185号 SUMMER 目次を見る
Clinical Report
上顎洞挙上術におけるTiハニカムメンブレンの応用
キーワード:側方開窓テクニックによる上顎洞挙上術/骨移植材とメンブレンの併用/デジタル・アナログ技術の融合
目 次
はじめに
上顎欠損部に対して、インプラントを用いた欠損補綴を行う際に、歯槽骨の高さの不足から上顎洞挙上術を用いたり、それ以外にショートインプラント、ザイゴマインプラントやインプラントを傾斜埋入させて上顎洞挙上術を行わずにインプラント補綴を行う方法などが考えられる。
これらのどの方法を用いるかについては、ケースにより適切に応用される必要がある。とくに上顎洞挙上術においては、上顎洞へのアプローチの仕方の違いから歯槽頂テクニックと側方開窓テクニックの2種類がある(図1)。
歯槽頂テクニックは比較的低侵襲であり、側方開窓テクニックに比べて患者の不快症状が著しく低いところが長所である。しかし、このテクニックでは骨高径を2~4mmしか造成できない点が欠点として挙げられる。一方で、側方開窓テクニックはその逆と捉えるべきだと考える。
また、側方開窓テクニックにおいて同時埋入を行うのか?段階法を取るのか?については、インプラントを同時埋入しても十分な初期固定が得られる必要がある。そのために、上顎洞下の残存骨量がある程度あり、その骨質も重要であると思われる。さらに、上顎洞挙上術で使用する移植材料については、一定の長さのインプラントを固定するために3mm以上の増生が必要な場合や、インプラント先端部周辺全体に骨形成が望まれる場合は移植材料の使用が推奨されている1)。
その使用する移植材料については自家骨または代用骨を単独で使用する場合と、組み合わせで使用する場合とで同等に高い結果が達成できるとする臨床エビデンス2)があるものの、異なる移植材料で同じ生体反応が得られることを示唆するものではない(表1)。
さらに、側方開窓テクニックにおいて開窓部をメンブレンで被覆することについては、吸収性メンブレンで被覆することで骨形成が向上し、失敗率が低下したとする報告がある一方で、バリアメンブレンが骨形成に与える影響は確認されないとする報告もある。そのため、総合的に見て側方開窓部に吸収性メンブレンで被覆することの有効性は小さいようである。
しかし、患者や使用する移植材の骨形成能力が小さい臨床状況においては、側方開窓部に吸収性メンブレンを使用することが推奨されている。こうした中で、吸収性メンブレンの代わりに非吸収性メンブレンを使用することを支持するデータは存在しない。
では、なぜ上顎洞挙上術において側方開窓部を吸収性ないしは非吸収性メンブレンで被覆することが多いかというと、シュナイダー膜を挙上したスペースに填入した移植材料のスペースメイキングと、術後に移植材料の漏出を防止することが目的と考えている3)。
当初、筆者は側方開窓部に剛性が高くスペースメイキング能力の高いチタンメッシュを専用のピンを用いて固定をしていた(図2)。
そのチタンメッシュ自体が厚く、メッシュの穴が大きい。そのために、開窓部の大きさに合わせてメッシュの形態を調整し、ピンで止めた際に、断端の鋭利な部分ができたりしてしまうとその部分が粘膜を突き破ったり、またリエントリーの際に周囲組織とメッシュが絡みつき撤去の際に苦労したりするなどさまざまな経験をしてきた(図3)。
Tiハニカムメンブレンを使用するきっかけになったのは、その形態的な特徴からである。Tiハニカムメンブレンはチタン製でありながら、その厚さが20μmと非常に薄いため、術中指先で簡単に形態を付与することができる。また、Tiハニカムメンブレンの形態を調整してもその断端が鋭利になりにくいために、軟組織への侵襲が少ない。そのため術直後の裂開などの恐れがない。
さらに、Tiハニカムメンブレンの表面にはレーザー加工法により、孔径20μmの穿通孔が50μmの間隔で付与され、 そのメンブレンのレーザー加工部に幅0.2mmの無加工部をハニカム状に配置することで、メンブレン自体の強度を維持している。 この20μmの穴から血清タンパクやミネラルなどの液性栄養分の透過性は維持しつつ、Tiハニカムメンブレンに内部の骨由来の細胞は閉じ込められる上にメンブレン外部からの軟組織の侵入は遮断できる。そのために、骨組織形成に必要な骨膜由来の因子はメンブレン内部に透過しつつも細胞成分は一切透過しないため、周囲軟組織との絡みつきがなく、リエントリーの際の撤去は容易に行うことができる。
こうした特徴を持つTiハニカムメンブレンは、薄いながらもチタンメッシュとしての剛性を保ちつつ、薄く柔らかいために形態付与が簡単でしっかりと骨表面にフィットさせられるので、ピンでしっかりと固定しやすい。
さらにTiハニカムメンブレンに設けられた穴が大変小さく、たくさん空いているために外部からの軟組織の迷入をしっかりとガードしつつも、血清タンパクなど骨造成に必要な因子を通すという意味では上顎洞挙上術やGBRなどの骨造成術において大変有効だと考え、筆者は利用している4)。
図1 上顎洞挙上術における2つのテクニック。歯槽頂テクニック(左)と側方開窓テクニック(右)。-
表1 さまざまな上顎洞挙上術のスケジュール -
図2 一般的なチタンメッシュ。多くのメッシュは孔が大きく厚い。そのために角ができやいので注意して設置する必要があった。 -
図3 リエントリー時の写真。チタンメッシュが周囲組織と絡み付いてしまい、撤去が困難になることを経験してきた。
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