190号 AUTUMN 目次を見る
キーワード:歯科用シーリング・コーティング材/エナメル質形成不全/知覚過敏抑制処置
目 次
- ≫ はじめに
- ≫ エナメル質形成不全とは
- ≫ 知覚過敏と処置法について
- ≫ 「Bioactivemonomer®」による知覚過敏抑制効果と再石灰化能の臨床評価
- ≫ 症例紹介
- ≫ 「Bioactivemonomer®」によるう蝕予防効果
- ≫ 終わりに
はじめに
近年、ジルコニアやセラミックを用いた審美的修復処置が行われるようになってきた。これらの歯科材料を用いた場合、補綴物の機械的強度を担保するために歯質の切削量が増加してしまう。その結果、知覚過敏などの不快症状が出現することがあるため、歯科用シーリング・コーティング材が開発され、保険適用にもなっている。また、歯科用シーリング・コーティング材の中には知覚過敏抑制材としても使用できる製品がある。そこで今回は、歯科用シーリング・コーティング材の新たな活用法について説明する。
エナメル質形成不全とは
エナメル質形成不全とは、歯のエナメル質が正常に形成されない病態を指す。発症する原因として、局所的要因と全身的要因に分けられる。
局所的要因のエナメル質形成不全は乳歯の外傷や重度う蝕によって後継永久歯に発生することが知られている。永久歯は生後3か月頃から石灰化が始まり、7歳頃に歯冠が完成する。この期間に乳歯へ外傷や根尖病巣などが見られた場合は後継永久歯の形成不全が引き起こされる可能性があり、後継永久歯萌出時期には注視する必要がある。
全身的要因としては、遺伝子疾患であるamelogenesis imperfecta (AI)がエナメル質形成不全と言われている。硬さが正常であれば、厚みが薄く、小さなくぼみが見られるもの(図1)でも知覚過敏を誘発することは少ないが、強度が低い形成不全の場合は、う蝕や咬耗のリスクが高く、知覚過敏を生じやすい。その他、非遺伝性の全身的要因のエナメル質形成不全として、永久切歯や第一大臼歯に形成不全が見られるMIH(Molar-Incisor Hypomineralization)が周知され始めた1)。
また、乳歯においても乳臼歯部に限局した形成不全である、DMH(Deciduous Molar Hypomineralization)や2)、第二乳臼歯に限局した形成不全であるHSPM (Hypomineralised Second Primary
Molars)なども近年報告されだした。HSPMを有すると、う蝕の発生率が高くなり、さらに将来MIHが発生する確率が約20%といわれている2)。明確な原因は不明であるが、周産期における母子の全身的影響が示唆されている。そのため、萌出時期が近い上下や左右対称な部位に形成不全が見られることが多く、形成不全歯を発見した場合は同名歯も精査することが重要となる(図1)。
図1 エナメル質形成不全症。歯の硬さは正常だが、歯面に小孔が多数見られる。
知覚過敏と処置法について
エナメル質形成不全は歯の表面に異常が出るため、光沢感が無くなる。変色は重症度によって異なり、軽度の場合は白濁するが、重度であれば、茶褐色の変色や実質欠損を伴う。また、矯正治療後、ブラケット除去による機械的影響で、エナメル質にマイクロクラックが生じることも報告されている3)。そのため、クラックから外的刺激が入り、知覚過敏様の症状が出ることがある。その他にも加齢による歯のクラックや、歯頸部のくさび状欠損からも知覚過敏症状が出ることがある。知覚過敏は歯髄の疼痛閾値の低下が誘因となるため、知覚過敏抑制材の塗布で外的刺激を遮断し、閾値を改善することが目的となる。そこで、レジン系知覚過敏抑制材として、4-METAモノマーが含有されている「ハイブリッドコートⅡ」がサンメディカル社から以前より販売されているが、2019年に4-MET、MDPにカルシウム塩を付加した「Bioactivemonomer」を含有した「BioコートCa」(図2)が販売されている。「Bioactivemonomer」は接着性が向上するだけではなく、イオン成分を引き寄せ、ハイドロキシアパタイト様結晶を生成することが知られている。知覚過敏症は一度の処置で改善しない場合は繰り返し塗布したほうが良い。そこで我々の小児発達歯科学チームは、エナメル質に対しては本来、エッチング材が必要であるがエナメル質形成不全へのダメージを回避するため、「BioコートCa」をダイレクトに塗布して残存率の臨床検討を行った結果、3~4週間毎の適応で効果が持続される可能性が示された4)。
図2 歯科用シーリング・コーティング材「BioコートCa®」
「Bioactivemonomer®」による知覚過敏抑制効果と再石灰化能の臨床評価
前述したように、「BioコートCa」は「Bioactivemonomer」を含有しているため、ハイドロキシアパタイト様結晶を形成し、再石灰化を誘導する可能性がある。そこで、再石灰化の臨床的評価を行うために、知覚過敏を有する形成不全歯に対して、月に一度の塗布を繰り返し、知覚過敏症状改善への影響を評価した5)。知覚過敏による痛みの程度は、最大の痛みを10、全く痛みがない場合を0としたスケールを作製し、患者に痛みの程度を指で指し示して貰う視覚的アナログスケール(VAS)を用いて評価した。また、再石灰化の臨床的評価として、白濁や茶褐色に変色した部位を画像ソフトの「Adobe Photoshop」にて抽出し、その面積を計測し、形成不全部の面積の縮小率を計測し、色調の改善状態を評価した(図3)。
図3 口腔内写真を撮影し、白濁部と茶褐色部の色域を抽出。その面積から形成不全の重症度を評価する。
症例紹介
【症例1】 年齢:5歳1か月 性別:女児 原因:外傷(図4)
下顎前歯部のエナメル質形成不全を主訴として当科を受診。先行乳歯に外傷の既往があった。21と1の唇面に知覚過敏症状を伴う茶褐色の形成不全と、VAS6の知覚過敏を認めた。1か月毎の塗布を繰り返し、2回目にはVAS3へ改善し、3回目にはVAS0となった。色調は9回目の塗布後、茶褐色は約80%程度、白濁部は約75%程度、色調の改善を認めた。
【症例2】 年齢:10歳1か月 性別:男児 原因:Turner歯(図5)
う蝕治療を主訴として当科を受診。4は先行乳歯の根尖性歯周炎の既往があった。形成不全歯に知覚過敏はほとんど感じていなかった。1~2か月毎の塗布を繰り返し、3回目の塗布後には、茶褐色部は約80%、白濁部は約70%色調改善を認めた。
【症例3】 年齢10歳1か月 性別:男児 原因:MIH(図6)
う蝕治療を主訴として当科を受診。
1 1および6 6、6にエナメル質形成不全を認めた。知覚過敏はほとんど感じていなかった。2か月毎の塗布を繰り返し、3回目の塗布後には茶褐色部は約90%の色調改善、白濁部は約80%の色調改善を認めた。
その他症例を含めると、月に一度毎に、3回程度の塗布を繰り返すと、知覚過敏症状はほぼ消失した。また、色調はほとんど改善が見られない症例もあったが、6~7回塗布を繰り返すことにより、色調改善する症例が有意に多く見られた。今回の色調改善評価は口腔内写真を元にデジタル解析で簡便に評価を行ったが、今後はさらなる正確な評価法を検討し、色調改善が見られなかった歯の原因について検討していく予定である。
図4 【症例1】5歳1か月の女児。乳歯外傷による永久歯の形成不全
図5 【症例2】10歳1か月の男児。乳歯重度う蝕による永久歯の形成不全
図6 【症例3】10歳1か月の男児。MIHによる永久歯の形成不全
「Bioactivemonomer®」によるう蝕予防効果
「Bioactivemonomer」含有の「BioコートCa」がハイドロキシアパタイトを形成し、臨床的には形成不全歯の色調を改善したことから、再石灰化を誘導している可能性が示唆された。そこで、このコーティング材がう蝕予防効果を有しているのではないかと考えた。矯正治療において、マルチブラケットを装着する症例では、口腔衛生管理が不十分な場合、ブラケット周囲にプラークが溜まり、う蝕になるケースがある(図7)。そこで、ブラケットを装着する際に、「BioコートCa」を塗布した後に、「スーパーボンド」でブラケットを装着した。本症例では、約2年の間、ブラケットを装着していたが、ブラケットを除去したところ、白濁などの変色が見られず、良好な結果が得られた(図8)。このことから、「Bioactivemonomer」はう蝕予防効果も有している可能性が考えられた。
図7 ブラケット付着部位の周囲に白濁や茶褐色のう蝕を認める。-
図8-1 ブラケットによる矯正治療中
図8-2 2年間の矯正治療終了時
終わりに
歯科用シーリング・コーティング材は近年の歯質切削量の増加に伴い、重要性が増してきた材料ではあるが、新規のレジン系知覚過敏抑制材としても非常に有用である。近年では、モノマーに様々な機能を付与した機能性モノマーが開発されている。
今回の結果から、「Bioactivemonomer」を含有する「BioコートCa」は接着性が向上するだけではなく、う蝕の予防効果や、形成不全歯に対して知覚過敏を抑制し、さらには色調も改善する可能性が示された。
- 1) Elfrink ME, et.al. Factors increasing the caries risk of second primary molars in 5-year-old Dutch children. Int J Paediatr. Dent. 20(2):151-7. 2010
- 2) G. Elsa, et.al. Are hypomineralised lesions on second primary molars (HSPM) a predictive sign of molar incisor hypomineralisation (MIH)? A systematic review and a meta-analysis. J Dent. 72:8-13. 2018
- 3) H. Farzin, et.al. The effects of bracket removal on enamel. Aust. Orthod. J. 24(2):110-5. 2008
- 4) M Tadano, et.al. The Retention Effect of Resin-Based Desensitizing Agents on Hypersensitivity̶A Randomized Controlled Trial. Materials, 15(15):5172. 2022
- 5) M Tadano, et.al. Evaluation of a Hypersensitivity Inhibitor Containing a Novel Monomer that Induces Remineralization – a case series in pediatric patients. Children, 8(12), 1189. 2021
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