190号 AUTUMN 目次を見る
目 次
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患者さんに優しい治療を“より早く” “より簡単に”
を可能にするためにさまざまな課題を克服 -
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膨大な基礎研究や耐久試験、厳しい製品評価を経て
安定した品質を実現 -
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「Hardモード/Softモード」と「プリセットモード」を搭載
初心者からベテランユーザーまで使い勝手が大きく進化 -
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コーポレートデザインによるシンプル&スタイリッシュなデザインに加え、
エンジニアならではのディテールへのこだわりが随所に
「Erwin AdvErL EVO」の発売から13年の時を経て、新製品「Adverl SH」がついに誕生しました。従来から定評のあった、“患者さんに優しい治療”に加え、“より早く” “より簡単に”を可能にしたさまざまな創意工夫について、製品開発に携わった(株)モリタ製作所の勝田直樹氏、濵田和典氏のお二人に伺いました。
患者さんに優しい治療を“より早く” “より簡単に”
を可能にするためにさまざまな課題を克服
このたびの新製品開発は、どのような経緯で進められたのでしょう
濵田「Erwin AdvErL EVO」(以下:アドベール EVO)では、硬・軟組織や歯周組織などへの幅広い適応や、低侵襲で患者さんに優しい治療が可能という点をはじめ、これまで多くの先生から評価をいただいてきたと感じています。ただ、発売から時間が経過していく中で、「処置に時間がかかる」「エナメル質、とくに小窩裂溝が切削しにくい」「適した出力、チップ選択などが難しく使い方が分かりにくい」などの要望や課題も多くいただいていました。私たち開発担当者は、こうしたインプットに対して可能な限り対応するべく、長い時間をかけてさまざまな試験や検証を重ね、待望の新製品「Adverl SH」(以下:アドベール SH 図1)を上市することができました。
アドベール SHの特長を一言で表現するとすれば
勝田アドベール SHは、患者さんにとって優しい治療を “より早く” “より簡単に”を可能にしました。それを実現するために、高パルス・出力範囲拡大による治療効率の向上や、小型軽量化、さらに、初めてお使いになる先生でも分かりやすいユーザーインターフェース、使用方法に関するナビゲーションの充実など、アドベール EVOからさまざまな改良・改善を図っています。
そのなかで特に注目すべき最大の特長は何でしょう
濵田小型化・軽量化と高パルス・出力範囲拡大という相反する要望をパッケージングできたことが最大の特長です。レーザー装置の心臓部である発振器(図2)の効率を大幅に向上させたことが、実現の鍵となりました。これにより電源容量が減少し、電源サイズを小型化できました。
装置本体側での発振器の効率向上と高パルス動作の実現に伴い、レーザー光を患部に伝送するモジュールで新たな課題が生じましたが、相反する課題をバランスよく解決し、装置全体の最適化を達成しました。
高パルス化・出力範囲拡大と小型軽量化を両立する上でどんなところが大変でしたか
濵田まずは発振器をいかに高効率に仕上げるかというところで、想定した出力が出せるか、その時の耐久性に問題はないかなど、試作品に対する評価を繰り返し行ってきましたが、なかなかゴールが見えてこない地道な作業の連続で、今思うと本当に長い道のりでした。
勝田試作の段階から幾度も非臨床の試験を行い、少しずつブラッシュアップを重ねてきたのですが、「この出力帯でどうだろう」というところが決まると先生方に非臨床で試していただきました。そこで、従来より効率良く削れるとなれば、今度はその出力を維持したまま可能な限り小型化する、という繰り返しが特に大変でした。さらに、先生方の使用感を裏付ける定量評価を行い、エビデンスを固めるステップを一つひとつ積み重ねていく工程も苦労 が絶えませんでしたね。
高パルス化・出力範囲拡大を実現することで具体的にどんな臨床上のメリットがあるのでしょう
濵田アドベール EVOに比べて硬組織を効率良く切削できるようになりました。条件によっては約1.5倍の切削量を実現し、課題だったエナメル質の切削についてもストレスなく削れるとの評価をいただいています。一方、軟組織も切開のスピードは早くなり、手技の簡易化が図れ、レーザー初心者の先生でも比較的簡便に歯肉切開が可能になりました。先生方からは、メスに近い使用感で、創面もきれいなため治癒が早く痛みの軽減が期待できる、などのコメントをいただいています(図3)。
図1 左がアドベール SH。アドベール EVO(右)と比較して、設置面積:11%減、奥行:15%減、重量:20%減を実現。キャスターも4輪自在を採用し、可搬性もさらに向上した。
図2 レーザー光を増幅させる発振器。右がアドベール SH、左がアドベール EVOに搭載されているもの。電源やランプなど様々な要素に改良を加え、小型・高効率化を実現している。-
図3 豚歯肉切開痕の状態比較。アドベール EVOの創面(左)は凹凸が目立つが、アドベール SHの創面(右)はなめらか(S600T)。
(術者:東京医科歯科大学水谷幸嗣先生)
膨大な基礎研究や耐久試験、厳しい製品評価を経て
安定した品質を実現
製品化に向け、どのような試験や検証が行われてきたのでしょう
勝田量産時に安定した品質を維持できることが何より大きなポイントですから、その観点からさまざまな耐久試験を行ってきました。例えば、レーザー発振器(部)は、昼夜1か月間連続でレーザーを照射する耐久性試験を行い、心臓部であるフラッシュランプや反射ミラーなどの光学部品が想定寿命を全うできるのか、多角的に照射条件を変えて確認します。また、出力範囲の拡大にあたっては、歯や歯肉に実際照射してどのような反応を示すのか、さらに先生方が要望される使用感を確認するため、より実臨床に近いブタの下顎骨に照射して、切削、切開の具合を確かめたりといった、さまざまな試験や検証を行いました。
濵田定量的な評価を行うために、電動ステージを使用して、条件ごとの切削量を確認したり、サーモグラフィーで熱影響の有無を検証したり、高速度カメラなどを用いて照射ごとの現象をチェックするなど、条件ごとに性能面や安全面のチェックを積み重ねていきます(図4)。こうした基礎的な実験や研究にはかなり時間を費やしました。
勝田その後の製品評価では、温度、湿度の変化による性能検査や輸送時の振動の検査を行います。ルームランナーを購入して、ひたすら走らせたり、社屋周辺を数人で引き回して品質に問題ないかチェックしたり(笑)、想定される検査はひと通りクリアしてきたと自信を持って言うことができます(図5, 6)
図4 条件設定を変えながら電動ステージ上で牛歯にレーザー光を照射。それぞれの切削量や削れ方、熱影響の有無をレーザー顕微鏡やサーモグラフィーを使ってデータとして算出し検証を行う。
図5 レーザー機器専用の実験室では、伝送ファイバーの耐久試験が行われていた。ファイバーの曲げ伸ばしなどによって出力に異常が発生することがないか、実に40日間連続で検証を行う。
図6 温度-10℃~+80℃、湿度20%~95%の環境を設定できる恒温恒湿室で、使用・保管時の環境試験を行っている。
「Hardモード/Softモード」と「プリセットモード」を搭載
初心者からベテランユーザーまで使い勝手が大きく進化
その他にアドベール SHの特長としてどんなところが挙げられますか
濵田Hard/Softという2つの照射モードを新たに設けたことと、レーザー初心者の先生にも分かりやすいプリセットモードを搭載したことです。Hardモードは、狭いパルス幅(ショートパルス)で光強度を高めることで切削量がアップするため、主にエナメル質などの硬組織切削を想定しています。一方、Softモードは、パルス幅が広くピーク値が低い(ロングパルス)ため、軟組織や痛みを感じやすい部位への照射に向いています(図7)。
勝田2つの照射モードをうまく使い分けることで、手技の簡易化や治療効率の向上、患者さんへのストレス軽減が期待できます。モード選択に迷われたら、エナメル質や骨に対してアプローチする場合はHardモード、それ以外はSoftモードと覚えていただければいいかもしれません。
濵田さらに、アドベール SHのもう一つの大きな特長であるプリセットモードは、「各症例に適した出力、チップ選択など使い方が分からない」というお声に応えるべく、レーザー初心者の先生でも簡単に、プリセットされた18種類の症例の中から使いたい症例を選択するだけで、出力設定やチップ選択をナビゲートしてくれる機能です。ディスプレイには症例ごとに分かりやすいイラストで表示され、処置内容や設定を直感的に認識することができます。
プリセットモードについてもう少し具体的に教えてください
濵田まず「部位選択」でどの部位に使用したいのかを選択します。例えば硬組織に使用する場合、次の「症例選択」で、エナメル質のう蝕除去なのか、象牙質のう蝕除去なのか、あるいは象牙質のう蝕除去でも歯髄に近接した部位なのか、さらには露髄止血に使用したいのかを選択します。症例選択が完了するとその症例に対してプリセットされたチップ、出力が表示されるといった流れです。また、別のチップを使用したい場合は、チップ選択画面を呼び出して、そこから使いたいチップに変更することも可能です。その際には、変更したチップに合わせた出力設定に自動で再度プリセットされる仕様になっているので、チップを変更しても迷わずにご使用いただけます(図8)。
図7 Hardモード/Softモードの照射イメージ図-
図8 プリセットモードの具体的な活用ステップ
18種類の症例のチップと出力条件がプリセットされ、レーザー初心者の先生でも簡単に使いたい症例に使用できるようナビゲートしてくれる。
コーポレートデザインによるシンプル&スタイリッシュなデザインに加え、
エンジニアならではのディテールへのこだわりが随所に
デザインや仕様部分でのこだわりをお聞かせください
勝田レーザー機器としては初めてコーポレートデザインを採用し、よりシンプルでスタイリッシュに進化しています。その中でも、ユーザビリティにはこだわりをもって設計を進めてきました。例えばハンドルは、最初はもっと細くて四角い断面でしたが、実際に形にして握ってみるとしっくりこなくて、先生方のご意見も伺いながら握りやすさを考えてもう少し太くするなど、何度も試作を重ねています(図9)。また、小型化による内部温度の上昇を避けるために、ファン制御とダクトの位置は実験を繰り返しました。さらに細かい部分では、フィルターが清掃しやすいように、下部のサイドに着脱可能なカバー付きの吸気ダクトを設けています(図10)。アドベール
EVOは背面から排気していましたが、アドベールSHではどこからもファンが見えないデザインになっています。
濵田背面は意外と患者さんから見られることが多いというご意見もあり、背面も意匠面と考え設計しています。
勝田水量を確認するためのライトの角度や位置も何度も試作し、いちばん見えやすいように工夫しました(図11)。パネルの角度はアドベール EVOとほぼ同じですが、光の反射をできるだけ抑えるためにマット感を持たせながらデザインも壊さない配慮がなされています。
最後に読者の皆さんにメッセージをお願いします
勝田私はレーザー開発に携わって約2年と短いのですが、関わるたびに「レーザーって本当に素晴らしい器械だな」と実感しています。特に今回のアドベール SHでは、試作段階から予想を超える高い評価をいただくことができ、開発に携われて本当に良かったと感じています。これからお使いになる先生方には、ぜひ試してみていただきたいですね。
濵田ユーザーフレンドリーで、日々の臨床に使いたいと感じていただけると、自信を持ってお伝えできる製品に仕上がっています。難しい設定などもありませんから、これまで導入を躊躇されてきた先生方にこそ、このアドベール SHをお使いいただき、Er:YAGレーザーがもたらす、低侵襲な歯科治療を体感いただきたいと思います。
図9 処置の際に使用するハンドルや広範囲に移動するための持ち手の工夫など、細かな部分の改良も加えられている。
図10 掃除機などで清掃がしやすいように吸気ダクトのフィルター部分には着脱可能なカバーが設けられている。
図11 給水タンクの設置方法、水量を確認するためのライトの位置や照度にもこだわり、何度も試作を重ね、ようやく現在の仕様に落ち着いた。
「DENTAL PLAZA」では、デンタルマガジンでは載せられなかったアドベールSH開発に関する興味深いエピソードを掲載しています。
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