186号 AUTUMN 目次を見る
Clinical Report
BioMTAセメントを用いた歯髄保存
キーワード:BioMTAセメント/マイクロスコープを用いた歯髄観察/歯髄保存のステップ/Vital Pulp Therapy
目 次
はじめに
近年、歯髄保存に関する興味が世界中で高まっており、PubMedでVital Pulp Therapyというキーワードを検索すると、1990年代 2000年代までの年間論文数が約10件であるのに対し、2010年からは右肩上がりになり、2021年は123件にもなる(2023年4月1日時点)。その数、約10倍である。
このような背景もあり、2019年に欧州歯内療法学会(European Society of Endodontology)が1)、2021年に米国歯内療法学会(American Association of Endodontists)が2) それぞれポジションペーパーを発表しており、今わかっていることがまとめられている。内容として、多くの注目すべき項目があるが、そのひとつにカルシウムシリケートセメント(Calcium-Silicate Cements)の応用がある。
カルシウムシリケートセメントという用語になじみが無い方も多いかもしれないが、いわゆるMTAと言えばご存知の先生も多いだろう。
MTAは歯髄保存に有効なセメントとして長く使用されてきたが、近年、MTAと似た成分の様々な製品が発売されている。
これらのセメントの多くはカルシウムシリケートが主成分として含有されていることから、現在では総称としてカルシウムシリケートという用語が使われている。
ここでは筆者が臨床で主に用いているカルシウムシリケートセメントのひとつである、BioMTAセメントを用いた症例を報告し、臨床で気をつけているポイントについても述べたい。
診査・診断
患者は30歳女性、主訴は 6の強い冷水痛と咬合痛であった。口腔内診査では、冷水を含むと約30秒程度の痛み、打診痛を認めた(図1)。X線写真では、う窩を認めなかった(図2)。冷温度診(以下、Cold test)に反応を認めた。
マイクロスコープを用い、強拡大視野下で観察すると、口蓋側から遠心にかけて、連続したクラックを認めた(図3)。クラックが歯髄腔まで到達し、マイクロリーケージ(微小漏洩)による歯髄炎が生じていると診断した。
打診痛があるものの、Cold testに反応すること、う蝕による歯髄炎ではなく、クラックによる歯髄炎であるため、歯髄壊死が冠部歯髄に限局している可能性が高いと診断した。
ただし、歯髄をマイクロスコープで観察してはじめて最終的な診断が可能なため、仮の診断とする。
図1 30歳女性。6の咬合痛、冷水痛が主訴。Cold test+。う窩を認めない。-
図2 X線写真においてもう窩を認めない。 -
図3 マイクロスコープで遠心口蓋咬頭の裂溝にクラックを認め、クラックが痛みの原因と診断。
治療方針
打診痛があるため、一般的には不可逆性歯髄炎と診断し、抜髄が行われるが、近年では冠部歯髄のみ除去し、根部歯髄を保存する歯頸部断髄(全部断髄)という方法が行われるようになっている。
この症例でも、クラックが歯髄まで到達しており露髄した場合、クラックを完全除去した後、マイクロスコープで歯髄の状態を観察し、保存可能であれば歯頸部断髄を行い、保存不可能と判断した場合は根管治療を行う。
治療の実際
①クラックの除去、冠部歯髄の除去
浸潤麻酔を行い、ラバーダム防湿下で治療を行った。クラックの除去を進めると、歯髄腔まで到達しており、最終的には口蓋根の根管口部まで削除することになった(図4~8)。それにともない、冠部歯髄を完全に除去した。クラックの除去、冠部歯髄の除去はダイヤモンドバーを5倍速コントラアングルに装着し、注水下で行った。
筆者は臨床症状のある症例では、クラックをすべて除去している。なぜなら、このような症例のクラックには細菌感染が存在していることが報告されており3)、これを残すことで、将来ふたたび細菌が増殖し、歯髄壊死を起こすリスクがあるからである。
図4 マイクロスコープ視野下でクラックの除去を進める。-
図5 クラックの除去を進めると、露髄した。 -
図6 露髄してもまだクラックを認めるため、さらにクラックの除去を進める。 -
図7 クラックが口蓋根根管口に到達している。 -
図8 根管口部に達するクラックと冠部歯髄の除去を行った。
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