189号 SUMMER 目次を見る
Clinical Report
SPIイニセルインプラントを用いた審美エリアにおける抜歯後即時インプラント埋入
キーワード:抜歯後即時インプラント埋入(ⅠⅠP)/前歯部インプラント治療
目 次
はじめに
イニセルインプラントは超親水性の表面作用によってインテグレーションの早期獲得につながり、術者・患者の双方にとって有益なインプラント体である。そしてインプラント体とアバットメントは、インターナルヘックスとエクスターナル補強リングを付与したダブルロックコネクションとなっているため、アクセスホールの直径は小さいことが特徴的である。よってスクリュー固定では補綴物作製にあたり、インプラント体とアバットメントの側壁の厚みを獲得できるため強度が増す(図1)。
また、小さなアクセスホールは審美的にも優位である。
今回は、そのSPIイニセルインプラントを用いて審美エリアにおける抜歯後即時インプラント埋入(Immediate Implant Placement:以下ⅠⅠP)を行った症例を報告する。
審美エリアにおける抜歯後即時インプラント埋入の考え
抜歯およびインプラント埋入のタイミングは術前の最重要診断事項であると考えている。筆者らは保存不可能と診断した歯の周囲組織が健全であればⅠⅠPを第一選択としている。近年、1歯欠損におけるⅠⅠPにおいては科学的根拠も十分に出そろってきており、条件を満たせば有益な術式である1、2)。 審美エリアにおけるⅠⅠP成功の治療ステップ(図2)3)を参考に、術前から十分な検査・診断を行い最終のフリージンジバルマージンを設定し理想的なインプラントポジション・サブジンジバルカントゥア・補綴形態を考えトップダウントリートメントにて治療を行うことで治療の成功につながるのではないだろうか。
図1 イニセルインプラントのダブルロックコネクション
図2 審美エリアにおける抜歯後即時インプラント埋入成功のための治療ステップ
症例概要
患者は41歳男性。1にインプラント治療を希望されて来院した。職業は歯科医師で審美的な要望も強かった。口腔内写真より、1には前医で作製されたプロビジョナルレストレーション(以下PVR)が装着されていた。PVRを除去したところ、残存歯質が少なく歯冠歯根比も十分とは言えないため抜歯と判断した。
ポケット数値は正常であり、周囲の炎症もなくCBCT・デンタルX線より唇側骨は残存しており、歯根側への骨も十分に残っていることからⅠⅠPの適応と診断した(図3~6)
図3 初診時口腔内写真。臼歯部離開咬合が達成されている。
図4 初診時のデンタルX線写真とCBCT。約1mmの唇側骨を認め、歯根側にも十分な骨が認められる。(CT:株式会社モリタ製作所 Veraviewepocsにて撮影)
図5 初診時の前歯部クローズアップ。上顎中切歯は左右非対称で改善の余地がある。1は1より幅径が大きい。
図6 デジタルデザイン。反対側同名歯に対して特に歯肉レベルがシンメトリーになるようデザインを行った。
治療計画
審美エリアにおけるⅠⅠP成功の治療ステップ(図2)を参考にし、治療計画を立案した。
大まかな治療の概要を以下に示す。
①理想的な歯の形態を診断用wax-upにて作製
②wax-upのSTLデータとCBCTの重ね合わせを行いインプラントポジションの診断
③ⅠⅠPと同時に結合組織移植 ④治癒後、印象を行いPVRを作製しサブジンジバルカントゥアの調整
⑤最終補綴
実際の治療
1は外傷により現在に至ったとのことである。初診時口腔内写真より、咬頭嵌合位は安定しており臼歯離開咬合も達成されていることから、現状の顎位の状態で前歯の治療を行う運びとなった(図3)。
まず診断用デジタルデザインを行い最終補綴形態について歯科技工士と話し合った。歯肉レベルには反対側同名歯と比較し歯冠側に位置しており、インプラント治療を行う上ではアドバンテージがあった(図5)。
デジタル上で歯冠のミラーリング、歯肉レベルを可及的に揃えることで左右対称の歯冠、歯肉形態のデザインを行った(図6)。
デジタルデザインの状態を患者にご了承いただき、トップダウントリートメントにてインプラントポジションの設計に入る。デジタルデザインのデータと口腔内のSTLデータそしてDICOMデータを重ね合わせ最終補綴装置のマージンから深度は4.5mm、サブジンジバルカントゥアアングルは44度に設定した(図7)。
インプラント周囲の硬軟組織の保存を考え、アバットメントによるサブジンジバルカントゥアの理想的な状態を加味したところ深度とカントゥアは若干、平均値より大きいが審美と機能が達成しうると判断し、ガイド作製に入った。手術時、抜歯は可及的愛護的に抜歯を行い、抜歯窩は十分に掻爬する(図8)。
唇側骨が残存していることを確認後、デジタルサージカルガイドにてドリリングを行う。インプラントポジションの確認をアライメントピンにて入念に行いインプラントを埋入する(図9)。
インプラント体と唇側骨とのギャップには骨補填材を填入しさらに結合組織を移植した(図10)。結合組織は6-0縫合糸を用いてポジショニングスーチャーを行いPVRを装着した(図11、12)。
4ヵ月の治癒を待ちIOSにて印象を行いPVR作製のためのデジタルデザインを行う(図13~15)。診断時に目標としていた理想的なサブジンジバルカントゥアを付与するが、周囲組織が厚い場合は段階的にPVRに即時重合レジンを付与して軟組織のカントゥアを作っていくことが望ましい。
1の幅径は当初より課題であったが、近遠心隆線の絞りを強くし固有唇面を縮小させ、1の固有唇面のサイズに可能な限り近づけることで実寸法ほどの違和感を感じさせないよう努めた(図16)。PVR装着後、咬合面観より軟組織の十分なカントゥアが付与できている(図17)。
顔貌・リップ・歯とのバランスに問題がないことから最終補綴に移行した。最終補綴のサブジンジバルカントゥアはIOSにて部分的にスキャンした。また、レイヤリングを行うため従来の印象にて模型を起こし、デジタルとアナログを使い分けて最終補綴を作製した(図18、19)
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