171号 WINTER 目次を見る
キーワード:精度の高い支台歯形成を実現/前歯部支台歯形成のポイント
■目 次
- ≫ SELF CREATORの開発経緯
- ≫ 支台歯形成が重要となった理由
- ≫ 条件を満たす支台歯形成方法
- ≫ 前歯部の支台歯形成
- ≫ SELF CREATORの特徴~前歯部用~
- ≫ 前歯部形成ステップ 上顎中切歯のケース
■SELF CREATORの開発経緯
既存に販売されている支台歯形成用バーを用いた支台歯形成においては、形成量や軸面の形成方向などが術者の経験に則ってコントロールされていた。また、形成時に垂直的・水平的形成量および形成軸の3つの要素を同時に行っていたが、これは熟練した歯科医師にとってはそれほど難しくないことであろうと思うが、実際はそれぞれのステップにおいてエラーを生じてしまいかねない。
より再現性が高く精度の高い形成を現実化するためには、①形成する部分において具備しなければならない要素を遵守し、②使用する形成用バーの直径などの形状を“定規代り”として使用すると誤りが少ない。
このたび、形成時におけるエラーを軽減できるコンセプト優先型支台歯形成用バーセット「SELF CREATOR」をマニー株式会社と共同開発した。
「SELF CREATOR」を使用するにあたってはコンセプトを理解して用いることで、より正確な支台歯形成を容易に臨床で具現化することが可能となる。
■支台歯形成が重要となった理由
金属による補綴修復(金属焼き付け陶材冠・硬質レジン前装冠を含む)が主体で行われていた時代には、金属に破折強度が担保されていた。しかし、オールセラミックスやCAD/CAM冠などの審美補綴では、適性な補綴物の厚みが確保されていない場合、破折などのトラブルが発生する可能性がある。
また、こちらは合着ではなく接着操作を必要とするが、口腔内での使用時におけるサーマルサイクルの影響などを考慮すれば、長期的には接着力が低減しかねないことも考えられる。したがって、合着力でもきちんと機能する形成理論を周到した支台歯形成を行うことが重要であると考える。
■条件を満たす支台歯形成方法
支台歯形成を行うにあたり、下記事項を遵守することが重要である。
- 補綴物の審美的要素を再現できるだけの厚みを確保する
- 補綴物に十分な強度を与える厚みを確保する
- 補綴物が脱離し難い支台歯形態を持つ
この時、支台歯形成を3分割して考え、それぞれにおける要件を前歯部と臼歯部に分けて考える必要がある。本稿では先に前歯部の要件と形成ステップについて説明する。
■前歯部の支台歯形成
前歯部の支台歯形成にあたり、支台歯形成を「切端部1/3・中央部1/3・歯頸部1/3」に3分割して考えていく。この際に、
①切端部1/3はキャラクタライズ的な審美的要素ゾーン
②中央部1/3は補綴物の強度および色調回復要素ゾーン
③歯頸部1/3は補綴物の脱離を防止するための維持・把持ゾーンであることを認識して形成することが重要である(図1)。
①切端部1/3ゾーン【補綴物の審美的要素を再現できるだけの厚みを確保する】
前歯部において審美的な補綴物を作製するには、切端部と隣接部の光透過性を確保し、マメロンなどの審美的要素を回復できるクリアランスをしっかりと形成しておくことが重要である。
②中央部1/3ゾーン【補綴物に十分な強度を与える厚みを確保する】
歯冠中央部の厚みを確保することは補綴物全体の強度確保につながるため注意が必要である。前歯部において強度を考える際に、咬合する部分である上顎では口蓋側部、下顎においては切端部における厚みを十分に確保する必要がある。上顎口蓋側の基底結節部分は特に厚みに注意する必要がある。
③歯頸部1/3ゾーン【補綴物が脱離し難い支台歯形態を持つ】
テーパー状で筒状に形成された支台歯に覆いかぶさるように作製された蓋(例えば茶筒のようなもの)を外す場合は、クルクルと回転応力をかけて外すか、反復的に倒して外すかの2通りの方法が考えられる。これらの応力に対して抵抗する形態に形成しておくことは補綴物が脱離し難くなることにつながる。したがって、回転を防ぐようにできるだけ正円にならないように歯根の形態を模倣して形成する。そして唇舌側にフラットな面を相対するように形成し必要であれば軸面にグルーブを形成して回転防止に努める。
また、上顎前歯部においては、下顎運動時に補綴物を唇側に傾斜させようとする応力が発生し、かつ舌側の立ち上がりの距離が少ないために上顎前歯舌側は可及的にテーパーが小さくなるように形成する。(図1の歯軸に対する舌側第1面のテーパーは約3°程度になるように形成することが望ましい)
歯頸部におけるマージン部の水平的な幅をしっかりと確保することで、テーパー状に形成されたがために発生する補綴物の歯根尖方向への動きをこの部位で受け止めさせ、かつ補綴物が支台歯にくさび状に入り込んでしまう力に抵抗させ、補綴物の破壊を避けることができる。それと同時に、支台歯の色調変色やメタルコアなどの色調を遮断するためのオペーシャスカラーを表在に出さないことも可能となる。
図1 切端部1/3(切縁より約2.5mm)、中央部1/3、歯頸部1/3(マージン部分より約3mm)
■SELF CREATORの特徴~前歯部用~
SELF CREATOR のバーは、従前のように術者の経験や勘に頼るだけでなく、術者が支台歯の具備すべき条件およびコンセプトを理解して、バーを“定規の代わり”に使用することで誰でも一定の支台歯形成を行えるように開発した商品である(図2)。
前歯部で使用するバーの特徴について説明する。
MP-1:先端のラウンド部分は直径1.2mmで作製され、支台歯が生活歯の場合にはこの2/3の0.8mm、失活歯の場合には1.2mm の深さで歯頸部のマージン設定部を形成する。先端のラウンドから伸びるシャンク部分を細くすることにより、隣接へのアクセスも容易になるように設計された。
MP-2:支台歯の隣接部を解放するために使用する。その際に隣在に容易にアクセスできるようにダイヤモンド部を細く仕上げる設計になっている。
MP-3:先端0.3mmにはダイヤモンドを付着しておらず、この部位をMP-1で形成された部分に軽く触れさせながら形成を行うことで、マージン設定部位が不用意に根尖方向に深く入らないように設計されている。
MP-4:唇側面などのガイドグルーブ形成や、隣接面などの仕上げ形成時などに使用できるように設計されている。
MP-9:深さ0.8mmのグルーブを形成できるように設計されている(研磨シロを合わせると約1.0mmの深さとなる)。
MP-10:上顎前歯部口蓋側面を形成するための形状を有する。
MP-11:下顎前歯部舌側を形成するための形状を有する。
MP-12F:唇側歯頸部をスロープドショルダーに形成するための120°の展開角を有し、先端にダイヤモンドが付着されている。
図2 支台歯形成用バー「 SELF CREATOR」(前歯部)
■前歯部形成ステップ 上顎中切歯のケース
*レギュラーの粗さのバーで形成する際には、形態修正および研磨作業時の削りシロを考慮して形成する必要がある。
①唇側面マージンの形成(使用バー:MP-1)
生PZと失PZとでは、MP-1の最終マージンラインからの設定位置と深さを変更する。生PZでは高さ0.3mmおよび深さ1.2mm、失PZでは高さ0.1mmおよび深さ0.8mmとする(図3~5)。
②舌側面マージンの形成(使用バー:MP-1)
MP-1 を高さ0.3mm および深さ0.6mmとする(図6、7)。
③隣接面の解放(使用バー:MP-2)
隣接歯のコンタクトを傷つけないように形成する(図8)。
④切端部削除(使用バー:MP-9)
隣接歯のマメロン構造を参考にしながら、切端の削除量を決定する。
一回で行われる形成量は、最終形態修正、研磨を考慮すると約1mmである(図9)。
⑤唇面のグルービング(使用バー:MP-9)
筆者は縦溝と横溝を入れて確実に厚みを確保できるようにしている。
一回で行われる形成量は、最終形態修正、研磨を考慮すると約1mmである(図10)。
⑥舌面のグルービング(使用バー:MP-1)
基底結節部上部は形成量が少なくなってしまいがちな部分であるために必ずグルーブを入れるようにしている。深さ1.0mmでコントロールする(図11)。
⑦歯頸部1/3の形成(使用バー:MP-3)
*標準的な上顎中切歯の場合は、咬合平面に対して約30°の角度で行う。
MP-1で整えたマージンの歯根先方向への深さを変えないように、バーの先端0.3mmにダイヤモンドを付与していないMP-3を使用する。歯軸に合わせて形成していくNishikawa method(3軸面形成理論1))を基準にして軸面を整えていく(図12~14)。歯頸部1/3は、必ず歯軸と平行になるように行う(Brの場合には平行性を考慮しなければならないため、勘案しながら行うこともある)。
⑧中央部1/3の形成(使用バー:MP-3 or MP-4)
歯軸に合わせて形成していくNishikawa methodを基準にして軸面を整えていく。中央部1/3は、歯頸部1/3に比較して20°傾斜して形成を行う。*この時に歯頸部1/3の部分は形成しないように気をつける(図15~17)。
⑨切端部1/3の形成(使用バー:MP-4)
歯軸に合わせて形成していくNishikawa methodを基準にして軸面を整えていく。歯頸部1/3は、さらに15°傾斜して形成する。*失PZの時などで許容できる場合には少し凹ませるように形成する(図18、19)。
⑩隣接面第1面・第2面の形成(使用バー:MP-4)
隣接面の形成は切端側より順次行うようにする。隣接面第2面は第1面より傾斜させて行う(図20~22)。
⑪舌面の形成(使用バー:MP-10、*下顎はMP-11を使用する)
舌側面のグルーブをなだらかにする(図23、24)。
⑫唇側スロープドショルダーの形成(使用バー:MP-12F)
歯軸に対して120°の展開角を付与することにより、唇側部に遊離エナメルなどの組織を残さないようにする。歯頸部付近の細胞配列は歯根尖方向に向いているので、特に咬合により補綴物と歯質の境界面に応力がかかる上顎前歯部唇側歯頸部においてはスロープドショルダーに形成するように心がけている(図25、26)。
⑬側軸面の形成(使用バー:MP-4)
舌側の軸面は補綴物の傾斜力による脱離を防止するために、歯軸に対してテーパーは3°以内になるように心がけている(図27)。
⑭唇面・舌面に回転防止機構の付与(使用バー:MP-4)
回転応力により補綴物が脱離しないように唇面と舌面に平行な面形態を付与する(図28)。
⑮Jシェープを整える
マージン部に発生したJシェープを整えることにより補綴物の不適合や長期予後を担保する(図29)。
⑯あらゆる隅角を丸める
補綴物のフィット向上および、補綴物への角の応力を解除するために全ての隅角を丸める(図30)。
図3 唇側面マージンの形成(使用バー:MP-1)
図4 唇側面マージンの形成(使用バー:MP-1)
図5 唇側面マージンの形成(使用バー:MP-1)
図6 舌側面マージンの形成(使用バー:MP-1)
図7 舌側面マージンの形成(使用バー:MP-1)
図8 隣接面の開放(使用バー:MP-2)
図9 切端部削除(使用バー:MP-9)
図10 唇面のグルービング(使用バー:MP-9)
図11 舌面のグルービング(使用バー:MP-1)
図12 歯頸部1/3の形成(使用バー:MP-3)
図13 歯頸部1/3の形成(使用バー:MP-3)
図14 歯頸部1/3の形成(使用バー:MP-3)
図15 中央部1/3の形成(使用バー:MP-3 or MP-4)
図16 中央部1/3の形成(使用バー:MP-3 or MP-4)
図17 中央部1/3の形成(使用バー:MP-3 or MP-4)
図18 切端部1/3の形成(使用バー:MP-4)
図19 切端部1/3の形成(使用バー:MP-4)
図20 隣接面第1面・第2面の形成(使用バー:MP-4)
図21 隣接面第1面・第2面の形成(使用バー:MP-4)
図22 隣接面第1面・第2面の形成(使用バー:MP-4)
図23 舌面の形成(使用バー:MP-10、下顎はMP-11)
図24 舌面の形成(使用バー:MP-10、下顎はMP-11)
図25 唇側スロープドショルダーの形成(使用バー:MP-12F)
図26 唇側スロープドショルダーの形成(使用バー:MP-12F)
図27 側軸面の形成(使用バー:MP-4)
図28 唇面・舌面に回転防止機構の付与(使用バー:MP-4)
図29 Jシェープを整える。
図30 あらゆる隅角を丸める。
- 1)西川義昌、桑田正博、大西一男、 茆原かおり:The Basic Planes for Tooth Preparation 支台歯形成の面基準. クインテッセンス出版.
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