189号 SUMMER 目次を見る
Clinical Report
Er:YAGレーザーを用いた歯周治療の有用性-患者の利益を最優先に考えた治療の実践-
キーワード:Er:YAGレーザー/歯周形成外科/歯周組織再生療法
目 次
はじめに
私自身、日本歯周病学会専門医としてさまざまな歯周病治療を行ってきており、現在では予知性の高い治療法として、多くの症例において患者・術者ともに満足のできる治療結果を得ることができている。
歯周病治療の成功には、炎症の原因となるプラークや歯石、病的なセメント質などの感染源の除去が必要である。
従来は超音波スケーラーや手用スケーラーなどの手用器具によって機械的に行われていたが、機械的手法では歯根面の汚染物質を完全に取り除くことは困難である。さらによく研いたスケーラーを使用し従来通りにキュレット処置を行うと壊死性セメント質のみならず、歯頸部での厚みが0.02mmの健全セメント質はすべてなくなり、象牙質まで削れてしまい、知覚過敏などのリスクを引き起こす可能性がある。そのため、近年ではEr:YAGレーザーを用いたSRPおよび病的根面のデブライドメントが行われている。
Er:YAGレーザーの処置面にはスメアー層がなく、高い殺菌効果や細菌由来のエンドトキシンの除去などの無毒化、さらには歯肉線維芽細胞、骨芽細胞など周囲組織の細胞増殖効果も期待されるため、従来の機械的方法よりも歯周組織の付着や治癒に効果的となっている1~4)。
そしてSchwarzらの研究では、従来のキュレットによる治療とEr:YAGレーザー治療を比較し、6ヵ月後にはポケット減少量は同じだったが、プロービング時の出血やアタッチメントレベルではEr:YAGレーザーの処置が顕著な改善を示していた。
そのうえ、Er:YAGレーザーの治療の方がキュレット処置よりも所要時間も短縮されていたことから、歯周基本治療においてEr:YAGレーザーを用いることは非常に有用である5)。特にErwin AdvErL EVOでは様々なチップの種類があり、細かいところにもアプローチできるので、壊死性セメント質を一層に除去し、可能な限りの健全セメント質の温存が期待できることから、歯周組織の再生に大きな期待ができる。
また、歯周外科においてもEr:YAGレーザーは必要不可欠である。従来の方法よりも時間的に早く組織への侵襲も少ない効率的・効果的な感染性肉芽組織の除去、感染している根面へのデブライドメント、従来の器具では到達しにくい臼歯部における根分岐部へのアプローチなど多くの用途がある。
さらには術後の炎症・疼痛緩和、創傷治癒促進などの効果も期待でき、患者にとっても術者にとってもEr:YAGレーザーを歯周外科に使用することは非常に有効である。歯周基本治療と同様に、Er:YAGレーザーを歯周外科に用いることで、健全な組織を可能な限り温存し、感染性の組織のみにアプローチが可能なので歯周組織の再生にかなり効果的であると考える。
今回は歯周形成外科、歯周組織再生療法においてEr:YAGレーザーを用いて良好な結果を得たので症例を提示したいと思う。
症例供覧①
◯症例供覧:歯周形成外科
・患者背景
患者は26歳女性で、上下顎前歯部の審美障害を主訴に来院した(図1)。
全身的な既往歴に特記事項はなく、健康状態は良好であった。
歯科既往歴として、以前からメインテナンスに通院されていて、1年ほど前から他院にて矯正治療を行っている。矯正治療により歯列が綺麗になっていくことで、ガミースマイルが気になり、矯正医に相談したところ、専門医を紹介された。
以前にも歯肉切除の既往があるが、症状の改善を認めなかった(図2)。
・口腔内所見
辺縁歯肉の形態、歯冠形態、歯冠長など様々な問題はあるが、全顎的にプラークの付着は少なく、プラークコントロールは良好であった。
・治療経過
今回は骨整形を伴う歯周外科処置を行い、審美性の改善を図ることとした。本来の歯冠長を測定し、X線画像を参考にモックアップを作製した。
ボーンサウンディングにより、歯槽骨縁の確認後、切開、剥離、歯槽骨整形を行い縫合した。
本ケースのように審美性に関わる部位での処置にEr:YAGレーザーを用いて切開・剥離、感染性肉芽組織の除去を行うことで歯肉退縮や予想外の形態不良を起こす確率が少ないので大変有利である(図3、4)。
患者は以前の歯肉切除手術の際には、術後の疼痛が大きく、治癒も遅く想像していたような結果を得られなかった。今回のように歯周外科でEr:YAGレーザーを用いることで、手術時間が早く、低侵襲で早期に創傷治癒を得ることができ、術後の疼痛もほとんどないことから高い患者満足度が得られたのではないかと考える(図5)。
図1 初診時の口腔内写真。正中離開があり人前で笑えないという主訴で来院された。審美性の改善を希望されたので矯正医を紹介した。
図2 矯正後1年経過時の口腔内写真。ガミースマイルが気になるとのことであった。矯正医からも歯冠長が短くブラケットが脱離しやすいと相談を受けた。
図3 処置中の写真。S600T 25pps/70mj熱変性が少ないEr:YAGレーザーであっても同じところを継続的に照射しないように注意している。従来の器具では到達しにくい部位にもアプローチが可能である。
図4 歯周外科後1週間の口腔内写真。術後の疼痛や腫脹はほとんどなく、良好な経過を辿っている。
図5 現在(歯周外科後6ヵ月)の口腔内写真。本来の歯冠長を獲得することができ、審美的にも機能的にも患者、矯正医ともに大変満足している。
動画①ガミースマイル
骨整形 歯周外科処置1はこちらから
動画②ガミースマイル
骨整形 歯周外科処置2はこちらから
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