166号 AUTUMN 目次を見る
■目 次
- ≫ はじめに
- ≫ 隣接面修復における問題点と対応
- ≫ 窩洞形態によるコンポジットレジン修復の限界
- ≫ 3DリテーナーフュージョンLの新登場とメリット
- ≫ 3DリテーナーフュージョンLによる大きな隣接面CR修復のポイントとコツ
- ≫ 臨床例
■はじめに
ここ数年、様々なマトリックス(隔壁)システムが市販され、臼歯の隣接面う蝕あるいはメタルインレーの再修復においてもコンポジットレジン修復での対応が容易になってきた。
一方で、直接修復では隣接面の豊隆あるいは解剖学的形態の再現と緊密な接触点の回復が困難だ、という理由から、多少健康歯質の削除が多くとも確実な隣接面形態と接触点の回復を行うことができる間接修復を選択する臨床家も多い。
しかし、コンポジットレジンによる直接修復の利点は、間接修復と比較して圧倒的に歯質の削除量が少なく、健康な歯質を保存できることにある。
そしてさらに重要なことは、直接修復においては形成直後に形成面(被着面)に対し接着処理を行うことができ、歯質との確実な接着が期待できることである。間接修復では仮着材の付着など被着面の汚染を避けることができず、確実な接着を得ることはなかなか困難である。
直接修復により理想的な隣接面修復を行うことができれば、接着耐久性に富んだ歯質保存型の治療が可能になる。そのためにも、隣接面修復をコンポジットレジン修復で行う際の問題点を確認し、対応することが肝要となる。
■隣接面修復における問題点と対応
コンポジットレジン修復の隣接面修復における問題点は3つ。解剖学的形態、緊密な接触点、歯肉側マージンの封鎖性、である。
解剖学的形態で問題となるのは、隣接面の豊隆の再現と辺縁隆線およびそれに伴う上部鼓形空隙の形態である。
次に緊密な接触点に関しては、適切な隣接面豊隆形態による接触点の適切な位置そして接触の強さが問題となる。
歯肉側マージンの封鎖性はコンポジットレジン修復において最も大切なポイントである。マトリックスバンドそしてウェッジにより歯肉側マージンを確実に封鎖し、レジン接着材およびコンポジットレジン(フロアブルコンポジットレジン)が流れ出ないようにするとともに、適切な下部鼓形空隙の形態を付与する。
隣接面修復には一般的にトッフルマイヤーリテーナーとマトリックスバンドそしてくさび(ウェッジ)による隔壁が行われてきた。しかしオリジナルのメタルマトリックスバンドを用いると、隣接面の形態が平坦で直線的になってしまう。接触点の位置は咬合面寄りとなることで辺縁隆線に近づき、そのため下部鼓形空隙の形態は広く大きくなり、それに伴う食片圧入が認められ歯肉の炎症を引き起こすことが懸念される。さらにはくさびによる歯間離開も十分ではないことから、緊密な接触点をなかなか得ることができず、いわゆる「接触点がすく」ことが多く認められた。隣接面修復においてコンポジットレジン修復が敬遠されてきた理由がここにある。
1986年、臼歯隣接面修復用の画期的なマトリックスシステムが紹介された。あらかじめ豊隆が付与されたメタルマトリックスバンドと、リングリテーナーからなるセクショナルマトリックスシステムと呼ばれているものである。マトリックスバンドにはあらかじめ豊隆が付与されていることから、隣接面形態はより解剖学的形態に近づき、また適度な歯間離開力を持ったリングリテーナーにより緊密な接触点が得られるようになった。
その後このシステムは改良が重ねられ、現在ではリングリテーナーの脚部が3Dタイプになっている。ここ数年、各社から市販されている3Dタイプのリングリテーナーを含むシステムは、マトリックスバンドの歯面へのしっかりとした保持と歯間離開がより確実になり、隣接面を含む多くの症例において、コンポジットレジン修復を行うことが可能になった。
■窩洞形態によるコンポジットレジン修復の限界
あらかじめ豊隆が付与されたマトリックスバンドと3Dタイプのリングリテーナーによるマトリックスシステムは、コンポジットレジン修復の適用範囲を拡大させた。特に脚部がシリコンになっているコンポジタイト3D(製造:ギャリソン・デンタル・ソルーションズ/製造販売:モリタ)は、マトリックスバンドを歯質にしっかりと密着させることができることから、より自然な隣接面形態の修復が可能になった。また、リングの把持力も緊密な接触点を与えるのに十分な歯間離開力をもち、これまでの臼歯隣接面修復の問題を解消するものであった。
ところが、いずれのメーカーの製品も、大きな隣接面窩洞ではリング脚部が隣接歯間部に入り込み、隣接面隅角付近の形態の再現ができなくなり、症例に限界が見られた。
■3DリテーナーフュージョンLの新登場とメリット
この度新しく2018年2月に発売されたコンポジタイト3D フュージョンには3つのタイプのリングリテーナーが用意されている(図1)。コンポジタイト3D フュージョンリテーナーSとMは、脚部の高さが違い(1mm)歯冠長に合わせて選択可能である。
そして今回非常に画期的な形態でラインナップに加わったのがコンポジタイト3DフュージョンリテーナーLである。これまでのリテーナーと異なる点は、脚部のシリコンの近遠心幅がリテーナーSあるいはMと比較して倍の10mmになっていることである。これにより、これまで修復が難しいとされていた大きな隣接面修復(2級修復)でも、コンポジットレジン修復が可能になったのである(図2~5)。どうして今まで誰も気づかなかったのか不思議なくらい単純な形態であるが、隣接面の形成量が少し大きなインレーの再修復などにこれがすこぶる使いやすい。
図1 コンポジタイト3DリテーナーフュージョンS、M、L(左から順に)
図2 MOメタルインレーの二次う蝕の症例。インレー除去後、う蝕検知液を指標に感染象牙質の削除を行い窩洞形成が終了したところ。
図3 3DリテーナーフュージョンSを装着すると、頰舌側ともに脚部が隣接面に入り込んでしまい、近心隣接面の解剖学的形態が再現できないのがわかる。
図4 3DリテーナーフュージョンLによる隔壁。リテーナー脚部が隣接面に食い込むことなくフュージョンバンドにより頰舌側ともに近心隅角の形態が再現できている。
図5 術直後。辺縁隆線と隣接面の形態回復および緊密な接触点の修復ができる。
■3DリテーナーフュージョンLによる大きな隣接面CR修復のポイントとコツ
フュージョンバンドは5種類の大きさが用意され、いずれも歯を抱きかかえるように面積が広く、そしてこれまでのスリックバンド(ギャリソン/モリタ)と同様樹脂コーティングが施され、コンポジットレジンを光照射した後の除去が容易になっている(図6)。
フュージョンウェッジはシリコン製のフィンがついた形状になっており、4種類の大きさが用意されている。いずれも症例にあったサイズを選択することが大切である(図7)。
コンポジタイト3Dフュージョンリテーナーの装着において重要なのは、フォーセップス(リングフォーセップスフュージョン)により、リテーナーをしっかりと開き(図8、9)リング脚部のシリコンを頰舌方向から挟み込むようにして装着することである。
リングの開きが不十分で歯の上方から滑らせるように装着すると、脚部のシリコンでマトリックスバンド(フュージョンバンド)を変形させてしまうことが起きる。
リングフォーセップスフュージョンは少ない力で開閉が可能な設計になっており、フルオープン時には約25mmまで開くことができる。これによりリングの容易な設置が可能である。
そしてリング設置後は、マトリックスバンドが隣接歯にしっかりと密着し接触点が離れていないかを確認し、もし離れている場合には先の丸い充填器などでマトリックスバンドを隣接歯に押し付け密着させるようにする。また最後に歯肉側マージンがしっかりとバンドで封鎖されていることを確認するのも重要である。
図6 フュージョンバンド5種類
図7 フュージョンウェッジ4種類
図8 リングフォーセップスフュージョンを開いたところ。
図9 コンポジタイト3DリテーナーフュージョンLをリングフォーセップスフュージョンで開いたところ。
■臨床例
最後に、上顎右側第一小臼歯ODインレーの二次う蝕をコンポジタイト3DフュージョンリテーナーLを用いたコンポジタイト3Dシステムによる隔壁そしてクリアフィルメガボンド2とクリアフィルマジェスティーESフローにより修復した症例を示す(図10~24)。
図10 術前。上顎右側第一小臼歯ODインレーの二次う蝕による再修復症例。メタルインレーの頰側マージンは遠心から近心方向2/3付近にある。
図11 ラバーダム装着。第一大臼歯にクランプを装着し、修復歯を含む4歯を露出させる。
図12 メタルインレー除去と感染象牙質の削除。う蝕検知液を指標に感染象牙質を削除する。窩洞形成が終了。歯肉側マージンがラバーシートでしっかりと防湿されているのが確認できる。
図13 フュージョンバンドを遠心に設置し口蓋側からフュージョンウェッジを挿入する。歯肉側マージン部がバンドとウェッジでしっかりと封鎖されていることを確認する。
図14 3DリテーナーフュージョンLを装着する。幅広の脚部が隣接面に食い込むことなくフュージョンバンドを歯に圧接するとともに歯間離開を行うことができる。
図15 クリアフィルメガボンド2 プライマーによる歯面処理を行う。窩洞内に十分にプライマーを塗布する。
図16 プライマー乾燥後。窩洞表面に光沢感が確認できる。
図17 ボンド塗布。窩洞内に十分に塗布する。塗布後エアーブローによりボンド層を均一にする。
図18 ペンキュアー2000により光照射を3秒行う。
図19 フロアブルコンポジットレジンクリアフィルマジェスティESフローLowにより、隣接面と窩底部の充填を行う。
図20 ESフローLowによる充填が終了したところ。
図21 クリアフィルマジェスティESフローSuper-Lowにより各咬頭および辺縁隆線部を順番に充填する。充填は全てフロアブルコンポジットレジンで行う。
図22 隔壁を除去する。ボンドあるいはフロアブルコンポジットレジンのバリが見られる。ラバーダム除去後、超微粒子ダイヤモンドポイントによる形態修正、咬合調整を行う。
図23 術直後。頰側のマージンが近遠心中央付近にまである大きな修復であったが、3DリテーナーフュージョンLを用いることで、これまでと同じ術式による充填が可能になった。
図24 頰舌咬頭の咬頭傾斜と辺縁隆線の上部鼓形空隙の形態が再現できているのがわかる。
- 秋本尚武:コンポジットレジンに特化した隔壁法(臼歯). 確実なステップを心がけることの重要性、56-63. 宮崎真至編:コンポジットレジン修復のベーシック&トレンド診査・診断からメインテナンスまで. デンタルダイヤモンド増刊号、デンタルダイヤモンド、2015.
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