196号 SPRING 目次を見る
目 次
- ≫ 出会いの経緯について
- ≫ 信頼できるパートナーを見つけるポイントとは
- ≫ 歯科医師のニーズを的確につかむために必要なもの
- ≫ お互いを尊重し、うまく連携していくために
- ≫ 歯科医師の先生方に伝えたいこと
- ≫ 症例解説 デジタル機器を活用したチェアサイド––ラボサイドによるコミュニケーション

出会いの経緯について
![[写真] 横浜市鶴見区 歯科佐藤 横浜鶴見 院長 佐藤 洋平](/academic/dentalmagazine/wp-content/uploads/sites/2/2026/04//196-5_staff01.jpg)
佐藤 鶴見大学歯学部で、私は有床義歯補綴学講座、伊原先生とは歯科技工研修科に勤務する中で出会いました。私が技工を依頼する時に提出する「技工指示書」は非常に細かくて、完成後のプランまで紙面いっぱいに書き込むので、技工を請け負う歯科技工部としては「佐藤のオーダーは注文が細かくて面倒だな」と面倒がられていたと思います(笑)。そんな中で、私の1年後に歯科技工部に入職した伊原先生は、私の細かな要望を汲み取り、理解して素晴らしい技工技術で応えてくださる歯科技工士の一人でした。
伊原 私はそれまで小規模の歯科技工所(ラボ)で勤務していましたが、大学附属病院で勤務することになりました。病院内ですと実際に口腔内を見る機会も多いですし、補綴装置がセットされた時の状態や完成度についても細かく確認することができます。そういう意味で、同じ時期に入職し、しかも同年代で、症例に対して常に真摯に取り組んでおられる佐藤先生と一緒に学べることがモチベーションになりました。
佐藤 伊原先生は私にとって、まさに宝物のような存在です。若い修行時代からお互いに働き盛りのこの年齢になるまで、ずっと一緒にできる人なんて、ほとんどいないと思うんです。ですから、私としては本当にラッキーとしか言いようがありません。特に大学勤務の頃は、毎晩10時頃にお互いの仕事が終わってから、私が歯科技工部に出向いて、お互いが今日取り組んだ症例などについて1, 2時間ほど話して帰ることが習慣になっていました。伊原先生は早く帰りたかったと思いますが(笑)。
伊原 大学は歯科医師と歯科技工士がコミュニケーションを取りやすい職場で、とくに佐藤先生とは波長が合い、長く話すことが多かったと思います。
佐藤 伊原先生も診療室にグイグイ来る珍しい歯科技工士さんでした。
伊原 そうでしたね(笑)。でもせっかくこんなに大きな病院で勤めているのですから、先生方が何をお考えなのか、お困りごとは何なのか、などについて私は常に興味津々でした。
信頼できるパートナーを見つけるポイントとは
佐藤 その後、二人とも大学を離れ開業することになりました。そこで、ラボ探しが始まるわけですが、私は歯科技工士の顔が見える小規模なラボが良いと思っています。そのラボがどういう考えで補綴装置を製作されているかを知っておきたいのです。ですから私の場合は、最初から小規模なラボを探しました。現在、伊原先生以外にも数軒のラボとのお付き合いがありますが、全て「一人親方」とでも言うのでしょうか、お一人でされているか、あるいは少人数のラボばかりです。
伊原 私の方も、開業後取引先として新たな先生方との関係を築いていきました。とてもありがたいことに、私の考えや提案を尊重してくださる先生が多いと感じています。いろんな提案を聞いていただけるだけではなく、逆に質問もくださるので、非常に良い関係が築けていると思います。
歯科医師のニーズを的確につかむために必要なもの
![[写真] 横浜市鶴見区 i - Dental Lab 代表 伊原 啓祐](/academic/dentalmagazine/wp-content/uploads/sites/2/2026/04//196-5_staff02.jpg)
伊原 私たちは技術者ですから、自身の技術力の向上に注力すること自体は、もちろん悪いことではないと思います。ただ、先生方が普段どんな治療をされているかを意識して学ぶことも必要だと思っています。先生方が求めるニーズ以外のことを提案しても良い評価は得られないと考えています。先生方が関心を持つ領域の勉強もしながら、自分の実力を伸ばしていくという、双方がバランス良くできることが、とても重要なのではないかと思っています。また、これは開業後に気づいたことですが、クリニックごとに特徴やカラーには様々なバリエーションがあると思うんです。ラボは補綴との関わりが強いために、意識が補綴一辺倒になってしまいがちですが、そうではないクリニックもたくさんあるので、そこは考慮する必要があると思います。「幅広く」と言うと難しいのですが、私の場合は、「この先生は補綴寄りの先生なのかな、何が得意で関心のある分野なのだろう」ということは意識して見るようにしています。それで、その先生に合わせて情報提供を行ったり、逆に情報を頂戴したりしながら、一緒に勉強していけるような関係を築いていければ良いのではないかと思っています。
お互いを尊重し、うまく連携していくために
![[写真] 対談風景](/academic/dentalmagazine/wp-content/uploads/sites/2/2026/04//196-5_staff03.jpg)
現在はデジタル機器を介してやり取りすることが増えたが、「以前は頻繁に顔を合わせて相談することが多かったですね」と佐藤先生。
佐藤 歯科医師は歯科医師として、自分がやりたいことをきちんと伝えた方が良いと思いますが、歯科技工士としても、技術的にできない要望であれば、「これはできませんよ」とはっきり言ってもらいたいですね。お互いにきちんと意見を言い合える関係は大事だと思います。また、伊原先生を見ていて思ったのは、院長だけではなく、クリニックのスタッフとも良好な関係を築くんですよね。当院のスタッフは、代診の先生はもちろん、歯科衛生士たちもみんなが尊敬の念を持って伊原先生のところに集まっていくので、本当に丁寧なやり取りをしてくださっていると感じています。スタッフも含めて意思疎通がしっかりできていると、うまく連携できるようになっていくのではないでしょうか。
伊原 私たちの仕事は、まず先生方に信頼していただけるところから始まると思っています。その信頼を得るためには、まずそのクリニックのサポートをしっかりと行うことが大切だと考えています。例えば、接着に関して言えば、「この新発売の接着材はこんな特徴がありますよ」といった日々の診療や、その症例がうまくいく後押しができるような提案を心がけています。それを続けていくことで、もし良い結果が出れば自分の評価にも繋がっていくことでしょう。そのためには先述した学びも必要になってきますが、結局それが関係性を深める近道だと思っています。
歯科医師の先生方に伝えたいこと
佐藤 昨年から、伊原先生と二人で「MORITA PRACTICE COURSE」(通称:モリタ塾)の補綴部門の講師を務めています。そこでは、補綴治療や義歯製作における日常診療に活かせる内容が中心ですが、特に歯科医師と歯科技工士の距離感を私たち二人のやり取りから学んでいただきたいと思っています。
伊原 対象が歯科医師の先生方ですので、ラボサイドが見ているポイントや考えていることを、佐藤先生とのコミュニケーションの中でお伝えできればと思っています。
症例解説
デジタル機器を活用したチェアサイド––ラボサイドによるコミュニケーション
ご紹介する症例は、支台歯が脱離したため、大型のブリッジ製作を行ったケースです(図1, 2)。
これだけ大規模なブリッジ製作になると、印象採得・咬合採得・形成などの各ステップにおいて、かなり難易度の高い治療となります。私の診療方針としては、できるだけ最小限の切削で、抜髄も選択したくありません。加えて、露髄の恐れも考慮しながら、これだけの本数の平行性を揃えるとなると、難易度はさらに上がります。そこで、最小限の切削を行った時点でIOSでスキャンし、伊原先生にデータを送って確認してもらいました。
症例のような多数歯欠損のケースでシリコン印象を行うと、咬合採得が難しく時間もかかります。その点、IOSだと気軽にスキャンして送ることができますし、私自身IOSの方が正確で、時間短縮にもつながると感じています。
補綴装置を除去した後、IOSデータからプロビジョナルレストレーションを調整し、仮着を行いました(図3)。その後、IOSデータを確認した伊原先生から追加形成の指示があり、その指示に従って切削を行いました。最初の時点で、ラボサイドとこうしたコミュニケーションができると、切削量や抜髄を最小限に抑えながら平行性を保つことが可能になります。
一方、今回の症例のように支台歯間の距離が大きくなると、IOSによる光学印象の場合、誤差が生じやすいことに加え、歯肉縁下形態の再現が困難なため、上顎にはシリコン印象を行いました。それ以外のバイト、対合歯列はIOSでスキャンを行っています。多数歯欠損の咬合採得が不得手なアナログと、支台歯間の距離が長いと誤差が生じやすいIOSというお互いの欠点を補うために、IOSスキャンとシリコン印象の両方を行って、双方をマッチングさせました(図7)。
![[図] 歯冠補綴完成までのチェアサイドーラボサイドのコミュニケーションの概要](/academic/dentalmagazine/wp-content/uploads/sites/2/2026/04//196-5_staff04.jpg)
歯冠補綴完成までのチェアサイドーラボサイドのコミュニケーションの概要
この後、歯冠形態のデザインを行い(図8)、図9がファイナルの状態です。本症例では、ほぼ無調整でセットすることができました。アナログとデジタルの利点を活かし、早い段階から伊原先生とコミュニケーションを取れていたことがその理由と考えています。
今回の症例では、伊原先生とのやり取りは全てデジタル上で行っています。以前は直接会って相談することも多かったのですが、現在はデジタル機器を介することで、対面でやり取りする機会は減りました。それでもこのような大規模な補綴治療が完結できることに、あらためてデジタルのありがたさを感じます。
技工作業の際に伊原先生から確認事項があるときは、音声付きの動画が送られてくるので(図5)、診療の合間にそれをチェックして、カルテ入力などの際に返信内容を考えます(図6)。簡単な内容であればその場で返信しますし、落ち着いて相談した方がよさそうな内容なら、診療後に電話で話すこともあります。音声動画は文字や静止画などよりもよく伝わりますし、お互いの時間を合わせなくてもやり取りできるので便利です。
私のような補綴医は最終的に噛めるようにすることがゴールです。その実現には、伊原先生のような信頼に足る歯科技工士の存在が欠かせません。そこで良好な関係を築くためには、お互いが大事なパートナーであることを認識し、尊重し合える関係を築くことが何より大切です。デジタル機器はたしかに便利ですが、十分な知識と技術を持つ人が活用して初めて効果を発揮します。私は伊原先生という素晴らしい歯科技工士と巡り合うことができて、本当に幸せ者だと感じています。この関係性を大切に、ともに切磋琢磨しながら精進できたら嬉しいですね。
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![[写真] 術前](/academic/dentalmagazine/wp-content/uploads/sites/2/2026/04//196-5_photo01.jpg)
図1 術前。前歯ブリッジの支台歯₃と臼歯ブリッジの支台歯₄が脱離しており、クロスアーチに近い設計が必要と考え、③2① 12③④5⑥のブリッジ製作を計画した。 -
![[写真] 初診時のパノラマX線画像](/academic/dentalmagazine/wp-content/uploads/sites/2/2026/04//196-5_photo02.jpg)
図2 初診時のパノラマX線画像 -
![[写真] シェル状のプロビジョナルレストレーションを調整し、仮着](/academic/dentalmagazine/wp-content/uploads/sites/2/2026/04//196-5_photo03.jpg)
図3 旧補綴装置を除去後、術前スキャンから製作したシェル状のプロビジョナルレストレーションを調整し、仮着した。 -
![[写真] IOSのスキャンデータ](/academic/dentalmagazine/wp-content/uploads/sites/2/2026/04//196-5_photo04.jpg)
図4 保持や生活歯の歯質保存の観点から、概形成時にIOSのスキャンデータをラボサイドに送信。萌出方向の異なる前歯部と臼歯部の平行性や補綴スペースの確認を行うことで、形成を行うことなく支台歯形成を最適化する。ほどなく伊原先生から、CADソフトウェアによる平行性の確認と追加形成が必要な箇所の連絡があった。 -
![[写真] 作業風景](/academic/dentalmagazine/wp-content/uploads/sites/2/2026/04//196-5_photo05.jpg)
図5 CAD設計などを行う過程で確認事項や疑問点があれば、伊原先生から音声付きの動画が送られてくる。(写真は音声付きの動画を作成している様子) -
![[写真] 伊原先生からの確認事項は診療の合間などにスマートフォンで確認](/academic/dentalmagazine/wp-content/uploads/sites/2/2026/04//196-5_photo06.jpg)
図6 伊原先生からの確認事項は診療の合間などにスマートフォンで確認し、適宜回答を行う。複雑な内容の時は、診療後に電話で話すこともある。 -
![[写真] 作業模型に対しIOSデータをマッチング](/academic/dentalmagazine/wp-content/uploads/sites/2/2026/04//196-5_photo07.jpg)
図7 作業模型に対しIOSデータをマッチングさせた。アナログ印象とIOSの欠点を互いに補うことで、適合精度と作業効率の両方を得ることができる。 -
![[写真] CADデザイン後、ジルコニアを加工・焼成](/academic/dentalmagazine/wp-content/uploads/sites/2/2026/04//196-5_photo08.jpg)
図8 CADデザイン後、ジルコニアを加工・焼成した。作業模型で適合の確認と調整を行い、ステインを塗布して、モノリシックジルコニアを完成させた。 -
![[写真] セット後の状態](/academic/dentalmagazine/wp-content/uploads/sites/2/2026/04//196-5_photo09.jpg)
図9 セット後の状態。チェアサイドで充分調整されたプロビジョナルレストレーションを参考にしたため、計画通りのガイドも付与することができた。
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