186号 AUTUMN 目次を見る
キーワード:非吸収性メンブレンを用いたGBR法/メンブレン固定のポイント
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はじめに
歯周病や根尖病変、歯根破折など、骨吸収のある歯を抜歯しインプラント治療を行う場合、多くのケースで硬組織の造成処置が必要になる。特に周囲の骨壁が失われている場合や垂直的骨造成が必要な場合は、長期間スペースを確保できる非吸収性メンブレンを用いたGBR法が適応となる1、2)。
Tiハニカムメンブレンは20μmの厚さのチタン性メンブレンであり、穿通孔のない無加工部がハニカム状に配置されているため、薄い割に十分な強度がある。
中央に配置されたフレームだけでなく膜自体も賦形することができ、高い賦形性と形態維持力を有している。また、インプラントを長期的に安定させるためには、硬組織だけでなく軟組織の厚みも必要である3)。
Tiハニカムメンブレンは軟組織が絡まないため、メンブレンの除去が容易なだけでなく、造成骨上の軟組織を温存できることもメリットであると感じている。
今回、歯槽骨が吸収した歯を抜歯後、Tiハニカムメンブレンを用いてGBRを行った症例を報告する。
症例
患者は69歳女性、右下の歯の疼痛を主訴に来院された。76に打診痛、根尖部圧痛を認め、デンタルX線とCTを撮影したところ7は歯根を取り囲むような透過像、6には根分岐部と根尖部に透過像を認めた(図1)。保存を試みたが、7は根尖まで到達する深い歯周ポケットがあり、根管治療、歯周治療を行っても改善しなかった。また6は近遠心根とも骨縁下まで軟化象牙質を認めた。このことから両歯とも保存不可能と診断し、抜歯してインプラント治療を行うことで患者の同意を得た。
抜歯後8週でCTを撮影したところ、水平・垂直的なGBRが必要と判断し、Tiハニカムメンブレンを用いてGBRを行ったのちに76に2本のインプラントを埋入する計画を立案した(図2)。
Tiハニカムメンブレンはフレーム付きのMサイズを、長辺を近遠心方向に位置付けて使用した。埋入予定インプラントのショルダー部分から頰舌側に2mmの位置でフレームをベンディングして、死腔がないように骨移植材を填入した(図3~5)。
メンブレンを頰舌側ともピンで固定し、メンブレンの端が骨に密着するように微調整した。メンブレンの固定が不十分であったり辺縁が浮いていたりすると、造成量が減少するだけでなく創の裂開にも繋がるため、このステップはTiハニカムメンブレンを使用する際に非常に重要であると考えている4)。
メンブレンの処理後、頰舌側のフラップをUrbanが提唱する減張切開の方法5)を用いて十分に減張し、垂直マットレス縫合と単純縫合で閉創した。翌日には軟組織の良好な治癒が確認でき、治癒期間において裂開等の合併症はなかった(図6)。
7ヵ月の治癒期間の後にインプラントの埋入手術を行った。メンブレンの下には一層の軟組織が存在し、慎重に剥離すると十分な硬組織が造成されていた(図7~9)。
垂直的な骨造成後は経年的に1~2mm程度の骨吸収が起こるとされているため6)、通常より深くフィクスチャーを埋入した。インプラント埋入後、メンブレン直下に存在した軟組織をインプラントショルダーに巻き付けるように吸収性縫合糸で縫合し、インプラント上の角化組織を頰側に移動して一回法で手術を終えた(図10、11)。オステルビーコンを用いてISQ値を確認後(6:78、7:83)、プロビジョナルレストレーションを装着して経過観察を行い最終補綴へ移行した(図12)
図1 76の術前CT画像。7は根尖を含む透過像、6は根分岐部と根尖に透過像を認める。(朝日レントゲン工業株式会社 SOLIO XZ MAXIMにて撮影)-
図2 抜歯後8週のCT画像。シミュレーションの結果、インプラント周囲に水平垂直的な骨造成が必要と判断した。 -
図3 歯槽骨は水平、垂直的に吸収しており、インプラント埋入にはGBRが必要であった。 -
図4 埋入予定のインプラントショルダー部から頰舌的に2mmの位置を基準にフレームをベンディングした。 -
図5 天然歯歯槽骨の高さを基準としTiハニカムメンブレンを位置付けた。頰舌側をチタンピンで固定し、辺縁が骨に密着するよう調整した。
図6 GBR後20時間経過時の状態。十分な減張切開を行うことによりテンションフリーで縫合することができたため、良好な軟組織の治癒が得られた。-
図7 GBR後7ヵ月メンブレン下に薄い軟組織が存在した。メンブレンの除去は非常に容易であった。 -
図8 メンブレン下の軟組織を慎重に剥離すると硬く成熟した骨様組織を認めた。 -
図9 メンブレン下の軟組織。 -
図10 インプラントをやや深めに埋入し、吸収性縫合糸でメンブレン下に存在した軟組織を縫合し、角化粘膜根尖側に位置付け一回法で手術を終えた。 -
図11 インプラント埋入後のCT画像。頰舌側に2mm以上の硬組織を獲得できた。左:7 右:6 -
図12 最終補綴装置装着時。
まとめ
GBRにTiハニカムメンブレンを用いたことで、十分な硬組織造成を行うことができた。
その結果、天然歯と調和の取れた、清掃性の良好なインプラント治療を行うことができたと考えている。
- 1) Alexandra B. Plonka, Istvan A Urban, How-Lay Wang, Decision tree for vertical ridge augmentation. Int J Periodontics Restorative Dent.2018 Mar/Apr;38(2):269-275.
- 2) Craig M. Misch, Hussein Basma, Maggie A. Misch-Haring, How-Lay Wang, An updated Decision tree for vertical bone augmentation. Int J Periodontics Restoratives Dent. 2021 Jan-Feb;41(1):11-21.
- 3) Tomas Linkevicius, Peteris Apse, Simonas Grybauskas, Algirdas Puisys, The influence of soft tissue thickness on crestal bone change around implants : a 1-year prospective controlled clinical trial.Int J Oral Maxillofacial Implants.2009 Jul-Aug;24(4):712-9.
- 4) 萩原誠 Tiハニカムメンブレンを使用して硬軟組織造成を行った前歯部インプラント症例. モリタ デンタルマガジン 2022 summer vol.181.
- 5) Istvan A. Urban, Alberto Monje, Jaime Lozada, How-Lay Wang, Principles for vertical ridge augmentation in the atrophic posterior mandile : A technique review.Int J Periodontics Restorative Dent.2017 Sep/Oct;37(5):639-645.
- 6) Massimo Simion, Sascha A. Javanovic, Carlo Tinti, Stefano Parma Benfenati,Long-term evaluation of osseointegrated implants inserted at the time or after vertical ridge augmentation. A retrospective study on 123 implants with 1-5year follow-up Clin Oral Implants Res. 2001 Feb;12(1):35-45.
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