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【モリタが提案するDX】第3回:診査診断からセルフケア説明まで(実践事例)“患者さんに伝わる”デジタルツール活用法

東京都清瀬市 筒井歯科医院 副院長 筒井 大輔

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目 次

近年、採取した診療データや患者情報を一元管理するソフトを活用し、DX化を推進する歯科医院も増えつつあります。そうした中、カウンセリングのDX応用を実践されている筒井歯科医院 筒井大輔副院長に“患者さんに伝わる”デジタルツールの活用法についてお話いただきました。

第1回:「部分最適」から「全体最適」へ
第2回:会計から問診まで(実践事例)
第3回: 診査診断からセルフケア説明まで(実践事例)
第4回: 総括

患者さんは適切な指導やアドバイスを求めている

[写真] 東京都清瀬市 筒井歯科医院 副院長 筒井 大輔
東京都清瀬市 筒井歯科医院
副院長 筒井 大輔

私たち歯科医療従事者は、これまで多くの症例を診てきた経験から、治療による介入が増えるほど“歯の寿命”が短くなっていくことを知っています。しかし多くの患者さんは意外にそのことを知りません。こうした術者と患者さんの認識のギャップを埋め、患者さんが求める適切な指導やアドバイスを提供するため、これまで当院でもデジタル草創期からさまざまな創意工夫を重ねてきました。近年ではマイクロスコープや患者説明用ソフトを活用し、CAD/CAM修復治療を中心としたDigital Dentistryの流れを推進しています。
当院におけるデジタルツールを活用した「診査・診断」「患者説明」「治療」「セルフケア説明」の取り組みについてご紹介していきましょう。

診査・診断唾液検査と細菌検査を使って患者さんの口腔内を「見える化」

近年、当院では診査・診断ツールとして、バクテリア・セルフチェッカー「mil-kin(見る菌)」と多項目・短時間唾液検査システム「Salivary Multi Test(SMT)」を導入し、患者さんの口腔内の「見える化」に取り組んでいます。
「SMT」は5分で測定できる唾液検査で、おもに歯科衛生士が初診の際に勧めてくれています。「mil-kin」はスマートフォンの撮影機能を使ったモバイル顕微鏡で、試料ステージに唾液やプラークを載せるだけで口腔内の細菌を観察できます。私は「mil-kin」の画面をマイクロスコープで撮影し、他の患者情報とともに、患者説明用ソフト「TrinityCore」に取り込み一元管理を行うことで、いつでも必要な時に活用しています。「TrinityCore」は簡単操作で、情報収集から情報提供までノンストップで行えることが魅力です。

  • [写真] 「mil-kin」の画像をマイクロスコープで撮影
    「mil-kin」の画像をマイクロスコープで撮影し、採取した他の患者情報とともに「TrinityCore」で一元管理している。
  • [写真] 「mil-kin」の細菌動画をお見せする様子
    「mil-kin」の細菌動画をお見せし、う蝕や歯周病が口腔内細菌によって引き起こされる感染症であることを最初に理解してもらう。
患者説明歯科衛生士が二次う蝕のリスクを説明することで患者さんの理解が深まる

辺縁封鎖により再治療の機会を減少させるという観点から、私は「CEREC」で行うセラミック修復をできるだけ多くの患者さんにお勧めしたいと思っています。ただ、私一人がお勧めしても、患者さんにはなかなか響きません。そこでまず院内で勉強会を開き、歯科衛生士たちにメタルインレーを選択することで将来起こり得る二次う蝕のリスク、さらに「CEREC」によるCAD/CAM修復のメリットについて理解してもらうことから始めました。するとその後、二次う蝕が疑われるケースがあれば、歯科衛生士たちは「TrinityCore」を使って患者さんにリスクを説明し、「CEREC」を勧めてくれるようになりました。歯科衛生士がお勧めすると患者さんは第三者からのアドバイスとして受け入れやすいようで、以来「CEREC」を選択してくださる患者さんが増加傾向にあります。

  • [写真] 「金属を外す前」+「外したところ」+「カリエスが見える状態」+「カリエスを取りきったところ」の画像を並べて経過を説明する。
    「金属を外す前」+「外したところ」+「カリエスが見える状態」+「カリエスを取りきったところ」の画像を並べて経過を説明する。
  • [写真] メタルインレーを外し二次う蝕になっている様子を歯科衛生士が「TrinityCore」を使って説明する
    メタルインレーを外し二次う蝕になっている様子を歯科衛生士が「TrinityCore」を使って説明する。
治 療マイクロスコープを活用した精度の高い形成がCAD/CAM冠・インレーの適合不良を軽減

「CEREC」の適合精度に不安を感じる先生方が依然として多いようです。ただ、その原因の多くは形成に問題があると感じています。私自身、マイクロスコープの導入前は「完璧に形成できた」と思っていても、実際に「CEREC」で光学印象を行ってみると微細な凹凸が残っていることがありました。肉眼や2.5倍程度の拡大率ではそうした凹凸を確認することは至難の業です。導入後、当院ではマイクロスコープを使って形成を行うことで不良補綴物や脱離などのトラブルはほぼなくなりました。さらに、ミラーテクニックの技術を磨けばいろいろな方向から確認することができ、形成の精度はより上がります。それができるようになると窩洞やクラウンの形成だけではなく、歯肉との境目にあるう蝕を出血させずに除去することも可能になります。出血がないことで、その日のうちにCR充填など次の処置を行うこともでき、効率的な治療にもつながります。

  • [写真] マイクロスコープ
    マイクロスコープ導入後は「CEREC」の適合精度が大幅に改善した。
  • [写真] 待合室の様子
    待合室の様子。的確な情報を提供することで「CEREC」を選択される患者さんも多くなった。
セルフケア説明唾液検査の結果をもとにリスクにマッチしたセルフケア製品を紹介

「SMT」を導入するまでは、歯科衛生士の感覚だけを頼りにセルフケア説明を行っていましたが、「SMT」導入後は、患者さんの口腔内リスクが数値化・視覚化できるようになったことで、明らかに歯科衛生士たちの説明や物販に対するモチベーションが上がりました。現在は自信を持ってセルフケア説明や症状に合わせたツールをお勧めできるようになったと感じています。実際に「SMT」を受けた患者さんの多くが歯科衛生士がお勧めする製品を購入して帰られるようです。説明には「TrinityCore」や「Trinityアニメ」を活用することで、効率的で訴求力の高い患者プレゼンテーションが可能になっています。

  • [写真] 「SMT」の検査結果をもとに歯科衛生士が患者さんの口腔内リスクを丁寧に説明する
    「SMT」の検査結果をもとに歯科衛生士が患者さんの口腔内リスクを丁寧に説明する。
  • [写真] 待合室にはスタッフ手作りのPOPが添えられたセルフケア製品が並ぶ
    待合室にはスタッフ手作りのPOPが添えられたセルフケア製品が並ぶ。その手前には「CEREC」のミリングマシンを設置。

Interview「デジタル化」がもたらす力”について筒井先生にお話を伺いました

筒井先生が院内設備のデジタル化に着手した経緯について教えてください

歯科雑誌が行ったアンケート調査によると、患者さんが「歯科医院に期待すること」の第1位は歯科医師の適切な指導力・アドバイス力でした。つまり患者さんは適切な指導やアドバイスを求めているのです。
これまで私たちは手鏡や手書きの絵を使ったりして患者さんに伝える努力をしてきましたが、それはあくまで現状説明と治療内容の説明の枠を超えるものではありませんでした。しかし私たち歯科医療従事者の本来の責務は、症状を引き起こした原因と、将来的なリスクを患者さんに理解していただき、行動変容を促していくことだと考えています。それを限られた時間のなかで実現するためにデジタル機器の力に頼ることにしたのです。

具体的にどのようにデジタル化を進めていかれたのでしょう
[写真] 田中 健久 理事長

まずデジタル機器を活用して患者さんの口腔内の状態を見せることからスタートしました。医院に以前からあったデジタルカメラを使って口腔内を撮影していたのですが、撮影のたびに治療を中断する必要があることやデータ管理の煩雑さ、モニターが小さいことによる訴求力の弱さなどから、専用の口腔内カメラに切り替えました。取り回しが簡単で一人でも撮影できるので、今でも歯科衛生士は口腔内カメラを活用しています。ただ、その後「もっと見たい」「もっと見せたい」という欲求が高まり、マイクロスコープを導入、現在は自費、保険の区別なくほぼすべての症例で活用しています。ちなみに、マイクロスコープを導入する以前からCAD/CAM装置やCTを活用したDigital Dentistryにも積極的に取り組んできました。

マイクロスコープは使いこなすのにかなりの修練が必要と伺っています

たしかにマイクロスコープを覗きながら形成を行ったり根管治療を行うにはトレーニングが必要です。実際私も慣れるまで毎日早朝に医院に来て練習していました。
ただ、マイクロスコープで撮影した動画や画像を患者説明に活用する用途であれば、導入直後からでも可能です。インレーの不適合部分やクラック部分からのう蝕、変色など、患者さんに自覚症状はなくても術者からみると治療が必要なケースのアプローチにも有効です。また、治療の手を止めることなくフットスイッチ(TrinityCoreオプション)でもいつでも撮影できますから、私は気になった箇所はすぐ撮影し、撮ったその場で患者説明に活用しています。実際、マイクロスコープの動画や静止画の患者さんへのインパクトは絶大です。マイクロスコープで撮影した画像をもとに、症状の原因や将来リスクを説明し、そのリスクを軽減する治療法として「CEREC」によるCAD/CAM修復をお勧めすると、選択してくださる方が増えています。

歯科衛生士さんのデジタル機器の活用状況はいかがでしょうか
[写真] 光学印象の画像などを患者に見せる様子
光学印象の画像など「CAD/CAMの見せる化」を行うことで未治療の歯などへの関心にも繋がる。

院内のデジタル機器導入に伴って、それぞれ採取したデータを患者さんごとに管理するために「TrinityCore」を導入しました。口腔内カメラやマイクロスコープ、CT、唾液検査、歯周組織検査などの結果がデジタルデータとしてすべてカルテ番号で紐付けされていますから、いつでも必要な時に必要な見せ方で患者さんに情報を提供することができます。使い方がとにかく簡単なので、パソコン操作が苦手な私を含め歯科衛生士たちも問題なく使いこなしています。二次う蝕が気になる部位があると自分たちが口腔内カメラで撮影した画像を見せながら、患者さんにメタルインレーのリスクや「CEREC」のメリットについて説明してくれるので、その後のDigital Dentistryへの流れもスムーズです。

筒井先生が今後目指す歯科医療のスタイルについてお聞かせください
[写真] 診療室

患者さんにとって価値の高いクリニックを目指したいと思っています。患者さんは「今、この歯をどう治すか」しか考えていないことが多いと感じます。私たちはこれまでさまざまな患者さんを診てきた中で、患者さんの口腔内の未来がある程度予測できます。問題はその「伝え方」にあって、どんなに良い治療があってもそれを患者さんにうまく伝えられなければ、結局その選択肢を選んでもらうことはできませんし、今起こっていないリスクを患者さんに理解してもらうのはとても難しいでしょう。その伝え方をサポートしてくれるのが、「TrinityCore」やマイクロスコープだと私は考えています。今後もこうしたデジタル機器の助けやスタッフのサポートを糧にして、患者さんが求める歯科医院を模索していきたいと思っています。

筒井歯科医院で勤務する歯科衛生士さんにお話を伺いました

[写真] 歯科衛生士 桃原 あゆみさん(入職13年目)
歯科衛生士
桃原 あゆみさん(入職13年目)
[写真]  ライオン歯科材が提供するフローチャート
歯ブラシや歯磨剤を選ぶ際はライオン歯科材が提供するフローチャートを活用している。

初診時には、歯周ポケット検査、染め出し、スケーリングを行い、気になる部分がある患者さんの場合、先生と相談して必要ならX線撮影を行うこともあります。
SMT」は初診時に歯周ポケット検査の結果を渡すときに、「SMT」のパンフレットを一緒にお渡しして説明しています。今年の2月頃から始めたばかりですが、検査を受けていただくことで明らかに患者さんのモチベーションが上がると感じます。「生活習慣や間食の摂り方に気をつけています」とか、「食後はガムを噛むようにしています」などと、患者さん自身で足りない部分を補いたいという気持ちが出てきて、私たちも指導しやすくなりました。
[写真] ライオン歯科材が提供するフローチャート
歯ブラシや歯磨剤を選ぶ際はライオン歯科材が提供するフローチャートを活用している。
TrinityCore」は2、3年前に導入しましたが、歯周ポケット検査や口腔内写真、X線写真も取り込み管理でき、その場ですぐ患者説明に使えて便利です。う蝕が疑わしいケースを患者さんにお伝えする際も、鏡で見せるより写真に撮って画面上に大きく表示すると患者さんの納得度が違います。実際アナログで説明していた時よりも「ぜひ治療したいです」とおっしゃる患者さんが増えたと感じます。

[写真] 歯科衛生士 多田 真寿美さん(入職2年目)
歯科衛生士
多田 真寿美さん(入職2年目)
[写真] セルフケア製品をお勧める様子
「SMT」導入後は検査結果をもとに自信を持って症状に合わせたセルフケア製品をお勧めできるようになった。

患者さんはご自身の口の中が詳細には見えませんから「SMT」などによって数値化し見える化できることは大きなメリットと感じています。ただ、やみくもに指導してもモチベーションは上がりません。見える化した上でポイントを絞って説明することが大切と考えています。例えば「SMT」の結果歯周病リスクが高い患者さんの場合、いろいろなツールを使って説明するより「歯間ブラシを週に2回やってみましょう」とポイントを絞って指導すると「それならできそう」とおっしゃる方が多いです。その後、口腔内の状態が変わってきたのが分かると、今度は患者さんから前向きな質問をいただけるようになり、明らかにモチベーションに変化が見られるようになります。
[写真] セルフケア製品をお勧める様子
「SMT」導入後は検査結果をもとに自信を持って症状に合わせたセルフケア製品をお勧めできるようになった。
TrinityCore」は患者さんの検査結果や情報を一元管理できるので、患者説明の際に活用しています。口頭ではなかなか伝わらないことも、画面に映し出して見ていただくことで一気に理解が広がり、説明する私たちにとっても時間短縮や効率化に繋がっていると感じています。

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