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「スーパーMTA ペースト」−MTAとTBBが協奏する新しいMTA系材料−

サンメディカル株式会社 第一研究開発部 井波 智鶴/岩崎 小百合/土川 益司

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キーワード:Mineral trioxide aggregate/Tri-n-butylborane/硬組織誘導/デンティンブリッジ

目 次

はじめに

MTA(mineral trioxide aggregate)は、1998年に米国で歯内療法用の材料として発売され、根管充填、逆根管充填、直接覆髄、穿孔封鎖などの用途で世界的に普及した1)。その後、日本では2007年から「歯科用覆髄材料」として市販されている。MTAが歯科材料として使用されるようになって20年が経過し、多くの研究結果が報告されている。MTAが高価な材料であるにもかかわらず使用される理由は、その優れた性能、特に硬組織誘導能にあると考えられる。
Tri-n-butylborane(TBB)はスーパーボンドに採用している重合触媒であり、1982年の発売から30年以上に渡り臨床においてご使用いただき、生体適合性の高い材料として認知されている。TBBによるモノマーの重合は、一般的な歯科材料で多く使用されている重合開始剤とは異なり、未反応で残存するモノマー量が少ないことが報告されている2)。また、完全乾燥が困難な歯質のように、少量の水が存在する環境の方がより効果的に重合反応が進むこともTBBの特長である3)。これらの特長がスーパーボンドの臨床実績に寄与していると考えられる。
MTAとTBBは、材料としては全く異なるものであるが、数々の研究で認められた優れた生体適合性と長期間に渡り積み上げられた臨床実績は、2つの材料の共通点と言える。そこで、我々は2つの材料の特長を活かしたペーストタイプの新しいMTA系材料の開発に取り組んできた。本稿では、ResinmodifiedMTA系材料「スーパーMTAペースト」について紹介する。

「スーパーMTAペースト」とは

スーパーMTAペーストは、MTAとモノマーを組成とする「ペースト」とTBBを含む「キャタリストV」からなる(図1:製品写真、表1:構成品と組成)。
本材は水との混和や水綿球による養生が必要なく、ペーストをTBBによって硬化させるメカニズムである。次の項で本材の特長について説明する。

  • スーパーMTAペーストセット 製品写真
    図1 スーパーMTAペーストセット 製品写真
  • スーパーMTAペースト構成品と組成
    表1 スーパーMTAペースト構成品と組成
    *血液との接触による変色防止のため、X線造影剤に酸化ジルコニウムを採用(ビスマスフリー)

「スーパーMTAペースト」の特長

(1)優れた生体適合性
レジン系覆髄材料は溶出する未重合モノマーの為害性が懸念されることがある4、5)。しかし、スーパーMTAペーストはレジン系材料でありながら高い生体適合性を有する材料である。生体安全性確認試験において、本材を適用した露髄部には炎症反応がなく、良質なデンティンブリッジが形成されることを確認している(図2)。

  • 優れた生体適合性のイメージ
    図2 優れた生体適合性
    スーパーMTAペーストによる直接覆髄後の修復(第三)象牙質形成の状態
    歯髄に炎症反応はなく露髄部に良好な修復象牙質の形成が認められる(イヌ臼歯埋植後69日)
    画像提供:株式会社化合物安全性研究所

(2)持続的なカルシウム徐放性
MTAは水と反応することにより水酸化カルシウムを生成し、そこから徐放するカルシウムイオンや水酸化物イオンが生体適合性、抗菌性などと深く関連すると考えられている6)。そこで、スーパーMTAペーストでは、効率よく、かつ持続的に水酸化カルシウムが生成するようにペースト中に親水性の高いモノマーとMTAをバランスよく配合した。その効果は、完全に硬化させた本材においても持続的にカルシウムイオンが徐放することから確認できる(図3)。

  • スーパーMTAペーストのカルシウムイオン徐放性のイメージ
    図3 スーパーMTAペーストのカルシウムイオン徐放性
    完全に硬化した材料から持続的なカルシウムイオンの徐放が認められる

(3)リン酸カルシウム結晶の形成能
MTAから徐放されるカルシウムイオンは、組織液中に含まれるリン酸イオンと反応してリン酸カルシウムとなりMTA表面に結晶となって析出する。この結晶は、組織中では硬組織(象牙質やセメント質)を誘導し、根管内では象牙細管を石灰化させると言われている7)。スーパーMTAペーストも疑似体液中においてリン酸カルシウムの結晶が析出することが報告されている8)図4)。さらに、本材による脱灰象牙質の再石灰化も示唆されている9)

  • スーパーMTAペースト硬化体表面のSEM観察のイメージ
    図4 スーパーMTAペースト硬化体表面のSEM観察(37℃疑似体液中に4日間浸漬)
    表面に多量のリン酸カルシウムの結晶が析出している。リン酸カルシウムの結晶は組織中では硬組織(象牙質やセメント質)を誘導し、根管内では象牙細管を石灰化させると言われている7)

(4)象牙質封鎖性
MTAは析出するリン酸カルシウムの結晶が象牙細管に入り込むことで象牙質を封鎖すると言われている6)。前述のとおり、スーパーMTAペーストもリン酸カルシウムの結晶が析出するため、MTAによる象牙質封鎖性を有する。さらに、スーパーMTAペーストは、ペースト中に配合している親水性のモノマーが象牙細管に入り込み、TBBにより重合することでレジンタグを形成するため、さらなる封鎖性の向上が期待できる(図5)。これは、完全乾燥が困難で水分が介在する象牙細管内であっても効果的に重合反応が進むTBBだからこそ発揮できる機能である。

  • スーパーMTAペーストと象牙質との界面状態のイメージ
    図5 スーパーMTAペーストと象牙質との界面状態
    スーパーMTAペーストと歯質界面の状態は良好であり多量のレジンタグを形成している

(5)ペースト化による操作性の向上
スーパーMTAペーストは、パサつきがなく滑らかなペースト性状であるため、練和しやすいことも特長のひとつである。さらに、ペースト化することによりノズルによる移送も可能となった。専用の「スーパーMTAペースト ノズル」は先端が長くフレキシブルなため、複雑な形状の窩洞にもピンポイントにペーストを移送することができる(図6

  • 専用ノズルの使用によりピンポイントな移送が可能
    図6 専用ノズルの使用によりピンポイントな移送が可能

(6)高純度ポルトランドセメントの採用
MTAは、天然の鉱物を原料にして製造されるポルトランドセメントをベースにしており、健康や環境に影響があるとされる重金属が不純物として含まれていることが報告されている10)。歯科においては、重金属の含有量が規制されている材料もあり、極力重金属を含まない方が望ましいと考えられる。そこで、スーパーMTAペーストには国内工場で合成し、重金属の含有を極限まで抑えた高純度ポルトランドセメントを採用した(表2)。

  • 国内工場で合成した高純度ポルトランドセメントを採用 国内工場で合成した高純度ポルトランドセメントを採用
    表2 国内工場で合成した高純度ポルトランドセメントを採用(検出なし:ICP質量分析法)

最後に

スーパーMTAペーストは学術研究、臨床の双方において多くのエビデンスを持つ「MTA」と「TBB」の技術が協奏する新しいMTA系材料である。本材はレジン系材料でありながら生体適合性が高く、かつ、操作性の向上を達成した非常にユニークな材料である。本材が多くの臨床で活用され、患者様の歯を守る一助になれば幸いである。

参考文献
  • 1)興地隆史.生体材料としてのMineral trioxide aggregate(MTA)の特性.デンタルダイヤモンド社, デンタルダイヤモンド2015年7月号,30-38.
  • 2)Hirabayashi C, Imai Y. Studies on MMATBB Resin I. Comparison of TBB and Other Initiators in the Polymerization of PMMA/MMA Resin. Dent Mater J 2002;21(4):314-321.
  • 3)Okamoto Y, Takahata K, Saeki K. Studies on the behavior of partially oxidized tributylborane as a radical initiator for methyl methacrylate (MMA) polymerization. Chem Lett 1998; 1247-1248.
  • 4)Komabayashi T, Zhu Q, Eberhart R, Imai Y.Current status of direct pulp-capping materials for permanent teeth. Dent Mater J 2016;35:1-12.
  • 5)Lee H, Shin Y, Kim SO, Lee HS, Choi HJ,Song JS. Comparative study of pulpal responses to pulpotomy with ProRoot MTA,RetroMTA, and TheraCal in Dogs’teeth. J Endod 2015;41(8):1317-1324.
  • 6)Okiji T, Yoshiba K. Reparative Dentinogenesis Induced by Mineral Trioxide Aggregate:A Review from the Biological and Physicochemical Points of View. Int J Dent 2009;10.1155/2009/464280.
  • 7)小林千尋.MTAの臨床 よりよいエンドの治療を目指して.医歯薬出版株式会社,2013.
  • 8)Inami C, Nishitani Y, Itsuno S. The development pf new cement with apatite-forming ability. The 66th Annual Meeting of Japanese Association for Dental Research, P086, 2018.
  • 9)Katsumata A, Hoshika T, Nishitani Y. The Effect of Dentin Remineralization By Pulpcapping Materials. The 66th Annual Meeting of Japanese Association for Dental Research,P017, 2018.
  • 10)Chang SW, Shon WJ, Lee W, Kum KY,Baek SH, Bae KS. Analysis of heavy metal contents in gray and white MTA and 2 kinds of Portland cement: a preliminary study. Oral Surg Oral Med Oral Pathol Oral Radiol Endod 2011; 10.1016/j.tripleo.2009.12.017

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