170号 AUTUMN 目次を見る
京都府亀岡市
石川歯科医院
院長 石川 清之
近年、想定できる選択肢を全て開示して、患者さんに選んでもらうことがインフォームドコンセントと捉える向きもありますが、やはり専門家である歯科医師が様々な情報をもとに的確な判断をくだし、患者さんを健康へと導いていくことが、患者さんと医療者の本来の関係だと思っています。そのためには、まず患者さんに信頼していただくことが何より大事になりますが、初診の段階で即座に信頼を得るのはなかなか難しいですから、こちらも普段から治療技術以外の人間力を上げる努力が必要ですし、ファーストインプレッションの重要性を理解し、誠実に対応することを心がけなければならないでしょう。
例えば、口腔崩壊の著しい患者さんが初診で来院されたとしましょう。そうした状況になったのには必ず理由があって、それを解決しないままに「欠損だからインプラントを、ブリッジを」と安易に進めてしまうと、いずれまた同じ状況に戻ってしまいます。欠損になった理由をきちっと抑えて適切な手を打っておけば、長期間安定した状態を保てるはずなんです。その原因をどこまで追求できるか。そのことに重きをおくことが、治療を成功に導くと考えています。
私の場合、欠損補綴に関して言えば、体力的に不安のある高齢者や口腔内にすでにブリッジが入っている場合を除けば、インプラントを第一選択と考えています。開業して28年になりますが、インプラントは開業して2、3年ほど経過して導入しました。私も例に漏れず、スクリューやインプラントの破折などのトラブルに見舞われることもありますが、原因はすべて力の問題で、過度な咬合力がかかることが最も大きな問題だと感じています。ですので、メインテナンスの際には常に咬合の状態をチェックするようにしています。
SPIシステムとは、モリタが国内販売するようになった当初からの付き合いですから、もう14年以上になるでしょうか。当時からドリリングや埋入の手順がシンプルで、とても使いやすい印象を持ったことを鮮明に覚えています。特にドリリングの際には、ドリルの先端に1ステップ前のドリルと同径のガイド機能がついていて、次の径のドリルを埋入窩の入り口に当てるとドリルが自然に立つような感覚で軸ブレも少なく、より正確に埋入窩を形成することができます。患者さんにとっては、埋入の不快感も軽減されますし、短時間での埋入ができ、とても助かっています。より切削力と耐久性が高いセラミック製のドリルも使いやすく、インプラントの長さが1.5mm刻みでラインナップされていることも大きな魅力です。
適用症例としては、基本的に成熟骨に使用します。あとは前歯で骨幅の少ない時に、2.8mmのドリルが使える3.5mmタイプを選択することもよくありますね。過去には抜歯即時埋入を多用した時期もありましたが、最近では骨が十分に成熟するまで待つことが多くなりましたので、SPIシステムの登場回数が増えています。
近年は、高性能のCTによって骨の状態をより正確に診断することが可能になりました。
また、埋入計画を立てる際にも平面的なパノラマでは見えていなかった部分がCTで立体的に確認できることで、治療の精度も上がりましたし、インプラントの適用範囲も広がりました。
症例をご覧いただければ、CTがいかにインプラントの埋入計画に役立つかがお分りいただけるでしょう。CT導入以前であれば、恐る恐る手探りで行っていたことも、上顎洞との距離、骨幅を調べて、それに合う長さと直径のインプラントを選択することで、ほぼ計画通りに埋入することが可能です。そして1.5mm刻みでサイズ選択ができるSPIシステムは、ここでも使い勝手の良さを発揮します。
さて、近い将来、人口が下降線をたどり、特に地方ではその傾向が顕著になります。歯科医院にとってもさらに厳しい状況が到来するでしょう。私が講師をしているモリタ塾では、若い歯科医師を少しでも良い方向に導けるようにと試行錯誤を続けていますが、歯科の課題だけでなく、人口減や地方の過疎化といった大きな問題にも、広い視野をもって取り組んでいけるような人材の育成にも寄与していきたいと考えています。
図1 初診時。多くの補綴物や欠損が見られる。-
図2 764、57にインプラント埋入を計画。5は抜歯とした。 -
図3 4のインプラント埋入シミュレーションの状況。モリタ製CTは様々な機能があり重宝している。 -
図4 6の埋入シミュレーションの状況。
図5 7の埋入シミュレーションの状況。-
図6 ステントにガイドスリーブを装着。 -
図7 インプラント埋入直後のデンタル。 -
図8 4埋入後CT画像。シミュレーション通りに埋入できた。
図9 同じく6埋入後CT画像。-
図10 7埋入後CT画像。SPIシステムには、豊富なサイズと1.5mm刻みの長さがあり、骨のレベルに応じて使い分けができ使い勝手が良い。 -
図11 治療終了後の口腔内写真。 -
図12 治療終了から6年後のデンタル。6の歯根破折により、新たにインプラントを追加埋入。
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