187号 WINTER 目次を見る
Clinical Report
Tiハニカムメンブレンを用いた骨造成術
キーワード:Tiハニカムメンブレン/骨造成/GBR(Guided Bone Regeneration)
目 次
- ≫ はじめに
- ≫ Tiハニカムメンブレンについて
- ≫ 症例供覧
- ≫ まとめ
はじめに
インプラント治療における最大の目的は歯牙欠損患者の咬合機能と審美の両面の回復である。そのため、理想的にはトップダウントリートメント(補綴主導型インプラント治療)が望ましいとされている。しかしながら、トップダウントリートメントでは骨量として必ずしも十分ではない位置にフィクスチャーを埋入することになるため、骨造成が必要となる症例が少なくないのが現状である。骨造成を行う手法としては、自家骨移植、骨再生誘導療法(Guided
Bone
Regeneration:GBR)、仮骨延長法、矯正的挺出が挙げられるが、その中でも最も汎用性の高い手法はGBRであり、インプラント治療の適応例を増加させるだけでなく、機能的にも審美的にも予知性の高い手術手技であることが多くの文献で示されている1~9)。
近年、Urbanらによるソーセージテクニックにより吸収性メンブレンでも形態の保持がある程度可能となった10、11)。しかしながら、この手法では吸収性メンブレンを用いているため、賦形性に乏しく、意図した形態を付与することが困難である。一方で、チタンメッシュは賦形性において有利ではあるものの、その厚さの観点から賦形が難しく、その結果フラップに過度なテンションがかかりやすいため、メンブレン露出率が高く、露出した部位の造成量の減少が認められたとの報告も示されている12)。また、チタンメッシュはその孔に硬・軟組織が絡みつき、その除去に難渋することも少なくない。
チタン強化型非吸収性メンブレンであるTi
ハニカムメンブレンは厚みが20μmと非常に薄いため、操作性に優れ、意図する三次元的形態に容易に賦形が可能である。また、孔径も20μmと超微細であるため、周囲の硬・軟組織が絡みにくく、メンブレンの除去は非常に容易である。そこで今回、Ti
ハニカムメンブレンの有用性について実際の臨床例とともに報告する。
Tiハニカムメンブレンについて
Ti ハニカムメンブレンはハニカム型フィルター構造を呈しており、生体親和性に優れた純チタン製メンブレンである。膜厚がわずか20μmと非常に薄膜であるため、組織再生のスペースを阻害せず、さらに意図的に形態を付与することが容易であるため、賦形性にも優れている。孔径20μmの超微細な穿通孔が50μm間隔に配置されており、骨形成に重要な血清タンパクやミネラルなど栄養素の透過性を高めるとともに、切開部の一次創傷治癒が得られやすく、さらに軟組織侵入を最小限に防ぐことができる構造となっている13)。その穿通孔はハニカム区画内に配置されているため、メンブレンの強度が維持されており、変形や破断しにくく、また、穿通孔径が微細であるため、硬・軟組織が絡むこともなく、メンブレンの除去が非常に容易である。
症例供覧
前歯部審美領域においてTi
ハニカムメンブレンを用いた骨造成術を施行した症例を供覧する。患者は51歳、男性。当院受診半年前に上顎右側中切歯歯根破折のため、他院にて抜歯術を施行し、その後、インプラント治療を希望して当院に来院した。初診時、破折した上顎右側中切歯の歯冠が両隣在歯とMMA系歯科用接着材料で固定されていた(図1、2)。上顎両側側切歯はやや口蓋側に転位していたため、MTMを行った後にインプラント治療を行う方針とした(図3)。
術前のCT画像にて上顎右側中切歯部唇側歯槽骨は吸収しており、上顎右側側切歯との間の歯槽頂部の骨まで吸収していたため、骨移植材とメンブレンを設置するだけでは骨移植材の安定が得られないと判断し、チタンフレーム付き非吸収性メンブレンをチタン製ピンで固定する方針を立案した(図4)。また術前シミュレーション上、スクリュー固定が可能なインプラントポジションでは十分な初期固定が得られないことが予想されたため、同時インプラント埋入ではなく、待時埋入を行うこととした(図5)。
1/80000エピネフリン含有2%リドカインの局所麻酔下に縦切開を両側上顎犬歯遠心に、上顎右側中切歯部は歯槽頂よりやや唇側に横切開を入れ、粘膜骨膜弁を剥離、翻転した(図6、7)。唇側の粘膜骨膜弁の骨膜に減張切開を加え、粘膜が十分に進展できるのを確認した後に、隣在歯から1mm離すようにTi
ハニカムメンブレンをトリミングし、三次元的にメンブレンを賦形後、試適を行った(図8)。その後、下顎枝より自家骨をトレフィンバー、マイセル、およびマレットを用いて採取し(図9~12)、骨移植材を受容側に填入する前に、まずは試適したTi
ハニカムメンブレンをチタン製ピンにて口蓋側で固定し、その後、骨移植材を填入した(図13、14)。最後に唇側にチタン製ピンを槌打してメンブレン固定を行い、その間隙に骨移植材を追加填入した(図15)。本症例ではメンブレンの固定のため、チタン製ピンを口蓋側に1本、唇側に2本用いた。Ti
ハニカムメンブレンは強化フレームが付与されているタイプの場合、術後もその形態を維持でき、さらに術後の外圧にも抵抗できるため、骨移植材の術後吸収も少なく、非吸収性メンブレンを用いて固定する場合よりも強固な固定を必要としない。そのため、使用するチタン製ピンも最小限に抑えることができるという利点もある。また、固定後に唇側のピンとピンの間隙から骨移植材を追加填入し、メンブレン辺縁を骨面に圧接させ、メンブレン内に死腔ができないようにすることも重要なポイントであると考えている。
メンブレンの固定後は、感染防止、創裂開させないための縫合が重要である。そのためにはフラップのraw
surface同士が接触(raw-to-raw)するように配慮すべきである。確実にraw-to-rawにするために粘膜内部の組織炎症が少なく、生体適合性に優れたePTFE製モノフィラメント縫合糸14)を用いて水平マットレス縫合を行い、その後、ナイロン糸を用いて創縁の単純縫合を行った(図16、17)。水平マットレス縫合に用いるモノフィラメント縫合糸は、滑らかかつしなやかであるため、男結び(square
knot)を行った際にタイトに締まっていなくても、そのまま縫合糸の両端を引っ張ること(後締め操作)で、タイトに結紮することができる。そのため、第二結紮で容易にタイトな結紮が可能であり、その際にフラップを定位まで引き上げて、その後、解けにくいようにするための第三結紮を追加する。その結果、創縁をテンションフリーで単純縫合を行うことが可能となる。
術後の創裂開はなく、術後10ヵ月のCT画像にて上顎右側中切歯部唇側に十分な厚みの硬組織が認められたため、メンブレンの除去と同時にインプラント埋入術を施行した。メンブレンの除去は容易で、メンブレン下に十分な骨組織の造成が認められた(図18~20)。
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