187号 WINTER 目次を見る
Clinical Report
低侵襲歯周病治療に対するマイクロスコープ下でのEr:YAGレーザーの有用性
キーワード:Er:YAGレーザー/歯周組織再生/感染源の除去
目 次
- ≫ はじめに
- ≫ マイクロスコープを使用した拡大視野における歯周治療
- ≫ <症例1> 30代女性:歯肉が薄いケースへのSRP
- ≫ <症例2> 60代女性 右上6番:根分岐部病変へ の再生療法
- ≫ <症例3> 60代女性 右下5番頰側:セメント質剥離に伴う骨吸収への再生療法
はじめに
大学病院に勤務していた最後の年である2017年の12月、日本歯周病学会記念大会にて東京医科歯科大学教授・青木
章先生の講演でレーザー治療の歯周病治療に対するアプローチ、特に歯周組織再生に対する可能性を拝聴し、Er:YAGレーザーに大きな興味を持ったことを今でも鮮明に覚えている。
2018年に開業した後もEr:YAGレーザー治療への興味は尽きず、やはり自分でも実際に臨床応用してみたい!という気持ちが強くなりErwin AdvErL
EVOの購入に至った。
私自身歯周病専門医としてそれまでも多くの歯周組織再生治療を行ってきたが、このEr:YAGレーザーの使用によって手術が大きく変わったことを強く実感しており、日常臨床において歯周病治療、特に歯周組織再生療法を行う際には、もはやEr:YAGレーザーは不可欠と考えている。その用途は単なる歯石の除去に留まらず根面のデブライドメントや骨欠損部にある感染性肉芽組織の除去、ハンドスケーラーが到達しにくい幅の狭い前歯歯間部や臼歯部における根分岐部へのアプローチなど多岐にわたる。またレーザーを使用することで容易に血餅の形成が可能であり、歯周組織再生に重要なBlood
Clot Stability1)の確立にも繋がる。さらにLLLT(Low-reactive Level Laser/Light
Therapy)による歯周外科治療時の創傷治癒促進効果や疼痛緩和の効果について期待が高いといくつかの報告もあり2)、術後の患者満足度に繋がるのではないかと考える。
マイクロスコープを使用した拡大視野における歯周治療
歯周病を治癒させるために大切なファクターとして感染源の除去はいうまでもないが、マイクロスコープは拡大視野の確保という観点から確実な感染の除去にとても有用なツールと考えている。また拡大視野を得ることで不必要な侵襲を減らすことができる場合も少なくない。その一方で私自身、開業当初からマイクロスコープでの歯周病治療に努めてきたが、拡大視野ゆえに既存の器具ではなかなかアプローチの難しい部分があることも常々感じていた。そんな痒い所に手の届く器具がまさにEr:YAGレーザーではないかと考える。Erwin
AdvErL
EVOには様々なチップが用意されており、処置部位に対し小さな範囲で限局的に治療することが可能なため、この2つの器具の組み合わせは非常に相性が良いと感じている。
今回、歯周組織再生にレーザーを用いて良好な結果を得た症例を提示し、その有用性を紹介したいと思う。
<症例1>
30代女性:歯肉が薄いケースへのSRP
歯周病治療においてバイオフィルムの除去が根幹であり歯石の除去がその重要な役割を担っているが、Er:YAGレーザーを用いたSRPは従来法と比較して、セメント質の温存がより多くできる上に、正確に歯石を除去することができる利点を持っている5)。またEr:YAGレーザーによるSRPの方が高い細胞付着を示すとの報告が複数されている6~8)。
本ケースは30代とまだ若年者ではあるものの歯周病により全顎的な骨吸収を認めており、また歯肉のフェノタイプも薄く歯肉退縮も顕著である。そのため、歯周基本治療を行う際、特にキュレットなどのハンドインスツルメントの使用は歯肉を傷つけないよう細心の注意が必要である。しかしレーザーであれば小さなチップ先端から出るレーザー光で歯石を除去するため、歯肉の薄い部分、例えば下顎前歯の唇面などにSRPを行う際にもより歯肉に対して愛護的な取り扱いができると考えており、レーザーを使用するメリットは大きいと考えている。実際に患者からも麻酔が切れた後の痛みがほとんど無く良かったという言葉をよくいただく。
このような理由から今回のようなケースではマイクロスコープでの拡大視野の下、Er:YAGレーザーを用いた歯石除去が効果的と考えている。特にErwin AdvErL
EVOでは様々なチップの種類があり、チップの先端のみでなく側方からレーザーが出るチップもあるため、ブラインド下での根面の除菌には大きな期待ができる。
症例1-1 初診時-
症例1-2 初診時デンタル -
症例1-3 角化歯肉幅は薄く、厚みもないため愛護的な処置が必要である。 -
症例1-4 SPT移行後5年経過時デンタル
症例1-5 SPT移行後5年経過時
「症例1」の動画はこちらから
<症例2>
60代女性 右上6番:根分岐部病変への再生療法
初診時の検査で右上6番の近心中央部から口蓋にかけて8mmの歯周ポケットを認めた。デンタルX線写真からも根分岐部病変の疑いが強く再生療法の可否の判断が必要であり、骨吸収の範囲を3次元的に把握するためにもCBCTによる画像検査が非常に有効である。また切開線などのフラップデザインの選択や必要な骨補填材の量などの検討にも役立つと考える。
今回のケースでは頰側根と口蓋根の分岐部が大きく骨吸収していることがCBCTからも分かる。このような場合、分岐部内のデブライドメントはどうしてもブラインド下で行わなければいけない部分が出てくる。ハンドインスツルメントのみでは困難な場合も多いが、ここで有用な器具がEr:YAGレーザーである。歯間乳頭部における骨欠損内の肉芽組織を切離する際にメスで行うと、眼科用のメスなど幅が狭いものを使用したとしても、歯間部が狭く、術野も限られた場合には健康な組織も一緒に切れてしまうリスクがある。そこで一番有用に感じているものがErwin
AdvErL
EVOのPSM600Tである。他のチップと違い先端がメタルでカバーされているので、切離したい部分にピンポイントでレーザー照射が可能であり、マイクロスコープと併用することで狭い術野でも歯間乳頭部歯肉を可及的に温存しながらのアプローチが可能となる。
本ケースでは右上6番近心部におけるルートトランクが短かったため分岐部直上の歯肉への切開は避け、また右上5、6間の頰側半分には骨が残存しているため、通常であれば骨の裏打ちのある部位に切開を入れることが基本ではあるが、右上5、6間の幅が頰側は狭かったので、術後血流不足になるリスクも考慮し口蓋のみの切開で骨欠損部へのアプローチを行った。その際、血流維持のために頰側の歯肉弁の翻転は行わず、歯肉内面の感染性肉芽組織の除去はレーザーで少しずつ行った。
現在術後18ヵ月経過しているが、歯周ポケットは3mm以内と安定した結果を得ることができている。
症例2-1 右上6番近心から口蓋面にかけて深い歯周ポケットあり。-
症例2-2 術前のデンタルX線写真:近心に大きな垂直性骨吸収を認める。 -
症例2-3 アクセスの難しい近心の根分岐部にはレーザーでの歯石除去が有用。 -
症例2-4 デブライドメント後
症例2-5 EMDを塗布し骨補填材を填入。-
症例2-6 吸収性メンブレンの設置 -
症例2-7 術直後デンタルX線写真 -
症例2-8 術後18ヵ月経過時 -
症例2-9 術後18ヵ月経過時 -
症例2-10 術前CBCT:口蓋側近心部に垂直性の骨吸収を認める。近心の根分岐部病変2度。(株式会社ジーシー プロマックス2D/3Dにて撮影) -
症例2-11 術後CBCT:垂直性の骨吸収部は骨様組織で埋まっている。
「症例2」の動画はこちらから
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