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Clinical Report

CAD/CAMハイブリッドレジン修復の臨床-スーパーボンド® EXの臨床的メリット-

愛知県名古屋市 わしの歯科クリニック 鷲野 崇

キーワード:CAD/CAM冠脱離/スーパーボンドによるCAD/CAM冠接着

目 次

はじめに

2014年より、小臼歯の全部被覆冠としてCAD/CAMシステムにより作製されたハイブリッドレジン製のクラウン(以下CAD/CAM冠と記載)が国民健康保険に適用され、それ以降適用範囲は拡がってきている。
保険でも臼歯に「メタルフリーの被せもの」が選択できることは、多くの患者の審美的要求に応えるだけでなく、価格変動の大きい貴金属の使用を抑制でき、金属アレルギーの患者にも対応できることから、患者と歯科医師双方にとって有益である。
しかし、小臼歯に適応されたCAD/CAM冠の予後調査によると、装着してから早期(6ヵ月以内)に脱離のトラブルが非常に多い1)ことが解る。
また、Egusaらは東北大学病院および研究協力施設の歯科医院1施設においてCAD/CAM冠を装着した大臼歯を対象に予後調査を実施し、362本のうち106本(29.3%)に臨床的トラブルが発生していることを報告している。
特に注目すべきはトラブルの内容で、大臼歯へのCAD/CAM冠であればかなりの頻度で起こりそうな破折はほとんど生じておらず(4.7%)、トラブルの多くが小臼歯と同じく冠の脱離であった(74.5%)2)
治療技術として歴史の浅い CAD/CAM冠が、今後有用な医療技術として定着するためには、より多くの症例を蓄積するとともに適応症や術式を科学的に検証し、トラブルのリスク因子を明らかにする必要がある。
本稿では主にスーパーボンド® EX(図1)を用いてCAD/CAM冠の装着を行っている筆者の臨床例を基に考察を述べたい。

  • [写真] スーパーボンド® EXユニバーサルセット
    図1 2021年10月に発売されたスーパーボンド® EXユニバーサルセット

スーパーボンドによるCAD/CAM冠の接着

スーパーボンドは発売以来、40年を超える実績と信頼を積み重ねてきた日本が世界に誇る歯科用接着材料であり、コンポジット系レジンセメントとは異なる特徴を有し、CAD/CAM冠の装着における利点が大きいと実感している。下記4つの観点から考察を述べたい。

①分子量が小さくマトリックスレジン と接着しやすい

CAD/CAM冠の材料であるハイブリッドレジンブロックは、高温・高圧下であらかじめ高度に重合処理されており、耐摩耗性、耐変色性および耐着色性において従来のコンポジットレジンに比べて優れている。
しかしながらハイブリッドレジンブロックはその高い物性と引き換えに接着困難な材料となった1)
さらに金属冠に比べ曲げ強度と曲げ弾性率が低いことから、咬合によって応力がかかるとクリアランスの薄い歯頸部でたわみ、セメントが応力に追従できず剥離し、脱離の原因になると考えられている。
スーパーボンドのモノマーであるMMAは分子量が小さく濡れが良いため、微細な間隙にも入り込むことができ、CAD/CAM冠のマトリックスレジンとの接着に優れている3)
実際の使用に関しても、液状からゆるい泥状へと変化していくことにより、冠内面に対する濡れが非常に良好であり、接着面積および分子間相互作用が増大し、どのブロックに対しても安定した接着強さを発揮すると考えられる。
また次の特徴である「しなやかな物性」により、冠のたわみに追従することからセメント界面に応力が集中されず、脱離のリスクを軽減できると思う。

②しなやかな物性が衝撃を吸収し、破折リスクを低減できる

スーパーボンドの硬化体はMMAが線状に重合したもので、顔料やX線造影剤以外の無機質フィラーを含まない柔軟性と靱性を併せ持ったレジンセメントとして、無機質フィラーを含有したコンポジット系レジンセメント(以下、CR系レジンセメント)とは一線を画しているとも言える。
そのため、過去にはハイブリッドレジンCAD/CAM冠のみならず、二ケイ酸リチウムセラミックス修復の装着などでも「スーパーボンドはフィラーが入っていないからダメ」「脆性補綴物には硬いセメントの方が良い」と聞くことがあったが、これは現在では正しくないとされている。
現在では二ケイ酸リチウムセラミックスやハイブリッドレジンに対して、むしろスーパーボンドのしなやかな物性が衝撃を吸収し、補綴物の破折リスクを低減できると考えられている。

③高湿度環境下でも安定した接着強さを発揮できる

スーパーボンドは水分の排除が難しい症例でも安定した接着強さを発揮できる。
一般的にCR系レジンセメントに使われるレドックス触媒は、水分の接着阻害影響を受けやすく4)、口腔内は呼気により相対湿度が90%以上にまで達する5~8)とされており、これも同様に接着を阻害するリスクになり得る。
その一方、スーパーボンドのキャタリストVに含まれる重合開始剤TBBは、微量の水分が存在する方が、重合速度が大きくなるという特徴がある9)
つまり、TBBは湿った象牙質の接着界面から優先的に重合反応が進むため、支台歯とレジンセメントとの間の剥離が起こりにくいと言える10)
筆者が行った実験でも、高湿度環境においてスーパーボンドが良好な象牙質接着能を発揮していることを確認した11)図2)。
クラウン修復では、装着時にラバーダム防湿を行うことが困難であり且つマージンを歯肉縁下に設定せざるを得ないこともあり、歯肉溝浸出液による接着阻害も起こり得る。
そのため、完全な水分の排除を達成することが難しいCAD/CAM冠装着において、水分に強いというスーパーボンドの特徴は大きな利点となる。

  • [図] 接着強さ
    図2 スーパーボンドは実臨床に近い高湿度環境下でも、象牙質に対して安定した接着強さを発揮する。

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