190号 AUTUMN 目次を見る
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Creator’s Interview 患者さんとのコミュニケーションギャップについて考える
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![[写真] プロダクトデザイナー 倉本 仁 / 歯科医師・現代美術作家 長縄拓哉](/academic/dentalmagazine/wp-content/uploads/sites/2/2024/09/190-15_photo01.jpg)
このコーナーでは歯科医師であり、現代美術作家でもある長縄拓哉先生が各界の第一線で活躍するクリエイターとともに歯科が抱える課題や今後の可能性について探ります。今回はグッドデザイン賞の審査副委員長を務め、家具から自動車までさまざまなデザイン開発に携わるプロダクトデザイナー・倉本仁さんとともに「患者さんとのコミュニケーションギャップ」について考えていきます。
参加者が集まらないチラシに欠けているものとは?
長縄 患者さんとのコミュニケーションがうまく取れなかったり、そもそも、それ自体に気づかなかったりすることで、診療がスムーズに進行しないことがあります。そうしたコミュニケーションギャップを埋めるにはデザインの視点が役立つかもしれないと考え、今回、倉本さんにお声がけしました。はじめに、そもそも「デザインとは何か」を探るために、デザインとアートの違いについて、お聞かせいただけますか。
倉本 僕の認識では、デザインは双方向のコミュニケーションで、アートはアーティストからの一方向的な問いかけだと考えています。だから、デザインの作業は行ったり来たりしながら落とし所を探っていきます。逆にアートは一方向である分、太陽のように主張が輝いていないと通用しないところがあります。ただ、デザインとアートが近寄っている作品も多く、なだらかにつながっているイメージでしょうか。
長縄 「双方向のコミュニケーション」とは、どういうことでしょうか?
倉本 例えば、取っ手がついた器があるとします。これを見た時に説明がなくても「ここを持つんだな」と形から想像して使用します。そこにはデザイナーとユーザーのコミュニケーションがあるんです。でも、この時、器を見た人がどうやって使うのか分からなければ、コミュニケーションが成立していないことになります。
長縄 例えば、歯科医院では院内イベントなどを案内するチラシを作ることがあります。多くの患者さんに参加して欲しいのに、思うように集まらない。これはコミュニケーションがうまく成立していないということでしょうか。
倉本 その可能性はあるかもしれません。会話だとうまく伝えられるのに、チラシなどの視覚情報にした途端、伝わらなくなるケースはたくさんあります。そうした齟齬が生じないように、送り手と受け手とのコミュニケーションを円滑にすることがデザインの役割のひとつだと思っています。
長縄 デザインでコミュニケーションを円滑にするコツはありますか?
倉本 若い頃は自分の頭の中で考えて、「これが美しいだろう」と思うものをつくっていました。でも、ものづくりは製作過程でたくさんの人が関わり、完成後にはたくさんの人が作品に触れ、また、木材などの素材を考慮すれば、環境問題も関わってきます。そうした関わり合いを思うと、自分のイメージを押しつけるのではなく、調和のバランスが大切だと考えるようになりました。例えば、椅子であれば、どんな場所に置いて、どんな使い方をするのかなど、デザインを考える前に必ずクライアントさんにヒアリングします。雪が見える場所で使用するなら、雪に合う色がいいなとか。自分の好きな色や形を押しつけるのではなく、集めた情報でデザインの要素を変えていく。その方が完成して運用された時にうまくハマるんです。
「送り手と受け手とのコミュニケーションを円滑にすること」がデザインの役割のひとつ
~ 患者さんとのコミュニケーションギャップを埋めるデザインの視点 ~
シンプルにすることで生まれる力と失われるもの
![[写真] 倉本氏が初めて有名ファニチャーブランドからオファーを受け、デザインした椅子](/academic/dentalmagazine/wp-content/uploads/sites/2/2024/09/190-15_photo02.jpg)
倉本氏が初めて有名ファニチャーブランドからオファーを受け、デザインした椅子。
「立ち座りがしやすいので待合室にも向いています」と長縄先生。
長縄 創作活動を行ううえで心がけていることはありますか?
倉本 いちばんは第一印象をつくること。見た目が暗い人よりも明るい感じの人と話をしたいじゃないですか。それと同じで、第一印象が悪いとそこで関係性が終わってしまいます。僕はよく家具売り場に行って観察することがあるのですが、人はパッと目についた椅子にだけ近づいて、座ってくれるんです。それで座り心地を試して、触ってみて、「これ、いいな」となった時にようやく価格を見ます。だから、第一印象が良くないと何も始まりません。第一印象で「いいな」と思わせることがデザイナーのいちばん大事な仕事だと思っています。
長縄 美術ではよく「アイコニック (象徴)」という言葉を使いますが、それと似ているように思います。第一印象を良くするポイントはありますか?
倉本 人間は一度にたくさんの情報を覚えられないのでシンプルな方がいいですよね。その感覚はアイコニックと似ていると思います。例えば、十字架はただクロスしているだけなのに、そこに神様の存在を感じて祈ることができます。そういう力があるデザインはシンプルなものが多いです。今、多くのブランドのロゴがシンプルになってきているように思います。ただ、シンプルにすると失われてしまうものもあります。例えば、自動車メーカーのポルシェのロゴは昔から情報量の多いデザインで、一見何が描いてあるのか分からないけれど、よく見ると馬がいて、そこにはクラフトマンシップのようなものを感じます。逆にフォルクスワーゲンのロゴはどんどんシンプルになっていて、以前のロゴよりもエンジンなどに関する技術力のイメージは感じにくいように思います。シンプルだと覚えやすい反面、伝わらなくなるものもあるので、何をいちばん伝えたいのかをコントロールする必要はあると思いますね。
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