185号 SUMMER 目次を見る
Clinical Report
咬合再構成におけるイニセルインプラントとTRIOS4の活用
キーワード:補綴主導型のインプラント埋入/インプラントを使用した咬合再構成/光学印象のメリット
目 次
- ≫ 緒言
- ≫ 症例の概要と治療の流れ
- ≫ 考察とまとめ
緒言
咬合再構成を計画したインプラント治療において、インプラント周囲の硬軟組織の有無はもちろんのこと、正確なインプラント埋入ポジションにインプラントが埋入できないことは、治療後の合併症として、インプラント周囲炎および上部構造の合併症(上部構造の破損、スクリューの緩みや破損)が生じやすいことが報告されている1)。
咬合再構成を計画したインプラント埋入では、これらの合併症を防ぐために、術前に硬軟組織量を確認しインプラント埋入ポジション、インプラントタイプを口腔内スキャナーTRIOS4(3shape社)のSTLデータとCBCT(Veraviewepocs 3Df:モリタ)のDICOMデータを重ね合わせ、インプラント埋入の適正な三次元的位置を計画し、このデータを使用してサージカルガイドの作成を行うことにより補綴主導型のインプラント埋入を可能とさせる。
また、超親水性表面性状のイニセルインプラントによりインプラントの表面に骨芽細胞の吸着を促進させ、オッセオインテグレーションの早期獲得にともなう早期荷重を可能とし、バーティカルストップの早期の安定は、咬合再構成が必要な患者にとって非常に有益であることが示唆される。本症例は咬合再構成が必要な患者にてTRIOS4とイニセルインプラントの活用法を報告したい。
症例の概要と治療の流れ
患者は45歳女性で、上顎14・15・16・17・24・25・26・27、下顎35・36・37・44・45・46・47に上下顎両側遊離端欠損を認める。パーシャルデンチャーを使用しておらず、前歯部のみで咀嚼していた。患者は咀嚼障害と審美障害の改善が主訴であり、上下顎両側遊離端欠損にて固定式の補綴治療と前歯部の審美の改善を希望されていた。
初診時の口腔内写真(図1~3)とオルソパントモグラフィー(図4)にて上下顎遊離端欠損部において硬軟組織量は、ある程度十分に認めるが、残存歯は中等度の歯周病を認めるため、先ずは歯周基本治療と残存歯質および歯牙の保存の可否、プロビジョナルデンチャーによる下顎位が安定した時点で顎位と顎関節をセファロとCBCTにて再評価し、顎関節に問題があればMRIなどで確認をすることにした。
また、残存歯の矯正治療を勧めたが、患者は補綴による修復処置を希望された。歯周基本治療とプロビジョナルデンチャーにて下顎位が安定した後に、診断用Wax Up(図5)にて上下の顎間関係を精査して、TRIOS4を使用し口腔内をスキャニングしてSTLデータを作成し(図6)、CBCTのDICOMデータと重ね合わせたデータから、インプラントの埋入ポジションとインプラントタイプの治療計画を決定する(図7)。
このような計画を行う一つの理由として、埋入後にインプラントショルダー周囲の辺縁骨の非侵襲性骨吸収が考えられ、これらを考慮する上で、隣在歯からは1.5mm以上離し、インプラントとインプラント間を3mm以上離す2)ことが、必要だからである。これらの原因の一つとしては、マイクロムーブメントがあげられる。イニセルインプラントのアバットメントのジョイント機構は最小限のマイクロムーブメントのため垂直偏位の少ないバットジョイントにより5μm以下のマイクロギャップで、側方力に対しても微振動が少ないとされているが、インプラント埋入時においては隣在歯、インプラントとの距離間と正しい三次元的な位置への埋入によるインプラント辺縁骨の非侵襲性骨吸収への配慮は必ず必要となる。
CBCTとSTLデータからインプラント埋入位置を決定する(図7)。今回は、インプラント埋入予定部位の骨量は、26番以外は、骨造成をしないでも8mm以上の長さのインプラントが埋入可能であった。26番部では、垂直的な骨の高さが8mm未満のため、上顎洞底挙上術とショートインプラントの使用の両方の治療オプションを患者に説明したところ、患者は外科的な侵襲の少ないショートインプラントの使用を選択した。
今回は、太さ5.0mm長さ6.5mmエレメントRCを使用している。2本以上隣接するショートインプラントは、上部構造を連結することにより辺縁骨部への応力集中を避けられる可能性が示唆されている3)。特にイニセルインプラントはショートインプラントの定義である6mmより0.5mm長く、セルフタップのワイドボディであり、これらワイドボディは初期固定が良好に獲得でき周囲骨へのストレス緩和がある4)とも報告されている。
上下顎のサージガイドの適合を確認した後(図8、11)、インプラント外科処置を施行した。このSPIガイディッドサージェリーはブレがなく2点で固定して高い精度で、インプラント床を形成できる。今回上顎ではドリリング時に骨質が柔らかく感じたので2回法にてインプラント埋入を行った(図9、10)。しかし、正確にインプラント床の形成をSPIガイディッドサージェリーにて可能にしたため、上顎のインプラント埋入後の初期固定がオステルによるISQ値では、全て65以上を計測したことで、下顎同様早期荷重が可能であることが考えられる。また下顎においては、ISQ値は70以上であり即時荷重も可能な数値であるが、今回は上下顎で荷重を開始するため、上顎に合わせて6週間後の早期荷重の荷重プロトコールを使用した。
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