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Clinical Report

i-TFCシステムを用いた予知性の高い支台築造(第2報)~特に直接法について~

埼玉県川口市 デンタルクリニックK 渥美 克幸

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目 次

はじめに

支台築造は日常臨床において重要かつ必要不可欠な処置である。その選択肢としてファイバーポスト併用レジン支台築造(以下FPC)が我々の臨床に加わり、早いもので10年が経過しようとしている。
従来使用されてきた金属とグラスファイバーは材料学的に全く別のものである。FPCは、その材料学的特性を十分に活かすことができれば、鋳造支台築造や既製金属ポスト併用レジン支台築造に比べ、審美性や垂直性歯根破折の危険性の軽減など優れた点が多いと言われている(図1)。
しかし、物性が異なれば当然使用方法も異なる。つまり、今まで既製金属ポストを設置していた場所にグラスファイバーポストを設置すればよい、と言う訳ではない。また、残念ながらこの事実が歯科医師や歯科技工士の間に浸透しているとは言い難い。
グラスファイバーの長所を最大限に引き出すためには、過去からの膨大な知見を継承しつつ「グラスファイバーを補強材として使う」と言うことを前提とした考察が必要となる。
本稿では、グラスファイバーの特性を活かした予知性の高い支台築造ができる「i-TFCシステム」(図2)を用いた直接法の症例を、考察と共に供覧させていただきたいと思う。また併せて、主に間接法支台築造について述べた拙著1)もお読みいただきたい。

1.予知性の高い支台築造を行うために必要な3つのポイント

予知性の高い支台築造を行うために考察しなければならないことは数多くある。
ここでは、確実なカリエス除去および適切な歯内療法が行われていることを前提に、筆者が最重要項目と考えている3つのポイントに絞って考察をしてみたい。

  • Point① 歯肉縁上歯質の獲得
  • Point② ファイバーアレンジメント
  • Point③ 根管象牙質との接着

2.歯肉縁上歯質の獲得

歯肉縁上歯質は咬合力の負担、またフェルール効果を得る役割を担っており、過去の報告によれば、少なくとも幅1mm、高さ1mm程度の健全歯質が必要だと考えられている。
またFPCは垂直性歯根破折を起こしにくい反面、歯肉縁でFPC自体の水平性破折が発生しやすい。これは使用材料の物性によるところが大きく、この点を改善するために後述のファイバーアレンジメントが大切になってくるが、少なくとも歯肉縁上歯質があることにより破折強度は大きく向上することがわかっている。そのため、水平性破折を防止するためにも歯肉縁上歯質は必要不可欠だと考えられる。

3.金属とグラスファイバーの違い

金属とグラスファイバーは具体的にどのような点が異なるのであろうか。
このような場合、「曲げ強さ」と「曲げ弾性率」で比較するのが一番わかりやすい。曲げ強さとは、曲げ試験において試験片に亀裂や破損・破断に至るまでにどれだけ荷重をかけることができるのかを示し、曲げ弾性率はその材料の変形しにくさを示す。
支台築造材料に求められる物性は、象牙質よりも高い曲げ強さ(≒破損しにくい特性)と、象牙質と同等の曲げ弾性率(≒荷重に対して同じひずみ挙動を示す)である。
鋳造用金属も既製金属ポストも曲げ強さにおいては条件をクリアしているが(表1)、曲げ弾性率においては象牙質の物性を大きく逸脱している。これは、荷重がかかると築造体と歯根(=象牙質)が異なったひずみ挙動を示すことを示唆しており、ひいてはこれがポスト先端に応力を集中させ、垂直性歯根破折につながると考えられている。
一方グラスファイバーは曲げ強さ、曲げ弾性率ともに条件をクリアしている。しかし併用されるコンポジットレジンは曲げ強さが低い。元々両者を併用する目的の一つは、コンポジットレジンの低い曲げ強さをグラスファイバーで補強することにある。それでは、これらをどのように組み合わせればよいのであろうか。

  • 図1 ガラス管を歯根と見立て、左が金属、右がグラスファイバーを使用した時のイメージ
    図1 ガラス管を歯根と見立て、左が金属、右がグラスファイバーを使用した時のイメージ。左はガラス管(=歯根)の破折が認められる(サンメディカル提供)。
  • 図2 i-TFCシステム光ファイバーポスト&レジンセット(サンメディカル提供)。
    図2 i-TFCシステム光ファイバーポスト&レジンセット(サンメディカル提供)。
  • 表1 象牙質および各材料の曲げ強さならびに曲げ弾性率
    表1 象牙質および各材料の曲げ強さならびに曲げ弾性率
    高橋英和:支台築造歯の歯根破折のメカニズム,補綴誌, 45(6):669-678, 2001. より改変引用。

4.ファイバーアレンジメント

グラスファイバーの補強効果を得るためには、その配置が非常に重要になる。真鍋らはその設計と実技をファイバーアレンジメントと名付けている2)が、著書の中で「もっとも強い力(引張り応力)がかかるところに、かならずファイバーが入っていること、これが一番重要」(一部改変)と述べている。これは、FPCにおいて大切なのはグラスファイバーの高い引張り強さを最大限活かすこと、という意味に他ならない。
グラスファイバーの補強効果を最大限に発揮させるためには、引張り応力がかかる部分に設置するのがよいとされている。また、一般的に、補強材の引っ張り強さに依存する設計では、補強材を最外周に配置するのが原則だといわれている3)
咬合力が加わると、その直下歯頸部に引張り応力がかかることが知られている(図3)。また、FPC装着歯は歯肉縁での破折が最も多いことも知られている。
上記のことを考慮すると、機能咬頭直下の歯頸部にのみグラスファイバーを設置すればよいようにも思えるが、それぞれの歯にどのような方向から咬合力がかかるかは、歯の部位やポジション、咬合接触状態によって異なる。また、パラファンクション等も考慮すると、水平的には全周かつ最外周に、また垂直的には歯肉縁ラインをまたぐようにグラスファイバーを設置するのが一番効果的ではないかと考えている(図45)。

  • 図3 歯に咬合力が加わった時の挙動。
    図3 歯に咬合力が加わった時の挙動。図に示すとおり、咬合力直下の歯頸部に引張り応力がかかる。
  • 図4 緑枠の部分を補強する、という意識をもつことが大切である。
    図4 緑枠の部分を補強する、という意識をもつことが大切である。水平的には全周かつ最外周に、垂直的には歯肉縁ラインをまたぐように配置する。
  • 図5 左のような配置ではファイバーの特性が全く活かせない。右のようなイメージを持つことが大切だと考えている。
    図5 左のような配置ではファイバーの特性が全く活かせない。右のようなイメージを持つことが大切だと考えている。

5.根管象牙質との接着

コンポジットレジン修復もFPCによる支台築造も「象牙質とレジンを接着させる」という面においては同じである。しかし以下に挙げる理由で、FPCの接着の方が圧倒的に不利であると考えている。
まず、支台築造時の接着対象である根管象牙質は、歯冠側と根尖側における象牙質の解剖学的形態の違いにより、歯冠側象牙質に比べて接着強さが有意に低くなる傾向がある。
また、根尖側で生成されるスメアは粘度が高く層が厚くなるため除去が困難であり、これも接着強さの低下につながる。
支台築造における最大の特徴である細くて深いポスト形状も様々な問題を引き起こす。まず、重合収縮応力を解放するために必要な自由面積が非常に少なくなるため、c-factor の観点から接着に不利に働くと考えられる(図6)。
さらにこの形状は、重合に必要な光エネルギーを根尖側に与える際にもマイナスに作用する。一般的にこの問題をクリアすべく支台築造用ボンディング材やコンポジットレジンはデュアルキュアであることが多いが、それらの中に含まれる接着性モノマー(モノマーの歯質への浸透に必要不可欠)とレドックス重合触媒の相性は悪いことが知られており、化学重合部分にはあまり期待ができない。
そのため、デュアルキュアシステムにおいて光の到達性が低いことは予知性を下げる要因と考えられるが、この点に関しては後述の光ファイバーポストを使用すれば解決できる。ただし、光重合による急激な重合収縮が接着を破綻させる危険性は無視できない。
また、アセトンやエタノール等の希釈溶媒を含むボンディング材を使用する場合、塗布後十分なエアブローを行わないと所定の性能は発揮できないが、ポストの先端までエアブローを行うためには様々な工夫が必要であり、この点も難易度を上げる要因になっている(図7)。
これらをすべてクリアしてくれるのは、唯一スーパーボンドであろうと考えている(図8)。
表面処理材グリーンにより確実にスメアが取り除かれることに加え、自己完結型化学重合であるため光の到達性に関して神経質になる必要はなく、またその緩やかな重合スピードは収縮応力による接着の破綻を起こしにくい。
また、接着性モノマーと無理なく共存ができ、微量の水分の存在下で初期重合速度が上昇する重合開始剤TBB(キャタリストの主成分)の存在や硬化体の適度なしなやかさなども支台築造の接着に適しているのでは、と考えている。

6.なぜ i-TFCシステムを選ぶのか

「i-TFCシステム」は2007年に発売されて以降、年々ラインナップの拡充がなされているが、現在筆者はそのなかでも「光ファイバーポスト&レジンセット」を好んで使用している。
①光ファイバーポスト
導光性に優れた光ファイバーを中芯に、周囲をグラスファイバーで編み込みポストに成形してある(図9)。適切に根尖方向に導光できるポストであり(図10)、この特徴は支台築造という特殊な環境の接着において必要不可欠だと考えている。
②スリーブ
グラスファイバーを外径2mmのチューブ状に編み込み成形したものである。築造体の中心に光ファイバーポストを、その周囲にスリーブを設置すると、自動的にグラスファイバーが水平的に全周かつ最外周に配置され(図11)、繊維強化材の力学に沿った高い補強効果が期待できる。
③ポストレジンおよびコアレジン
前述の通り、デュアルキュアタイプには不安要素があるため光重合タイプが好ましいと考えている。ただし、これらは光ファイバーポストがあって初めて使用可能であることを忘れてはならない。

  • 図6 オレンジ色の部分が接着に関わる。支台築造の場合、ファイバーも接着面積を増す原因になるため、自由面積はさらに少なくなる。
    図6 オレンジ色の部分が接着に関わる。支台築造の場合、ファイバーも接着面積を増す原因になるため、自由面積はさらに少なくなる。
  • 図7 細くて深いポスト形状では、通常のエアブローでポスト先端まで届くとは考えにくく、細ノズルを併用したブローや根管内バキュームでの吸引等の工夫が必要となる。
    図7 細くて深いポスト形状では、通常のエアブローでポスト先端まで届くとは考えにくく、細ノズルを併用したブローや根管内バキュームでの吸引等の工夫が必要となる。
  • 図8 築造には、X線造影性や操作性などから混和ラジオペークを使用している。接着を応用した支台築造を行うことで、コロナルリーケージの防止にもつながると考えている(サンメディカル提供)。
    図8 築造には、X線造影性や操作性などから混和ラジオペークを使用している。接着を応用した支台築造を行うことで、コロナルリーケージの防止にもつながると考えている(サンメディカル提供)。
  • 図9 ポストとスリーブの断面図(サンメディカル提供)。
    図9 ポストとスリーブの断面図(サンメディカル提供)。
  • 図10 光ファイバーにより確実に根尖部分のレジンが重合でき、光重合レジンを用いても確実な支台築造が可能となった(サンメディカル提供)。
    図10 光ファイバーにより確実に根尖部分のレジンが重合でき、光重合レジンを用いても確実な支台築造が可能となった(サンメディカル提供)。
  • 図11 i-TFCシステムではスリーブが必ずポストの外周に配置される設計となっている。
    図11 i-TFCシステムではスリーブが必ずポストの外周に配置される設計となっている。

7.臨床例図1223

今まで述べたことをふまえ、スーパーボンドを用いた直接法の臨床例を供覧する。

  • 図12 40代女性。テンポラリークラウンを接着し隔壁として使用している。
    図12 40代女性。テンポラリークラウンを接着し隔壁として使用している。通法に従いアプローチしたが根尖病変を治癒に向かわせることができず、歯根端切除が必要と診断。前準備としてMTAを用いた根管充填を行った。築造形成後の状態を示す。
  • 図13 試適用ファイバーを用いてアレンジメントを行う。
    図13 試適用ファイバーを用いてアレンジメントを行う。このケースではφ0.9mmのポストとスリーブ、半切したスリーブを使用することとした。上顎前歯部は口蓋側歯頸部に引張り応力がかかるため、その部分を特に補強する配置とした。
  • 図14 準備したファイバー。表面滑沢剤につけ込んである。
    図14 準備したファイバー。表面滑沢剤につけ込んである。この前処理方法については拙著1)を参照していただきたい。
  • 図15 まず表面処理材グリーンによりエッチングを行い、ポスト内のスメア層を確実に除去する。
    図15 まず表面処理材グリーンによりエッチングを行い、ポスト内のスメア層を確実に除去する。
  • 図16 根管内バキューム等を用いて、ポスト内を完全に乾燥させる。
    図16 根管内バキューム等を用いて、ポスト内を完全に乾燥させる。
  • 図17 クイックモノマー4滴+キャタリスト1滴+混和ラジオペークカップ1杯をミキシングステーション内で混和し、シリンジで一気に移送する。(図17〜20はオレンジフィルター下で撮影。)
    図17 クイックモノマー4滴+キャタリスト1滴+混和ラジオペークカップ1杯をミキシングステーション内で混和し、シリンジで一気に移送する。(図17〜20はオレンジフィルター下で撮影。)
  • 図18 その後すぐにi-TFCポストレジンを填入する。あふれ出たレジンはバキュームで吸うと視界が遮られない。
    図18 その後すぐにi-TFCポストレジンを填入する。あふれ出たレジンはバキュームで吸うと視界が遮られない。
  • 図19 準備しておいたファイバーをアレンジメント通りに挿入していく。まずはポスト+スリーブを挿入した。
    図19 準備しておいたファイバーをアレンジメント通りに挿入していく。まずはポスト+スリーブを挿入した。
  • 図20 続いて半切したスリーブを口蓋側へ挿入した。
    図20 続いて半切したスリーブを口蓋側へ挿入した。
  • 図21 ファイバーの挿入を完了後、スーパーボンドと象牙質、またi-TFCポストレジンが十分に反応するのをまってから光照射、重合を行う。
    図21 ファイバーの挿入を完了後、スーパーボンドと象牙質、またi-TFCポストレジンが十分に反応するのをまってから光照射、重合を行う。
  • 図22 重合完了後、形態を修正した状態とデンタルX線写真。今後隔壁代わりのテンポラリークラウンを削合除去し、改めてプロビジョナルレストレーションを装着後、歯根端切除術を施行予定。
    図22 重合完了後、形態を修正した状態とデンタルX線写真。今後隔壁代わりのテンポラリークラウンを削合除去し、改めてプロビジョナルレストレーションを装着後、歯根端切除術を施行予定。
  • 図23 良質な樹脂含浸層及び太いレジンタグの形成が観察される
    図23 良質な樹脂含浸層及び太いレジンタグの形成が観察される4)。もちろん3分以上おいてから光照射しても問題ない。

8.本術式の考察

本術式に妥当性があるのか確認すべく、抜去歯を用い臨床例と同じ方法で筆者が自ら築造を行い、象牙質接着性の評価をSEM観察により行った4)
象牙質とスーパーボンドが十分に反応する時間を確保するため、i-TFCポストレジン填入開始から3分経過後に光照射して重合させると、良質な樹脂含浸層及び太いレジンタグの形成が観られ、根管象牙質との良好な接着性が示唆された(図23)。
また相乗効果として、スーパーボンドの重合反応の結果出てくるラジカルがi-TFCポストレジンの重合も促進してくれる。もちろん完全に重合させるために光照射は不可欠だが、これにより急激な重合収縮応力の発生も抑えることが期待できるのではないかと考えている。

9.直接法 vs 間接法

以上の結果もふまえ、筆者は現在スーパーボンドを用いることができるのであれば直接法でも間接法でも問題ないと考えている。
手間やコストなどの問題から可能な限り直接法で行うようにしているが、どちらの方法で行うにしても、最も大切なことはファイバーアレンジメントを確実に行うことである。
挿入するファイバーの本数が多くなる場合、時間の制限がある直接法では完遂することが難しい場合がある。そのため、前歯および小臼歯(単純なものに限る)は直接法、それ以外を間接法で行うことが多い。なお、ファイバーアレンジメントに習熟するために、間接法から導入することをお勧めする。

おわりに

繰り返しになるが、ファイバー併用レジン支台築造において高い予知性を獲得するためには、少なくとも「歯肉縁上歯質」「ファイバーアレンジメント」「接着」を欠かすことはできないと考えている。
本稿がi-TFCシステムや接着支台築造をオプションに組み込む参考になれば幸いである。

参考文献
  • 1)渥美克幸:i-TFCシステムを用いた予知性の高い支台築造,DentalMagazine,138,44-47,2011.
  • 2)真坂信夫,諸星裕夫編:i-TFCシステムの臨床,(株)ヒョーロンパブリッシャーズ,東京,2009.
  • 3)真鍋顕:臨床理工講座/「i-TFCシステム」による新しい概念の支台築造,日本歯科評論,67(7):99-104,2007.
  • 4)渥美克幸:予知性の高い支台築造を考える〜根管象牙質との接着方法について〜,接着歯学,31(3):122,2013.

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