190号 AUTUMN 目次を見る
Technical Report
セラビアン®ZRの基本築盛を見直す~支台条件の違う6前歯の色調表現~
キーワード:多数歯のセラミック製作/PFZの基本築盛ステップ/温故知新
目 次
- ≫ はじめに
- ≫ 6前歯の基本築盛
- ≫ 症例1 支台歯条件の違う6前歯
- ≫ 症例2 上下6前歯のPFZ&P.L.V.
- ≫ おわりに
はじめに
近年、前歯補綴におけるオールセラミックスの存在は揺るぎ無いものとなり、多様な透光性を有するジルコニアディスクの登場が従来のPFZ(Porcelain Fused Zirconia)からモノリシックジルコニアへと加速している。
そのため、FCペーストステインを使用したモノリシックジルコニアクラウンの審美性は高まり、同時に強度面においても一応の信頼性が有り、何よりも製作効率の上昇が労働環境を改善できる魅力的な可能性を有している。
しかしながら、様々な口腔内の状況に対応するために、クラウンの透過性をコントロールする必要性に目を向けなければならない時がある。特に、色調とリダクション量の差異のある支台歯が混在する時や、ポーセレンラミネートベニア(以下P.L.V.)を含む多数歯症例などはPFZに優位性があると考える。
一本の歯牙の歯頸部から切縁、または中切歯から犬歯への明度の流れを作る色調構築や、それらを表現するインターナルステインテクニックの効果的使用には、スーパーポーセレンAAA(メタルセラミック用)の頃からのマニュアル基本築盛が重要になる(図1)。つまりデンティン、エナメル、トランスルーセントからなる3層の築盛バランスを常に意識することで色調にメリハリを与えることができる。
本稿では上顎6前歯を対象に、セラビアンZRの基本築盛を見直し、シンプルな築盛の中にも色調の流れを作るいくつかのポイントを示しながら、それらが形態の中で表現されることで6前歯にまとまり感を与えていく基本的要因について述べてみたい。また臨床症例を通じてセラビアンZRを使用したPFZの優位性についても触れてみたい。
6前歯の基本築盛
図2に示すのは6前歯をイメージした築盛図であるが、デンティン、エナメル陶材で天然歯象牙質を表現し、トランスルーセントでエナメル質を表現するため、トランスルーセントは歯頸部から切縁、コンタクト領域の全てクラウン外周を包み込むことになる。このことは極めて基本的な約束事である。歯頸部から切縁、あるいは近心から遠心、さらに中切歯から犬歯へと、高明度から低明度への流れを表現するために、的確なデンティンのカットバックを行い、確実にエナメルの厚み、長さを確保することが重要である。また有髄歯等の陶材クリアランスが減少する場合でもエナメル層の確保を優先したカットバックを行う。
デンティン、エナメル陶材の築盛時は、天然歯特有の明るさと透明性が織りなす深い色調質感に大きな影響を与えるため、水分コントロールに注視し、陶材に混じり気のないクリアな焼成を目指したい。このことはインターナルステインテクニックを使用した明度コントロールにおいても重要な影響を与える。ステイン材は強い発色を有する特性があるが、その代償として不透明性を生じさせる傾向にあるため、デンティン、エナメル築盛時の焼成は瑞々しく表現したい。またステインの塗布度合いはクラウン内部から外部へ徐々に濃度を薄めていけるよう各焼成ステージではステイン塗布を施したい。このように象牙質を表現するデンティン、エナメルの焼成と、その前後を塗布するインターナルステインで構築された色調に目を向けることで6前歯の基本的特徴付けを構築する。このことはメリハリ感を与えることができるPFZの最も重要な製作工程になる。その後のトランスルーセントではクラウン全体の透明感を強めたいあまり、厚くなり過ぎないように注意しながら、ほぼ均一な厚みで包み込む。形態の連続性や孤立感は色調の影響を受けることが多く、6前歯のまとまり感において基本築盛は重要であり、モノリシックジルコニアのステインテクニックにおいても意図した色調表現に繋がるものと考える(図3~5)。以下にPFZの基本築盛ステップを紹介する(図6~9)。
図1 メタルセラミック用のスーパーポーセレンAAA(PFM)の陶材基本築盛図であるが、セラビアンZR(PFZ)の今の時代も変わってない。-
図2 6前歯の基本築盛におけるデンティン、エナメル、トランスの築盛バランス図である。切縁領域の近遠心の透明性の違いを表現するためや、その割合が中切歯より側切歯が少なくならないように正面、断面の外形とデンティンの比率に着目したい。焼成収縮を見越した各々歯牙のデンティンのカットバックとエナメル築盛量の差に注意し、陶材築盛スペースが少ない場合、どの層に着目するのかは重要ポイントとなる。 -
図3 上段は6前歯の基本築盛サンプル(PFZ)。中切歯から犬歯へと、高明度から低明度、あるいは低彩度から高彩度へと流れを表現する。また、一本の歯牙に目を向ければ、歯頸部から切縁、あるいは近心から遠心へ透明性を上げ、それは中切歯から側切歯へと強調したい。下段は、左側21, 22, 23番(PFZ)と、それを真似た右側11, 12, 13番はフルジルコニアステイン仕上げだが、基本築盛を意識すれば適切なFCペーストステインを施せる。いずれもノリタケ カタナジルコニアYMLを使用。
図4 デンティン、エナメル築盛焼成時。2つの陶材が混ざり合わないよう過分なコンデンスは控え、水分コントロールに注意をすることで、クリアな質感が得られる。瑞々しい、透明性のあるクラウンはこの時点で決定され、トランスルーセントでそれを補いきれるものではない。
図5 形態外形(唇側面観、側方面観、咬合面観)の最大豊隆部を意識した築盛をすることで6前歯のまとまり感が出る。形態の連続性をイメージし、その中で各方向への透明感、明度の流れを作ることが6前歯をまとめていくコツであるため、各歯牙の築盛バランスと形態の連続性に十分注意をする。-
図6 ウォッシュベイク後にインターナルステインを塗布する。その後、モディファイヤーを使用し、内部(歯頸部)からの発色を表現する。このことは、陶材クリアランスに比較的影響の無い焼成段階で歯頸部に深みを与え、切縁の少ない陶材築盛スペースや、透明性を補う効果がある。その結果、デンティン、エナメル上のステインを極力薄く塗布できるため、陶材本来が持つ瑞々しさを遮らない。
図7 エナメル層優先のカットバックを行い、指状構造をイメージしてやや白っぽいエナメル陶材を少量築盛する。このことは、図6でのフレーム先端のインターナルステインの効果を期待しながら切縁明度をコントロールするためである。
図8 シェードマニュアル指定のエナメル陶材を築盛する。内部からの程よい発色が確認できれば、デンティン、エナメル上のインターナルステインは淡く、ムラにならずに施せる。
図9 形態チェックポイントを意識しながら、ハンドピース、レーズにて、セルフグレーズ(890℃前後)前の適切な研磨面を作る。
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