187号 WINTER 目次を見る
Clinical Report
ジルコニアカンチレバー接着ブリッジの装着におけるスーパーボンド®EXの有用性
キーワード:ジルコニアカンチレバー接着ブリッジ/接着性レジンセメントの進化
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はじめに
近年、前歯部1歯欠損に対する補綴治療としてジルコニアカンチレバー接着ブリッジが注目されている。その術式を確立したKernは、インプラントに対する接着ブリッジの利点として「10歳から適応可能、欠損部顎堤の骨量が不十分でも適応可能、7mm未満の歯間距離でも適応可能、隣接歯の歯根が傾斜していても適応可能、インプラント手術を拒否しても適応可能、インプラント手術のハイリスク患者でも適応可能、短い治療期間で治療可能、患者の負担が少ない」ことを挙げている1)。また、中村らは「①支台歯に健全エナメル質が十分に存在する ②支台歯の骨植が良好である ③外傷、先天性要因による欠損である ④う蝕罹患傾向が低い(プラークコントロールが良好である)⑤支台歯に強い咬合力がかからない ⑥インプラントの適用が困難である」場合を適応症と報告している2)。さらに小峰は、ジルコニア接着ブリッジは金属フレームの接着ブリッジに比べ、審美性と生体親和性に優れているとも報告している3)。そして臨床成績では、ジルコニアカンチレバー接着ブリッジの10年間の生存率が98.2%、成功率が82.0%であったという報告がなされている4)。このようにジルコニアカンチレバー接着ブリッジは多くの利点を持つ術式であるが、その予後は当然、使用する接着性レジンセメントの性能にも左右される。本術式に適した接着性レジンセメントは、純粋な化学重合であることと、従来品よりも操作性が向上したことから、筆者はスーパーボンドの中でもEXシリーズ(図1)が最適であると考えている。
図1 スーパーボンド®EX ユニバーサルセット
接着ブリッジの歴史
文献上の接着ブリッジの嚆矢は1973年に発表された2本の論文であるとされている。一つはIbsen5)による人工歯をコンポジットレジンで隣在歯と接着させたダイレクトボンディングブリッジであり、もう一つはRochette6)による金属製リテーナーを用いたリテーナーボンディングブリッジである。後者はその後、非貴金属合金への電解エッチングにより接着性能が向上7)したことにより普及し、論文著者のLivaditisとThompsonらの所属していたメリーランド大学(米国)の名を冠したメリーランドブリッジと呼称されるに至った。過去の記事によると80年代初頭に国内でメリーランドブリッジが紹介されると多くの歯科医師が導入したが、脱離・破損といったトラブルの頻発から急速に廃れてしまった8)。
日本国内では、1980年から接着ブリッジを導入していた眞坂と諸星が1983年にスーパーボンドC&Bを使用した独自の接着ブリッジの術式を発表し9)、本邦ではリテーナーボンディングブリッジは「金属フレームをスー
パーボンドで歯面に接着させる」術式として定着するに至る。その後、2008年より前歯部に対しての金属フレーム式接着ブリッジが保険収載され、2012年には臼歯部にも拡大した。また、金属を用いない接着ブリッジとしては、眞坂らによるスーパーボンドと二ケイ酸リチウムを使用したオールセラミック純接着ブリッジ10)や、田代によるコンポジットレジンを隣在歯に接着させるダイレクトブリッジ修復11)が報告されている。
一方世界に目を向けると、1980年代中期にシラン処理や機能性モノマー(リン酸エステル系モノマー)といった機械的・化学的接着システムの開発により金属とセラミックの接着が大きく改善し、金属フレームにセラミックを接着させたメタルセラミックス接着ブリッジが普及した1)。その後、ガラス
セラミックス、アルミナによる接着ブリッジを経て、CAMによるジルコニアの加工と接着の改善により、Kernらによりフレームワークをジルコニアとしたジルコニアカンチレバー接着ブリッジの術式が確立された。本邦においてもダイレクトブリッジと並び、良好な長期予後が報告されている12)。また、接着ブリッジの設計については両側支台よりも片側支台の方が予後は良好であることが示されている13)。
ジルコニアカンチレバー接着ブリッジとスーパーボンド®EX
接着ブリッジのジルコニアフレームには強度が必要であるため3Y-TZP(Y2O3:3mol%、Al2O30.25wt%)が推奨14)されており、接着には化学重合型またはデュアルキュア型の接着性レジンセメントが必要となる。しかしデュアルキュア型レジンセメントは光照射が十分に行えないと重合が不十分であることが示唆されている15)。それに対してスーパーボンドは純粋な化学重合型レジンセメントであり、金属フレーム式の接着ブリッジへのゴールドスタンダードとして長年使用されてきた実績がある。さらにジルコニアへの高い接着性能も報告16)されており、ジルコニアカンチレバー接着ブリッジの装着にも同様に有効であると考えられる。中でも、新たな製品であるスーパーボンドEXシリーズは混和法時の操作性が大幅に改善されている。混和法専用ポリマー粉末を混和した際の混和泥は流動性が高く、補綴物の中にセメントを留めておける形態の場合には良いが、非常に浅い形成を行うジルコニアカンチレバー接着ブリッジの場合には補綴物から流れ出てしまうことがあった。対してスーパーボンドEXの混和泥は、ゆるい泥状で適度な粘稠度がありリテーナーに留まりやすい。また、性状からの印象に反して被膜厚さは従来のスーパーボンドと有意差はない(図2)。
以下に筆者がスーパーボンドEXを使用したジルコニアカンチレバー接着ブリッジの2症例を供覧し、その有用性を考察したい。なお、どちらも当院にてアライナー矯正治療終了後に補綴治療を行っている。
図2 ポリマー粉末の違いによる被膜厚さ(提供:サンメディカル株式会社)
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