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Interview

令和の時代を“幸せに”生き抜く医院経営に必要不可欠なファクターとは

岡山県岡山市 株式会社アスペック代表取締役 歯学博士 小林 充治

目 次

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岡山県岡山市
株式会社アスペック
代表取締役 歯学博士 小林 充治

30年以上の歯科医院経営の実績を持ち、現在では開業を目指す先生や、医院経営に悩む先生方のサポート事業を展開する小林充治先生に、今後の歯科界の様相や令和時代を生き抜くために必要な考え方についてお話を伺いました。

近い将来、歯科界に必ず訪れるパラダイムシフトとは

皆さんは10年後、20年後に私たちを取り巻く歯科の世界はどうなっているか、想像してみたことはありますか?
現在開業している歯科医師の平均年齢はだいたい60歳です。このことは10年後には70歳以上の歯科医師が膨大に増えることを意味しています。ただ、70歳を過ぎた院長先生のクリニックに新患として来院するでしょうか?私が拠点にしている岡山市内では70歳を境に引退・廃院される先生がちらほらいらっしゃいます。
その一方、皆さんもご存知の通り歯科大学の学生定員は年々減少しています。1985( 昭和60) 年に1学年3,380人だったのが最高で、現在は2,481人です。さらに国家試験の合格率も2003年までは90%以上だったのが、現在は61%まで下がっています。
これら二つの事実から、現役の歯科医師が10年後には10%、15年後には30%も減少することが推測されます。おそらくこれから15年もすると「近くに歯科医院が見当たらない」と世間で騒がれるようになってくるでしょう。これは単に想像の未来ではありません。将来必ず起こる、いわば“約束された未来”なのです。こうした情報は厚労省などの公的機関から公表されていますから、その気になればどなたでも閲覧可能なデータです。要はそうした情報を意識して知ろうと考えるかの問題で、目の前で起こっている現象に右往左往するのではなく、時代の栄枯盛衰を見ながら物ごとを大局的に見る目を養う必要があると考えています。

“令和の歯科界”は明るい?

私は、令和の歯科界の未来は明るいと期待を持ってみています。その根拠として、まず金融機関のスタンスが昭和や平成の頃から大きく変わりました。特に平成の時代は景気後退の影響から金融機関の融資が厳しく、自分や配偶者の親が資産家や経営者でない限り自前での新規開業は困難でした。ためしにその頃開業した先生に「どうやって開業したの?」と聞いてみると、ほとんどの先生方は連帯保証人と担保を用意しないかぎり資金調達は無理な状況でした。今風にいえば「親ガチャ」がもろに影響している時代です。それが令和になって起業のハードルを下げる目的で中小企業庁や金融庁が借入れの際の担保や連帯保証人を不要にするよう金融機関に対して要請しました。つまり、誰でも比較的簡単に銀行借入ができるようになったのです。
そして先述したように、現在の歯科医師のボリュームゾーンは団塊世代が中心ですから、この方々が次々に引退していく10年後以降からは現在のような“歯科医師飽和状態”から解放され、さらに歯科医師の同級生が2,000人足らずしかいない、かつてない“売り手市場”となる未来が見えているからです。

歯科医院経営の“特殊性”

ただし、そうは言っても生半可な覚悟では歯科医院を長きにわたり健全な状態で経営することはできません。一般的に起業とは「小さく生んで大きく育てる」のがセオリーとされています。しかし皆さんもご存知の通り、歯科医院の開業は決して「小さく生む」ことができません。特に近年はその傾向に拍車がかかり、CTやマイクロスコープを筆頭に高額な医療機器を開業時に導入するケースが多いですから、そうした設備投資だけでも2,000万、3,000万円は必要になるでしょう。つまり、開業時の初期投資額が大きすぎるのです。そのため、ほとんどの先生は最初に開業した場所で引退するまで診療を続けることになります。「ここは患者さんがあまり来ないから場所を変えよう」なんてもってのほか、人生の大半をその地で診療しながら開業時の借入金を返済、さらに家庭の住宅ローン、子供の教育費なども加わって日々資金繰りに追われている先生方をこれまでたくさん見てきました。
私は1992(平成4)年にテナントで開業しました。そして15年後に土地を取得し、自社ビルを建て移転することができました。今まで30年間かけて現在の規模まで育て上げることができたのです。現在は院長を次の世代に譲り、これまで培ってきた知恵やノウハウを活かして若い先生方の開業サポートを行っていますが、歯科医院経営のいちばんの難しさ、問題点は先に述べた開業時の初期投資が大きすぎるという特殊性にあるといっても過言ではありません。ですから、歯科医院経営においては「開業時の事業計画」の良し悪しによって、その後の歯科医師人生が大きく変わってしまう可能性があることを肝に銘じていただければと思います。

経営を学ぶ機会が少ない若手歯科医師たち

[図] 歯科医院経営
図 「歯科医療」と「歯科医院経営」はまったく別物と理解すること。

一口に「事業計画」といってもおそらく多くの先生方にはピンと来ないかもしれませんね。本来、歯科医師は治療行為が好きで仕方がない人が多いですから、インプラント治療、矯正治療、今ではマウスピース矯正など、新しい技術を学べるセミナーとなると皆さんこぞって参加されます。一方で「決算書」や「財務諸表」などと聞くと一目散に逃げ出してしまう先生が多いのではないでしょうか。
それもそのはず、大学の6年間は歯や口腔に関することしか学びませんから、ある種歯科に洗脳されていると考えたほうが自然です。例えば、皆さん「ブリッジ」と聞いたら何を思い浮かべますか?ほとんどの先生は「補綴のための…」などと答えるでしょう。でも一般の人にとってブリッジといえば「橋」なのです。クラウンは「歯冠」ではなく「王冠」ですよね。これは余談で、私たち歯科医師はそれほど歯科のバイアスがかかっているという例えです。
その後歯科大学を卒業して研修医になっても、相変わらず歯のことばかり学ぶことになります。さらに歯科医院に勤務医として仕事に就いても、治療技術の習得がもっぱら主な目的で、医院経営について教えてくれる院長先生はほぼ皆無ではないでしょうか。そして、30~35歳頃になって「自信がついた」と開業準備に入ったとしても、経営のイロハや銀行との交渉などすべてが初めて経験することばかり、もちろんお金の借り方も分かりませんから歯科メーカーやディーラーさんが銀行まで付いていくといったケースもよく耳にします。ただ、「歯科医療」と「歯科医院経営」はまったく別物です。歯科メーカーやディーラーさんはあくまで歯科医療側の人たちですから、経営に関してはプロではないことを理解しておきましょう(上図参照)。
開業時の大きな問題点は、とにかく開業することがゴールになっていることです。開業地探しもメーカーやディーラーさん任せで、場所が決まったら「あとは何とかなるだろう」で突っ走ってしまう。実はかくいう私も1992(平成4)年にテナント開業した時、まったく同じ状況でした。年を経るごとに経営が行き詰まり、43歳の時に「このままではジリ貧になってしまう!」と本腰を入れて経営について学び始めたのです。

  • <小林充治先生 ご略歴>
    • 1960(昭和35)年 生まれ
    • 1986(昭和61)年 岡山大学歯学部卒
    • 1990(平成2)年 岡山大学大学院歯学研究科卒
    • 1992(平成4)年 オリーブ歯科開業
    • 1995(平成7)年 医療法人オリーブ設立
    • 2003(平成15)年 株式会社アスペック創業
    • 現在
    • 株式会社アスペック代表取締役
    • 医療法人オリーブ顧問

    その他、小林先生は中国古典で得られた知識をベースに、現代社会を生き抜くヒントに関する下記書籍を出版されています。

    • ・『最強の組織をつくる:人間を見極めるための「韓非子」と「孫子」』(PHP研究所)
    • ・『 「運命」はひらける!:「安岡正篤の本」を読むと、仕事も家庭もうまくいく』(プレジデント社)
    • ・『人間を見極める:人生を豊かにする「論語」』(PHP研究所)
  • [写真] 小林充治先生

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