171号 WINTER 目次を見る
キーワード:MI治療/切削器具の選択/無麻酔下での修復処置/良好な窩縁部封鎖を獲得する方法
■目 次
■う蝕除去時の歯髄刺激を最小限に抑えるために
コンポジットレジン修復におけるう蝕除去・窩洞形成においては、メタルインレー修復(非接着修復)でのう蝕除去・窩洞形成とは全く異なるコンセプトでの対応が重要となる。一般的に非接着修復では感染象牙質の除去後、修復材料を歯質に対して一定期間固定するための保持形態を必要とし、健全歯質の削除を余儀なくされる。このため窩洞形成は麻酔下で行われることが多く、う蝕除去は感染象牙質を超えて非感染のう蝕影響象牙質・健全象牙質にまで及んでいると考えられる。この健全象牙質への切削刺激は術後疼痛の原因となり、低侵襲な修復治療とは言い難い。
一方でコンポジットレジンによる接着修復では、適切な接着操作を行うことで強く歯質と一体化するため、修復材料保持のための窩洞形態は必要ない。感染象牙質の選択的除去とベベル付与を含む窩縁部の整理によって窩洞形成は終了し、低侵襲な修復治療が可能となる。選択的に感染象牙質のみを除去して非感染のう蝕影響象牙質を温存する修復方法の実践により、窩洞形成時の歯髄刺激を最小限に抑えることを目指す。非感染のう蝕影響象牙質には透明層と呼ばれる象牙細管内に結晶沈着が顕著な層が存在し(図1、2)、この層を温存してう蝕除去を完了することで象牙細管内の刺激伝達は抑制され、切削時疼痛・術後疼痛の軽減に効果的である。さらに透明層の細管内結晶沈着により象牙細管内液の滲出が抑制され、コンポジットレジンの接着性能を阻害しないとの報告もある1)。
図1 う蝕象牙質の段階的硬度変化( 虎の門病院 歯科 山田敏元先生のご厚意による )
図2 健全象牙質とう蝕象牙質内層の象牙細管開口部の観察
■感染う蝕象牙質の選択的削除を可能とする切削器具の選択
感染象牙質の選択的削除には繊細な切削操作が必要とされ、う蝕検知液や低速ステンレスバー(マイクロモーター使用)・スプーンエキスカベータなどの使用により健全歯質温存に配慮する必要がある。
図1に示すように、感染象牙質は健全象牙質と比較して硬度が低下しており、ヌープ硬さ 20KHN 以内の領域に細菌感染が認められるとの報告もある2)。
ヌープ硬さは感染象牙質から健全象牙質にかけて段階的に上昇し、この象牙質硬度の段階的な変化を切削感覚や着色程度で判断して透明層を正確に温存していくことは困難であると考えられる。このため細菌侵入部位とほぼ一致して選択的に感染象牙質を染色するう蝕検知液の使用が推奨されている。
以下に田代歯科医院でのコンポジットレジン修復におけるう蝕除去・窩洞形成の使用器材・手順を紹介する(図3、図4)。
図3 コンポジットレジン修復におけるう蝕除去・窩洞形成の手順
図4 コンポジットレジン修復でのう蝕除去・窩洞形成における使用器材
■無麻酔下での感染象牙質除去の臨床的意義
若年者の急性う蝕では回転切削による深部感染象牙質の削除は歯髄損傷の危険性が極めて高く、スプーンエキスカベータでのう蝕削除に切り替える必要がある。
清水らは、鋭利なスプーンエキスカベータ使用での象牙質切削限界硬度と、う蝕象牙質の細菌感染領域の硬度とがほぼ一致していると報告している3)。
使用回数を制限したMI ステンレスバーや、砥ぎ直し等で切削能力が管理されたスプーンエキスカベータでは、軟化した感染象牙質を選択的に切削可能であり4)、健全象牙質の過剰切削の可能性は極めて低い。感染象牙質量の多い若年者の急性う蝕では、回転切削器具と手用切削器具とを適切なタイミングで切り替えて使用することで、低侵襲でかつ効率的な感染象牙質の削除が可能となる。
また、感染象牙質では痛覚が消失しており、さらに同部位切削時は内層の象牙細管内結晶沈着により歯髄への刺激伝達は抑制されている。よって、原則的には選択的に感染象牙質を切削する際に無痛切削が可能となり、切削範囲が健全象牙質へと侵入した場合に患者は初めて疼痛を自覚することになる。このためコンポジットレジン修復における窩洞形成では、無痛切削範囲のみ限定的に削除することが一般的であり、無麻酔下での修復処置を前提に患者への術前説明を行う必要がある。患者の精神的負担を軽減するために麻酔下で修復処置を行う場合もあるが、上記手法による感染象牙質の除去はコンポジットレジン修復の低侵襲性を活かす重要な考え方である4、5)。
コンポジットレジン修復における窩洞形成の仕上げとしては、エクストラファイン ダイヤバーを使用した窩縁部の整理・ベベルの付与が行われ、う窩開拡時に使用したスタンダードタイプ ダイヤバーでのエナメル質切削断面を滑らかに整えることで充填操作後のホワイトマージン発生を抑制し、コンポジットレジン修復の良好な窩縁部封鎖を獲得することが可能となる(図5)6)。
図5 切削器具の種類が窩縁部エナメル質に与える影響(西村歯科医院 西村耕三先生のご厚意による)
■臼歯隣接面部う蝕へのコンポジットレジン修復
図6 術前。45の隣接面部に原発性う蝕を確認。コンポジットレジン修復にて対応する方針。
図7 窩洞形成前に咬合接触点を確認して窩洞外形を決定するための参考とする。
図8 45のう窩を開拡し、う蝕の全体像を把握。
図9 MI ステンレスバー(マニー)にて感染象牙質を選択的に除去。非注水下で切削片の湿潤状態を確認しながら軽圧で低速切削。
図10 カリエスディテクター(クラレノリタケデンタル)による染色・水洗・乾燥。濃染色部は感染象牙質と判断し、更なる除去が必要となる。
図11 カリエスディテクターでの濃染色部をスプーンエキスカベータ( YDM )により選択的に除去。
図12 感染象牙質の除去完了後、エクストラファインのダイヤモンドポイントにて窩縁部を整理。
図13 ラバーダム防湿後、5にトッフルマイヤータイプのマトリックスシステムにて隔壁を設置。
図14 5窩洞辺縁部への選択的なリン酸エッチング処理。
図15 接着操作完了後、フロアブルレジンによる積層充填の第1層目。
図16 フロアブルレジンを使用した積層充填の第2層目。
図17 積層充填の第3層目としてペーストタイプレジンを充填して形態付与。
図18 5の充填操作を完了して隣接面部分の研磨操作を行った。
図19 5隣接面部の研磨操作完了後、4遠心部へのトッフルマイヤータイプのマトリックスシステムにて隔壁を設置。
図20 4窩洞辺縁部への選択的なリン酸エッチング処理。
図21 接着操作完了後、フロアブルレジンによる積層充填の第1層目。
図22 フロアブルレジンを使用した積層充填の第2層目。
図23 積層充填の第3層目としてペーストタイプレジンを充填して形態付与。
図24 45充填操作を完了し、咬合調整を開始。
図25 咬合調整完了後、研磨操作を行った。
図26 術後。緊密な隣接面接触関係が再構築された。
- 1)Nakajima M,ogata M,Hosaka K,YamautiM,Foxton RM,Tagami J : Microtensile BondStrength to Normal vs.Cries-affected Dentinafter One-month Hydrostatic PulpalPressure ; Adhes Dent,22(4),419,2005.
- 2)佐野英彦. 齲蝕検知液による齲蝕象牙質の染色性と構造についてー齲蝕除去法の再検討を目指してー. 口腔病会誌. 1987;54 : 241-70
- 3)清水明彦, 鳥井康広, スプーンエキスカベーターに関する研究 第2報 スプーンエキスカベーターの刃先のシャープネスと剔削能力との関係. 日歯保存誌.1985;28:690-4
- 4)猪越重久. 猪越重久の MI 臨床ー接着性コンポジットレジン充填修復. 東京 : デンタルダイヤモンド社 ; 2005, 22-30.
- 5)高津寿夫, 頼 偉生, 新田義人, 奥谷謙一郎, 冨士谷盛興, 堤 千鶴子, 他. 検知液をガイドとしたう蝕処置時における臨床的諸問題ー作業量, 窩壁最終染色度, 疼痛についてー. 日歯保存誌. 1984;27:874-84
- 6)Nishimura K, Ikeda M, Yoshikawa T, OtsukiM, Tagami J. Effect of various gritburs on marginal integrity of resincomposite restorations. J Med Dent Sci.2005 Mar;52(1):9-15.
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