173号 SUMMER 目次を見る
■目 次
- ≫ はじめに
- ≫ セラビアンZR T-Clearの透明度
- ≫ 臨床例
- ≫ おわりに
■はじめに
耐クラック性、高い靭性値(チッピングしにくい)、黄変防止、豊富な色調構成という特長を有した「セラビアンZR」(クラレノリタケデンタル)は発売以来高い評価を受け、多くのセラミストに使用される実績をもつ。このたび新たに追加された色調には、従来のTxよりさらに透明度の高いトランスルーセントとしてT-Clear、またラスターポーセレン群にもLT0より透明度の高いLTx、またオパール効果を強調するLT Super Luster、さらに青みと赤みを加強するLT Royal Blue・LTCoralの5色が追加された(図1)。
図2は各々の色調と透過性をみたペレットである。
そこで今回は、実際の臨床例にこれらを応用してみたので、その使用法と注意点を紹介してみたい。
図1 新しくラインナップに追加された新色5色。AAAにも同じ色が同時追加された。-
図2 新色の色調と透過性をみたペレット。
■セラビアンZR T-Clearの透明度
図3にT-Clearと従来のトランスルーセント群の透光性の違いを示す。Txより僅か4%強の向上であるが、肉眼的にはかなり強い透過性を感じる。ただし透明度の高いものは、それだけ周りの色調に影響を受けやすいということ、また近接するものの透明度との間に大きな差がある場合は極端な対比効果が発生しやすいことに留意しておかなければならない。
図4は、試験的にボディとエナメルの2層のポーセレンペレットを製作しているところ、図5は焼成後にそれぞれ角度を変えてカットしたものである。その断面の部分にT-Clearを追加焼成してみた(図6)。中央の90°にカットしたものはボディとの境界が明確で透明度の差が顕著であるため、かなり透過性が高くみえる。左のものは通常のボディ・エナメルのカットバックに準じるもので、T-Clear自体にボディ・エナメルの色調が映り込むため色調の同化が起きやすく透過性はそれほど高くみえない。カットする角度が例えば60°と急になれば(ボディ・エナメルでつくる象牙質構造の切端が鋭くなれば)、この状態は顕著に表れるものと推測される。
次に、切端付近に高い透明層を有する臨床例をとおして、今回の新色群を検証してみる。
図3 T-Clearと従来のトランスルーセント群の透光性の違い。-
図4 ボディ0.8mmとエナメル0.4mmになるように2層様のペレットを作製する。 -
図5 図4焼成後にカットした。左端は面に対して45°でエナメル側が長くなるように、右端はその逆。中央は90°にカットした。 -
図6 図4でカットした部分にT-Clearを築盛・焼成したもの。90°にカットしたものが最も透明度が高くみえる。
■臨床例
患者は20代半ばの女性で、諸事情により中切歯1本の抜歯を余儀なくされインプラント埋入、その上部構造にカタナジルコニアHT12をコーピングに用いるPFZを装着することとなった。
図7はシェードテイク時の写真で、切端付近に透明度の高い層を有する特徴的な色調を確認することができ、またグレースケール(図8)から目標歯は明度が高いものと判断する。クラウンはインプラントアバットメント上のものになり、クラウンの歯頸側1/3はポーセレンのボリュームが大きくなることが予想された。
オペーシャスボディやボディポーセレンの量が多くなると明度は下がる傾向にあり、これは表層近くに透明度の低いトランスルーセントや明度を高く保つオパール効果の高いポーセレンだけでは対応できないと考える。
このような場合に筆者は、ボディポーセレン自体の明度を高くしておく。具体的には、目標シェードより1ランク濃いシェードのボディポーセレンにクリーミーホワイトを5:1(図9)の割合で混合したものを用いる。ここでは、目標シェードがA1~NP1.5のためA2B:Creamy White=5:1の混合比で調合したボディポーセレンを用いる。図10にその築盛の状態を示す。
通法ではボディを用いたマメロン構造上にエナメルポーセレンを同形に築盛するが、直接隣接するポーセレンを透明度の高いポーセレンとすることで境界をはっきりさせる。前述したように、これは透明度の差を大きくしてより透過性を高くみせる目的がある。
エナメルポーセレンより先に舌側からLT Royal BlueとT-Clearを混合したもの(図11)を額縁状に成型した(図12)。そしてエナメルポーセレンを築盛し(図13)、焼成(図14)、インターナルステインで多少の特徴づけをおこなう。
そのあと、歯冠のほとんどの表層築盛には図15に示すようにLT SuperLusterを使用して明るい透明感の再現をねらう。切端付近の透明度の高い部分には、図16に示すT-ClearとLTxを1:1で混合したものを築盛した。図17は新色を含む表層へのポーセレン築盛後の状態である。図18は模型上での完成状態、図19は口腔内に仮着したところである。
図20、21は口唇を含む修復歯を観察したところで、ややクラウンの切端部透明度が強いがとくに違和感はない、という患者の感想であった。口唇を含む図21のグレースケールを観察すると対象歯との間に極端な明度差はない。よく、口唇鈎やアングルワイダーで開口させて歯冠のみの明度差を観察するが、最近筆者は図21のように口唇を含むグレースケールのほうが重要なのではないかと感じる。『人間の眼は明度に対して敏感である』、ここでいう人間の眼とはすなわち患者の眼だと考える。
図7 臨床ケースのシェードテイク写真。切端の一部に透明度の高い箇所が観察される特徴的な色調を呈するが基本色はNP1.5とした。-
図8 図7のグレースケール画像。対象歯はNP1.5より明るい。 -
図9 CZR A2BとCreamy White。これを5:1で混合して色調NP1.5、明度はそれより高いボディポーセレンを作る。 -
図10 図9で調合したボディポーセレンで内部構造を形成する。
図11 LT Royal BlueとT-Clearを1:1で混合する。-
図12 図11で混合したものを額縁状に成型した。エナメルポーセレンを介さないため、透明度の差が大きく強調されることを狙った。 -
図13 ボディポーセレンで形成したマメロンのうえにエナメルポーセレンを築盛する。 -
図14 図13を焼成したところ。透明性が強調されている。
図15 LT Super Lusterを歯冠2/3に築盛する。-
図16 T-ClearとLTxを1:1で混合する。 -
図17 切端1/3には図16で調合したものとLTSuper Lusterをランダムに築盛する。 -
図18 グレーズ完成したインプラント上部構造PFZクラウン。
図19 クラウンを口腔内に仮着したところ。透明性の感じられる調和した修復となった。-
図20 口唇を含む修復装置の様子。やや透明度が誇張されたが患者に不満はない。 -
図21 「口唇を含むグレースケールの写真」こそ、患者目線にたった評価である。
■おわりに
本症例をとおして新色の検証に対し快く応じていただきました患者様、そしてゲートタワースワン歯科・矯正歯科 医院長 原田正守先生に心から感謝申し上げます。
目 次
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