172号 SPRING 目次を見る
<渥美克幸 院長>
歯科における予防とは何を指すのでしょうか。医療では予防を3段階に分けて考えます。健康増進、特殊予防(教育、予防接種)などの疾病予防が一次予防にあたり、これが一般的な「予防」のイメージでしょう。しかし、忘れてはいけないのが二次予防、三次予防です。
健康診断などによる早期発見・早期処置、適切な医療の実施、合併症対策の実施といった重症化を防ぐための処置が二次予防に、リハビリテーションによって機能回復を図るなど疾病の再発を防ぐための処置が三次予防にあたります。
つまり、予防の概念はさまざまなステージに適用されるべきものであり、単にう蝕にならないため、歯周病にならないために行うという小さなイメージではありません。当院では治療中の重症化防止や治療後のメインテナンスなど、各ステージにおいて予防が必要であるという考えのもと、診療に取り組んでいます。
さて、そうした方針を実践する中で現在、欠かせないアイテムとなっているのがソニッケアーです。例えば、ポンティックの底面に隙間があるなど、プラークが溜まりやすい口腔環境の患者さんが来院することがあります。ブリッジの作り直しを行う場合もありますが、無理なく的確にプラークが掻き出せるのであれば、セルフケアで様子をみることもあります。また、インプラント治療をされる患者さんにはプラークコントロールをしっかり行うことで、より長期的にインプラントを使っていただけるよう、治療開始前後にソニッケアーをお薦めすることもあります。
私がソニッケアーの有用性を最初に実感したのは勤務医時代の訪問診療の現場においてでした。腱鞘炎などで手指が上手に動かせない患者さんに使用した際に高い効果を、しかも短時間で得ることができたのです。
開業後は費用対効果が見込めるのか懐疑的な部分もありましたが、手磨きでは実現が難しい清掃性を手軽に得られることは、患者さんにとっても我々にとっても十分なメリットだと感じ、当院でも導入することを決めました。
補綴物を製作する際にはプラークが停滞しにくく、清掃性が高い形態にすることを心がけています。しかし、他院から転院して来られる患者さんを含め、実際にはさまざまな患者さんがおり、口腔内環境も十人十色です。そうした患者さん一人ひとりに前述のような予防の考えを取り入れた診療を実践するには、より的確なセルフケアが大切になります。そのためにもソニッケアーが当院の診療において重要な役割を果たしているものと感じています。
<黒田玲菜 歯科衛生士>
電動歯ブラシは高い歯垢除去率を期待できるものですが、使い方によっては十分な効果が得られない場合があります。そのため、当院では販売したまま放置せず、必ずフォローするようにしています。導入後の指導によって効果が表れた症例を紹介します。
症例1の患者さんは歯磨きの際の歯頸部からの出血、加えて歯石と着色を主訴に来院された20代男性です(症例1-1)。もともとソニッケアーをお持ちでしたが、使用する際に手磨きのように動かしてしまう癖があるという話でした。また、76 の舌側の歯頸部にプラークが分厚く付着しているのが確認できました(症例1-2、1-4)。
電動歯ブラシは手磨きのようにハンドルを動かすのではなく、ブラッシングそのものは本体に任せ、ブラシヘッドを軽く歯に当てるだけでよいことを伝え、模型を使ってブラシの角度や動かし方を説明。また、歯の裏側は見えづらく、患者さん自身がプラークの付着に気づいていなかったため、写真と動画を活用し、プラークが残りやすい歯頸部の位置を確認してもらいました。
1ヵ月後にはプラークの付着がなくなり、出血も落ち着き、歯肉も引き締まったように見受けられました(症例1-3、1-5、1-6)。電動歯ブラシはブラシの当て方次第で効果が大きく変わるものです。そのため導入後も細かな指導が大切であると改めて感じた症例でした。
<宇野菜都美 歯科衛生士>
「インプラントは一生もちますか」と質問されることがあります。高い予知性を獲得するために様々な点に配慮したとしても、インプラントにはメインテナンスが絶対に必要ですし、長期間ご使用いただくにはセルフケアが欠かせません。そこで当院では、インプラント治療をされた患者さんにはソニッケアーをお薦めするようにしています。
症例2はインプラントの埋入が終了し、メインテナンスを行いながら、経過観察をしている患者さんです(症例2-1~2-4、2-6)。もともと面倒臭がりな性格で、ご自身で「不器用」とおっしゃっており、手磨きが苦手な方でした。実際に磨き残しが多かったため、「とても良いツールがありますよ」とまずは大雑把にお伝えし、ソニッケアーを紹介。また、「面倒臭がり」「不器用」ということから、「口の中で当てるだけでいいですから」という声かけも意識的に行いました。
導入後、「インプラントの部分に当てにくい」という相談があったため、歯頸部に対して斜め45度の角度で当てること、歯間ブラシを併用することをアドバイス。また、口蓋側の着色や磨き残しが多かったため、ブラシヘッドを歯垢・ステインが除去しやすいプレミアムホワイトに変更することを提案しました。使い方に慣れてくるとプラークもしっかり除去できるようになり、お子さん用にもう1本購入されるなど、積極的に使っていただけるようになりました(症例2-5、2-7)。
インプラントの上部構造は磨きやすい形態で製作されていても、隅角部をはじめブラッシングが難しい箇所があるものです。手磨きでは届きにくい場所にも効果が及ぶソニッケアーは、インプラント治療をされた患者さんのセルフケアにもメリットがあると感じています。
<篠永美佳 歯科衛生士>
電動歯ブラシが苦手な方が、その理由として挙げる多くが「こそばゆい」というものです。ですがこの言葉をそのままに受け取ってしまうと患者さんの真意が見えなくなってしまうことがあります。
症例3の患者さんは前院でソニッケアーを紹介されて購入したものの、初診時には使われていないという方でした(症例3-1~3-3)。理由を訊ねると「こそばゆい」という回答でした。歯牙が自然脱落するなど重度の歯周病に罹患しており、フルマウスディスインフェクションの処置をした方だったため、より良い結果を導き出すためにも、どこかのタイミングでソニッケアーを導入して欲しいと考えていました。
そこで最初に取り組んだのが音波水流の特徴が伝わるデモストレーションをお見せすること。それからチェアサイドで実際に口腔内に入れていただき、手磨きとの違いを説明することでした。ただし、興味のない方に無理強いをしても使ってもらえるようにはなりません。そのため、使用頻度については「1週間に1度でも気が向いたときに使ってみてください」と伝えました。
次の来院時、ソニッケアーを使っているというお話だったので、今度はブラシヘッドをホワイトプラス コンパクトから、プラークの除去効率を高めるためにブラシヘッドが大きめのプレミアムクリーンに変更することを提案。さらに次の来院時にはブラッシングモードを優しく磨くセンシティブモード(旧モデル搭載機能)から、よりきれいに磨けるスタンダードなクリーンモードに切り替えることを提案しました(症例3-4)。
当初、ブラシヘッドがコンパクトサイズだったり、ブラッシングモードがセンシティブモードだったのは、「こそばゆい」ことへの対策でした。しかし、より効果的に磨いていただくために、コミュニケーションを図りながら、じっくり時間をかけてステップアップしていきました。その間には「すごくプラークが取れていますよ」と前向きな声かけも心がけました。
以上のような経過をたどり、初診から3ヵ月後にはほぼ磨き残しがなくなり、ご本人からも「最近、ツルツルする」と感想が聞けるまでになりました(症例3-5~3-7)。
さて、一連の流れを振り返ったとき、この患者さんがソニッケアーを使っていなかった理由は、本当に「こそばゆい」だけだったのでしょうか。
電動歯ブラシの使用感に対する答えは、実は「使うことの意味」をどう捉えるかによって変わってくるのではないかと思っています。つまり、この患者さんは前院での購入時に「良いツール」と紹介を受けたものの、具体的な使い方を指導されなかったために必要性を実感できず、使う意味を見出せなかったのです。そうなると、ブラシヘッドの振動するイメージが先行し、使わないことへの理由づけとして「こそばゆい」と余計に感じるようになったのだと思います。
事実、その必要性を実感されてからは、「こそばゆくはあるけれど、使った方が良い」と考えてもらえるようになり、当て方をご自身で工夫されるなど積極的に使用していただけるようになりました。
ソニッケアーは振動によってプラークを除去するだけでなく、音波水流で毛先が届きにくい箇所にもアプローチし、より効率的にプラークを除去することができる電動歯ブラシです。そうしたメリットをどれだけ具体的にきちんとお伝えできるかによって、「こそばゆい」という感想も変わってきます。より高く、そして深いレベルでの「予防」を実践するためにも、私たちの伝える努力も必要なのではないかと思っています。
症例1-1 歯頸部からの出血、歯石と着色を主訴に来院された。
症例1-2 6 (舌側)。ブラッシング指導前。歯頸部にプラークが分厚く付着している。
症例1-3 6(舌側)。ブラッシング指導後1ヵ月の状態。プラークの付着は認められない。
症例1-4 7 (舌側)。ブラッシング指導前。6同様プラークの付着が認められる。
症例1-5 7(舌側)。ブラッシング指導後1ヵ月の状態。8 が半埋伏のため限界もあるが、かなり状況を改善することができた。
症例1-6 ブラッシング指導後1ヵ月の状態。出血は落ち着き、歯肉も引き締まった。
チェアサイドで歯頸部へのブラシの当て方を指導している様子。
症例2-1 初診時の上顎咬合面観。6 にインプラント埋入を行うこととした。
症例2-2 インプラント埋入後、プロビジョナルレストレーションを装着した状態。
症例2-3 歯周精密検査の結果。上が初診時、下が現在の状態。
症例2-4 65(舌側)。ソニッケアー使用前。歯頸部にプラークの付着が認められる。
症例2-5 65(舌側)。ソニッケアー指導後。プラークの付着は認められない。
症例2-6 6 インプラント部(口蓋側)。ソニッケアー使用前。隣接部を中心にプラークの付着が認められる。
症例2-7 6 インプラント部(口蓋側)。ソニッケアーおよびI DB指導後。セルフケアのレベルは格段に向上した。
形状やサイズ、毛先の硬さなど、患者さん一人ひとりに合わせたブラシヘッドを提案する。
症例3-1 初診時の状態(正面観)。
症例3-2 初診時の状態(右側方面観)。
症例3-3 初診時の状態(左側方面観)。
症例3-4 2ヵ月後の状態。ソニッケアーの使用にも慣れてきたが、隣接面や切端部にプラークが残っている。歯垢の除去効率を高めるため、ブラシヘッドをプレミアムクリーンに、ブラッシングモードをクリーンモードに変更した。
症例3-5 3ヵ月後の状態。ほぼ磨き残しがなくなり「最近、ツルツルする」と感想が聞けるまでになった。
症例3-6 3ヵ月後の状態(右側方面観)
症例3-7 3ヵ月後の状態(左側方面観)。
デモンストレーション用の模型を使って、ブラシヘッドの高速振動の様子を視覚的に説明する。
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