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「最後まで口から食べることを日本一支援する病院」を目指して

大阪府堺市 医療法人 錦秀会 阪和第二泉北病院 歯科口腔外科 部長 小野 雄大/リハビリテーション部 主任 言語聴覚士 垣内 公允

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目 次

大阪府堺市 医療法人 錦秀会 
阪和第二泉北病院

  • [写真] 歯科口腔外科 部長 小野 雄大
    歯科口腔外科 部長
    小野 雄大
  • [写真] リハビリテーション部 主任 言語聴覚士 垣内 公允
    リハビリテーション部
    主任 言語聴覚士
    垣内 公允

摂食嚥下障害への対応は、歯科における喫緊の課題です。阪和第二泉北病院では、2021年に「嚥下専門外来」をスタートし、2023年には「最後まで口から食べることを日本一支援する病院プロジェクト(嚥下プロジェクト)」を始動。嚥下障害関連の資格を持つスタッフを中心にチームを結成し、地域を支える活動をグループ全体で進めています。そうした取り組みに至った経緯や実際の活動内容について、プロジェクトの立ち上げから携わる小野雄大先生と垣内公允さんにお話を伺いました。

病院内公募からスタートした「嚥下プロジェクト」

小野 当病院の「嚥下プロジェクト」は、「“最後まで口から食べられること”を日本一支援する病院を目指していく」プロジェクトです。「日本一になれる分野をこの病院で作っていきたい」という前病院長の発案をきっかけに、病院内でアイデアを募りコンペを開催しました。その結果、1位になったのが言語聴覚士の垣内さんが発案した「最後まで口から食べることを日本一支援する病院」というプランでした。口から食べることで、視覚、聴覚、嗅覚をはじめ様々な感覚が刺激され、脳が活性化されます。ただ、いろんな要因から食べることが難しくなっている方も多くいらっしゃいます。そこで、そうした方々に対して「それぞれの状況に寄り添いながら、少しでも口から食べることを支援できれば」という思いから始まったプロジェクトになります。
垣内 これまでリハビリテーションに携わる中で、言語聴覚士が単独で関わっていくよりも、多くの職種の方々と連携しながら患者さんに向き合っていく方が、結果的に口から食べられるようになる方が増えていくという実感がありました。そのため、他職種のスタッフも巻き込んで病院全体のプロジェクトとして取り組んでいきたいという思いを以前から強く持っていました。現在、嚥下プロジェクトの主な活動内容は、①嚥下ファシリテータ(FT)の育成 ②嚥下外来の開設 ③嚥下専門病床の開設(嚥下リハビリ入院)という大きく3つの柱が中心になっています。

嚥下プロジェクトを支える“3つの柱”

小野 嚥下プロジェクトの立ち上げには、コアメンバーと呼ばれる発足メンバー10数名が関わってきました。そのメンバーを、教育プログラム(嚥下FT育成)担当、嚥下外来の立ち上げ担当、広報活動の担当という3つのチームに分け、同時進行で取り組んでいきました。私は当初教育プログラムを担当し、嚥下FTを育成するためにどんなカリキュラムや試験が必要かなどをチーム内で検討しました。垣内さんは嚥下外来の立ち上げを担当し、何曜日の何時に外来患者さんを受け入れ、どのスタッフがどんな流れで進めていくかを練ってくださいました。さらに広報活動チームは、SNSやタウン誌などの関連メディアに嚥下プロジェクトに関する活動内容を告知する役割を担いました。

  • [写真] 阪和第二泉北病院
    阪和第二泉北病院は、969床の病床を持ち、急性期、慢性期、終末期医療など幅広い医療を提供している。
  • [写真] 「嚥下プロジェクト」の発足に携わったコアメンバー
    「嚥下プロジェクト」の発足に携わったコアメンバーの皆さん。
  • [写真] 嚥下ファシリテータ育成コースで行われる講義の様子
    嚥下ファシリテータ育成コースで行われる講義の様子。カリキュラムの内容や講師などは基本的にすべて病院内で賄っている。

① 嚥下ファシリテータ(FT)の育成

垣内 嚥下プロジェクトで最初に取り組んだのが「嚥下FTの育成」でした。まずは、嚥下の知識を持つスタッフを病院内に増やしていくことが優先と考えたのです。そこで、職種を問わず摂食嚥下を学びたいという意欲を持った職員を募り、約1年間で嚥下について学ぶ病院独自の認定制度を立ち上げました。嚥下の基礎について学ぶ「Basicコース」と、実践的な「Advanceコース」から構成されています。毎年4月に公募し、5月~翌年1月に受講、3月の認定試験を経て、合格すれば認定証とバッジを進呈するという流れになっています。Basicコースを受講することで、①嚥下に関する基本的な知識を身につける ②嚥下に適した姿勢や食事動作、環境設定が行えるようになる ③嚥下障害のある患者さんの食事支援に向けて他部署との連携が取れるようになる、という3つのスキルを身につけることができます。嚥下FTに認定された後は、各自の職場に戻り、病棟における嚥下アドバイザーとしての役割を担ってもらいます。立ち上げから4年間で、累計84名(9職種)の認定者を輩出し、5年目となる今年には100名を超える見込みです。また、Advanceコースの受講者の中には、嚥下FTの知識を活かして公的資格取得を目指して摂食嚥下認定看護師のコースを受講した看護師もいます。
小野 嚥下FTの目的は、それぞれの専門性に嚥下の知識やスキルをプラスした関わりが持てること。さらに、他職種と協力して嚥下に関わることで、患者さんのADLやQOL向上に寄与できることです。立ち上げの際には、「こんなことをしてみたい」「〇〇の企画はどうか」など、摂食嚥下に強い関心と高い意識を持った職員がたくさん集まってくれました。カリキュラムの作成には、専門の先生方のお知恵をお借りしたり講義を受け持ってもらったりして、基本的には病院内ですべてを賄う形で作成していきました。

② 嚥下外来を開設

小野 「嚥下外来」では、VE(嚥下内視鏡検査)やVF(嚥下造影検査)を使った嚥下検査からリハビリテーション、栄養アドバイスまで一つのパッケージで行っています。1回の来院で検査からアドバイスまで完了するため、患者さんからも好評をいただいています。毎週火曜日の午後から受付し、所要時間はおよそ2時間半です。身長・体重測定、血液検査、胸部CT検査など各種検査を受診後、検査結果を説明し、水飲みテスト、嚥下内視鏡検査を行います。その後、言語聴覚士によるリハビリテーションを実施、理学療法士や作業療法士とも連携しながら指導を行います。最後に管理栄養士による食事形態や栄養状態、調理法の指導が行われて終了という流れです。受診後、必要があれば外来で嚥下リハビリテーションを行うことや、医師が入院の必要性を判断した場合は、後述する「嚥下リハビリ入院」も可能です。

③ 嚥下リハビリ入院

垣内 「嚥下リハビリ入院」は、4週間程度の嚥下に特化した入院プログラムです。理学療法士、作業療法士、言語聴覚士による嚥下に特化したリハビリテーションや歯科衛生士による口腔ケア、患者さん本人が自ら嚥下関連グッズを使って行う自主練習のフォローなどを集中的に実施します。外来でもリハビリテーションは行いますが、それだけでは不十分な場合の選択肢として用意しています。さらに、退院後に患者さん自身で継続できるようなプログラムも取り入れています。病院側としては、嚥下関連グッズの活用や効果データの収集・蓄積、さらに嚥下に関するデータ収集(ADLや舌圧、握力、栄養状態など)といった側面でも大きく貢献しています。

  • [写真] 嚥下ファシリテータ育成コースの実技講習の様子
    嚥下ファシリテータ育成コースの実技講習の様子。Bacicコースでは、約1年間嚥下に関する講義や実技を受講し、嚥下の基礎を学ぶ。
  • [写真] 嚥下ファシリテータ育成コースを終了された皆さん
    嚥下ファシリテータ育成コースを終了された皆さん。終了後には修了証とバッジ(右上)が進呈される。
  • [写真] 嚥下外来でVE(嚥下内視鏡検査)を行っている様子
    嚥下外来でVE(嚥下内視鏡検査)を行っている様子。取材当日は嚥下外来の実施日にあたり、実際の取り組みの様子を取材することができた。
  • [写真] 口腔のパノラマX線写真を見ながら、患者さんに説明を行う小野先生
    VE後に口腔のパノラマX線写真を見ながら、患者さんに説明を行う小野先生。
  • [写真] カンファレンスの様子
    検査後、お薬手帳やカルテを確認しながら、その場でカンファレンスが行われた。
  • [写真] カンファレンス後の言語聴覚士によるリハビリ指導や、管理栄養士による栄養指導の様子
    カンファレンス後、言語聴覚士によるリハビリ指導や、管理栄養士による栄養指導が行われる。

日々の取り組みで感じるやりがい

小野 多職種が専門のチームを結成して嚥下を診る病院は他では極めて少なく、ある意味高齢者医療の最前線を担っているという自負はありますね。プロジェクトに携わる職員もそれぞれの職種を超えて、やりがいを感じてくれていると思います。
垣内 年を経るごとにいろんな職種の方が関わってくださり、約1年間一緒に学ぶことで職員同士の仲間意識も強まり病棟でのコミュニケーションも増えたように思います。職員同士の繋がりが病院全体に波及していくところまでは想定していなかったので、私たちにとって嬉しい誤算でもありました。嚥下障害の診療では、患者さんが再び安全に食事を楽しめるようになることが最大の目標です。患者さんやそのご家族から「また食べられるようになって良かった」「口からおいしく味わうことができて感謝している」という言葉をいただいた時には、とても嬉しく、やりがいを感じる瞬間です。

嚥下障害の兆候に気付く「問診」の大切さ

小野 当病院では問診の際に、「どんなものが食べにくくなったか」「どんなものを食べるとむせやすいか」などを、事細かに確認しています。例えば、問診内容を見るだけで、もともと早食いの傾向があり、それが加齢とともに嚥下機能が弱まっているにもかかわらず、若い頃と同じ速さで食べてしまっていることが原因なのかな、と推測できることもあります。患者さんの生活状況や既往歴、服薬歴など本人から詳しくヒアリングできればよいのですが、現実的には難しいため、問診票に詳細に書いていただいています。口腔機能低下症は、早期に診断することで、嚥下障害の悪化を遅らせることができるという報告もあります。開業医の先生方には、60歳以上の全ての患者さんに口腔機能低下症を疑う目を持っていただければ、私たちも嬉しく思います。

歯科医療従事者の皆さんへのメッセージ

[図] 嚥下リハビリ入院
嚥下リハビリ入院では、専門病棟への入院となり、多職種連携による手厚い介入が行われる。

垣内 私は言語聴覚士として、声の変化には常に留意しています。嗄声(かすれ声)は、口腔機能の低下とも密接に繋がっています。特に、痰がからんだような湿った嗄声は、嚥下がうまくできなくなり飲食物や唾液が声門周辺に残っているために起きている可能性があります。歯科に定期的に通院されている患者さんは、口腔に関して意識の高い方が多いと思いますが、口腔機能の低下は意外と本人が気付きにくい分野でもあります。歯科の先生方には、患者さんのちょっとした声や声量の変化にも気を配っていただけると嬉しいですね。
小野 診療に日々携わっている歯科医師や歯科衛生士の皆さんが、「嚥下は専門外なので」「学校で学んでいないので」と言ってはいられない現実が、もうそこまで来ています。高齢者の場合、認知機能やADL低下に伴い、実施できる臨床検査や摂食嚥下リハビリテーションの種類にも限りがあります。特に独居の方などは、会話量が減少し、食事内容が通常食から噛みやすく、飲み込みやすい食形態へと変化してくると、摂取できるエネルギー量の減少や栄養バランスの低下なども相まって、口腔機能や咽頭機能にも低下が見られます。一定の年齢以上の患者さんであれば、本人の訴えがない場合でも、未来の誤嚥性肺炎を予防する観点から、私たち歯科医療従事者は口腔機能低下症の有無を常に疑う必要があるのかもしれません。

歯科診療所を受診できなくなった「その先」について考える

小野 高齢の患者さんが入院等によって歯科診療所を受診できなくなった「その先」を想像されたことがあるでしょうか。全国にある一般病院のうち、「歯科」がある病院は15%ほどしかありません。口腔に問題を抱えたまま、入院や寝たきり状態になると、その後の対応がとても難しくなります。時には予後不良と診断された歯が将来の感染源となるリスクを考慮し、積極的な抜歯や長期を見据えた口腔機能管理を検討する必要があるかもしれません。読者の皆さまにも、ぜひご一考いただければ幸いです。

「嚥下プロジェクト」に携わるスタッフの方々にお話を伺いました。

[写真] 歯科衛生士 平田 美咲

歯科衛生士
平田 美咲

[写真] 平田さん
測定器を使って舌圧を測定する歯科衛生士の平田さん

当病院に勤務して9年目になります。病院内でむせる方や口から食べられない患者さんを多く目にする中で、歯科衛生士として何ができるかをずっと考えていました。ちょうどその頃「嚥下プロジェクト」立ち上げの話を耳にして、摂食嚥下の分野をしっかり学んで患者さんに向き合いたいと思い、参加しました。嚥下リハビリ入院ではカンファレンスにも参加し、口から食べる喜びなどを患者さんから伺う機会も増えました。固形物が食べられず、「職場の仲間と一緒に食事がしたい」と来院された外来患者さんに、開口訓練や飲み込みを補助する装置を試しながら、一緒にリハビリに取り組んできた結果、開口量も増え、念願の同僚との食事を楽しむことができたという話を伺ったときは、とても感動しました。表情が日に日に明るくなり元気を取り戻されていく姿を見ると、「嚥下プロジェクト」に参加して良かったと心から思います。FTコースはベーシックとアドバンスの受講を終え、今後は学会などに積極的に参加し学びを続け、口腔の重要性を伝えていきたいと思っています。

[写真] 管理栄養士 古渕 有希

管理栄養士
古渕 有希

[写真] 古渕さん
嚥下外来の患者さんに栄養指導を行う管理栄養士の古渕さん

管理栄養士として13年目、当病院は昨年4月から勤務しています。元々当病院の厨房の栄養士で、その後系列病院で勤務していました。その病院では、「口から食べているけど大丈夫だろうか」「食べていないけど本当は食べられるのでは」など、いろんな患者さんがおられる中で、どう評価すれば良いかわからず、患者さんとの関わり方を模索する毎日でした。そんな時、『第二泉北病院で、「嚥下プロジェクト」が立ち上がるらしい』という話を聞いて気になっていたのですが、私も当病院に異動になり、プロジェクトに参加。現在は嚥下外来に加え、嚥下リハビリ病棟の栄養管理を担当しています。管理栄養士としてお伝えしていることは、まず“しっかり噛むこと”です。「むせるから診てほしい」という方でも、よく噛んでゆっくり食べれば問題がないことも多いので、「まずはよく噛んでください」とお話しています。その方に食べたいという気持ちがある限り、食事の形態や内容を検討し、食べる喜びをサポートできる管理栄養士を目指していきたいです。

[写真] 理学療法士 石川 麻衣子

理学療法士
石川 麻衣子

[写真] 石川さん
「嚥下リハビリ入院」の患者さんに運動療法をレクチャーする理学療法士の石川さん

「嚥下リハビリ入院」を担当して14年目になります。以前から呼吸に関心があり、勉強を続けてきました。長年多くの高齢者と関わる中で、誤嚥性肺炎を発症される方が多く、学びで得た知識や技術を活かす場がないことが悩みでした。「嚥下プロジェクト」は、まさに私がこれまで培ってきたものを発揮できる場所です。呼吸状態を評価することで、カンファレンスを通じて他職種の方に呼吸について知ってもらえる機会ができ、理学療法士以外の方が呼吸機能を鍛えるリハビリテーションを行ってくださることも多くなりました。ある嚥下リハビリ入院の患者さんで、理学療法に関心がなかった方が、体を動かすことが嚥下に効果があることを根気強く説明すると、それから意欲的に取り組んでくださるようになりました。最初はほとんど口から食べられなかったのですが、その後通常食がほぼ食べられるまでに回復され、退院後に自宅近くのレストランで偶然お会いしました。家族で楽しそうに食事をされている姿を見て、この仕事を選んで良かったと感じました。これからも理学療法士が嚥下に関わる必要性を広めていきたいと思っています。

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