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Field Report

マイクロスコープによるDHの精密診療と院内DX化で実践する「全員参加型診療」

千葉県松戸市 アウルデンタルクリニック 院長 志田 健太郎/歯科衛生士 大隝 玲美/荒川 彩乃

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目 次

千葉県松戸市 アウルデンタルクリニック
院長 志田 健太郎 歯科衛生士 大隝 玲美/荒川 彩乃

  • [写真] 院長 志田 健太郎
  • [写真] 歯科衛生士 大隝 玲美
  • [写真] 歯科衛生士 荒川 彩乃
<志田健太郎 院長>

さまざまな業界で人手不足が叫ばれている昨今、いずれ歯科医院で働きたいと思う人はいなくなるのではないかという危機感を抱いています。だからといって、歯科医師が一人であらゆる業務を抱え込むのではなく、むしろ私自身は一歩身を引くことで、スタッフが活躍できる場を増やし、それぞれが責任とやり甲斐を持って仕事に取り組める「全員参加型」の組織づくりが大事ではないかと考えています。
そうした実践のひとつにマイクロスコープを活用した診療があります。当院では歯科衛生士全員が診療の際に使用できるように4台のユニットすべてにマイクロスコープを設置しています。拡大視野下での作業による精度の高い処置に加え、メリットとなっているのが録画、撮影機能です。
そもそも歯周病治療の場合、ドラスティックな変化は見られません。スケーリングによる出血で不安を覚える患者さんもいる中、結果が現れるまでには数日から数週間の時間を要します。その間、患者さんには歯科医院に通い続けていただく必要があります。
[写真] 志田院長
「私が見ているのと同じ拡大視野下で診て欲しい」という想いから、志田院長は全員の歯科衛生士がマイクロスコープを使用できる環境を整えた。
そこで治療プロセスをデジタルデータとして記録に残し、患者さんと共有することで治療への理解度とモチベーションの向上を促します。
また、記録した画像や動画はX線写真などその他の診断データ、加えてWeb予約システム「Genifix」などとも同期させ、院内データ総合管理ソフト「TrinityCore」で一元管理を行っています。こうすることで歯科医師を含めたすべてのスタッフ間で患者さんに関するあらゆる情報を容易に共有できるようになりました。
私がよく歯科衛生士たちに伝えていることは「ただのお掃除のお姉さんになるな」ということです。歯科衛生士は国家資格を有した医療従事者です。患者さんは口の中のトラブルを解決するために来院されている以上、相手が歯科医師であろうと歯科衛生士であろうと関係ありません。そのため、私としてはある程度の補綴治療に対する知識や理解を歯科衛生士に求めますし、自費診療に関するコンサルティングもできるようになって欲しいと思っています。そうした際に欠かせないのが、患者さんに関するあらゆる情報を歯科医師と共有することであり、それを実現するための院内DX化です。
このような「全員参加型診療」の方針に転換してからは歯科衛生士から治療に対する提案がよく聞かれるようになり、私だけでは気づけなかった口腔内のトラブルを早期に発見するケースも増えました。そして、自費率についても顕著に高くなりました。
また、情報の共有については歯科助手や歯科技工士、受付担当においても同様です。すべてのスタッフが患者さんに関する情報に手軽にアクセスできることで、「全員参加型診療」を実現し、それによってクオリティの高い歯科医療の提供を目指しています。そして、それぞれのスタッフが活躍できる場面を増やし、その結果、当院で働く価値ややり甲斐をどの役職であっても見出してもらえたらと思っています。その一方で、私自身も経営者の立場として成果に対する適切な評価を行うように常に心がけています。
最近、DX化によって自動化できる作業を見直し、診療時間を短くしました。世の中では「働き方改革」が叫ばれています。人材不足が顕著な歯科業界においてもそれは急務ではないかと考えています。これからも働きやすく、やり甲斐のある職場づくりを目指していければと思っています。

  • [写真] マイクロスコープや「CEREC」を完備した個室診療室
    マイクロスコープや「CEREC」を完備した個室診療室はおもに志田院長が使用する。
  • [写真] マイクロスコープを使用した歯周病処置の様子
    マイクロスコープを使用した歯周病処置の様子。ミラーテクニックやポジショニングのコツを掴むまでは毎日、練習を重ねた。
  • [写真] マイクロスコープで撮影した画像を患者さんに見せながら説明を行う
    マイクロスコープで撮影した画像を患者さんに見せながら説明を行うことで、歯周病への理解や治療へのモチベーションの向上につながる。
<大隝玲美 歯科衛生士>

私は当院に勤務する以前は拡大鏡を 使用して歯周病処置を行っていまし た。裸眼よりも見えるので処置の精度が上がることは確かでしたが、マイクロスコープによる拡大視野はこれまで見ていた世界とはまったく違っていました。
マイクロスコープのセミナーを受講した際、「感覚に慣れるまでは、1日1回は必ず覗いた方が良い」という指導を受け、その後は空いている時間を利用し、毎日、練習を繰り返しました。
[写真] インタビュー風景 マイクロスコープを使用するようになってからは、患者さんから「痛くない」という処置の感想をいただくようになりました。それまでは見えづらい状況で歯肉縁下にアプローチしていたため、どうしても粘膜を傷つけていることがあったと思います。現在は出血するケースも少なくなってきました。
私から紹介する症例は、右下の親知らずの痛みが主訴で来院された40代の患者さんです(症例1-11-6)。
歯周検査を行ったところ、全体的に出血および歯肉縁下に歯石の沈着があり、また一部には深い歯周ポケットが観察されました。
この患者さんは歯周病に関する自覚がなく、検査結果をお伝えすると非常に驚いておられました。セルフケアを含む治療への積極的な参加を促すためには、チェックシートや口頭での説明だけでは難しいことがあります。マイクロスコープによる画像を使って術前、術後の様子を確認していただきながら、処置を続けました。
その後、セルフケアも充実し、良好な経過をたどり、現在は、歯周病治療はいったん完了となり、これから親知らずの治療へと移行します。
当院に勤めるようになってから知識量がとても増えたことを実感しています。志田院長は厳しいながらも最後まで指導してくださり、自分のスキルアップのためにもありがたいと感じています。また、マイクロスコープを扱える環境をはじめ、最先端の設備の中で業務を行えることにも、日々やりがいを感じています。

■ 症例1 大隝玲美 歯科衛生士

  • [写真] 初診時のパノラマX線写真
    症例1-1 初診時のパノラマX線写真。
  • [写真] 初診時の歯周検査シート
    症例1-2 初診時の歯周検査シート。
  • [写真] 患部を染め出しした後の様子
    症例1-3 患部を染め出しした後の様子。撮影した写真は処置後の説明に有用。
  • [写真] マイクロスコープ拡大視野下で染まった部位を確認
    症例1-4 マイクロスコープ拡大視野下で染まった部位を確認。
  • [写真] 微細な部位に付着しているプラーク
    症例1-5 微細な部位に付着しているプラークまで徹底除去。
  • [写真] 1ヵ月後の歯周検査シート
    症例1-6 1ヵ月後の歯周検査シート。プラーク付着率、出血率ともに初診時より低下したことが判る。
<荒川彩乃 歯科衛生士>

これまで歯周病処置を行う中で縁下歯石の取り残しや経過を的確に追えていないことを痛感する場面が度々ありました。そうした中、志田院長が記録したマイクロスコープの画像を目にするうちに、志田院長と自分が見ている世界は違うことに気がつきました。それがマイクロスコープを使ってみたいと思ったきっかけです。
実際にマイクロスコープを覗いてみると驚きました。「歯肉縁下って見えるんだ」。それが率直な感想であり、一種の感動でもありました。自分では適切に処置していたつもりでも「取り残しがあったかもしれない」とも感じました。
マイクロスコープは処置のプロセスを記録できることもメリットでした。患者さんに「お口のクリーニングを行います」と伝えても、実際にどんな処置をしているのか伝わっていないかもしれないという思いがずっとあったためです。歯肉縁下にどのような歯石があり、それがきちんと除去され、数日後には歯肉の発赤もなくなった。そうした経過を患者さんにお見せできることで、治療に通えばよくなることを理解してもらいやすくなり、実際に最後までしっかり通院してくださる患者さんが増えました。
以下にマイクロスコープの拡大視野下で歯周病処置を行った症例を紹介します(症例2-12-6)。この方は₂₃歯頸部の歯肉退縮が主訴で来院された方で、不良補綴物の歯頸部や歯間部にかなりのプラークが付着していました。SRPとともにTBIを行い、1ヵ月後の歯周検査ではプラーク付着率、出血率ともに低下、歯肉退縮も落ち着き、現在、経過観察中です。
実は、この患者さんはインプラント治療に関心があり、志田院長とはCT画像などを一緒に確認しながら、インプラント治療に関する相談も行いました。私はインプラント治療についてはまだまだ勉強の途中ですが、志田院長からは毎日多くのことを学んでいます。マイクロの件をはじめ、覚えたい、学びたいという要望に応えてくださる環境には、あらためて感謝しています。

■ 症例2 荒川彩乃 歯科衛生士

  • [写真] 初診時のパノラマX線写真
    症例2-1 初診時のパノラマX線写真。
  • [写真] 初診時の口腔内写真
    症例2-2 初診時の口腔内写真。
  • [写真] 初診時の歯周検査シート
    症例2-3 初診時の歯周検査シート。
  • [写真] SRP前の発赤している歯肉の所見
    症例2-4 SRP前の発赤している歯肉の所見。
  • [写真] SRP後、症例2-4と同部位の発赤の改善が見られる歯肉の所見
    症例2-5 SRP後、症例2-4と同部位の発赤の改善が見られる歯肉の所見。
  • [写真] 1ヵ月後の歯周検査シート
    症例2-6 1ヵ月後の歯周検査シート。プラーク付着率、出血率ともに初診時より低下したことが判る。

院内のDX化や「全員参加型診療」について、他のスタッフさんにも伺いました

歯科技工士:金子さん
[写真] アウルデンタルクリニックのスタッフ

さまざまな患者さんの口腔内に関する情報を「TrinityCore」で確認しながら製作を行うため、より精度の高い技工物が製作できていると感じています。また、臨床現場にも立ち会うことがあり、患者さんが求めているものを直接知ることができるので、歯科技工士としてのスキルアップにもつながると、日々感じています。

歯科助手:平井さん

朝の申し送りの際に1日の治療内容を確認しますが、患者さんによっては予定が変更になる場合があります。その際には治療履歴などを確認し、用意する器具を臨機応変に変更できるように準備しています。
志田院長からは時間通りに治療が進められるように準備を怠らないように指導を受けています。そうした流れを作るためにも「TrinityCore」は重宝しています。

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