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189号 SUMMER 目次を見る

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「感動を持ち帰る」そんな歯医者さんに通いたい 歯科におけるコミュニケーションについて考える。

エッセイスト 松浦 弥太郎/歯科医師・現代美術作家 長縄 拓哉

目 次

[写真] エッセイスト 松浦弥太郎 Yataro Matsuura

このコーナーでは歯科医師であり、現代美術作家でもある長縄拓哉先生がファシリテーターとなり、各業界の第一線で活躍するクリエイターとともに歯科医療が抱える課題や今後の可能性について探ります。
第1回目はゲストにエッセイストの松浦弥太郎さんを迎え、歯科におけるコミュニケーションについて考えていきます。

意識的に技術を高めようとしないコミュニケーションで

長縄診療時の患者さんとのやり取りやホームページの文章、あるいは論文など、歯科医師にとって言葉は意外と大切です。そう考えた時にまず松浦さんが思い浮かびました。松浦さんの文章は誰にでも分かりやすく、こちらに語りかけてくるような文体で、自然と引き込まれていきます。そうした感性や文章テクニックの源泉はどこにあるのか、機会があればぜひ伺ってみたいと思っていました。
松浦ありがとうございます。僕はまったく文学的な訓練は受けていないんです。もともとお喋りが好きで、外国で経験したことなどをいろんな方に話していたら、その中に編集者がいました。その方から「話がおもしろいからエッセイでも書いてみては」と言われたものの、文章なんて書いたことがないので無理だと伝えると、「普段、話しているように書けばいい」と言われ、その通りに書いたんです。それがきっかけで今に至ります。結局、僕の文章は文字の世界からかけ離れた会話文です。今でも文章力が高いとは思っていないし、「物書き」ではあっても「作家」とは絶対に言えません。ただ、毎日のように書いていると自分なりのフォームができるので、そういう意味では技術が身についていると言えなくもないのですが、あまり上手くならないように注意しています。
長縄なるほど、あえて上手くならないようにされているのですね。松浦さんの著書『それからの僕にはマラソンがあった』に、早く走ることよりも美しく走ることを心がけているというお話がありましたが、その話に通ずるものを感じます。
松浦そうですね。音楽も演奏がうますぎると心に届かないことがあります。文章も意識的に技術を高めようとすると、大事なものを失いそうな気がしています。

[写真] 歯科医師・現代美術作家 長縄拓哉 Takuya Naganawa

「課題解決」よりも「困るを助ける」に

長縄歯科医師は歯科の技術を高めた方がいいし、治療は妥協しない方がいいと思うんです。ただ、患者さんにとっての「最適解」が「最高の医療」とは限りません。例えば、“もう少し口を開けてくれたら、もっと良い治療ができるけど、この人にそんな無理をさせるのは良くない”という場合があります。
松浦僕も文章を書いたりといろんなアウトプットをしますが、常に目の前には誰かがいて、その誰かにとって優しいものだったり、喜ばれるものだったりするものをアウトプットするように心がけています。そういう意味では、患者さんを相手にする歯科の先生と共通するものがあるのかもしれません。そこで思うのは、患者さんも生身の人間ですから、たいていの患者さんは不安や苦手なことを抱えながら歯医者さんに来ているので、杓子定規に扱われてしまうと、治療が終わって帰るときに「やっと終わった。あと何回、来なくちゃいけないのだろう」とため息をついてしまう。
長縄医療として必要な行為と患者さんに対する配慮とのバランスは難しいですね。コミュニケーションといえば、松浦さんの著書に「困るを助ける」という言葉があって、僕はそれが好きなんです。よく格好つけて「課題解決」なんて言ってしまうのですが、その堅苦しい言い回しを「困るを助ける」に変えるだけで、伝わる人が増えるように思います。
松浦「課題解決」とか「最適化」とか現在、社会的によく使われていますが、なんとなく味気ないですよね。こんなに便利な時代に課題を無理やり見つけているというか…。最適化と言われても僕らは日々、柔軟に対応しているわけじゃないですか。なので、そういう言葉に引っ張られると自分たちが機械化されていく、皆が同じになっていく怖さを感じます。ともすると、人間じゃない方が幸せみたいなことになってしまうのではないかと。「困るを助ける」のような表現や言葉づかいで、自分たちを守っていかないといけないと思っています。

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