185号 SUMMER 目次を見る
キーワード:シェードベースオペークの遮蔽力/シェードベースオペークによる明度コントロール
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はじめに
歯冠修復をおこなう際にオールセラミックスクラウンを選択することは、もはや第一選択になった感がある。それにともない、支台築造を要するケースにはファイバーポスト&レジンコアが用いられる。
結果、光の透過や修復歯内部での拡散が天然歯と近似することになり、審美的に優位性が高い。その半面、フェルール部分に変色が認められる場合には、光を通す性質をもつオールセラミックスの長所が一変して、修復後に支台歯の暗さを反映してしまう。
陶材焼き付けジルコニア冠では、支台歯の色調が影響することが予想されるときに講じる対策として
①透光性の低いジルコニア素材を使用する
②シンタリング前のコーピング内面にオペークカラーリングをおこなう
③透光性の高いコーピングに対しては遮蔽性をコントロールできる陶材を使用する
④口腔内装着時には遮蔽性の高いレジンセメントを用いる
ことが考えられる。
ノリタケ カタナ®ジルコニア(以下カタナ ジルコニア)のディスクには透光性の異なるラインナップがあり、透光性の低い順からLT、HT、ST、UTとなっている。2021年8月に発売された混合組成積層型YMLは歯頸部から切端方向にかけてHTからSTの移行的な透光性をもつ。いずれも陶材焼き付けジルコニア冠の製作は可能とされているが、ここでは現実的にLTとHTに焦点をしぼってすすめたい(※LTは生産終了済み)。
本稿ではおもに上記③に準じ、セラビアン®ZR(以下CZR)に追加されたシェードベースオペークの応用について述べる。
Ⅰ シェードベースオペークの色調と遮蔽性について
支台歯のほとんどがメタル、あるいは変色している場合またはインプラントのチタンアバットメントなど、ジルコニアコーピングの遮蔽性をコントロールする目的で開発された。
色調は各シェードごとに用意されてはおらず、歯冠色用にホワイト、ライト、ダーク、歯肉色用にライトティッシュ、ダークティッシュの5種となる(図1)。
歯冠各シェードに適応させるためには、既存のシェードベースをオペーク焼成後に塗布・焼成する必要がある。すなわち、シェードベースオペークの目的はあくまで遮蔽性のコントロールで、シェードの基調色として使用することは推奨されない。
図1 シェードベースオペークの色調。左からオペークホワイト、オペークライト、オペークダーク、オペークライトティッシュ、オペークダークティッシュの5色。
Ⅱ メタル色の遮蔽度合いの検討
確認と判断がしやすいようにメタルのみで支台モデルを製作し、その支台に適合するカタナ ジルコニアのLTおよびHTのコーピング(ジルコニアの厚さは0.5mmに設定)を準備する。図2は左からメタル支台モデル、LT10、HT10である。図3はLTをメタル支台モデルに戻したところ、図4はコーピング内面に水を介在させて戻したところである。通常、コーピングと支台の隙間があると正確な色調の判断ができないため、水を介在させて支台との密着を図る。図3よりも図4のほうがメタルの影響を受けてややグレー味を呈している。同様にHTも確認したところ、LTよりもグレー味の度合いが顕著に表れた(図5)。シェードベースオペークライトとシェードベースA3をマイスターリキッドで練和した状態を図6に示す。シェードベースオペークは粒度が非常に細かくてシェードベースよりも少量のリキッドで足りる。クラレノリタケデンタル社によると、シェードベースオペークはシェードベースの約5倍の遮蔽力を有するとのことである。
図2 左からメタル支台モデル、カタナ ジルコニアLT10、HT10で製作したコーピング。-
図3 カタナ ジルコニアLT10で製作したコーピングをメタル支台モデルに戻したところ。 -
図4 図3のコーピング内面に水を介在させて戻したところ。メタル色の影響をうけてややグレーがかってみえる。 -
図5 カタナ ジルコニアHT10で製作したコーピング内面に水を介在させて戻したところ。LT10よりもさらにグレー味が強い。 -
図6 シェードベースオペークライト(左)とシェードベースA3(右)をマイスターリキッドで練和した状態。練和した感触はオペークのほうがかなり粒度が細かい。
1. 築盛手順と遮蔽度の検討結果
ここでは、検討しやすいようにHT10で製作したコーピングを使って、そのステップをアトラス形式で述べる(図7~12)。
図7 築盛面に50μmのアルミナサンドブラスト処理を施し、スチーマー洗浄後に水をはじかないことを確認する(※図7~14はHTコーピングを使用)。-
図8 ウォッシュアプライ。焼き付けを強固にするためにごく一層、薄くシェードベースオペークを塗布し、930℃大気係留1分のスケジュールにて焼成する。 -
図9 ウォッシュベイク後にインスツルメントを用いてシェードベースオペークを塗布しているところ。 -
図10 シェードベースオペークの塗布が終了したところ。筆ではなく探針や専用のインスツルメントを用いることで薄く均一な層にしやすい。 -
図11 焼成後の状態。焼成温度は図8と同じでよい。 -
図12 図11をメタル支台モデルに戻した状態(内面に水を介在)。メタル色の影響をうけていないことがわかる。
2. シェードベースオペークと既存のシェードベースとの比較
ここで、既存のシェードベースは支台歯がメタルの場合に「遮蔽」という観点からは有効でなかったのか、検討してみる。双方ともに適合させる前(左側)と水を介在させて適合させた状態ではメタル色の影響に違いがあることに注意していただきたい。比較結果は、やはり既存のシェードベースのみではメタル色を遮蔽することが難しいことが示唆された(図13、14)。
図13 左はシェードベースオペークを塗布焼成したHTとメタル支台モデル。右は水を内面に介在させて適合させた状態。-
図14 左はシェードベースを塗布焼成したHTとメタル支台モデル。右は水を内面に介在させて適合させた状態。
3. シェードベースオペークの色調調整
クラレノリタケデンタル社の推奨使用法では、シェードベースオペーク焼成後にシェードベースを積層焼成して基調色を整えるとあるが、実際の臨床ではポーセレンの築盛スペースを確保するために変法を紹介しておく。
ただし、以下の方法は筆者の経験からのもので、歯科技工所の環境や症例によって使い分ける類のものであることをご承知おきいただきたい。
シェードベースオペーク焼成後にインターナルステインのみで基調色の調整をすることも考えられるし、シェードベースオペークにオペーシャスボディを混ぜて基調色とすることも考えられる。
①インターナルステインを応用する方法
CZRインターナルステインのA+とフルオロをおおよそ1:5の割合で混合する(図15)。図16は焼成終了後のシェードベースオペーク表面に図15のステインを塗布しているところで、画面上側のコーピング(HT10)は既存のシェードベース(SBA3)を塗布焼成したものを比較として提示してある。ちなみに、図17は図16下側のコーピングをCZR Pressの「Shade Base Stain Color Guide」を基準に比色しているところである。
インターナルステインを使用する色調調整の場合は、何か基準となるものがないと判断がつきにくいためである。本法は、支台歯のほとんどがメタルや重度の変色歯でポーセレンの築盛スペースが少ないと判断したときに応用する。
②シェードベースオペークとオペーシャスボディを混合して用いる応用法
図18に示す2つのペレットは、左側がシェードベースオペークとオペーシャスボディを1:4で混合したもの、右側はシェードベースとオペーシャスボディを1:1で混合したものである。図19はその透過光写真で、混合比率はシェードベースオペークを用いたほうが低いが、遮蔽度は高い。本法は、支台歯のとくにフェルール部分に中等度の変色が認められ、かつ築盛スペースにさほど余裕のないときに応用する。
先に述べたように症例によって使い分け、あるいは混合比率を変更、または①と②の併用など柔軟に対応したい。
図15 CZRインターナルステインのA+とフルオロをおおよそ1:5の割合で混合する。-
図16 焼成終了後のシェードベースオペーク(Opaque Light)表面に図15のステインを塗布しているところ。写真上側は比較のためSBA3焼成後のHTコーピングを示す。 -
図17 図18とCZR Pressの「Shade Base Stain Color Guide」の比色。インターナルステインを使用する場合の色調調整の確認に用いる。 -
図18 左側がシェードベースオペークとオペーシャスボディを1:4で混合したもの。右側はシェードベースとオペーシャスボディを1:1で混合したもの。 -
図19 図18の透過光写真。オペーシャスボディとの混合比率はシェードベースオペークを用いたほうが低いが、遮蔽度は高い。
Ⅲ シェードベースオペークを使用した臨床例
~本稿Ⅱ-3-②による~
Ⅱ稿で示したような支台歯のほとんどがメタル、あるいは審美領域でチタンアバットメント上のインプラント修復などの適当な症例を提示できず心苦しいが、天然支台歯の色調に変色が認められるケースにシェードベースオペークを応用したので、以下アトラス形式にて解説する(図20~40)。
本症例では、おそらく既存のシェードベースでも対応できると考えたが、2本の支台歯の色調と透明度に大きく差異があったことと、かなり明るい歯でありシェードベースの遮蔽性に頼るよりオペーク要素をとりいれたほうが容易に色調のマッチングが図れると判断した。
明るい色調を表現するためには種々方法があるが、「オペーク」という言葉に従えばいわゆる反射率も高いはずで、クラウンの内面からの光の反射も利用することができる。
患者は40歳後半の男性で、事故による歯冠の破折が認められ、左上中切歯および側切歯のオールセラミックス審美修復を希望された。連結は担当歯科医師の判断、指示によるもの。
図20 シェードテイキング時の口腔内写真。目標色はNP2.5とする。側切歯の支台歯は中等度の変色が確認できる。-
図21 図20の彩度を調整して明るさを確認するための写真画像。修復2歯ともにシェードガイドのA2、NP2.5、A3と同一かそれ以上に明るい。 -
図22 カタナ ジルコニアYML A2を選択してマイクロレイヤー用にデザインしたコーピングとシェードガイドとの比色状態。 -
図23 簡易的に水で濡らした筆を側切歯コーピング内面に入れてみたところ。筆の色の影響を受けて隣の中切歯側よりも暗い。 -
図24 図18左側に示した配合のシェードベースオペークでウォッシュアプライを行う。 -
図25 ウォッシュベイク終了後にインスツルメントを用いて薄く図24と同じシェードベースステインを塗布する。歯冠2/3の部分に重点的に塗ることが注意点である。 -
図26 水で濡らした筆を側切歯コーピング内面に入れて、遮蔽性を確認する。 -
図27 インターナルステインで色調の補正と個性表現をおこなったところ。 -
図28 オペーシャスボディ NP2.5の築盛。シェードベースオペークを塗布焼成した部分を少し切端側に越すくらいの位置まで築盛する。築盛厚みは約0.3mm。 -
図29 オペーシャスボディ焼成後の状態。 -
図30 ボディNP2.5とエナメルE2の築盛。ボディはオペーシャスボディを築盛した部分より少し切端側に越す位置まで築盛する。 -
図31 ここでいったん焼成してインターナルステインにて切端寄り1/3にみられるオレンジ様や隣接の青みがかった部分、歯頸部寄りの淡い白帯を表現する。 -
図32 表層へラスターポーセレンを築盛。大部分にLT0、切端領域はTx、ラインアングル部分にはクリーミーエナメルを盛った。 -
図33 焼成後の状態。 -
図34 グレーズ焼成前に、切端隅角部分にエクスターナルステインのホワイトで白濁を表現する。 -
図35 グレーズ完成したポーセレン焼き付けジルコニアクラウンとシェードガイドの比色。 -
図36 図35の彩度を調整して明るさを確認しているところ。シェードガイドと同一かそれ以上に明るい。 -
図37 模型上にクラウンを戻したところ。反対側中切歯切端の遠心にみられるエナメル質の欠けは表現していない。 -
図38 口腔内に装着した正面観写真。とくに側切歯においては変色した支台歯の影響はみられない。 -
図39 図38の彩度を調整して明るさを確認するための写真画像。ねらった明るさが表現できた。 -
図40 口腔内装着2週間後の状態。支台歯の影響をうけることなく、残存歯群とは調和している。
本稿では、CZRポーセレンに新しく追加されたシェードベースオペークの概要と臨床応用について述べた。
光を通す、また生体親和性に優位という特徴をもつオールセラミックス修復であるが光を通す以上、下地となる支台歯の影響は避けられない。これまで多くの文献では、いかに支台歯の影響をコントロールするか論点として取り上げられてきた。築盛スペースに余裕があれば、支台歯がいかなる状況でもいったんオペークでリセットできるので築盛自体が簡素化できるであろう。オールセラミックスにオペーク?という矛盾する材料であるが、使用方法によっては様々な臨床への対応に大きな幅ができると考える。また、歯科技工所にシンタリングファーネスがない環境ではミリング後に含侵する類のカラーリングリキッドが使えないため、便利なアイテムとなる。
最後に、臨床例をご提供いただきました、さぶり歯科 佐分利清信先生のご厚情に感謝いたします。
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