186号 AUTUMN 目次を見る
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歯科に期待される閉塞性睡眠時無呼吸のスクリーニングと治療成功に導くコミュニケーションのポイント
目 次
- ≫ 日本人に多い閉塞性睡眠時無呼吸
- ≫ きっかけは経済損失額の報道
- ≫ 実はスクリーニングの機会が多い歯科
- ≫ OSAの検査、診断、治療
- ≫ 医科歯科連携が不十分な日本
- ≫ コミュニケーションが治療の鍵に
- ≫ 人生をダイレクトに改善する睡眠歯科
- ≫ [Column] 患者さんを治療へと導くコミュニケーション
東京都渋谷区
DENTISTRY TOKYO SINCE 1925 MIYACHI SHIKA
-
歯科医師
宮地 舞 -
ブランドディレクター
宮地 理津子
カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)で口腔顔面痛・睡眠歯科医学を学んだ宮地舞先生は、閉塞性睡眠時無呼吸の治療を積極的に行っています。日本人の約5人に1人が有病とされているものの、8~9割が未診断と言われる睡眠関連呼吸障害群について、歯科が担う役割、治療成功へと導くコミュニケーションのポイントなどを伺いました。
日本人に多い閉塞性睡眠時無呼吸
人はなぜ眠るのでしょうか。実は、その理由の大部分は未だ解明されていません。ただ、質の良い睡眠が質の良い暮らしをもたらすことは疑いようのない事実です。しかし、世界各国で近年問題となっているのが睡眠障害です。
睡眠障害とは不眠症や過眠症といった睡眠に関する疾患群の総称です。中でも睡眠時の呼吸異常が特徴である「睡眠関連呼吸障害(SRBD)」は睡眠の質を低下させることが知られています。SRBDは解剖学的な原因などで気道が閉塞する閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)と脳の呼吸中枢の障害に起因する中枢性睡眠時無呼吸(CSA)などに分けられます(図2)。OSAとCSAを総称して睡眠時無呼吸症候群(SAS)と呼ぶこともあり、SAS患者の大多数がOSAです。
世界と比較して日本人のSRBD有病者数は多く、その有病率は約5人に1人といわれています。顔が前後に平坦で、鼻が低く、首が細い日本人は骨格的に気道が狭いことに加え、平均睡眠時間の短さも、その理由として挙げられます(図3)。
着目すべきは日本人の有病者の8~9割が未診断と予想され、その大多数が自覚症状がなく、病気の認識さえもないという点です。SRBDは放置すると生活に支障を来すだけではなく、生命予後にも影響を与えるため、いかに潜在性のSRBD患者をスクリーニングし、早期発見、早期治療につなげられるかが大きな課題となっています。
図1 宮地舞著『歯科医師のための睡眠時無呼吸治療 その基礎知識と口腔内装置治療の実践』(クインテッセンス出版株式会社)-
図2 睡眠障害の分類とSRBDの位置付け(『歯科医師のための睡眠時無呼吸治療 その基礎知識と口腔内装置治療の実践』P15図1-1より引用) -
図3 OSA患者に多く見られる外見的特徴(『歯科医師のための睡眠時無呼吸治療 その基礎知識と口腔内装置治療の実践』P85図6-4aより引用)
きっかけは経済損失額の報道
アメリカは国を挙げて睡眠障害に対する意識が高く、検査制度も充実しています。そのため、OSAの基本症状である「いびき、日中の眠気」を体の不調と捉えて受診する方が多くいます。一方で、日本ではいびきだけで受診する方は多くありません。
アメリカで睡眠障害が注目されるようになったきっかけは報道でした。SRBDに起因する交通事故や労働生産性の低下などによる経済損失額の報告が話題になったのです。米国睡眠医学会の2015年の統計によると、その額は約1,496億ドル(日本円で約16兆円)にものぼります。
OSAはいびき、日中の過度な眠気、起床時の頭痛などが症状として現れる他、高血圧、糖尿病、心血管疾患、認知症などの発症リスクとしても知られています。保険制度の違いもありますが、アメリカでは病気を未然に防ぐ意識が高く、それが睡眠障害に対する意識の高さにもつながっています。
実はスクリーニングの機会が多い歯科
日本ではあまり知られていませんが、歯科はOSAのスクリーニングを行うチャンスが多い医療機関であり、アメリカではそうした役割に大きな期待が寄せられています。
例えば、歯科は家族で受診しているケースが多いため、自覚症状がなくても家族を通じて患者さんの睡眠時の様子を知ることができます。定期的に来院される方であれば、最近疲れた様子をしている、目の下にクマをつくっているなど、外見的な変化から早期発見につながるケースもあります(図4)。
また、OSAの徴候は口腔内に現れやすく、歯列不正、歯の咬耗、舌の肥大、舌圧痕など、小児の場合は歯列異常、不正咬合(過蓋咬合など)、口蓋扁桃肥大などが見られます(図5)。その他、歯科治療中の注水で頻繁にむせる方や、チェア上でいびきをかいて寝てしまう方も、OSAが疑われます。
歯科と医科で広く利用されているスクリーニングツールの1つにSTOPBangテストがあります。これはもともと海外で開発されたテストで、質問項目の中には「50歳以上か」「男性か」を問うものがあります。しかし、アジア人の場合は若くて痩せている女性もOSAが疑われるケースがあるため、注意が必要です。
図4 潜在性のSRBD(OSA)患者のスクリーニングの流れ(『歯科医師のための睡眠時無呼吸治療 その基礎知識と口腔内装置治療の実践』P83図6-1より引用)-
図5 OSA患者に多く見られる口腔内の症状(『歯科医師のための睡眠時無呼吸治療 その基礎知識と口腔内装置治療の実践』P90図6-7より引用)
OSAの検査、診断、治療
OSAが疑われる場合、一般的に診療情報提供書を作成して医科に患者さんを紹介します。睡眠時無呼吸検査は1泊~数泊入院し、睡眠時の脳波、SpO2(経皮的動脈血酸素飽和度)、いびきの有無などを調べます。最近では自宅で簡易的に行える検査もあります。歯科で睡眠時無呼吸検査を行う場合は、保険適用外となります。
歯科での治療はOSAに対して一般的に下顎前方牽引装置(MAD:Mandibular Advanced Device) 治療を行います(図6)。医科の先生からよく聞かれるのが、「歯科に送ったらナイトガードを作って戻ってきてしまった」という事例です。OSAは睡眠中の上気道の閉塞によって呼吸障害が起こるため、気道の狭窄を防ぐ目的でMAD治療が行われます。同じ口腔内装置でもナイトガードとは目的が異なります。
一方、医科で行われる治療は主に鼻や口に装着したマスクから機械で空気を送り込み、睡眠時の気道を広げるCPAP療法になります。一般的にMAD治療は軽症~中等症のOSAに対して行われますが、中等症~重症、あるいはCPAPの継続使用が困難な患者さんにも有効との報告があり、MADとCPAPを併用するケースもあります。
図6 下顎前方牽引装置(MAD)の写真
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