189号 SUMMER 目次を見る
Trend Watching
歯科大学教育におけるMIに基づいたII級窩洞コンポジットレジン修復の現在
目 次
- ≫ 演習授業でⅡ級窩洞修復に取り組むようになった背景
- ≫ 繰り返し実物に触れることが大切に
- ≫ MIの理念とⅡ級窩洞修復
- ≫ Ⅱ級修復のこれからについて
- ≫ 保存修復学演習の担当教諭・英將生准教授にⅡ級コンポジットレジン修復のポイントを伺いました
- ≫ 演習授業を終えて、指導教員の先生と学生さんに感想を伺いました
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鶴見大学歯学部 保存修復学講座
教授
山本 雄嗣
近年、臼歯部の隣接面う蝕に対する治療の第一選択として、直接法コンポジットレジン修復(以下:直接法CR修復)を選択される先生方が増えつつあります。全国の歯学部でもいち早く直接法CR修復の演習授業を開始した鶴見大学歯学部に伺い、歯科大学教育におけるⅡ級窩洞修復の現在について探りました。
演習授業でⅡ級窩洞修復に取り組むようになった背景
臼歯部における隣接面う蝕の修復を成功に導くには、適切な隣接面接触点と解剖学的形態の回復が不可欠で、長らくメタルインレーによる間接修復法を第一選択とする時代が続いていました。しかし、セルフエッチングシステムが登場したことで象牙質に対する接着の信頼度は格段に上がり、エナメル質に対してもリン酸エッチングを行うことでコンポジットレジンであっても安定した接着を獲得できるようになりました。あわせてコンポジットレジンの物性も向上し、これらの材料を用いた術式の確立や周辺器材の発達とともに、その状況は変わりつつあります。
当大学の歯学部附属病院保存科ではⅡ級窩洞に対して、20年ほど前からリング状リテーナーを用いた直接法CR修復を行ってきました。審美性と低侵襲性のメリットから、将来的に直接修復法の症例数は増えていくことが予想されたことに加え、Ⅱ級修復の手技に関する基本的な知識やテクニックを学生時代から学ぶことが大切であると考えました。
繰り返し実物に触れることが大切に
授業で採用しているマトリックスシステムは『コンポジタイト3D システム』(ギャリソンデンタル)です。その特長は隣接面形態の豊隆の再現を可能にする3次元的な湾曲を持ったセクショナルマトリックス、それを保持しながら歯間離開を行い、緊密な隣接面の接触点を回復するリング状リテーナー、歯間離開および歯肉側マージンをしっかり封鎖させるウェッジが挙げられます。
旧製品と比較すると、形態回復、接触点の回復の精度は向上しており、また従来では難しかった大型窩洞に対しても適切なリング状リテーナーを選択することで対応できるようになりました。
ただし、器材の操作にはある程度のトレーニングが必要です。特にセクショナルマトリックスは非常に薄い金属であるため、操作の感覚を掴むまでには繰り返し実物に触れる必要があります。学生には失敗を恐れずに積極的に器材を触り、感覚を養って欲しいと思っています。
図1 1970年に神奈川県横浜市鶴見区に開設された鶴見大学歯学部は、横浜に存在する唯一の歯学部である。
図2 大学の演習授業用に作られた「コンポジタイト3D システム」の特別キット
図3 保存修復学演習では最初にモニターを使って、直接法CR修復の解説を行う。
MIの理念とⅡ級窩洞修復
![[写真] 山本 雄嗣 教授](/academic/dentalmagazine/wp-content/uploads/sites/2/2024/06/189-5_staff02.jpg)
う蝕治療といえば、かつては「削って詰める」時代でした。現在は歯科材料や修復技術の進歩に加え、歯の脱灰に関する科学的な解明が進み、あわせて予防に対する研究も広く一般に伝えられるようになりました。そうした状況は臨床にも影響を与え、MI(Minimal Intervention)の定着にも繋がっているものと思います。Ⅱ級窩洞における直接法CR修復の普及はそうした潮流と無縁ではありません。
しかし、注意が必要なのは間接修復法だからといって、「MIではない」とは言い切れない点です。医療従事者として立つべき視点は、患者さんが最大の利益を得るために最善を尽くすことであり、患者さんにとって利点があるのであれば、間接修復法を選択したとしても、それはMIになり得るものだと考えます。
とはいえ、歯質を削る量が明らかに少ない直接修復法は、第一選択となり得るものです。まずは基本となるプラークコントロールによって脱灰を止め、再石灰化を促す重要性を患者さんにご理解いただくこと。その上でフッ化物の塗布、あるいはリン酸カルシウム系の材料を用いた再石灰化を促す治療を行い、可能な限り歯質の保存を目指す。そうしたプロセスの上にⅡ級窩洞に対する直接修復法か間接修復法かの選択があるものと思います。そして、そのプロセスが結果的にMIの実践につながるのではないでしょうか。
Ⅱ級修復のこれからについて
私が歯学部で学んだのは30年以上も前のことです。当時は接着性コンポジットレジンが徐々に臨床で用いられ始めた時期でした。しかし、適応範囲は狭く、隣接面の修復にはメタルインレーが当たり前の時代でした。
大学3年生の頃、白いインレーが世の中にはないのか。隣接面にう蝕ができると本当に銀歯でしか対応できないのか。そんな疑問を抱き、当時の担当教員に質問をしたことがありました。
すると、その教員は英語で書かれた白いインレーに関する海外の論文を見せてくださいました。教科書には載っていないテクニックを辞書を引きながら読み進めるうちに、どんどん保存修復の道に興味を持つようになりました。あれから30年以上が経ち、Ⅱ級窩洞に対してコンポジットレジン修復が安定して行えるようになったことには感慨深いものがあります。
今後も歯科材料や修復技術は発展を続けることは確かです。例えば、最近では0ステップの接着性コンポジットレジンの研究が進んでいます。あるいは、歯の成分のほとんどは無機質ですが、コンポジットレジンは有機無機複合材料であり、接着系材料も有機材料です。もし無機材料による修復が行えれば、より身体に優しい治療が可能になるかもしれません。より安全で、より便利で、精度も高く、審美的にも優れた治療方法が今後、新たに登場してもおかしくないでしょう。
大学教育においても従来からの基礎的な学びとあわせ、最先端の医療の動向を捉えながら、奥行きのある教育を行っていきたいと思っています。その一環として、Ⅱ級窩洞修復についても実践的な学びを学生に提供できればと考えています。
図4 演習授業はファントムを使って、実践的に行われる。
図5 下顎小臼歯と上顎大臼歯のⅡ級コンポジットレジン修復が演習の課題。
図6 中規模Ⅱ級窩洞の場合、「コンポジタイト3Dシステム」で隔壁設置を行った上で充填修復を行う。
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目 次
モリタ友の会会員限定記事
- Dental Talk 世代の異なる3名の臨床家が語る「 II級コンポジットレジン修復」の現在と未来
- Clinical Report これからの直接法II級CR修復 新ストラテジー -ストラタG システムとコンポジタイト3D システムの活用法-
- Case Report 効率アップを目指そう!「適合性の優れた隔壁」がII級コンポジットレジン修復にもたらすメリット
- Trend Watching 歯科大学教育におけるMIに基づいたII級窩洞コンポジットレジン修復の現在
- Interview 現在、II級コンポジットレジン修復は日々の臨床に欠かせない術式になっています
- Field Report II級窩洞に対するMIに則った治療プランの提案事例
- Clinical Report 義歯のキレイをキープする-「キレイキープTM」の効果を有効に発揮させるために-
- Clinical Report Er:YAGレーザーを用いた歯周治療の有用性-患者の利益を最優先に考えた治療の実践-
- Clinical Report 新規骨補填材ボナーク®を用いたインプラント治療
- Clinical Report SPIイニセルインプラントを用いた審美エリアにおける抜歯後即時インプラント埋入
- Field Report あるべき下顎の位置を導き出し理想的な咬合を実現するために欠かせない「K7エバリュエーションシステムEX Black」
- Technical Report セラビアン®ZRにおけるオパシティコントロールの1提案
- Field Report 歯間部に溜まった食渣やプラークを水の力で除去する口腔洗浄器
- Field Report 口腔機能発達不全症への取り組みとガムを用いた口腔機能トレーニング
- Interview 「ご家族以外に口腔ケアに関心を持つ人を増やしたい」という思いから訪問歯科診療を実践
- Topics 「感動を持ち帰る」そんな歯医者さんに通いたい 歯科におけるコミュニケーションについて考える。
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