174号 AUTUMN 目次を見る
キーワード:歯肉縁下マージンの問題点とその対応/コンポジットレジンを用いたビルドアップ
■目 次
■はじめに
“デジタル化”というキーワードも珍しくなくってきた今日、日々の臨床にCAD/CAMを取り入れている先生も少なくないと思われる。実際CAD/CAMを使用すると、日々の臨床が大きく変わるとともに、本当に簡単で便利な機械であることからCAD/CAMなしの診療は考えられないほどである。しかしながら、CAD/CAMを用いた修復治療には金属修復物とは異なるルールが存在するため、その違いや注意点、対応策をきちんと把握しておく必要がある。
今回はCAD/CAM修復において最も頻度が多い「金属からセラミックへのやり変え」を念頭に、歯肉縁下マージンの問題点とその対応を紹介する。
当院ではモリタ発売のCEREC(図1)を導入し、多くの患者さんより大変好評をいただいている。
最も多いケースが金属修復物からセラミック修復物へのやり変えであるが、この際一番頭を悩ます点が金属修復のルールとCAD/CAM修復のルールの違いであり、その1つに歯肉縁下マージンの問題がある。
現在の口腔内スキャナーでは、歯肉縁下の光学印象は完全ではないと言われている。またセラミック修復物を接着するという観点からも、防湿ができない歯肉縁下マージンは避けなければならない。
そこで従来の修復物マージンが歯肉縁下に設定されたケースや、カリエスを除去したらマージンが歯肉縁下に入ってしまったようなケースなどでは、防湿下の処置を前提に隔壁とコンポジットレジンを用いてビルドアップ(マージン位置を歯肉縁下から歯肉縁上に持ち上げる)を行う。
隣接面の歯肉縁下に緊密且つ滑らかな充填を行うのは至難の技であるが、この複雑な処置を大いに助け、満足いく結果をもたらしてくれるのがコンポジタイト3Dフュージョン(ギャリソンデンタル:図2)である。
図1 CERECシステム-
図2 コンポジタイト3Dフュージョン(ギャリソンデンタル)。
■模型におけるマージン位置と光学印象結果の比較
歯肉縁上マージンと歯肉縁下マージンにおける光学印象の違いを模型で比較し、またコンポジタイト3Dフュージョンを用いたビルドアップと、それが光学印象に与える影響を検証してみた。
①歯肉縁上マージン(図3~5)
歯肉縁上マージンでも光学印象の際に隣接面アンダーカット部など撮影光が届きにくい部分では情報量不足により虚像が生じる。虚像がマージンに関与する場合、正確なマージン設定が困難になる。
②歯肉縁上マージン+ウェッジ (図6~8)
光学印象のサポートとして隣接部にコンポジタイト3Dフュージョンに付属するウェッジを挿入する。
ウェッジによりアンダーカットが埋められることで、虚像のないより明瞭なマージンラインが得られる。こうした使い方ができるのもコンポジタイト3Dの利点の1つである。
③歯肉縁下マージン(図9~13)
歯肉縁下マージンではマージン部の撮影が難しいことからマージン付近にも虚像が現れた。また、オートマージン機能では歯肉辺縁のラインをマージンとして認識してしまっている。こういうケースでは手動にてマージンラインの設定を行うが、撮影結果が明瞭でないことから的確なマージン設定が難しく、ここかな?というある種勘に近い状態でのマージン設定になってしまう。
図3-
図4 -
図5 きちんと撮影できない部分(◯)に虚像が現れる -
図6
図7-
図8 -
図9 -
図10
図11-
図12 オートマージン機能によるマージン設定。歯肉縁をマージンと認識。 -
図13 手動によるマージンラインの修正。マージンラインが明瞭でないため勘に頼ったマージン設定となる。
■歯肉縁下マージンのビルドアップ
防湿下で歯肉縁下に位置するマージンを歯肉縁上に持ってくるビルドアアップを行う。この際、コンポジタイト3Dフュージョンを用いることで、歯肉縁下のマージン部を緊密に充填・封鎖することができるとともに、フュージョンバンドに付与されたカーブと3Dリテーナーの圧接により、歯頸部付近の歯冠形態を自然に回復できる。
④ビルドアップ後の光学印象(図14~17)
ビルドアップしたことで遠心のマージンラインが歯肉縁上に位置するようになる。光学印象の結果も歯肉縁下の時と異なり、マージンラインがはっきり分かる。光学印象後、オートマージン機能を用いてマージンを引いてもしっかり一筆書きでマージンが描記された。
-
図14-
図14-2
図14-3
自然なカーブのついたフュージョンバンドは歯にフィットしやすく、さらに歯頸部に柔らかいフィン付きのウェッジを挿入し、3Dリテーナーでしっかり抑えることで、緊密な充填・封鎖が可能となる。模型から歯を取り外して確認しても段差なく緊密に充填されていることが分かる。
*フュージョンバンドがマージン部分にぴったりフィットしていることに注目(図14-2)。 -
図15
図16-
図17
■ビルドアップを行った症例1
患者は45歳女性。以前治療した 6 の金属修復物をセラミック修復物に変えたいとの希望でセレックによる1day修復治療を行った(図18、19)。
図18 6近心マージン部には2次カリエスを認めた。形成後、近心側室マージン部はコンポジタイト3Dフュージョンを用いてビルドアップを行った。-
図19-1 形成・ビルドアップ・デンチンシーリングを行った後、光学印象を行う。この際、歯間隣接部分にアンダーカットがあると、上手く撮影できず、虚像出現の原因になる。 -
図19-2 アンダーカットを埋めるようにウェッジを挿入して光学印象を行う。 -
図19-3 ウェッジを挿入した状態で光学印象を行った結果、マージン付近への虚像の出現は見られず、マージンラインが明示された。 -
図19-4 オートマージン機能によるマージン描記でもきれいにマージンラインが出ている。
■ビルドアップを行った症例2
患者は63歳女性。治療した歯のう蝕が深く、次にう蝕が発生すれば歯内療法になることを懸念された。 6に対しCERECによる1day修復治療を行った(図20~22)。
図20 インレーを除去したところ近心は歯肉縁下わずかに入る位置にマージンが設定されていた。遠心は歯肉縁上にマージンがあったため、近心のみビルドアップを行った。また開口維持が困難であったため、開口器付きの防湿器具であるMr.サースティー ワンステップ(ザーク)を使用して防湿を行った。-
図21 フュージョンバンドが歯頸部マージンにぴったりフィットしていることに注目。3Dリテーナーによってバンドがしっかり歯にフィットしていることにより、フロアブルレジンの漏れを防止できるため、気泡を入れないことだけに注意しながら充填することが可能。 -
図22 光学印象の際には歯間部にウェッジを挿入した状態で撮影を行う。これにより撮影が難しい隣接部のマージンラインもきちんと描記される。
■おわりに
コンポジタイト3Dフュージョンは本来コンポジットレジン充填修復用器材であるが、CAD/CAM修復につきものの「ビルドアップ」の際にも非常に役立つお助けグッズである。また付属のウェッジは充填時のみならず光学印象のサポートにも使用できる。
現在CAD/CAM臨床で歯肉縁下マージンの対応に苦慮されている先生や、今後CAD/CAM導入をお考えの先生には検討に値する器材の1つではないだろうか。コンポジタイト3DがあるかないかでCAD/CAM修復の作業効率、治療結果が大きく変わると言っても過言ではないほど私の診療をサポートしてくれている。
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