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Clinical Report

歯科用CBCTを用いた顎関節症患者の画像診断およびpumping manipulationについて

岐阜県総合医療センター 歯科口腔外科 主任部長 石丸 純一

キーワード:顎関節症発症のメカニズム/CBCTを用いた顎関節の画像診断法

目 次

緒言

顎関節症の診断と治療に関しては過去約30年の間に飛躍的に進歩し、基礎研究や臨床研究が盛んに行われた結果、その治療法の開発や病態の解明が進んでいった。
歴史的にはCosten(1934)1)が難聴、顎関節部の圧痛、疼痛、耳鳴りや頭痛などの患者に対し、不良な咬合状態がその原因であり、臼歯部欠損症例に対し補綴処置などの咬合治療を行うことで症状が改善することから、不正咬合、咬合異常がその原因という機械的病因論から顎関節症の解釈が始まった。その後、Costen症候群の名称で広く世に広まり、現在のいわゆる顎関節症の呼称の先駆けとなった。
一方、コペンハーゲン大学のFoged(1940)2)はtemporomandibular arthrosisと呼称し、顎関節障害を非炎症性の退行性変化と捉えることを提案。本邦においては上野(1957)3)がこの考えを継承し、この疾患を顎関節症と翻訳したことで、広く知れわたった。
上野はその中で顎関節症の定義を、顎関節部を中心とする疼痛、開口障害、顎運動時の関節雑音などを主症状とし、かつ臨床的に明らかな炎症症状を欠く疾患であると定義した。
当時、本邦では顎関節症に対してはこの考え方が主流で、それゆえその後も長く、顎関節症は非炎症性疾患と信じられてきた。この潮流は1980年代まで続き、この考え方を打破する決定的論文は出てこなかった。
しかし、2000年に入り診断技術は数段進歩し、顎関節滑液の生化学的検査などが可能になった。その結果、筆者らは顎関節滑液中の関節炎マーカーを測定することにより、ある種の顎関節症には滑膜炎が関与していることを証明し4)、COX-2inhibitorや顎関節洗浄療法を組み合わせた、新たな顎関節症の治療法の開発を進めていった5)
また、画像診断において従来はshüller法やpanorama撮影法、パノラマ4分割法などが主流であったが、近年、顎関節造影検査、CT、MRI、CBCTなどが導入され、硬組織だけでなく、関節円板や関節軟骨表面の初期変化といった軟組織までもが診断できるようになってきた。ことにCBCTは顎関節の画像診断にも診断精度が高いことが報告され、その有用性が示された6)
今回は筆者らが行ってきたCBCTを用いた顎関節の画像診断法およびその後の徒手的整復術につき紹介する。

CBCTを用いた顎関節二重造影断層撮影法

この検査は顎関節における上関節腔穿刺および顎関節単純造影撮影とCBCTを用いた顎関節二重造影断層撮影の2つから成る。

①上関節腔穿刺および 顎関節単純造影撮影

まずは患者を側臥位にし、顎関節表面の皮膚を消毒したのち、歯科用キシロカインにて表面皮膚および外側靭帯に局所麻酔を施行する。
十分麻酔効果が得られた後、静脈内留置針にて上関節腔へ穿刺する。穿刺が確認されれば外套を滅菌テープで皮膚固定し、延長管チューブに装着して、造影剤(60%ウログラフィン)を用いて上関節腔造影X線撮影を行う。
撮影は中心咬合位、最大開口位、下顎前方位、中心咬合位の4つの咬合位で行い、撮影が終われば穿刺した外套に新たな延長管チューブを取り付けその端にガラスの注射器に接続しておく(図1)。
また、このステップは省略することもできる。

②CBCTを用いた 顎関節二重造影断層撮影法

先ほどの状態から患者をCBCTに移し、2方向スカウトから顎関節をターゲットに調整する。ガラス注射器からエアーを注入し上関節腔を膨らませた状態でチューブの三法活栓を固定する。この状態で顎関節断層撮影を行う(図2 Veraviewepocs 3D<モリタ>)。
代表的な画像を下記に示す(図37)。顎関節造影断層撮影後は通常pumping manipulationを行う。これは使用した造影剤を洗い流すだけでなく、同時に顎関節滑液中の発痛物質や炎症性サイトカインなども洗い流す効果があり、また、初期の線維性癒着を引き剥がす効果もあると考えられ、顎関節洗浄療法と同様に治療効果が期待できる(図89)。

  • [写真] 上関節腔に造影剤を注入する
    図1 上関節腔に造影剤を注入する。ガラス注射筒に延長管チューブをつなげ上関節腔穿刺針に連結する。
  • [写真] 患者をCBCTに移動させ、2方向スカウトから顎関節に断層面の位置合わせを行う
    図2 患者をCBCTに移動させ、2方向スカウトから顎関節に断層面の位置合わせを行う。
  • [写真] 顎関節の2重造影CBCT画像(正常所見)
    図3 顎関節の2重造影CBCT画像(正常所見)
    <(株)モリタ製作所 Veraviewepocs 3Dにて撮影>
  • [写真] 上関節腔線維性癒着病変
    図4 上関節腔線維性癒着病変
  • [写真] 関節円板前方転位、関節円板の穿孔を認める
    図5 関節円板前方転位、関節円板の穿孔を認める。
  • [写真] 関節円板の穿孔を認め、関節頭と側頭骨下面との間にbone to bone contactを認める
    図6 関節円板の穿孔を認め、関節頭と側頭骨下面との間にbone to bone contactを認める。
  • [写真] 変形性顎関節症の所見を認める
    図7 変形性顎関節症の所見を認める。
  • [写真] 生理食塩水を用いた上関節腔 pumping manipulation(開口時)
    図8 生理食塩水を用いた上関節腔 pumping manipulation(開口時)
  • [写真] 生理食塩水を用いた上関節腔 pumping manipulation(閉口時)
    図9 生理食塩水を用いた上関節腔 pumping manipulation(閉口時)

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