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地域のため、環境のため次世代のために今、私たちができること

香川県三豊市 浪越歯科医院 院長 浪越 建男 

目 次

  • [写真] 香川県三豊市 浪越歯科医院 院長 浪越 建男
    香川県三豊市
    浪越歯科医院
    院長 浪越 建男

1994年の開業以来、地域に根ざした診療を続ける「浪越歯科医院」。予防歯科診療へのこだわりやスタッフの育成、徹底した感染防止対策、院外でのう蝕予防活動、さらには地域の環境保全活動など、地域のため、そこに暮らす人々のために実践してきたさまざまな取り組みと、そこに込められた想いを、浪越建男院長と歯科衛生士の皆さんに伺いました。

予防を基礎に据えた診療体制への転換

長崎大学歯学部歯科補綴学第二講座で研究・臨床に携わり、1994年6月、故郷である香川県三豊市仁尾町で開業しました。当初は補綴処置が中心で、抜歯や義歯の装着に勤しむ日々。大学病院の診療室でもそういう役割を担っていましたから、特に違和感を抱くこともなく、目の前の仕事に取り組んでいました。やがて、う蝕と歯周病のコントロールの重要性を強く認識するようになりました。学校歯科医を務める地元の小学校でも、う蝕を持つ子どもたちが多く、未来を担う地域の子どもたちのう蝕予防を最優先するとともに、う蝕予防や歯周処置、メインテナンスを基礎に据えた診療体制に転換することを決めました。

理想のチーム医療を形にするために

私が学生だった時代にはまだ歯周治療の教育体系が整っておらず、知識も技術も不足していました。それを補うためにセミナーや講習会に参加し、日々の臨床に取り入れることを続けました。結局、最もインパクトを受けたのは、予防を基礎に据えた高名な先生のもとで働く歯科衛生士の歯周処置症例でした。そして、予防歯科における歯科衛生士の重要性を認識したのです。翌日から当院でも歯科衛生士のスキルアップとチーム医療を行う体制づくりを進めようとしました。しかし、歯科衛生士たちの反応は薄く、なかなか理解を得ることができませんでした。「私たちには無理です」とはっきり言われたこともあり、皆のベクトルを合わせて前へ進むのは難しいことを実感する日々。優れた器材はお金を出せば買えますが、優れた人材はお金では買えません。結局、「時間をかけてマインドから育成するしかない」のです。目標とする歯科衛生士さんを招いてセミナーを開催したり、歯科系の雑誌や書籍からテーマを見つけ勉強会を行うなど、院内教育を地道に継続していきました。学び続けることで歯科衛生士たちの意識も少しずつ変わってきました。自分たちの処置が患者さんの口腔に良好な結果としてあらわれると手応えを感じるようになります。それは仕事への自信と誇りにつながっていることが判るようになりました。私の“号令”から5~6年後のことです。

  • [写真] 浪越歯科医院
    香川県西部に位置する瀬戸内海に面した小さな町・仁尾町。「日本のウユニ塩湖」と話題の父母ヶ浜から20分のこの場所で、1994年から診療を続けている。
  • [写真] 明るい光が差し込む広々とした待合スペース
    明るい光が差し込む広々とした待合スペース。扉や椅子はもちろん、床まで美しく磨き上げられている。
  • [写真] 診察室
    チェアは全部で7台。医院設計の段階からゆったりとしたスペースの確保と換気システムの充実を意識したという。

助け合い、支え合える環境づくり

[写真] 浪越先生と歯科衛生士、歯科助手・受付の皆さん
浪越先生と歯科衛生士、歯科助手・受付の皆さん。勤続20年を超えるメンバーも多く、“あうん”の呼吸でチーム医療を展開している。

やがて歯科衛生士たちは徐々に成長し、MLB ニューヨークヤンキース黄金期でいう“コア・フォー”(苦楽を共にしながら成長したチームの核となる4選手のこと)的な存在になってくれました。日々多くの患者さんが訪れる歯科医院では、極めて優秀な歯科衛生士が1人いるだけでは十分な医療は提供できません。支えあい、切磋琢磨する核となるメンバー3~4人がいれば、安定したチーム医療が実現できます。また、コア・フォーは日々の診療だけでなく、採用の面でも大いにその効果を発揮します。コアの姿にあこがれ、価値を感じる人が入職すれば、きっとその人は次のコア・フォーに成長するでしょう。スタッフが定着すれば患者さんも定着します。当院の患者さんも、当院が予防をベースにした治療を展開していることを理解してくださっていますし、その上で取りづらい予約を取って来てくださっています。患者さんの7割は町外の方で、高松市や丸亀市、東かがわ市、遠くは岡山や愛媛、徳島から通ってくださる方もおられます。
現在、私は日本補綴歯科学会専門医として保険、自費治療を問わず、ほとんどの治療でマイクロスコープを使用しています。また、非常勤として矯正専門医4名(日本矯正歯科学会認定医・指導医3名、認定医1名)、口腔外科専門医(日本口腔外科学会認定)1名が在籍しています。それぞれ専門分野での知識や技術を活かすための診療体制が整っていますが、その維持には実力ある歯科衛生士たちの力が不可欠です。
私は、以前から歯科衛生士に対して「あなたたちの手で何千本、何万本の歯が救える。それは素晴らしいことだ」と言い続けてきました。それを今、当院の歯科衛生士たちは身をもって感じていると思います。医療全般を見渡しても、専門家が患者さん1人に40分~1時間を費やす診療は多くありません。歯科衛生士には、自分たちが日々行っていることに誇りと責任を持ってほしいものです。

[写真] 歯科衛生士の松尾 円さん
歯科衛生士(勤続28年)
松尾 円

予防を基礎に据えた診療体制になったことを機に、外部からフリーランスの歯科衛生士さんを招き、それまで使用していなかった新しい器具や模型を使って院内で勉強するようになりました。自分なりに懸命に取り組みましたが、なかなか思うようにいかず、自分の力不足を痛感する日々。「私たちには無理です」と院長に伝えたのも私です。とはいえ、ここで働く以上、諦めるわけにはいきませんから、ひたすら練習を続けました。肉体的にも精神的にもハードな日々でしたが、患者さんの歯周病の状態が改善するなど、成果が出てくると達成感も感じられるように。予防歯科は歯科衛生士が重要な役割を担っており、勉強して身につけた力を活かせるシーンも多いので、意欲のある人にはやりがいのある環境だと感じています。

  • [写真] ハンドピースやインスツルメントは1本ずつ滅菌パックに入れて保管
    ハンドピースやインスツルメントは1本ずつ滅菌パックに入れて保管。保管スペースにも余裕を持たせて、取り出しやすい工夫も。
  • [写真] 器材などの置き場所
    基本セットは少し大きめの不織布を採用し、器材などの置き場所を十分に確保。チェア周りの唾液汚染も回避できる。
  • [写真] スリッパ
    スリッパは一度使用するたびに回収し、薬液と手洗いで丁寧に洗浄している。

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