186号 AUTUMN 目次を見る
Clinical Report
重度インプラント周囲炎に対しEr:YAG Laserを用いた骨再生療法
キーワード:インプラント周囲炎/炎症性肉芽組織に対するデブライドメント/骨再生療法
目 次
- ≫ はじめに
- ≫ Er:YAG Laserの特徴
- ≫ 症例供覧
- ≫ 終わりに
はじめに
近年、インプラント治療は、欠損部の機能・審美の回復にとどまらず、長期的な視点に立つと患者のQOL向上の一役を担っていることに異論はない。しかしながら一方で、2000年台初頭よりインプラント周囲炎という新たな疾患が登場し、その蔓延が、世界的な問題として表面化していることは大きな問題である。それに対し、多くの歯科医師が、その治療法を提案しているが、いまだにコンセンサスを得ておらず、その確立が待たれるところである。
本稿では、他歯科医院にてインプラント治療を受け、数年後に重度のインプラント周囲炎に罹患した症例に対しEr:YAG Laser等を用いて骨再生治療を行い、良好な結果を得た2症例について報告する。
Er:YAG Laserの特徴
インプラント周囲組織の状態に対する評価として、累積的防御療法(Cumulative Interceptive Supportive Therapy:CIST)1)が推奨されている。
今回の2症例は、プロービングデプスが2mm以上、プロービング時の出血(+)、骨吸収が2mm以上のため切除的外科もしくは骨再生療法が適応となる。一方、本症例のような重度のインプラント周囲炎の場合、インプラント体の除去を行い、再度適切な位置にインプラントを埋入することも選択肢の一つではあるが、患者にとっては精神的にも経済的にも多大な負担となり、許容するには相当な覚悟が必要となる。
今回、インプラント周囲炎の再発のリスク等を含めて説明し、患者の合意の上で骨再生療法を行うこととした。骨再生療法を行う際に、最も注意すべきは、骨欠損部の炎症性肉芽組織ならびにインプラント体表面の起炎物質を如何に可及的に除去できるかが、手術の成否を分けるポイントとなる。
今回、デブライドメントに際し、Er:YAG Laserを使用することにしたが、その根拠を考えてみたい。まず、骨欠損部を満たす炎症性肉芽組織に対しては、超音波スケーラーやキュレットを用いて除去を試みる。しかし、骨面やインプラント体表面に強固に付着している組織を完全に除去することは容易ではない。チタンブラシや回転インストルメントは、少なからずインプラント体表面を損傷し、金属片を飛散させる欠点がある。また、複雑なスレッド形態を持つ表面の起炎物質を完全に除去することも困難である。
一方、Er:YAG LaserはCO2レーザーやNd:YAGレーザーに比べ水への吸収性が高く、その微小爆発によりインプラント体表面を傷つけることなく炎症性肉芽組織や起炎物質の除去が可能である。また、360°方向にレーザー照射可能なチップ(R600T)をはじめ、様々な形態のチップの選択肢があり、複雑な形態を有するフィクスチャー表面には、非常に有効と考える。
症例供覧
症例1 患者:48歳 女性
主訴:歯石除去
初診時、6相当部にインプラント治療が施されており(図1)、デンタル写真にてインプラント体の約1/2に及ぶ垂直性骨吸収を認めた(図2)。インプラント体に動揺は認めないが、全周6mm以上のポケットと出血を認めた。
<原因と対応>
デンタル写真にて、最終上部構造が近心にかなりオーバーハングした形態となっており、プラークが停滞しやすく清掃性に問題が認められる。そのため、まず上部構造を外した状態(図3)で全顎の歯周初期治療を行った。
その後も 6インプラント周囲からの出血とポケットデプスに改善を認めないため、骨再生療法による外科的治療を行うこととした。フラップを開くとインプラント体周囲に炎症性肉芽組織を認めたため(図4)、超音波スケーラー、キュレット、Er:YAG Laserを使用し、可及的に掻爬を行った。次に、インプラント体表面の起炎物質の除去を目的に、リン酸三カルシウムによるエア・アブレージョンならびにEr:YAG Laserにてデブライドメントを施行した(図5)。その後、骨移植材を填入しポンチョ状にくり抜いた吸収性膜で覆い縫合し手術を終えた(図6~8)。
約3ヵ月粘膜が正常に治癒するのを待った後、上部構造は清掃性を考慮した形態を模索した。清掃性の悪い上部構造の形態になった、根本的原因であるインプラント体の位置は、変えることはできないため、5との近心コンタクトを故意に開け、プラークの停滞しにくい清掃性の良い形態とした(図9)。
また、患者は歯周炎にて歯牙を喪失した既往がある。歯周炎に罹患した患者は、健康な患者に比べインプラント周囲炎にも罹患しやすいことが、多数報告されている2~4)。そこで、今回、上部構造物を作製する上で、インプラント周囲炎を惹起しにくいスクリューリテイニングの補綴様式を選択した5)。デンタル写真でもインプラント周囲の骨欠損部に骨様組織を認める。
その後、年に4回のメインテナンスを継続し問題なく現在に至る(図10、11)
「症例1」の動画はこちらから
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図1 初診時口腔内写真。プラークコントロールは良好。-
図2 初診時デンタル写真。インプラント体周囲に垂直性骨吸収像を認める。 -
図3 上部構造を外し、初期治療を終えた状態。 -
図4 フラップを開くとインプラント体周囲は炎症性肉芽組織で覆われていた。
図5 まず、炎症性肉芽組織を超音波スケーラー、キュレット、Er:YAG Laserを用いて可及的に除去し、さらにインプラント体表層をエア・アブレージョン、 Er:YAG Laserにてデブライドメント(R600T)。-
図6 骨欠損部に骨移植材を填入。 -
図7 ポンチョ状にくり抜いた吸収性膜で被覆。 -
図8 粘膜弁をナイロン糸でアバットメントにしっかりと縫合した。 -
図9 清掃性を考慮し故意に5とのコンタクトを開けることとした。 -
図10 3年後の口腔内写真。 -
図11 3年後のデンタル写真。
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