171号 WINTER 目次を見る
キーワード:超小型精密成形技術/「歯垢除去力の低さ」を改善/ワイヤー・ノンワイヤーの特長を併せ持つ
■目 次
- ≫ はじめに
- ≫ ① 開発の考え方 ~なぜノンワイヤータイプの歯間ブラシの歯垢除去力は低いのか~
- ≫ ② 製品の設計 ~ノンワイヤータイプの歯間ブラシの歯垢除去力を高めるための着眼点~
- ≫ ③ 製品の機能 ~高密度の突起を持つ歯間ブラシが高い歯垢除去力を示すことの検証~
- ≫ まとめ
■はじめに
口腔清掃の主な目的は、口腔内の汚れ、特に歯垢や歯石を除去することです。口腔清掃により、口腔の組織を清潔に保ち、う蝕や歯周病といった疾患を予防することが可能となります。
歯垢除去の一般的な方法は歯みがき(歯ブラシによるブラッシング)ですが、通常のブラッシングで歯垢を完全に除去することは困難です。特に歯間部は最も汚れが溜まりやすく、かつ清掃しにくい部位であるため1)、デンタルフロスや歯間ブラシなどの歯間清掃用具を歯ブラシと併用することが望ましいと言えます。
近年、高齢者人口の増加に伴い、義歯に加えてインプラント等の比較的高額な補綴治療を行う方が増えています2)。
インプラントは天然歯に近しい機能を発揮する一方、適切なケアをしないと、骨の破壊を伴う「インプラント周囲炎」に繋がる危険性があることも事実です3)。そのため、歯科分野では「インプラント等の補綴物にも使用できる歯間清掃用具」に対するニーズが高まっています。
歯間清掃用具の1つである歯間ブラシには、軸材として金属ワイヤーを使用した「ワイヤータイプの歯間ブラシ」と、プラスチック素材(硬質樹脂)を使用した「ノンワイヤータイプ(一般的にゴムタイプ)の歯間ブラシ」があります(表1)。
ワイヤータイプの歯間ブラシは、歯間の歯垢除去力や除去実感が良好ですが、歯や歯肉を傷つけそうな「イメージ」を持つ生活者が少なからず存在すると考えられます。そのため、金属ワイヤーを樹脂でコーティングした歯間ブラシも開発されていますが、歯科医院での取扱い率は伸びておらず4)、生活者の不安を払拭しきれていないと推察されます。
一方、ノンワイヤータイプの歯間ブラシは、金属ワイヤーやプラスチック繊維の毛を使用していないため、ワイヤータイプの歯間ブラシと比較して、歯や歯肉に対するやさしさが外観から想起されるとともに当たり心地も良好です。しかし、ワイヤータイプの歯間ブラシよりも歯垢除去力が低い5)という欠点もあります。
このような背景から、「歯や歯肉へのやさしい当たり心地」と「歯垢除去力」を両立する歯間ブラシが必要であると考えました。
そこで、ワイヤータイプとノンワイヤータイプの両方の特長を兼ね備えた歯間ブラシとして、補綴歯を含む歯や歯肉に対して安心して使用でき、優れた歯垢除去力を発揮する「DENT.EX歯間ブラシNON WIRE」(図1)を開発しました。
以下に、①開発の考え方、②製品の設計、③製品の機能について、詳細を示します。
表1 歯間ブラシの種類と各タイプの特徴
図1 DENT.EX 歯間ブラシNON WIRE(S~Mサイズ)
■① 開発の考え方
~なぜノンワイヤータイプの歯間ブラシの歯垢除去力は低いのか~
「歯や歯肉への当たり心地」と「歯垢除去力」を両立する歯間ブラシを開発するための方策として、ワイヤータイプの歯間ブラシの当たり心地を向上させる方法と、ノンワイヤータイプの歯間ブラシの歯垢除去力を向上させる方法の2つが考えられます。
本開発では、人工歯を含む歯や歯肉に対して安心して使用できる「外観」であることを重視し、ノンワイヤータイプの歯間ブラシの歯垢除去力を向上させることとしました。
歯間ブラシを用いた清掃は、図2のようにブラシを一定方向に繰り返し動かして行います。
歯間ブラシの歯垢除去力を向上させるポイントとして、歯垢の「かき取り力」と、かき取った歯垢を「保持する力」の2つが重要です。
ノンワイヤータイプの歯間ブラシがワイヤータイプの歯間ブラシより歯垢除去力が低くなる大きな理由として、この2つの機能を果たす「刷毛」の数が少なく密度が低いことが挙げられます。
ワイヤータイプの歯間ブラシは数百本もの細い刷毛をワイヤーで高密度に固定して作られているため、歯垢のかき取り力と保持する力に優れています。
一方、ノンワイヤータイプの歯間ブラシは、一般的にプラスチック(硬質樹脂)の軸材の周囲をゴム状樹脂(軟質樹脂)で覆われ、「刷毛」の役割を果たす「突起」部分を有しています。
この突起部分は、ゴム状樹脂(軟質樹脂)を熱で溶かし、突起の形状に切削した型(金型)に流し込み、冷やし固めることで作られます。
この一連の工程を「成形」といいます。微細な形状に金型を切削したり、切削した形状通りにゴム状樹脂(軟質樹脂)を成形することは実は難易度が高く、ワイヤータイプの歯間ブラシほどに刷毛(突起)を高密度に配置することが困難でした。
そこで、歯間ブラシの歯垢除去力を高めるポイントは、「微細な突起を成形する技術」であると考え、ゴムタイプでありながら「刷毛」が高密度に配置されるノンワイヤー歯間ブラシを開発することとしました。
図2 歯間ブラシを用いた清掃の様子
■② 製品の設計
~ノンワイヤータイプの歯間ブラシの歯垢除去力を高めるための着眼点~
「刷毛」の役割を果たす突起が高密度に配置されるノンワイヤー歯間ブラシを設計するにあたり着目したのが「超小型精密成形技術」です(図3)。
これは、樹脂を流し込む金型の加工方法や成形方法を工夫することによって、制御レベル0.1mm以下の単位で薄肉成形品を作製できる非常に精度の高い技術です。
「超小型精密成形技術」を活用することで、ゴム状樹脂(軟質樹脂)の突起を可能な限り細かく配置することができ、突起の数を大幅に増やした微細構造のブラシ部の設計が可能になります。この技術を有する、精密プラスチック部品のパイオニア企業である「(株)三琇プレシジョン」と共同で開発を進めました。
刷毛だけでなく軸材となるプラスチック(硬質樹脂)の形状についても検討を重ねることで、ブラシ部にプラスチック(硬質樹脂)が露出せず、ゴム状樹脂(軟質樹脂)で完全に覆うことが可能になりました。
このように最新の技術を駆使し、突起の数を従来品の約5倍配置させた高密度のブラシ構造を持ち、歯垢の「かき取り力」・「保持する力」の両方を高めたノンワイヤータイプの歯間ブラシを開発することができました(図4)。
図3 超小型精密成形技術の例6)
図4 開発品のブラシ構造(高密度の突起)
■③ 製品の機能
~高密度の突起を持つ歯間ブラシが高い歯垢除去力を示すことの検証~
高密度な突起を持つノンワイヤータイプのブラシが、ワイヤータイプの歯間ブラシに劣らない高い歯垢除去力を示すことを検証するため、人工的に調製した色素含有プラークを用いて歯垢除去力を評価しました。モデル歯間に色素含有プラークを充填し、歯間ブラシを水平に往復5回動かして刷掃しました。
刷掃後、モデル歯間に残存している色素含有プラークを回収し、紫外可視分光光度計を用いて420nmにおける吸光度を測定し、式①から歯垢除去率を算出しました(図5)。
図6にDENT.EX歯間ブラシNONWIRE(S~Mサイズ)とワイヤータイプの歯間ブラシ(DENT.EX歯間ブラシ)の各サイズの歯垢除去率を比較した結果を示します。
DENT.EX歯間ブラシNON WIREは、同サイズ(S,Mサイズ)のワイヤータイプの歯間ブラシの歯垢除去力には劣るものの、SSサイズと比較すると約1.2倍の歯垢除去力を示すことが明らかになりました。これは、突起を高密度に配置できたことにより、歯垢除去力がワイヤータイプの歯間ブラシと遜色ないレベルまで向上したためであると考えられます。
すなわち、DENT.EX歯間ブラシNON WIREは、従来のノンワイヤータイプの歯間ブラシの問題点であった「歯垢除去力の低さ」を改善した歯間ブラシであることを立証しました。
図5 歯垢除去率
図6 DENT.EX歯間ブラシNON WIREのモデルプラークを用いた歯垢除去力の評価結果
■まとめ
刷毛部分がゴムタイプの「DENT.EX歯間ブラシNON WIRE」の①開発の考え方、②製品の設計、③製品の機能について、詳細を述べました。
DENT.EX歯間ブラシNON WIREは、微細な突起を高密度に配置した独自のブラシ仕様で、歯や歯肉への良好な当たり心地を有しながら、ワイヤータイプの歯間ブラシと遜色ないレベルの高い歯垢除去力を示します。
ワイヤー・ノンワイヤーそれぞれのタイプの歯間ブラシの特長を併せ持つ本品を是非ご使用いただきたいと考えています。
- 1)「歯ブラシ事典」:学健書院
- 2)薬事工業生産動態統計調査 平成19年~平成29年年報
- 3)「歯科衛生士のための臨床インプラント講座」:医歯薬出版株式会社
- 4)アールアンドディ社「歯科機器・用品年鑑2019」:株式会社アールアンドディ
- 5)引地清水, 大塚良子, 岡田彩子, 桃井保子:日本歯科保存学会春季学術大会プログラムおよび講演抄録集 p62, 2018
- 6)株式会社三琇プレシジョン ホームページ
目 次
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