187号 WINTER 目次を見る
Technical Report
臨床評価における可動式下顎前方位型口腔内装置の各破損に対する対処法
キーワード:下顎前方位型口腔内装置(MAS)/MASの破損プロセス/MAS製作時の注意点や修理方法
目 次
- ≫ はじめに
- ≫ 対象患者と破損の状態別対処法
- ≫ おわりに
はじめに
長崎大学病院では閉塞型睡眠時無呼吸症候群(以下OSASと略)の患者さんに対し、下顎前方位型口腔内装置(以下MASと略)を用いた歯科的治療を行っている。
当院でのMASは、装着感の向上や装置の簡便さを目指し、上下のスプリントを連結するNKコネクターを用いた可動式のMASを製作している(図1、2)。
NKコネクターを臨床応用してから早くも10年以上が経過し、装着後のMASの状態についても調査を続けてきた。
本稿では、装着後のMASの臨床評価の結果から製作時の注意点や様々な破損の状態に対する修理の方法について紹介する。
図1 上下の連結に用いるNKコネクターⅡ-
図2 NKコネクターを用いた可動式MAS
対象患者と破損の状態別対処法
当院ではOSASと診断され、上下顎それぞれで動揺等もなく固定源として使える6本以上の残存歯を有した患者を対象としてMASを装着している。
臨床評価としては、当院にて2008年6月から2015年5月までの期間にMASを装着し、その後のMASの状態を確認できた男性75名、女性52名の127装置について調査報告しており1)、それらの結果を基に破損の状態別に修理や製作時の注意点について紹介する。
・コネクターの破損について
図3に継続使用が不可となった原因を示す。破損の部位で最も多かったのはコネクター部であった。破損の部位においては、装置の中で最も負担のかかる場所で起こることが想定され、可動部分であるコネクター部への負担は最も大きいものと思われる。
コネクターのベルト部で断裂が起こった場合(図4)の対処法として、コネクターの連結本数を左右2本ずつ(以下ダブルと略)に変更することで対応している(図5)。
特にブラキサーや力の強い患者さんなどで、早期に断裂が起こった場合はコネクターの連結本数を増すことが有効である。
ダブルに変更するにあたっては、いくつか注意すべき点があるため連結手順について紹介する。
まず、口腔内で採得した下顎位を上下の連結時に動かないようにしっかり固定しておく必要があり、シリコーンを追加して下顎位を舌側から固定する(図6、7)。
ダブルはシングルに比べ、コネクターの接着する面積が広く必要になるため、事前に左右2本ずつのコネクターを接着するスペースがあるかを確認しておく必要がある(図8)。
スペースの確認は、下顎大臼歯部の頰側最後方部にコネクター2本を当てがい、上顎のどの位置にコネクターが接着できるかを確認する。特に歯列が小さい患者さんなどでスペースが十分でない場合は、上顎側切歯付近まで配置することがあるため、接着前に必ず確認しておく必要がある。
その場合、下顎の連結部位は最後臼歯頰側の最後方の位置に設定し、それに合わせて上顎の接着位置を決定するとよい。
また、コネクターの位置や角度は、なるべく正中から左右対称になるように配置し(図9)、接着は最初に上顎の犬歯部、その後、下顎の大臼歯部の順で接着させた方が適切な位置に配置しやすい。
図3 継続使用不可となった原因とその件数-
図4 上顎犬歯部でコネクターが断裂した状態 -
図5 連結をダブルにして補強されたMAS -
図6 シリコーンにて舌側から固定面積を広くして動かないようにする。
図7 唇側と頰側の接着時に邪魔になりそうな部分をトリミングする。-
図8 事前にコネクターの接着位置を確認しておく。 -
図9 コネクターは左右対称に接着する。
・ブラキサーなどの対応について
コネクターの破損に大きく関与しているブラキサーや力の強い患者さんにMASを使用する際は、破損リスクが高まるため注意する必要がある。
また、このようなリスクのある患者さんには、初めからダブルで製作することが適切で、それでも破損が起こった場合には、固定式に変更するようにしている(図10)。
図10 上下を固定式にしたMAS
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