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Interview

歯科医院で取り組む全身の健康管理と栄養指導の重要性

大阪市中央区 医療法人双幸会 ツインデンタルクリニック 理事長 呉 沢哲

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  • [写真] 大阪市中央区 医療法人双幸会 ツインデンタルクリニック 理事長 呉 沢哲
    大阪市中央区
    医療法人双幸会 ツインデンタルクリニック
    理事長 呉 沢哲

2007年から始めた訪問歯科診療を通して、介護というのは終着点が見えず、介護者であるご家族の負担や不安が非常に大きいことに気づきました。義歯やクラスプの破損など、急を要する対応が度々起こるにも関わらず、訪問診療の頻度は月に一度、多くても2週間に一度が限界で、思うように治療が進まず、不安を募らせている被介護者やご家族も少なくありません。介護に携わる歯科医療従事者として、その問題に対峙するだけでなく、そもそもそうした問題が起こらないよう健康啓発を行っていく必要性を感じ、以来、口腔と全身の健康をサポートする「健康増進型歯科医院」を提唱するようになりました。
全身の健康管理を歯科医院が担えると考えた理由は、歯科医院は子どもから高齢者まで、あらゆる世代の患者さんが定期的に通院する医療機関であるからです。歯科医院で保健指導を行うことで、患者さんとの信頼関係を強化し、定期歯科受診率の向上と歯科医院経営の安定を図ることができます。そして、保健指導を行う歯科医院が増えれば、歯科は公衆衛生的な役割を担えると考えています。
歯科には、定期健診やSPTのため、患者さんが定期的に来院される仕組みができています。それは、定期健診のたびに健康啓発ができるチャンスが巡ってくることを意味します。歯科医院は施設数も多く、それぞれの歯科医院が健康増進型としての特徴を取り入れていくことで公衆衛生分野の役割が担えるとの想いから「POPS研究会」という研究会も主宰しています。
健康増進型歯科医院の取り組みの一つとして、「歯を守る栄養」があります。最近、歯質強化や歯周病予防に効果のある、さまざまな栄養素があることが報告されています。当院の保健指導は導入部分で、初診の患者さんに、歯科医師や歯科衛生士から「歯を守る栄養」について簡単に説明して、歯磨きと併せて、歯を守るための食習慣の重要性を説明します。そして、2回目の診療時に、管理栄養士が「歯を守る栄養」と併せて、生活習慣のヒアリングを行います。そして、その内容に基づく保健指導(栄養・咀嚼・運動)を資料にまとめ、3回目の診療時に無料で提供。その後、患者さん自身に、管理栄養士による保健指導(自費)に進むかどうかを決めてもらいます。

  • [写真] 2006年開業のツインデンタルクリニック
    2006年開業のツインデンタルクリニック。高層ビルの21階にあり、大阪城公園が一望できる。
  • [写真] 待合室
    待合室には「健口・健康本の貸し出しコーナー」があり、呉先生オススメの書籍を無料で貸し出している。
  • [写真] 症例検討会の様子
    月に一度、歯科医師、歯科衛生士、管理栄養士が集まり「症例検討会」を開催し、口腔管理や指導内容についての情報共有を行っている。

[写真] 呉 沢哲 理事長 さらに、2013年に体組成計も導入しました。体組成計は、服を着たままの簡単な測定で、体重や体脂肪、筋肉量、脂肪量など、体の情報を客観的な数値で明らかにすることができるもの。データを“見える化”すれば、健康管理への意識も自然と高まり、それをきっかけに生活習慣を見直そうとする患者さんも増えてきます。なりたい自分が顕在化すれば定期的な測定が楽しみになり、結果として受診率も向上します。
近年の研究では、かかりつけ歯科医師を持つ高齢者の方が、「要介護認定を受ける率が低い」「生活自立度が高い」など、健康寿命を長く維持していることも明らかになってきています。ですから、健康増進型歯科医院の歯科医師は、フレイル予防や健康長寿の実現といった患者さんそれぞれの目標を明確に定めた上で定期健診の継続を促していく必要があり、また、歯科衛生士や管理栄養士も、全身と口腔の繋がりを理解して、さまざまな処置や保健指導を行っていくべきだと考えています。さらに、歯科医師、歯科衛生士、管理栄養士がそれぞれの分野を横断的に理解し、個々の患者さんのデータを共有する必要があります。そのため、この3つの専門職が集まり、月に一度、症例検討会を開き、口腔内の管理や保健指導の内容について全員で検討する機会を設けています。
健康増進型歯科医院の実現は、スタッフの意識改革や環境の整備も必要であり、一朝一夕にできることではありませんが、関心をお持ちの先生は、患者さんへの健康啓発に説得力を持たせるためにも、まずは自らの健康増進活動から始めてみてはいかがでしょうか。

呉先生のお話はDENTAL PLAZA「高齢者歯科」でもご覧いただけます。

お二人の管理栄養士さんにお話を伺いました

<髙田なつかさん>
[写真] 管理栄養士の髙田なつかさん(左)と千堂涼花さん
管理栄養士の髙田なつかさん(左)と千堂涼花さん

現在は歯科助手として働きながら、ご希望の患者さんに対して保健指導を行っています。保健指導のやりがいは、自分たちの指導をきっかけに、患者さんの意識や行動が良い方向に変わること。自らの知識や経験をもとに、目の前の人に寄り添いながらその生活習慣を変えていくという仕事はとてもやりがいが大きく、管理栄養士としての新しい働き方だと感じています。こうした働き方について母校で講義をする予定があり、保健指導も含めた日々の仕事の内容ややりがいなどの話を通して、歯科医院が管理栄養士の就職先の一つであることを伝え、後輩たちの将来の選択に役立てたらと思っています。

<千堂涼花さん>

以前から、管理栄養士の資格を活かして生活習慣病やフレイル予防につながる仕事がしたいと考え、健康増進型歯科医院を提唱している当院に転職しました。患者さんへの保健指導は、体組成計での測定などを通して接点を持つことからスタートし、そこから食事や運動の重要性を伝え、具体的な行動へと移してもらうアプローチを続けていくというのが基本の形です。最近では、ホームページなどで事前に調べ、管理栄養士の保健指導を目的に当院を選んでくださる患者さんも増えてきて、私たちも手応えを感じています。健康への興味や悩みは程度の差こそあれ誰にでもあるものですから、それを上手に引き出しながら生活習慣の改善につなげ、歯科から発信する健康管理を広めていけたらと思っています。

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