170号 AUTUMN 目次を見る
キーワード:2級修復/ダイレクトボンディング/CR充填/隔壁/マトリックスシステム
■はじめに
近年、患者さんの審美的要求度はますます高まる傾向にあり、日常臨床の場においても、臼歯部う蝕治療時に金属色になる修復を避けたいと希望される患者さんが増えてきているのを目の当たりにする。
とりわけ保険診療においては、2級窩洞の場合、メタルインレーによる間接修復を術式として選択されることが多い。しかし、近年のコンポジットレジンやボンディング材が高性能化してきていることや、充填術式の確立、周辺材料の進歩、何よりミニマルインターベンション(MI:Minimam Intervention)コンセプトの普及により、低侵襲で審美と機能を兼ね備えた直接法コンポジットレジン充填が今脚光を浴びる時代となってきていると実感する。
一般的に日常臨床において、1級窩洞ではコンポジットレジン充填修復を選択される場合が多いが、2級窩洞においては、①緊密な隣接面コンタクトの回復、②下部鼓形空隙部の適合・形態の付与に熟練を必要とすること、③防湿への対応、④チェアタイムの増加等々の理由からコンポジットレジン充填による直接修復は敬遠され、機能面での確実性のみを重んじて、メタルインレーによる間接修復を選択されるのが実際のところと考える。
■セクショナルマトリックスシステムの解説と使用方法
本稿では、上記の煩雑な2級窩洞のコンポジットレジン充填を臨床に取り入れ易く手助けしてくれる「セクショナルマトリックスシステム」のコンポジタイト 3D システム(ギャリソンデンタル)を用いた臨床例を紹介する。
このシステムは、3次元的にプレカーブを付与した金属製のマトリックス、側壁とマトリックスを固定するためのシリコーンフィン付きのウェッジ、当該歯とマトリックスを固定しながら歯間離開機能をもつリングリテーナー、リングリテーナーを着脱するためのフォーセップスで構成され、マトリックスを挿入除去するためのフォーセップスも準備されている。
マトリックス(5種類)、ウェッジ(4種類)、リングリテーナー(3種類)は、治療当該歯の様々な状況に対応できるようラインナップされている(図1)。
図1 術前のオルソパントモグラフィー画像。
欠損部の骨化を待ってインプラント治療とした。
使用方法は、
①窩洞形成を行い歯面処理した後、当該歯の臨床的歯冠長を参考にマトリックスを選択し、隣接面に挿入する(図2)。
②窩底部の歯質とマトリックスが密着するサイズのウェッジを挿入し固定する(図3)。
③当該歯の歯冠や隣接面イスムスに合わせたサイズのリングリテーナーを選択し、フォーセップスを用いて装着する。装着が終われば、インスツルメントを用いて、隣在歯側コンタクトポイント相当エリアにマトリックスをバーニッシュする(図4)。大臼歯間で隣接面イスムスが広い症例では、緑色のリングリテーナーを用いることを推奨する。
④リングリテーナーを外すと歯間離開された力が戻ることにより、マトリックスの除去が困難になるので、専用のフォーセップスを用いて除去する(図5)。
多少の器具の操作方法と特性を理解する必要はあるが、以上のわずか4ステップで2級窩洞充填の要となる隣接部のコンタクトポイントと形態の回復が行える優れものである。
図2 フォーセップスを用いて隣接歯間部にマトリックスを挿入する。治療当該部位のマージンが歯肉側に近い場合は延長部が付与されたマトリックスを推奨する。
図3 ウェッジを挿入し窩底部とマトリックスを可能な限り密着させることによりギャップの無い充填が行える。
図4 リングリテーナーは近心側に設置するよう設計されている。広めにリングを開きマトリックスを圧し潰さぬように注意が必要である。
図5 マトリックス内面はコンポジットレジンの離れが良いようにコーティングされているが、緊密なコンタクトによりピンセットでは除去しにくい場合は専用のフォーセップスを用いることを推奨する。
■コンポジタイト3Dフュージョンを用いた治療のステップバイステップ
患者さんは上顎左側犬歯と第一小臼歯隣接部の清掃時にデンタルフロスの断裂と冷水痛を主訴として来院。
術前:主訴の部位である第一小臼歯には近心から咬合面にかけて2級のメタルインレーが装着されている(図6)。X線診断により、犬歯の遠心部と第一小臼歯に装着されている不適合なメタルインレー直下に二次う蝕が認められた。
う蝕治療においての術式選択は、グループファンクションドオクルージョンを有する小臼歯部においては、金属修復物をセメント合着するよりも、接着修復する方が歯の構造力学的に有利であると考えた点と、日本歯科保存学会のMIを理念としたエビデンスとコンセンサスに基づくガイドラインに記載されている以下の文言に従い、両歯共にコンポジットレジン充填を行うこととした。
・高度な接着操作とコンポジットレジンの充填操作が可能であれば、直接法を優先する。
・高レベルの科学的根拠はないが、直接法が推奨される。
(1)慎重に健全残存歯質を傷つけないよう旧充填物を除去した後に、う蝕検知液を用いて感染歯質を染めだし、除去すべき部位を視覚化する(図7)。
(2)染色部位が残存していないか確認を行いながら、感染歯質を除去する(図8)。
(3)接着操作に入る前に歯垢染色液を塗布する(図9)。
(4)治療当該歯に付着しているプラークの視覚化を行う(図10)。
図6 初診の状態。
図7 充填物を除去した後に感染歯質の有無を確認するため、う蝕検知液を窩洞に塗布する。
図8 う蝕検知液を塗布・水洗・乾燥を繰り返し、染色部位が無くなるまで染色部位を取り除く。
図9 窩洞辺縁に接着阻害因子(プラーク)の付着がないかを歯垢染色液を用いて確認する。
図10 窩洞周辺にプラークの滞留が認められる。これを取り残したまま接着操作を行うことによりマージナルギャップが生じ、後に二次う蝕や褐線の発生につながる。
(5)グリシンパウダーが填入されたエアフローハンディ 3.0(EMS)を用いて徹底清掃し、窩洞辺縁のエナメル質を整えた後に、ラバーダムを装着する(図11)。
(6)窩縁周辺の未切削エナメル質部位に選択的リン酸処理を行い、十分に水洗・乾燥する(図12)。
(7)ボンディング材を塗布する。本症例ではクリアフィル ユニバーサル ボンド Quick ER(クラレノリタケデンタル)を用いた(図13)。
(8)ボンディング材塗布後、弱圧から強圧に十分にエアブローし、ワンステップボンディング材に含まれている水や溶媒を吹き飛ばす(図14)。
(9)光重合器を規定の時間照射する(図15)。
(10)先に犬歯遠心部位をプラスチック製マトリックスであるヴァリストリップ(ギャリソンデンタル)とフュージョン ウェッジを用いて充填する(図16)。
(11)第一小臼歯近心部位にマトリックスを挿入し、フュージョン ウェッジを用いて固定する(図17)。
(12)第一小臼歯の頰舌側窩壁とマトリックスを適合させるためにリングリテーナーを装着する(図18)。
(13)歯質とマトリックスとの接合部位にクリアフィル マジェスティESフロー High OA-2(クラレノリタケデンタル) を用いてライニングを行う(図19)。
(14)近心壁相当部位に予測される辺縁隆線直下を目安に、クリアフィルマジェスティ ESフロー Low A-2を用いて充填する(図20)。
(15)象牙質相当部位にクリアフィルマジェスティ ESフロー Low A-3.5を用いて充填する(図21)。
(16)咬合面形態をクリアフィル マジェスティ ESフロー Super low A-2を用いて充填する(図22)。
(17)術後。咬合調整・研磨が行われた状態(図23)。
図11 歯面清掃した後に、窩洞辺縁の鋭利なエナメル質をファインのダイヤモンドポイントで調整する。
図12 窩洞辺縁の接着力を高めるためにエナメル質にリン酸エッチングを行う。
図13 ワンステップボンディング材を窩洞にたっぷりと塗布する。
図14 ワンステップボンディング材の臨床応用では、特にこのエアーブローをしっかりと行うことが接着の決め手となる。
図15 所定の時間、光重合を行う。
図16 隣在して窩洞が存在する場合は、後に行う操作を考慮して先に小さな窩洞を充填する。
図17 窩洞窩底部とマトリックスとの密着度合いに注目いただきたい。本症例ではスリックバンド(ギャリソンデンタル)を使用した。
図18 リングを装着して窩洞側壁とマトリックスを接合させるとともに、隣接面コンタクト部分を再現できるよう歯間離開の力が働くのが本システムの特徴である。
図19 設置されたマトリックスと歯質の適合を高めるために、ハイフローコンポジットレジンにて一度目は薄くライニングを行う。
図20 本来ある近心壁をマトリックスの内面を用いてローフローコンポジットレジンにて再現する。
図21 コンポジットレジンが持つ重合収縮に対応するために積層充填を行い、一度に重合させる体積を小さくする。象牙質相当部位には明度の低い色調を選択した。
図22 最表層は咬合面形態を付与するためにスーパーローフローコンポジットレジンが持つ低粘稠度を利用する。エナメル質相当部位なので明度の高い色調を選択した。
図23 術後の状態。
■最後に
2級窩洞に対する直接法コンポジットレジン充填は非適用と言われた時代も過去にはあったが、今や優れたコンポジットレジン、ボンディング材、セクショナル マトリックスシステムを適切に用いることにより、その難易度は低下したといえる。
私自身、旧型のコンポジタイト時代から使用しているが、予後も良好であり臨床を行う上において無くてはならない器具となっている。2級修復における臨床経過10年修復の生存率比較では、メタルインレー修復をコンポジットレジン修復が上回るという報告もなされている。
器具の操作に慣れるまではほんの少しの時間を要するとは言え、間接法を選択したが故に失われる健全残存歯質と、金属を合着したが故におこるリーケージを考えると、現在のう蝕治療の第一選択は、ミニマルインターベンション コンセプトに基づいた接着修復治療、とりわけ直接法コンポジットレジン充填が審美的、機能的、構造力学的、生物学的にも有意であり予知性の高いものと考える。
最後に本稿をお目通しいただき、コンポジタイト3D フュージョンを用いる2級窩洞直接法コンポジットレジン充填に興味をお持ちくださり、患者さんの健全歯質を可及的に温存する術式の優位性をご理解いただけると幸いである。
SAVE THE ENAMEL!!
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