187号 WINTER 目次を見る
Clinical Report
修復治療のマイクロリーケージを回避するために
キーワード:術後疼痛/適切な材料選択と術式/低重合収縮と硬化深度
目 次
- ≫ はじめに
- ≫ バルクベース®ハードⅡ
- ≫ バルクベースライナー®Ⅱ
- ≫ 症例報告
- ≫ おわりに
はじめに
修復治療後に生じるトラブルのひとつに術後疼痛があるが、その原因は診断ミスと術後のマイクロリーケージによる細菌感染があげられる。診断ミスとは本来、歯髄保存不可能な症例を保存可能と診断し修復治療を行うことで、臨床症状の無い細菌感染や壊死が存在する歯髄に急性症状が生じる現象である。これは、術前の歯髄診断とう蝕除去を適切に行うことで回避できる。術後のマイクロリーケージによる細菌感染は、修復材料と象牙質の界面に細菌感染可能な間隙が存在することにより生じ、これは、材料の選択と術式を適切に行うことで避けられる。
バルクベース®ハードⅡ
長年愛用していたフロアブルレジンでありながら裏層材としても使用できる低重合収縮レジン「バルクベースハード」が「バルクベースハードⅡ」としてリニュ-アルされた。
「バルクベース ハード」の特長を踏襲し、LPSモノマー(Low Polymerization Shrinkage
Monomer)による低い重合収縮率と高い硬化深度を実現しながら、「マルチ」と「ブルー」の2色展開かつ各色3種類のフロー性(ローフロー、ミディアムフロー、ハイフロー)が準備された。さらに「マルチ」は、様々な歯冠色に色調が合うよう設計されており、従来通り表層充填にも使用できる便利な特長を有している。
バルクベースライナー®Ⅱ
ボンディング材である「バルクベースライナーⅡ」は、「ライナーリキッド」と「ブースターブラシ」から構成されている。「ライナーリキッド」には、新たに三井化学が開発した「High-PAモノマー」を配合することで接着強さの向上が図られ、「ライナーリキッド」のみでも光重合で使用することができる。「ブースターブラシ」には、BioactiveMonomerが配合され再石灰化作用によるハイドロキシアパタイト様結晶の生成が期待できる。さらに「ブースターブラシ」併用の場合は、バイオアクティブ性に加え、デュアルキュア性も発揮し「ライナーリキッド」のみ使用した時よりも接着強さが向上する。
今回は、「バルクベースハードⅡ」を用いて裏層を行ったインレー修復の症例を通じて、深在性う蝕を認める症例において筆者が術後疼痛を起こさないために日常臨床で気をつけていることを紹介したい。
症例報告
患者は43歳女性。主訴は「う蝕があれば治療したい」であり、臨床症状はない。X線写真、口腔内写真から、4遠心に深在性う蝕を認めたため、再修復治療が必要と判断した(図1~3)。
図1 43歳女性。4遠心のCR修復が黒く変色している。臨床症状は無い。-
図2 X線写真において、4遠心に透過像を認める。2次う蝕により再治療が必要と診断。 -
図3 古い充填物を除去した後の状態。遠心にう蝕を認める。
①診断
歯髄壊死の可能性を調べるために歯髄の診断を行う。術前の臨床症状は無く、Cold test(冷温診)に反応を示したため、健全歯髄の可能性が高いと診断した。
筆者の経験では、修復治療の術前にCold testに反応を示さず、臨床症状が無いにもかかわらず健全歯髄と診断できない症例が一定の割合で存在する。歯髄の診断にはCold
testやEPT(電気歯髄診)を用いるが、検査結果をそのまま治療方針としてはいけない。それぞれ感度・特異度があるため、偽陽性、偽陰性が一定の割合で存在する。検査前にその可能性を考慮することで「正しく診断する確率」を高めることができる1)。
②う蝕除去
う蝕第1層をしっかりと除去する。筆者は硬さを基準にスプーンエキスカベーターを用いて、力を入れなくてもボロボロと除去が可能なう蝕は、完全に除去している。
このステップで露髄するようであれば、その症例はう窩と歯髄が交通しているのであり、歯髄壊死が生じている可能性が高い。
このような症例に露髄が怖いからといってう蝕を残しすぎると、歯髄壊死が発症しているケースに修復治療を行うことで結果として術後疼痛が生じることもある。
この症例ではエナメル象牙境のう蝕を等速コントラに装着したラウンドバーにて、注水下で徹底的にう蝕除去を行った(図4)。
次に歯髄に近接した部位はスプーンエキスカベーターで徹底的にう蝕除去を行ったが露髄はしなかった(図5)。
図4 等速コントラに装着したラウンドバーでう蝕除去を行う。-
図5 う蝕除去後の状態。う窩が深く歯髄に近接している。間接修復を行うため、裏層を行う。
図6 「バルクベースライナー®Ⅱ」は「ライナーリキッドTM」に「ブースターブラシTM」を併用 した。
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