172号 SPRING 目次を見る
キーワード:精度の高い支台歯形成を実現/臼歯部支台歯形成のポイント
■目 次
- ≫ SELF CREATORについて
- ≫ 臼歯部支台歯形成が具備する条件
- ≫ 臼歯部の支台歯形成
- ≫ SELF CREATORの特徴 ~臼歯部用~
- ≫ 臼歯部形成ステップ 上顎第一大臼歯のケース
- ≫ 支台歯の高さが低い時の対処方法
■SELF CREATORについて
前号のデンタルマガジン(VOL.171 12月1日号)の前歯編で紹介した内容であるが、SELF CREATOR は ①形成する部位において具備しなければならない要素を遵守し、②使用する形成用バーの直径などの形状を“定規代わり”として使用することで、形成時におけるエラーを軽減できるコンセプト優先型支台歯形成用バーセットである(図1)。
本稿では前号の続きとして、SELFCREATORを用いた臼歯部支台歯形成について紹介する。
図1 支台歯形成用バー「 SELF CREATOR」セット
■臼歯部支台歯形成が具備する条件
臼歯部補綴物にオールセラミックス・CAD/CAM冠・ジルコニアなどのいわゆる金属色でない補綴物を装着する機会が増加してきている中で、金属に比較して曲げ強度が少ないために、しっかりとした強度が担保できるように補綴物の厚みを確保しながら形成していかなければならない。
また、前歯と同様に、接着に頼り過ぎず合着力でもきちんと維持機能が発揮できる形成理論に基づいた支台歯形成を行うことが長期予後に大きく影響すると考えている。
そして支台歯形成を行うにあたって重要なことは、前歯と同様に下記事項を遵守することである。
・補綴物の審美的要素を再現できるだけの厚みを確保する
・補綴物に十分な強度を与える厚みを確保できるように形成する
・補綴物が脱離しないような支台歯形態になるようにする
これらを満たす支台歯形成を行うには、各部分にどのくらいのクリアランスが必要であるか、支台歯におけるテーパーは何度に設定しておくことが必要であるかを理解したうえで施術することが重要である。この時に支台歯形成を3分割し、それぞれにおける要件を考える必要がある。
■臼歯部の支台歯形成
臼歯部の支台歯を形成するにあたって、支台歯を咬合側部1/3・中央部1/3・歯頸部1/3に3分割して考えていく。
① 咬合側部1/3は咬合力を直接受ける“咬頭”そのものの強度を担保するゾーン
② 中央部1/3は補綴物の強度を担保するゾーン
③ 歯頸部1/3は補綴物の脱離を防止するための維持・把持ゾーン
上記3つの要素を認識して形成することが重要である(図2)。
① 咬合側部1/3ゾーン
【補綴物の咬頭部の強度を担保する厚みを確保する】
臼歯部においては、咀嚼筋などにより咬合面および咬合を支持する咬頭である咬頭にかかる咬合力は前歯部に比較してより強大なものとなる。この時に破折しないように補綴物の強度を担保できるようにクリアランスをしっかりと形成しておくことが重要である。
② 中央部1/3ゾーン
【補綴物に十分な強度を与える厚みを確保できるように形成する】
歯冠中央部の厚みを確保することは補綴物全体の強度を確保することにつながるために注意が必要である。ここの厚みが適正に担保されない場合、補綴物にかかる応力により破断されてしまう恐れがあるためしっかりと確保する。
③ 歯頸部1/3ゾーン
【補綴物が脱離しないように把持・維持が確保されるように形成する】
テーパー状にかつ筒状に形成された支台歯に覆いかぶさるように作製されたもの(例えば茶筒のようなもの)を外そうとする場合は、クルクルと回るような回転応力をかけて外すか、倒しながら外すかの2通りで外すことが行われる。よってこれらの応力に対して抵抗するような形態に形成しておくことは補綴物が脱離されないようにすることにつながる。そのために回転しないようにできるだけ歯根の形態を模倣し正円にならないように形成する。そして支台歯の幅径に対して高さが低すぎる場合には、隣接面にグルーブを形成して回転防止に努める。また、隣在歯が存在しない場合には近遠心に回転力が働くために頰舌面にグルーブを形成して回転防止する。
図2 咬合側部1/3(咬頭の丸みを帯びている部分)・中央部1/3・歯頸部1/3(マージン部分より約3mm)
■SELF CREATORの特徴 ~臼歯部用~
これからは臼歯部形成に使用するバーについて説明する(図3)。
MP-1:先端のラウンド部分は直径1.2mmで作製されており、支台歯が生活歯の場合にはこの2/3の0.8mm、失活歯の場合には1.2mm の深さで歯頸部のマージン設定部を形成する。先端のラウンドから伸びるシャンク部分を細くすることにより、隣接へのアクセスも容易になるように設計されている。
MP-2:支台歯の隣接部分を解放するために使用する。その際に隣在に容易にアクセスできるようにダイヤモンド部を細く仕上げる設計になっている。
MP-3:先端0.3mmにはダイヤモンドを付着させておらず、この部位をMP-1で形成された部分に軽く触れさせながら形成を行うことで、不用意にマージン設定部位がポケット内に深く入らないように設計されている。また、この形成バーを使用するときには水平的な力をコントロールしながら行うことにより、不用意に水平的な形成量が大きくならないように注意することが肝要である。
MP-4:頰側面などのガイドグルーブを形成する際や、隣接面などの仕上げ形成時などに使用できるように設計されている。
MP-5:マージン部分に先端の直径の半分程度を使用して形成することにより、適正な厚みのシャンファー形成が終了し、マージン部分にJ-shapeが発生しづらいように設計されている。
MP-6:主に臼歯部における咬合面の小窩や裂溝部分の形成を行うように設計されている。
MP-7:主に臼歯部における咬合面の中心溝を形成するように設計されている。(両隣在歯の中心溝を参考にしながら中心溝の一番深いところをマーキングする)(深さもダイヤモンドの付与部分が2.0mmであることを参考にする)。
MP-8:先端部分の外周にはダイヤモンドが付着されておらず、MP-7の先端の溝に同部分を合わせて咬合面の幅を決定する。
図3 支台歯形成用バー「 SELF CREATOR」(臼歯部)
■臼歯部形成ステップ 上顎第一大臼歯のケース
*レギュラーの粗さのバーで形成する際には、形態修正および研磨作業時の削りシロを考慮して形成する必要がある。
① 頰・舌側面マージンの形成(使用バー:MP-1)
最終マージン設定部より高さ0.3mmおよび深さ0.6mm(図4、5)。
② 隣接面の解放(使用バー:MP-2)
隣接歯のコンタクトを傷つけないように形成する(図6)。
③ 咬合面小窩部形成(使用バー:MP-6)
近心窩・中心窩・遠心窩部を咬合力に補綴物の強度が担保できるように深さ1.5~2.0mmで形成する(図7)。
④ 咬合面のグルーブを形成する(使用バー:MP-6)
小窩で形成した深さを保持するように主たる裂溝にグルーブを形成し、ついで咬頭頂隆線部にもグルーブを形成する(図8)。
⑤ 中心溝の明示および咬合面の削除(使用バー:MP-7 & MP-6 & MP-4)
両隣在歯の中心溝の位置に合うように中心溝のグルーブを形成するが、このバーのダイヤモンドが付与されている高さが2.0mmあることを参考にして中心溝の深さのチェックも同時に行いながら行うことも可能である(図9)。そして咬合面のグルーブを繋げ天然歯の咬合面形態に相似形になるように平坦にする(図10)。
⑥ 咬合面の咬頭頂位置を決定する(使用バー:MP-8)
天然歯の頰舌咬頭頂間距離は平均6mmあると言われている1)(図11)。MP-8の先端部および先端部周囲にはダイヤモンドバーが付着しておらず、その先端からバーのV字状の凹みまでは3mmの距離がある。天然歯の頰舌咬頭頂間距離は平均6mmあると言われている1)。このバーの先端外周を中心溝に付与したグルーブに接触させながら、隣在歯の咬合面展開角に合うようにバーを倒しながら形成する(図12)。
⑦ 頰舌側第1面(歯頸部1/3)形成(使用バー:MP-3)
MP-3の先端部分にはダイヤモンドが付着されていないために形成時にマージン部分を不用意に根先方向に移動させてしまうことがない。このバーの半径(0.8mm)がマージン部分の水平的な幅となるように、かつ歯軸に合わせて形成していくNishikawa method(3軸面形成理論1))を基準にして軸面を整えていく。歯頸部1/3 はマージン部より2~3mmの範囲の立ち上がり部であり、クラウンの維持・把持を機能させる部分である、この部位は歯軸と平行になるように行う。(歯軸に対して0~3度近辺で)(Brの場合には平行性を考慮しなければならないため、勘案しながら行うこともある)(図13)。
⑧ 頰舌側第2面(中央部1/3)形成(使用バー:MP-3 or MP-4)(図14)。
頰舌側第1面(歯頸部1/3)より上方部分を、Nishikawa method(3軸面形成理論1))を基準にして軸面を整えていくが、第1面より15度傾斜させて形成する。
⑨ 頰側第3面(咬合側部1/3)形成
咬頭を形成する球体部をNishikawa method(3軸面形成理論1))を基準にして軸面を整えていくが、機能咬頭頂が対合歯の窩に向かうように形成する。そしてこの時に頰舌的な機能咬頭頂間距離は6mmとなるようにする(図15)。
⑩ 隣接面部&四隅角の形成(使用バー:MP-4)
解放されている隣接面の軸面を形成すると同時に四隅角を整えるようにするが、この時にこの四隅角部のマージンの幅が大きくならないように全体的に同じ幅とするようにし、マージンは歯根の形と相似形となるようにする。このことによりクラウンが回転して脱離することを防止する機構ともなる(図16、17)。
⑪ マージンの根先方向への深さなどを整える(使用バー:MP-5)
スーパーファインのダイヤバーを用いて、マージン部分を整える。
⑫ Jシェープを整える
マージン部に発生したJシェープをラウンドチゼルなどを用いて整えることにより補綴物の不適合や長期予後を担保する。
⑬ あらゆる隅角を丸める
補綴物のフィット向上および、補綴物への角の応力を解除するために全ても隅角を丸める(図18~20)。
図4 頰・舌側面マージンの形成(使用バー:MP-1)-
図5 頰・舌側面マージンの形成(使用バー:MP-1) -
図6 隣接面の解放(使用バー:MP-2) -
図7 咬合面小窩部形成(使用バー:MP-6)
図8 咬合面のグルーブを形成する(使用バー:MP-6)-
図9 中心溝の明示および咬合面の削除(使用バー:MP-7 & MP-6 & MP-4) -
図10 中心溝の明示および咬合面の削除(使用バー:MP-7 & MP-6 & MP-4) -
図11 咬合面の咬頭頂位置を決定する(使用バー:MP-8) -
図12 咬合面の咬頭頂位置を決定する(使用バー:MP-8) -
図13 頰舌側第1面(歯頸部1/3)形成(使用バー:MP-3) -
図14 頰舌側第2面(中央部1/3)形成(使用バー:MP-3 or MP-4) -
図15 頰側第3面(咬合側部1/3)形成 -
図16 隣接面部&四隅角の形成(使用バー:MP-4) -
図17 隣接面部&四隅角の形成(使用バー:MP-4) -
図18 あらゆる隅角を丸める。 -
図19 あらゆる隅角を丸める。 -
図20 あらゆる隅角を丸める。
■支台歯の高さが低い時の対処方法
支台歯の頰舌径(BL)に対して支台歯の高さ(H)が低くその比率がH/BL<0.4の場合は、クラウンが頰舌的に回転してしまい脱離してしまう可能性があるために、隣接面部にH/BL>0.4となるようなグルーブを付与する。また、近遠心に隣在歯が存在しない場合には頰舌側にもH/BL>0.4となるようなグルーブを付与することにより脱離防止機構とする(図21、22)。
図21 支台歯の高さが低い時の対処方法
図22 支台歯の高さが低い時の対処方法
- 1) 西川義昌、桑田正博、大西一男、 茆原かおり:The Basic Planes for Tooth Preparation 支台歯形成の面基準. クインテッセンス出版.
マニーダイヤバーを用いた支台歯形成(臼歯)の動画はコチラから
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