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連載:超高齢社会における歯科医療が果たす役割 Part 16 外来診療に引けを取らない訪問診療環境の実現を目指して

静岡市葵区 こんどう歯科医院 院長 近藤匡晴

目 次

  • [写真] 静岡市葵区 こんどう歯科医院 院長 近藤 匡晴
    静岡市葵区
    こんどう歯科医院
    院長 近藤 匡晴

診療業務の9割以上が訪問診療という「こんどう歯科医院」。院長の近藤匡晴先生は20年来、訪問診療に携わり、「外来診療に引けを取らない訪問診療環境の構築」をモットーに活動を続けておられます。そんな近藤先生にVE検査を活用した食事形態を上げる実践例や高齢者施設における医科歯科連携のポイントについて伺いました。

患者さんからの一本の電話

私が訪問診療を始めたきっかけは、20年ほど前祖父のもとにかかってきた一本の電話でした。電話の主は祖父の長年の患者さんで、高齢にともない通院ができなくなった方でした。
「入れ歯が欠けたので、なんとかして欲しい」。それがその患者さんからの要望でした。祖父が往診するにはすでに年齢的に難しかったことから、私が対応することになり、小型のエンジンを探し出して、往診に向かいました。
その後も一人、二人と依頼の電話が続きました。そのうち、「あそこの歯医者は在宅でも治療をしてくれる」という噂が広がり、さらに依頼が舞い込むように。気がつくと1日中、訪問診療を行っていたという日が珍しくなくなっていました。

義歯の質がQOLに直結

在宅に足を運んで気付いたのは義歯に関する相談の多さです。訪問診療を始めた当初は、訪問に特化した器材が極めて少なかったこともあり、在宅で義歯を製作をする発想は持ち合わせていませんでした。しかし、「訪問だからできない」と思われることが悔しくて、さまざまな道具や器具を探しては試し、時には道具を自作しながら、治療の幅を広げていきました。
今の口腔状態に合わせて義歯を調整したり、新しい義歯を製作したりすると、それまで食べられなかった固形物をきちんと飲み込めるようになる方がいます。そして、食事が楽しくなり、元気を取り戻す方がいます。逆に言えば、義歯が合わないだけで食事形態が汁物になり、唇が閉じなくなり、呼吸が乱れ、健康状態が低下していきます。高齢者にとって義歯の質はQOLに直結するものなのです。

  • [写真] 「こんどう歯科医院」の外観
    「こんどう歯科医院」の外観。
  • [写真] 訪問診療に付随する各種の保険に関する書類作成など事務作業
    訪問診療に付随する各種の保険に関する書類作成など事務作業も多い。
  • [写真] 訪問診療に持参するさまざまな道具や器材が置かれた作業台
    訪問診療に持参するさまざまな道具や器材が置かれた作業台。

訪問先でのVE検査は歯科の大きな役割の一つ

[写真] 近藤先生多くの高齢患者と接するうちに摂食嚥下の検査やリハビリについて正しい知識と技術を習得する必要性を感じ、新潟大学大学院に院生として通った時期がありました。同大学にて研究を手伝う中で、嚥下内視鏡検査(VE)で咽喉頭部を観察しながら、食べ方や姿勢の調整、食事形態の工夫を行うことで摂食嚥下不全の方でも機能が回復することが分かってきました。
近年、保険適用になったことも手伝い、当院でも訪問先でVEを行う機会が増えています。食べ物が咽頭内に残留していないか、残留していてもお茶などで流せるか、食べ物が気管に流入しないかなど、評価の確実性を上げられることがVEのメリットです。
また、VEの映像は看護師さんにも一緒に見ていただくようにしています。嚥下の状態の他、背中の角度がどのくらいであれば安全に飲み込めるのかなどを共有するためです。VE検査を活用した結果、液体しか飲み込めなかった方が若干でも固形物を食べられるようになることがあります。高齢の方の場合、この「若干」が大切で、おやつに甘いものが少し食べられるようになったなど、小さな変化がQOLを大きく向上させることがあります。
VE検査は他科でも行いますが、摂食嚥下に不安がある高齢の患者さんは病院に移動するだけでもとても苦労します。そのため、訪問先でのVE検査は歯科に期待される大きな役割の一つだと思っています。

定期的に施設に出向くことは信頼関係構築に欠かせない

訪問先では医科や他職種と信頼関係を築くことがまずは大切になります。そのためには毎週、決まった曜日に決まった施設に足を運ぶことをお勧めします。たとえ患者さんが1人であっても必ず毎週出向くことで自然と施設のスタッフとのつながりが生まれ、患者さんも顔を覚えてくれ、こちらも施設への愛着が生まれます。
反対に電話がかかってきたら行くというスタンスでは、「この程度で呼ぶのは申し訳ない」と施設側も遠慮してしまいます。患者さんにしても、誰だかよく分からない相手に口の中を見せるのは怖いものです。

歯科衛生士が単独で口腔ケア可能な環境を整えることが次の目標

「訪問診療だからできない」。そう言われないために、これまで試行錯誤を重ね、さまざまなことに取り組んできました。今後は今まで蓄積してきた技術や知識を若い先生に伝えていくことも必要だと感じています。
もう1つの目標は歯科衛生士が単独で口腔ケアを施術できる環境を整えることです。ナースステーションのように歯科衛生士のステーションが施設内にあれば、より充実した口腔ケアを継続的に実践できるのではないかと考えています。
訪問先で治療後に、皆さんでご飯やおやつを楽しそうに食べている姿を見るときに私は一番のがやりがいを感じます。これからも高齢者の食べる楽しみを支え、そうした瞬間により多く立ち会えるように尽力したいと思っています。

  • [写真] 外来診療用にユニット
    院内には外来診療用にユニットを1台設置している。
  • [写真] ポータキューブ+
    歯科用ポータブル診察ユニット『ポータキューブ+』は「耐久性やバキュームの吸引力が気に入っています」と近藤院長。
  • [写真] 訪問用の自動車
    「こんどう歯科医院」では施設を中心に1日に3、4ヵ所を自動車で訪問する。

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