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Seminar Review

口腔疾患からみる歯科と耳鼻咽喉科の連携 一般社団法人 逗葉歯科医師会 令和4年度第3回学術講演会 「歯科と耳鼻咽喉科の連携~口腔がんの早期診断と予防を中心に~」

神奈川県三浦郡葉山町 葉山かどくら耳鼻咽喉科 院長/昭和大学横浜市北部病院 耳鼻咽喉科 客員教授 門倉 義幸

目 次

  • [写真] 神奈川県三浦郡葉山町 葉山かどくら耳鼻咽喉科 院長 昭和大学横浜市北部病院 耳鼻咽喉科 客員教授 門倉 義幸
    神奈川県三浦郡葉山町
    葉山かどくら耳鼻咽喉科 院長
    昭和大学横浜市北部病院 耳鼻咽喉科 客員教授
    門倉 義幸

今年1月、逗葉歯科医師会が主催する学術講演会にて、「葉山かどくら耳鼻咽喉科」の門倉義幸先生が「歯科と耳鼻咽喉科の医科歯科連携」をテーマにした講演を行いました。両科が連携すべき疾患、禁煙指導のポイントなど、当日の様子をレポートします。

舌内に迷入した魚骨の症例

「大学病院の勤務医時代には頭頸部がんの治療前後の口腔ケア、歯性上顎洞炎の治療などで歯科の先生方には大変お世話になりました。特に口腔内についてはたくさんのことを教わりました。今回はあらためて歯科と耳鼻科の連携とはどういうものなのかを考え直す良い機会だと思っています」まずはそう挨拶された門倉先生。この日は逗子、葉山地区で開業されている30名近くの歯科の先生方が参加されました。
さまざまな口腔粘膜疾患のスライドを紹介したあと、舌内に迷入した魚骨異物について次のように話されました。
「魚骨異物で来院する患者さんは意外と多くいます。ウナギなどの小さな骨は見つけにくいので注意が必要です。時には魚骨が舌内に迷入してしまう例もあります。スライドは所見では分からず、CT撮影によって見つかった症例です(図1)。舌内に完全に埋まってしまうと見た目では分かりません。珍しい症例ですが、骨が舌に刺さったという患者さんがいたら、パッと見で大丈夫だろうとは思わずに、念のため、耳鼻科に紹介していただければと思います」。

  • [写真] 魚骨迷入の症例
    図1 魚骨迷入の症例写真(油井健史 他:舌迷入魚骨異物の1例. 耳展64(4):216-220, 2021より)
  • [写真] 小唾液腺腫瘍
    図2 小唾液腺腫瘍には注意が必要
  • [写真] 高度難聴の患者さんの舌がん再発例
    図3 高度難聴の患者さんの舌がん再発例

小唾液腺腫瘍は軟らかい場合も

一般的に悪性腫瘍は触ると硬いイメージがあります。しかし、病変が硬くないからといって、大丈夫だとは限りません。「小唾液腺腫瘍は軟らかい場合もあります(図2)。口蓋腫瘍の約50%は悪性です。ちょっとおかしいなと思ったら、がんを疑うことが大切です(図34)。また、お酒をよく飲む方、喫煙者、がんの既往歴がある方もリスクが高くなるので注意が必要です」。

  • がんを疑う
    図4 がんを疑う

睡眠時無呼吸症候群と歯科の関わり

[写真] 講演風景

近年、積極的に歯科が携わることを求められているのが睡眠時無呼吸症候群(SAS)です。推定2,200万人が発症していると言われ、門倉先生も「本人に自覚がなく、見落とされている人がたくさんいるので、掘り出しが必要」と話します。
「口を開けた時に口蓋垂が見えない方には、『いびきが気になったことはありませんか』と声がけをしてください。最近は保険適用で自宅で簡単に検査が行えるので、『耳鼻科で検査を受けてみたら』とお話していただくと良いかもしれません」。
SASの治療には口腔内装置が有効で、軽症~中等で57~81%、重症で14~61%の有効率という報告があります。「私たちが口腔内を見ても、どの人に有効なのかは分かりません。口腔内装置は歯科の先生方のご協力が必要です」。

鼻うがいの有用性

歯科と耳鼻科で共通する症状の代表に口呼吸、いわゆる「お口ポカン」があります。口呼吸の主な原因は鼻づまりです。鼻づまりになる理由はいくつかありますが、そのうち2人に1人は「アレルギー性鼻炎」に罹患していると言われています。そのアレルギー性鼻炎の症状緩和の効果が期待できるとして、最近、門倉先生も始めたというセルフケアについて紹介されました。
「気持ち良くて自分でもやっているのが鼻うがいです。帰宅した時に手を洗うのと同じように、鼻腔に付着した花粉などの異物を洗い流すことは理にかなっています。医療機関でしか販売できない専用容器と洗浄剤があり、最近では歯科医院でも扱っているところが増えています(図5)。私も患者さんに勧めています。鼻うがいは、鼻の手術をした人は術直後~3ヵ月間実施してもらいます。さらにその後も続けることを推奨している耳鼻科の施設もあります。お口ポカンの方には鼻うがいをお勧めするのもいいかもしれません」。

  • [写真] フロー・サイナスケア
    図5 歯科医院で購入できる鼻うがい「フロー・サイナスケア」

上から目線では禁煙指導は成功しない

[写真] 門倉先生

門倉先生が長年、がん治療を行う中でたどり着いた結論があります。それは「予防につきる」ということ。
「がん治療を続けるほど、看取る場面にも多く直面します。だんだん“予防に力を入れるしかない”という思いが芽生えました。がん患者のほとんどが後天的な原因が問題です。けっして運命などではありません」。
そこで耳鼻科医として着目したのがタバコでした。日本頭頸部癌学会によると、喫煙者の喉頭がんの発生率は吸わない人と比較すると32倍高まるという報告があるほか、喫煙はさまざまながんとの因果関係も明らかにされています(図6)。
「昔は上から目線で患者さんと接していました。『タバコを吸うなら転院して欲しい』と伝えたら、怒って帰る患者さんもいました。当時の私は『一生懸命、治療をしているのに、どうして協力してくれないのだろう』という思いを抱いていました」。
そこで、がんの治療を受けた患者さんを対象に、実際の喫煙状況を調査しました。その結果、2割近くの患者さんが治療後でも喫煙していることが分かりました(図7)。
「これはただ事ではなく、喫煙者を責めてはいけないと思いました。タバコは中毒なんです。容易なことでは止められないことに気がつき、禁煙治療を行うようになりました」。
タバコを吸うと肺からニコチンが取り込まれ、脳内のニコチン性アセチルコリン受容体に結合します。すると大量のドーパミンが放出され、強い快感が得られます。その後、時間の経過とともに、脳内のニコチンとドーパミンが欠乏すると、脳が要求するようになります。「ストレスで吸ってしまうわけではなく、ニコチンの依存症なのです」。

  • [写真]
    図6 頭頸部がんはタバコが原因(甲状腺がんを除く)
    門倉義幸:耳鼻咽喉科疾患.禁煙学第4版,南山堂. 84-86,2019.
  • [写真]
    図7 頭頸部がん診断後の喫煙継続率(昭和大学横浜市北部病院 耳鼻咽喉科の統計より)

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