171号 WINTER 目次を見る
キーワード:コンポジットレジン修復/大型2級窩洞/3Dリテーナー フュージョンLの使い方と注意点
■目 次
■はじめに
コンポジットレジン材料の物性が向上したことから、隣接面を含む大型窩洞に対しコンポジットレジン修復による対応も可能になってきた。大型窩洞に限らず隣接面を含むコンポジットレジン修復にはマトリックスの使用が必須であるが、特に大型窩洞において理想的な隣接面の解剖学的形態の再現と緊密な接触点を得るためには、適切なマトリックスシステムの選択と装着がその第一歩になる。
昨年、デンタルマガジン166 号(2018年9月発行)において、コンポジタイト3Dリテーナー フュージョンLの紹介(「大きな隣接面窩洞のコンポジットレジン修復~コンポジタイト3Dリテーナー フュージョンLの新登場~」)を行った。このコンポジタイト3Dリテーナー フュージョンL(ギャリソンデンタル)は、これまで困難であった隣接面が大きく欠損した窩洞においても対応できるリングリテーナーである。
今回はコンポジタイト3DリテーナーフュージョンLを用いる場合の注意点と、フロアブルコンポジットレジンによる大型2級窩洞の修復方法についてさらに詳細に解説を行う。
■1.コンポジタイト3Dリテーナー フュージョンLによるコンポジットレジン修復
1)コンポジタイト3D フュージョンの構成と特徴
コンポジタイト3D フュージョンは、フュージョン バンド、フュージョン ウェッジ、そして3種類の3Dリテーナー フュージョンからなるシステムである。これに専用のリングフォーセップス フュージョンがラインナップされている(図1)。
新たに3Dリテーナー フュージョンに加わった3Dリテーナー フュージョンLは、脚部のシリコンの近遠心幅がリテーナーSあるいはMと比較して倍の10mmになっている。インレーの再修復など隣接面が大きく欠損した症例においては、これまで間接修復を選択することが多かった。しかし、このような症例においても3D リテーナーフュージョンLを利用することで、容易にコンポジットレジン修復を行うことが可能になった(図2)。
2)3Dリテーナー フュージョンLによるコンポジタイト3D フュージョンの使い方と注意点
(1)フュージョン バンドの挿入
フュージョン バンドには、スモール(小臼歯用)、エクストラスモール(小臼歯用 歯頸部)、セミスタンダード(小臼歯 大臼歯用)、スタンダード(大臼歯用)、ラージ(大臼歯用 歯頸部)の5種類が用意されている。いずれも表面には樹脂コーティングが施されており、コンポジットレジンがマトリックス表面に接着するのを防いでいる。またカーブが強く面積も広いことから歯冠部を覆うような形態になっている。
フュージョン バンドの選択は修復歯の歯冠長と歯頸部の状態を観察し行う。バンドは歯肉溝にわずかに入りタブが隣接歯の辺縁隆線部に一致する高さのバンドを選択する(図3、4)。
フュージョン バンド上部のタブを把持しバンドを隣接面にそっと挿入する。そしてバンドが歯頸側マージン部を全て覆っていることを確認する。バンドは厚み約38μmと非常に薄いステンレススチール製であることから、隣接面への挿入時、また挿入後もバンドが変形しないよう注意が必要である(図5)。
(2)フュージョン ウェッジの挿入 フュージョン ウェッジには、エクストラスモール(イエロー)、スモール(ブルー)、ミディアム(オレンジ)、ラージ(グリーン)の4種類がある。シリコン製でフィンがついた形状のウェッジは先端がやや丸みを帯びており、歯間乳頭を傷つけることなく挿入することができる。またフィンの形状は挿入し易く、挿入後はウェッジ自体を保持し外れないよう設計されている。
フュージョン ウェッジは、下部鼓形空隙の大きさに合ったものを選択し、ピンセットで把持しながら下部鼓形空隙に挿入する(図6)。ウェッジの上下の方向を確認し、フュージョン バンドを軽く指で保持しズレないように注意しながら、ウェッジをしっかりと挿入する(図7)。
挿入後は咬合面側から隣接面の歯頸部マージンを観察し、ウェッジによりバンドが歯頸部マージン付近に圧接されマージン部の封鎖がしっかりとされていることを必ず確認する。隙間が空いている場合にはウェッジのサイズを1段階大きなサイズにする。この歯頸部マージンの確実な封鎖が大変重要になる(図8)。
(3)3Dリテーナー フュージョンLの装着
新たに3Dリテーナー フュージョンのラインナップに加わった3Dリテーナー フュージョンLの特徴は、脚部のシリコンの近遠心幅がこれまでのリテーナーSあるいはMよりも広い10mmになっている。これにより頰舌側共に近遠心幅の1/2程度までの欠損であっても、これまでと同じようにコンポジタイト3Dリテーナーによる直接コンポジットレジン修復が可能になった。
3Dリテーナー フュージョンLの装着には、専用フォーセップスのリングフォーセップス フュージョンを用い、3Dリテーナー フュージョンLを把持し、リテーナーをしっかりと開く。リングフォーセップス フュージョンは少ない力で開閉が可能な設計になっており、フルオープン時には約25mmまで開くことができる(図9、図10)。
しっかりと開いた状態を保ち、フュージョン バンドが装着された部分に頰舌方向から挟み込むように(図11~図13)、そしてフュージョン ウェッジを跨ぐようにして装着する(図14)。
リングの開きが不十分な状態で患歯の上方から滑らせるように装着しようとすると、脚部のシリコンでフュージョン バンドを変形させてしまうので注意が必要である(図15)。
装着後は3Dリテーナー フュージョンLによりフュージョン バンドが頰舌の歯面、そして隣接歯にもしっかりと密着していることを確認する。もしバンドが隣接歯から離れている場合には、先端の丸い充填器などでバンドを隣接歯に押し付け密着させるようにする。
最後に歯肉側マージンがしっかりとバンドとフュージョン ウェッジで封鎖されていることを確認することが最も重要である(図16)。
図1 コンポジタイト3D フュージョン
図2 3Dリテーナー フュージョンL
図3 歯冠長に一致するフュージョン バンドの選択。スモールでは歯冠長に足りない。
図4 歯肉溝にわずかに入り辺縁隆線部に一致するセミスタンダードを選択。
図5 フュージョン バンド挿入後、変形しないよう注意。
図6 バンドを軽く指で保持しながら、フュージョン ウェッジ スモール(ブルー)をピンセットで把持し下部鼓形空隙に挿入。
図7 ウェッジをしっかりと挿入。
図8 ウェッジによりバンドが歯頸部マージン付近に圧接され、マージン部が封鎖されていることを確認。
図9 専用フォーセップス リングフォーセップス フュージョン。
図10 3Dリテーナー フュージョンLを把持し、リングフォーセップス フュージョンをしっかりと開く。
図11 3Dリテーナー フュージョンLの装着1リングフォーセップス フュージョンによりしっかりとリングが開いた状態を保つ。
図12 3Dリテーナー フュージョンLの装着2フュージョン バンドが装着された部分に頰方向から挟み込むように少しずつ近づける。
図13 3Dリテーナー フュージョンLの装着3フュージョン バンドに触れないよう注意しながら装着する。
図14 フュージョン ウェッジを跨ぐように装着。
図15 リングの開きが不十分でバンドに触れながら装着すると、バンドを変形させてしまう。
図16 3Dリテーナー フュージョン装着バンドが隣接歯に密着し、また歯肉側マージンがしっかりと封鎖されていることを確認。
■2.大型2級窩洞のコンポジットレジン修復
臨床写真(図17~図34)により、大型2級窩洞のコンポジットレジン修復について解説を行う。
1. 術前。MOメタルインレーの二次う蝕による再修復。近心のスライスカットがやや遠心に倒れており、隣接面の欠損がやや大きい(図17)。
2. ラバーダム防湿とメタルインレー除去。ラバーダム防湿後、メタルインレーを除去する。咬合面窩底部に感染象牙質が認められる(図18)。
3. う蝕象牙質の検知。う蝕検知液(カリエスディテクター:クラレノリタケデンタル)により、感染象牙質を染色する(図19)。
4. 感染象牙質の除去。カリエスディテクターで赤く染まった象牙質をスプーンエキスカベーターで除去する。窩洞形成が終了したところ(図20)。
5. 隔壁の装着。3Dリテーナー フュージョンLを用いたコンポジタイト3Dフュージョンによる隔壁の装着。歯肉側マージンがフュージョン バンドとフュージョン ウェッジによりしっかりと封鎖されていることを確認する。 また3Dリテーナー フュージョンLによりフュージョン バンドが頰舌歯面、そして隣接面は臨在歯の接触点付近に密着していることを確認する(図21)。
6. 接着処理−1(プライマー処理)。 2ステップセルフエッチングシステムのクリアフィルメガボンド2(クラレノリタケデンタル)により接着処理を行う。プライマーを窩洞内にたっぷりと塗布する(図22)。
7. 乾燥。バキュームを併用しマイルドエアーでプライマー塗布面を乾燥する。窩底部歯質表面に光沢感があることを確認する(図23)。
8. 接着処理−2(ボンド処理)。窩洞内にボンドを十分塗布後、バキュームを併用し軽くエアブローを行う(図24)。
9. 光照射。照射器ライトガイドにスリーブを被せ、光照射を行う。 できるだけ窩洞に近づけ、使用説明書に示された照射時間以上の光照射を行う(図25)。
10. コンポジットレジン充填−1(窩底部の充填)。フロアブルコンポジットレジン クリアフィル マジェスティ ESフロー Low(クラレノリタケデンタル)を窩底部に一層塗布充填する。特に歯肉側マージンに充填不足がないよう注意しながら隣接面から充填を始め、窩底部全体に1層フロアブルコンポジットレジンを塗布する。 その後光照射を行う(図26)。
11. コンポジットレジン充填−2(辺縁隆線部 上部鼓形空隙の付与)。隣接面の辺縁隆線を作る。クリアフィルマジェスティ ESフロー Super Low(クラレノリタケデンタル)により辺縁隆線部の充填を行う。この際、上部鼓形空隙の付与が非常に大切になる。 隣接面、辺縁隆線部にレジン充填後、探針を用い上部鼓形空隙の形態を付与する。そして光照射を行う(図27)。
12. コンポジットレジン充填−3(咬合面形態の付与)。咬合面の充填は、ESフロー Super Low を用い咬頭ごとに充填を行う。 残存歯質を参考に咬頭の大きさや傾斜、裂溝そして小窩の位置を考えながら一咬頭ずつ充填し光照射を行う。頰側面はリテーナーを除去してから充填を行う(図28)。
13. コンポジットレジン充填−4(頰側面の充填)。3Dリテーナー フュージョンLを外し、フュージョン バンドを少しずらした状態でESフロー SuperLow により頰側面の充填を行う(図29)。
14. 隔壁の除去。フュージョン バンドとフュージョン ウェッジの除去。術直後の状態(図30)。
15. 咬合調整。ラバーダムを除去し、咬合紙により咬合状態を確認し、超微粒子ダイヤモンドポイントにより過高部を調整する(図31)。
16. 仕上げ研磨−1。ダイヤモンド粒子を含有したラバーポイント(ダイヤグロスCA:エデンタ)により仕上げ研磨を行う。コース(ピンク)による荒研磨を行う(図32)。
17. 仕上げ研磨−2。ダイヤグロスCA(ホワイト)により仕上げ研磨を行う(図33)。
18. 術直後。隣接面の欠損が大きい症例においても、3Dリテーナー フュージョンLを用いたコンポジタイト3Dフュージョンにより、緊密な接触点を持つ適切な隣接面形態のコンポジットレジン修復を行うことができる(図34)。
図17 術前
MOメタルインレーの二次う蝕による再修復。
図18 ラバーダム防湿とメタルインレー除去ラバーダム防湿後、メタルインレーを除去。咬合面窩底部に感染象牙質が認められる。
図19 う蝕象牙質の検知
う蝕検知液(カリエスディテクター)による感染象牙質の染色。
図20 感染象牙質の除去
染色部分をスプーンエキスカベーターで除去。
図21 3Dリテーナー フュージョンLを用いた隔壁の装着
フュージョン バンドとフュージョン ウェッジにより歯肉側マージンが封鎖されていることを確認。
図22 クリアフィルメガボンド2による接着処理−1(プライマー処理)
プライマーを窩洞内にたっぷりと塗布。- 図23 乾燥
マイルドエアーによる乾燥する。窩底部歯質表面に光沢感があることを確認。
図24 接着処理−2(ボンド処理)
窩洞内にボンドを塗布。
図25 光照射
メーカー指示に従い光照射。
図26 コンポジットレジン充填−1
クリアフィルマジェスティ ESフロー Lowを窩底部に一層充填し光照射。
図27 コンポジットレジン充填−2
ESフロー Super Low による隣接面辺縁隆線部の充填。
図28 コンポジットレジン充填−3
ESフロー Super Low による咬頭ごとに咬合面の充填。
図29 コンポジットレジン充填−4
ESフロー Super Low による頰側面の充填。
図30 隔壁の除去
フュージョン バンドとフュージョン ウェッジの除去。
図31 咬合調整
超微粒子ダイヤモンドポイントによる咬合調整。
図32 仕上げ研磨−1
ダイヤグロスCA ピンクによる荒研磨。
図33 仕上げ研磨−2
ダイヤグロスCA ホワイトによる仕上げ研磨。
図34 術直後
隣接面の欠損が大きい症例においても、3Dリテーナー フュージョンLを用いることで、緊密な接触点を持つ適切な隣接面形態のコンポジットレジン修復が可能。
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