する機会をいただき、いつも温かくご指導いただいている医療法人西村歯科・西村眞理事長と日頃より傍で診療を支えてくれる当院のスタッフに心より感謝の意を表します。
- 1) Plonka AB. Urban IA. Wang HI.Decision tree for vertical ridge augmentation. Int J Periodontics Restorative Dent. 2018:38(2): 269・275.
- 2) Chan HI.. Benavides E. Tsai CY. Wang HL. A titanium mesh and particulate allograft for vertical ridge augmentation in the posterior mandible:A pilot study. Int J Periodontics Restorative Dent.2015:35(4):515-522.
- 3) Fontana F. Maschere E. Rocchictta I. Simion M. Clinical classification of complications in guided bone regeneration procedures by means of a nonresorbable membrane. Int J Periodontics Restorative Dent. 2011:31(3):265-273
- 4) Kim BS,Kim YK Yun PY, Yi YJ,Lee HJ, Kim SG,Son JS. Evaluation of peri-implanttissue response according to the presence of keratinized mucosa.Oral Surg Oral Med Oral Pathol Oral Radiol Endod 2009;107: e24-28
- 5) Bouri A Jr,Bissada N,Al-Zahrani MS,FaddoulF, Nouneh I,Width of keratinized gingiva and the health status of the supporting tissues around dental Implants.Int J Oral Maxillofac Implants 2008;23:323-326
- 6) Zigdon H, Machtei EE. The dimensions of keratinized mucosa around implants affect clinical and immunological parameters. Clin Oral Implants Res 2008;19:387-392
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