186号 AUTUMN 目次を見る
Clinical Report
低侵襲インプラント治療の実現のためのショートインプラント―インプラント安定指数(ISQ値)を用いてー
キーワード:低侵襲インプラント治療/インプラント安定指数(ISQ値)/ショートインプラント
目 次
- ≫ 緒言
- ≫ ショートインプラントへの注目
- ≫ インプラント安定指数(ISQ値)
- ≫ 低侵襲インプラント治療実現のためのショートインプラント
- ≫ 症例
- ≫ 考察
緒言
インプラント治療の機能性や長期安定性が高く評価され、欠損補綴のオプションとして確立された現在、次に求められるものは、治療期間の短縮と低侵襲治療と安全性のさらなる追求であることは間違いない。
拡大鏡やマイクロスコープによる精密診療により保存期間が延長したことで、最終的に抜歯に至った際には逆に周囲組織のダメージが大きくなってしまうことも臨床では多く遭遇するようになった。
Thommen Medical 社の「SPIインプラント」のショートインプラントを用い、サイナスリフトなどの大規模な骨造成を極力行うことなく治療期間を大幅に短縮させ、痛みや腫れの少ない低侵襲インプラント治療が可能になった。当院では、長年すべてのインプラント治療においてRFA(共鳴振動周波分析)法を用いインプラント安定指数(ISQ値)を計測している。
今回、インプラント安定指数(ISQ値)を計測しながら従来のインプラントとショートインプラントを比較して、その有用性を報告したい。
ショートインプラントへの注目
近代インプラント治療において、骨吸収が進んだ状況でのショートインプラントの選択は注目されている。しかし、インプラントと上部構造の比率が悪いため長期的な予後を懸念する声も少なくない。
Jonas Lら1) が、14名の患者に対し上顎臼歯部に長さ7mmのインプラントを計30本埋入し、平均荷重期間5年(2~7年 ) の 追 跡 調 査 に て、PPD、BoP、周囲骨レベルの安定に関して考察した。欠損は1本もなく臨床的な問題も生じていなかった。平均PPDは2.5mm、平均BoPは13.3%、マージナルボーンロス(MBL)は0.5mmであり、インプラント周囲炎もなく、硬・軟組織の状態は健全であった。
また、Thoma DSら2)が上顎臼歯部の垂直的骨量5~7mmの条件において、長さ6mmのショートインプラントと上顎洞底挙上術と組み合わせた11~15mmのロングインプラントを比較した研究では、97例の1年後の生存率はどちらも100%だった。
グラフト併用のロングインプラントを使用したほうは、患者が身体的に合併症を感じる時間が長く、治療期間も長く、治療費も高額になるという結果だった(図1)。
図1 ショートインプラントの利点と欠点
インプラント安定指数(ISQ値)
従来インプラントの安定はX線検査や埋入時のトルク値で評価していた。特に骨造成を行ったような症例の場合の評価は非常に難しく、経験に頼るところが大きく信頼にかけることも多かった。近年では、RFA(共鳴振動周波分析)法を用いてインプラント安定指数を簡単に測定し評価することができ、荷重時期の参考にするなど、臨床上大きな役割を担っている。
オステルはプローブから磁気パルスを発信し共振周波数を測定することができるのでインプラントに直接触れることはない(図2)。1~100の間で安定性を評価するので、破折などのトラブルの予見も可能になり、リスクや無駄を回避することができる。
メーカーのインプラント開発研究等にも当たり前に使用されるようになり、前述にもある通り、当グループにおいては全インプラント治療においてISQ値の記録を採っている。
図2 オステル計測方法
低侵襲インプラント治療実現のためのショートインプラント
上顎臼歯部では抜歯後、上顎洞底と歯槽頂の両方向から骨の委縮が起きる。感染による周囲組織の骨吸収はもちろんだが、安定性に欠ける義歯の圧迫によっても委縮は進行し、従来のプロトコールで必要な骨量を確保できないことも多い。
また下顎においても上顎と同様に抜歯後の自然な骨吸収と義歯の圧迫による骨吸収が起きる。そして下顎には下歯槽神経があるため、インプラント治療時におけるプランニングに困惑する場合が多い。
上顎においてはサイナスリフト、下顎においては垂直的骨造成術を行うが、どちらも侵襲が大きく治療期間も長期化し治療費も高額になる。さらに、術者の卓越した技術力と経験による結果の差が大きい。そして何よりもうまくいかなかった場合の代償も大きく患者の信頼を失う可能性もある。
そのような大規模な骨造成を回避する方法としては、意図的に傾斜させてインプラントを埋入し、アバットメントなど中間構造体で上部構造装着時の角度補正を行うという選択肢もあるが、少数歯の中間歯欠損のような限られたスペースの症例において、この方法には限界がある。
ショートインプラントは理想的な位置方向にインプラントをポジショニングしやすく、いわゆるボトムアップ型ではなくトップダウン型のインプラント治療が可能である。
SPIインプラントはセルフタップ型であるため軟らかい骨質や大きな骨欠損がある環境でも安定した初期固定が獲得できる。また、SPIインプラントにはそれぞれのサイズに0.5mm、1.0mm、2.5mmと異なるマシンサーフェスが付与されているので(図3)、インプラント埋入時点で歯肉の厚みに合わせた歯肉貫通部を埋入と同時にデザインすることが可能である(図4)。
トップダウンで正しく埋入されたインプラントにはカスタムアバットメントを用いることなく、歯肉の形状に合わせ理想的なエマージェンスプロファイルを与えた歯肉貫通部の1回法インプラントが可能であり、長期的に上部構造の破損修理や作り直しの際にも、歯肉の浅い部分で確実な操作ができるため高齢者のインプラントメインテナンスにも易しい。
図3 SPIインプラントはMC(0.5mmカラー) RC(1.0mm or 1.5mmカラー)とLC(2.5mmカラー)、MCはカラーを含めた長さ表記。RCとLCはカラーを除いた長さ表記。-
図4 前歯部から臼歯部まで対応できるカラーラインナップ。ストレートとテーパードで骨質にも柔軟に対応。
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