会員登録

196号 SPRING 目次を見る

Topics

歯科医療従事者として知っておきたい排泄・排便の基礎知識

国家公務員共済組合連合会 広島記念病院 消化器センター・外科 消化器外科医 医長 矢野 雷太/歯科医師・現代美術作家 長縄 拓哉

目 次

[写真] 国家公務員共済組合連合会 広島記念病院 消化器センター・外科 消化器外科医 医長 矢野 雷太 × 歯科医師・現代美術作家 長縄 拓哉

歯科医療従事者として知っておきたい
排泄・排便の基礎知識

口腔と排泄器官との関係は、消化器官の入口と出口というだけではなく、口腔内環境が全身の健康、特に腸内細菌や腎機能に影響を及ぼす可能性が示唆されるなど、相互に深く関わり合うものと言えます。この度、排泄・排便に関する治療や研究、啓発活動を行っておられる矢野雷太先生と、日々医療における課題解決に取り組んでおられる長縄拓哉先生に、口腔と排泄の関連性や、排泄・排便における必要な知識などについてお話しいただきました。

排泄を専門にされたきっかけ

長縄 矢野先生が排泄を専門に診療されたきっかけについて教えてください。
矢野 研修医時代に最初に担当した患者さんが、クローン病という口から肛門までの消化器官全体に慢性的な炎症や潰瘍が起こる原因不明の難病の方でした。そこで腸のことを勉強すると興味が湧いて、最終的に大腸を専門とした消化器外科を選びました。実は潰瘍性大腸炎という病気は、大腸を全て摘出すれば完治します。大腸摘出後は、小腸を肛門に繋ぐのですが、そうなると水分が大腸で吸収されないため、ドロドロした便が出るようになります。いわばずっと下痢をしている状態で、便意を感じると我慢できなくなります。そのため、術後はずっと排便障害の外来診療を受診する必要があります。そうして排便機能について勉強しているうちに、難病の人だけではなく便漏れに悩む人にも、この医療が使えると気が付いたんです。ですから、最初から排便機能に興味があったわけではなく、勉強しているうちに徐々に面白くなっていった、というのが本当のところです。

排便や排泄に関する課題と口腔との接点

長縄 排便や排泄にはどんな課題があるのでしょう。
矢野 何より相談しにくいことが、いちばんだと思います。排便機能についてどれだけ詳しくなっても、目の前に来た人にしか医療を提供できませんが、おむつを履いて家に籠っている人たちが実は病院の外にたくさんいるわけです。また、便漏れの時に何科を受診すれば良いかわかりにくい、ということもありました。そこで、看板を上げることが重要だと考えて、2020年に「排便機能外来」を開設しました。最初は認知されていないので、開業医の先生方にチラシを配って案内していましたが、開設から半年ほどして、新聞で紹介された途端、その日の朝から晩まで電話が鳴り続けて、1日で予約が3か月待ちの状態になってしまいました。やはりそれだけニーズがあって、相談できる場所を求める人たちが隠れていたことがわかって、あらためて排便障害は相談しにくいテーマだと気付かされました。中には、それから2年後にその新聞を握りしめて来院された方もいらっしゃいます。その方は「新聞に掲載されてから2年間ずっと受診しようか悩んでいた」とおっしゃっていました。いざ情報が届いたとしても、それだけ勇気が必要なことなのだと、その患者さんから教えられました。
長縄 患者さんはやはり高齢の方が多いのでしょうか。
矢野 便漏れについては60代、70代以降の方が多いです。便秘で悩む方は30代くらいの若い方が来られることもあります。また、少数ですが小学生や幼稚園児も来ますよ。便秘もありますが、便が漏れやすいことで不登校になってしまうこともあるので、そういう場合は予約を待たずに、できるだけ早いタイミングで診るようにしています。
長縄 おむつを履いていることを他人に言えないとか、排便機能外来の受診をためらってしまうことと、若い頃から入れ歯になったり、人前で入れ歯を外したりすることや、入れ歯自体を見られるのも恥ずかしいと感じる意識は似ていますね。また、おむつや入れ歯は、できれば使いたくない道具として見えているようにも思います。

  • [写真] 長縄先生に正しい“いきみ方”を指導する矢野先生
    長縄先生に正しい“いきみ方”を指導する矢野先生。
    • [写真] 病院内に設置された「オストメイト対応トイレ」
    • [写真] 長縄先生にオストメイト対応トイレの使い方を指導する矢野先生
    病院内に設置された「オストメイト対応トイレ」。ストーマ保有者が排泄物の処理、ストーマ装具の交換・装着、ストーマ周辺皮膚の清拭・洗浄、衣服・使用済み装具の洗濯・廃棄などができる。

排便には正しい“いきみ方”がある

矢野 こうしてお話ししていて、歯磨きの仕方は子供の時に習うのに、排便の “いきみ方”は習うことがないことに気づきました。
長縄 確かにそうですね。口腔ケアのプロとして歯科衛生士はいますが、排泄のスペシャリストのような職種はあるのでしょうか。
矢野 あります。でも、“いきみ方”とかではなく、便が漏れてしまう人に体操を教えるとか、お尻のスキンケアなど、排泄の結果、起きたトラブルに対するケアが主です。そのための認定看護師はいますが、排泄そのものの方法を指導できる資格はまだありませんから、独学で学ぶことになります。
長縄 ストーマ(人工肛門や人工膀胱)の装着方法は、専門の看護師さんが教えてくださいますね。
矢野 ストーマを使った排泄ケアは、別の場所に排泄器官を装着するという未経験のことを患者さんに覚えていただく必要があるので、専門知識を持った認定看護師の存在が欠かせません。
長縄 そもそも正しい“いきみ方”というものがあるんですね。
矢野 あります。間違った“いきみ方”をしていることで、排便ができなくなっている人もいます。便秘で悩む多くの方から、「何を食べたらいいんですか」と聞かれますが、便がお尻まで来ているのに出せない人もいるんですよ。その理由はいろいろありますが、「頭が痛くなるまで頑張っていきんでも出ないんです」という方の場合、逆に自分で肛門を閉めてしまっていることがあります。子供の時から正しい“いきみ方”を教えてもらっていないので、皆さん「自己流」なのです。排便の場合は、お母さんが横で「うーんって言って」と声をかけるのが唯一の指導と言えるのかもしれません。
長縄 いきむ時に、親として声のかけ方の模範回答はあるのでしょうか。
矢野 声かけだけではなくて、大人用の便座の上に子供用の小さい便座を乗せて座らせます。その時、足が地面に着いていることがポイントです。足がしっかり接地していると、腹圧をかけていきむことができます。ですから最初は「おまる」を使う方が良いのですが、毎回洗うのが億劫で、最近は使われないことが多くなりました。その結果、排泄障害が培われてしまうのではないでしょうか。洋式トイレは衛生面では良いのですが、そのことで排便しにくくなっている人はいるので、足台を使って和式の姿勢が取れるようにしてあげると、それだけで便秘が治ることもあるんですよ。
長縄 重要なのは腹圧なのですね。
矢野 そうですね。足台がなくても、かかとを上げて前屈みになって、お尻が尖った姿勢になると、お尻の周りの筋肉が緩む構造になっています。便秘解消の1つの方法として、正しい姿勢で正しく“いきむ”ことがとても重要で、このことを子供の時に教えておく必要があると思います。
長縄 なるほど。確かに口腔ケアとはだいぶ様子が違って、あまり世間には知られていないことが多いですね。

[写真] 矢野雷太 歯科医院は医療の入口にもなる場所だと思います

PROFILE
矢野雷太

2004年広島大学卒。2020年、便秘・便もれを治療する「排便機能外来」を開設。急性期から終末期まで伴走できる外科医を目指し、大腸外科診療を中心に、在宅医療のバックアップ入院診療、緩和ケアなどにも注力。
専門分野:消化器外科、特に大腸肛門疾患
広島市内のカフェで、医療の現場から見える様々な社会課題について市民と対話するイベントを開催するなど、多彩な活動を続けている。

[写真] 長縄拓哉 排泄や排便については知られていないことがたくさんありますね

PROFILE
長縄拓哉

1982年愛知県生まれの歯科医師(医学博士)であり現代美術作家。2007年東京歯科大学卒業後、東京女子医科大学病院、デンマーク・オーフス大学での口腔顔面領域の難治性疼痛(OFP)研究を経て、口腔顔面領域の感覚検査器を開発。IADR(ボストン、2015)ニューロサイエンスアワードを受賞。デジタルハリウッド大学大学院在学中。現代美術の特性を応用し、医療や健康に無関心な人々や小児のヘルスリテラシーを向上させ疾病予防をめざす。

この記事はモリタ友の会会員限定です。登録すると続きをお読みいただけます。

残り 3542 文字

モリタ友の会有料会員に登録する ログインする

目 次

モリタ友の会会員限定記事

他の記事を探す

モリタ友の会

セミナー情報

セミナー検索はこちら

会員登録した方のみ、
限定コンテンツ・サービスが無料で利用可能

  • digitalDO internet ONLINE CATALOG
  • Dental Life Design
  • One To One Club
  • pd style

オンラインカタログでの製品の価格チェックやすべての記事の閲覧、臨床や経営に役立つメールマガジンを受け取ることができます。

商品のモニター参加や、新製品・優良品のご提供、セミナー優待割引のある、もっとお得な有料会員サービスもあります。