196号 SPRING 目次を見る
目 次
- ≫ はじめに
- ≫ 血液検査データについて
- ≫ まとめ
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![[写真] 京都光華女子大学短期大学部歯科衛生学科 助教 尾形 祐己(歯科衛生士、看護師)](/academic/dentalmagazine/wp-content/uploads/sites/2/2026/04//196-15_staff01.png)
京都光華女子大学短期大学部歯科衛生学科
助教 尾形 祐己
(歯科衛生士、看護師)
はじめに
患者さんにより良いケアを提供するためには、まず患者さんの全身状態を正しく把握することが重要です。前号(デンタルマガジン195号)では、血液検査データのうち、主に血球に関連する項目を取り上げました。今号では、感染症や糖尿病、さらに肝・腎機能に関する検査データを解説します(表1)。
血液検査データについて
CRP(C反応性タンパク)
CRPは、炎症や組織損傷に対する急性期反応として肝臓で産生されるタンパク質であり、炎症性疾患や体内組織の破壊によってその血中濃度が上昇します。性別や年齢による影響はほとんど認められません。細菌やウイルス感染の際には、WBC(白血球数)が先行して増加し、その後、やや時間差をもってCRPが上昇する傾向がみられます(図1)1)。そのため、WBCが下降し始めている場合には、CRPが依然として高値であっても改善傾向にあると判断され、経過観察となることもあります。また、歯周病が進行して炎症が強まるとCRPが上昇する可能性があり、スケーリングなどの歯周治療によって低下することも報告されています2)。
近年、高齢者の発症が増加している関節リウマチにおいても、関節炎によりCRPは上昇します。関節リウマチ患者では、手指の変形や痛みによって歯ブラシの把持が困難となり、口腔清掃に影響を及ぼすことがあります3)。そのため、負担の少ないブラッシング方法の提案や適切な口腔衛生管理が重要です。さらに、全身の関節に炎症がある場合には、チェアユニットでの診療姿勢が困難となることもあるため、患者さんの状態に応じて姿勢を適宜調整する必要があります。特に顎関節に炎症が及んでいる場合には、開口量にも十分配慮してください。
FPG(空腹時血糖値)、HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)
いずれも糖尿病の診断や血糖コントロール状態の把握に用いられる重要な指標ですが、それぞれがもつ意味合いは異なります。FPGは、10時間以上絶食した状態で採血した血液を用いて測定した「その時点」での血糖状態を反映します。一方、HbA1cは、血液中のヘモグロビンのうち糖と結合している割合を測定した値であり、過去1~2か月の平均的な血糖状態を示す指標として利用されています。
糖尿病患者の多くは、JADEC連携手帳(旧・糖尿病連携手帳)や自己管理ノートを所持し、検査値や治療内容を記録しています(図2)。来院時には可能な限り持参していただき、その内容を確認することが望まれます。また、糖尿病患者では感染症により嘔吐・下痢などが生じたり、体調不良によって十分に食事が摂れなかったりする「シックデイ」が生じる場合があります4)。シックデイでは、高血糖・低血糖のいずれかに陥るリスクがあり注意が必要です。
歯科診療においては、処置に伴う身体的・精神的ストレスが血糖状態に影響を及ぼすほか、予約時間によっては空腹時に当たることもあるため、とくに配慮が求められます。そのため、来院時には当日の体調や食事摂取状況、低血糖時の対応法について確認することが重要です。さらに、簡易血糖測定器を用いて自宅で血糖を測定している患者さんについては、来院日の血糖値を把握したうえでケアにあたることが望まれます。
AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)/ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)
これらは主に肝細胞の中に含まれている酵素であり、肝機能を評価する指標として用いられています5)。肝細胞が障害を受けると血液中に逸脱するため、数値が上昇している場合には、肝疾患や生活習慣に関連した要因の存在が考えられます。ASTがALTよりも高値を示す場合には、アルコール性肝炎や肝硬変などが疑われます。一方、ALTがASTよりも高値である場合には、ウイルス性肝炎や薬物性肝障害、脂肪肝などの可能性が考えられます。また、ASTは心筋にも分布しているため、極端に高値を示す場合には心筋梗塞など心疾患の可能性もあります。
脂肪肝の中でも、特に非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)は肥満人口の増加に伴い、近年増加しているとされます6)。脂肪肝により肝障害が進むと、肝硬変や肝がんに移行するリスクがあるため、注意が必要です。原因の多くは生活習慣に関連していることから、歯科保健指導の場面でも食事や運動習慣を確認し、適切な助言を行うことが改善のきっかけとなる可能性があります。
CRE(血清クレアチニン値)
クレアチニンは筋肉の代謝過程で産生される老廃物であり、体内で再利用されることはありません。腎臓が正常に機能していれば糸球体でろ過され、尿中に排泄されます。しかし、腎機能が低下すると血液中に溜まり、CREが上昇します。逆にCREが低値である場合には、筋肉量の減少などが疑われます。ただし、筋肉量に依存するため、性別や年齢で基準値が異なります。
代表的な腎機能障害として腎不全が挙げられます。腎疾患により腎機能が低下すると腎不全が発症し、さらに進行すると腎機能を喪失します。その場合、自然な回復は困難となり、腎代替療法として血液透析や腹膜透析、あるいは腎移植による対応が必要となります。透析導入の原因疾患として最も多いのは糖尿病性腎症(38.3%)であり、歯科保健指導の中で歯周病と糖尿病の関係について患者さんに説明する際にも、重要なテーマとなります7)。
透析患者では、老廃物とともに余分な水分を除去する過程(除水)により口腔乾燥が生じやすく、口腔内の状態を丁寧に観察することが重要です8)。また、血液透析患者には抗凝固薬が使用されている場合が多く、投薬状況や透析日程を確認する必要があります。特に観血的処置を行う際には、血液透析の主治医に対診を依頼する、透析当日を避ける、処置後に十分な止血を確認するなどの配慮が望まれます。
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![[表]](/academic/dentalmagazine/wp-content/uploads/sites/2/2026/04//196-15_table01.png)
表1 検査項目と参考基準値
※成書やガイドラインによって若干の違いがあります -
![[図] CRPとWBCの経時的変化(イメージ)](/academic/dentalmagazine/wp-content/uploads/sites/2/2026/04//196-15_photo01.png)
図1 CRPとWBCの経時的変化(イメージ)文献1より一部改変 -
![[写真] JADEC連携手帳](/academic/dentalmagazine/wp-content/uploads/sites/2/2026/04//196-15_photo02.png)
図2 JADEC連携手帳(歯科治療について記録するページもある)
まとめ
本稿では、血液検査データと関連するさまざまな疾患を取り上げました。検査値そのものの意味合いだけでなく、それが示唆する疾患について理解を深めておくことは、患者さんの全身状態を把握するうえで非常に有用です。血液検査には本稿で紹介した以外にも多くの項目がありますので、前号で解説した血液検査データとあわせて確認し、日常の臨床に活かしていただければ幸いです。
- 1) 山田俊幸:SAA(血清アミロイドA蛋白)の臨床について. 医学検査. 1996 ; 45(5):957-960.
- 2) Sidharth Shankar et al:Variations of Serum CRP Levels in Periodontal Health and Diseases: A Clinico-Biochemical Study. Diagnostics (Basel). 2023 Jul 26 ;13(15):2483.
- 3) 公益社団法人日本整形外科学会 症状・病気をしらべる「関節リウマチ」2025年8月15日閲覧 https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/rheumatoid_arthritis.html
- 4) 公益社団法人日本歯科衛生士会 監修/松山美和 編集主幹:歯科衛生士のための糖尿病予防指導マニュアル 第2版.医歯薬出版株式会社;2024:15.
- 5) 岡上武,水野雅之:肝機能検査、肝障害について─健診における問題点.総合健診.2015:42(2):307-312.
- 6) 谷合麻紀子:NAFLD/NASHの疫学.日本内科学会雑誌.2020:109(1):11-18.
- 7) 一般社団法人日本透析医学会 わが国の慢性透析療法の現況(2023年12月31日現在)2025年8月16日閲覧 https://docs.jsdt.or.jp/overview/file/2023/pdf/03.pdf
- 8) 中井洋編:透析ケア 2012年夏季増刊号 腎臓・透析療法・透析患者の体のすべて.メディカ出版;2012:180-183.
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