177号 SUMMER 目次を見る
Clinical Report
INICELL®インプラントの特徴を活かした臨床応用
キーワード:付着歯肉幅の狭い症例への対応/予知性の高いインプラントシステム
■目 次
■はじめに
超親水性表面「INICELL®」が国内で発売され約1年が経過し、日常臨床において様々な恩恵を受けている。その特徴の一つがオッセオインテグレーションの早さであり、埋入から3~4週間で骨結合が得られ、患者様へは喜びとなってフィードバックされている。
また、フィクスチャーのラインナップも増え、機械研磨面(カラー)の高さも選べるようになり、臨床のindicationに応じた選択ができるようになった。
具体的にはカラー部の高さが2.5mmのフィクスチャーが加わり、フィクスチャーとアバットメントの接合部を歯冠側へ位置させることが可能で、補綴後の炎症のコントロールが予知性の高いものとなった。
そこで、今回はカラー部の高さ2.5mmのエレメントLCインプラントを用いて、付着歯肉幅の狭い症例に対し良好な結果を得たので紹介したい。
■症例
患者様は72歳女性。高血圧にて投薬中。47歯が噛むと痛いとのことで来院(図1)。初診時のX線写真(図2)で歯根尖に及ぶ透過像があり、垂直的な動揺もみられた。数年前より咬合時に違和感があったが、歯を削ることで対応していたとのこと。初診時の口腔内写真からも患歯に削合痕が観察された(図1)。
今回は対処療法ではなく、根本的な治療をご希望されたため、抜歯後にインプラント治療をご説明したところ承諾された。図3は抜歯後6週の埋入前の写真であり、metal tattooの存在と頰小帯が高位に付着しているのが観察された。
抜歯後7週に直径4.0mm、長さ8mmのINICELL®インプラント、エレメントLCを鎮静下で埋入した(図4、5)。切開は歯槽頂切開とし、粘膜骨膜弁を翻転後にmetal tattooの除去と頰小帯の側方移動術をEr:YAGレーザーを用いておこなった。埋入窩形成時には抜歯窩が残っていたが、抜歯窩根尖部より下顎管側の骨に初期固定を求めた(図6)。今回用いたインプラントはparallel wall typeのインプラントであったが、溝のピッチが狭いため、先端部の骨のみで初期固定が得られるのがこのインプラントの特徴と言える。
また、SPIのベクトドリルは先端部が細くなっていることから、サイズを太くする際にwobblingすることも少ない。したがって、残存する抜歯窩に誘導されることなく埋入することができたのも初期固定が得られた要因と思われる(図7)。
図8は埋入後4週の口腔内写真である。頰小帯とインプラントの間には十分な角化歯肉が確保され、頰側のmetal tattooもおおよそ改善された。
その後インプラント上部の歯肉を側方へ移動し、カバースクリューを装着して軟組織の治癒を待った(図9、10)。
図11は術後5週のX線写真であり、カラー部が骨縁上に位置しているのがわかる。カラー部の高さを2.5mmのものを選択したため、歯肉の高さとショルダーの位置がほぼ同じ位置となり、予想通りの結果となった。この時点のISQ値は72であったので、続けてトーメンスキャンアバットメントを装着し(図12)、IOS (TORIOS®3:3shape)にて印象採得をおこなった(図13)。トーメンスキャンアバットメントの装着も接合部が歯肉縁に位置しているため容易におこなえた。
得られたデータはラボサイドへ転送し、画面上でジルコニアクラウンの設計(Dental System:3shape)を開始した(図14)。選択したジルコニアディスクはグラデーション付きのものとし、焼結後はステイニングも施した。
筆者は、歯肉の厚み確保の観点から骨縁から歯肉縁までの粘膜貫通部はできるだけ細くすることを慣例としている。今回のケースでは、粘膜貫通部はインプラントカラー部となり、インプラントとアバットメントの接合部がほぼ歯肉縁に位置している。そのため、プロビジョナルによるエマージェンスプロファイルの調整はおこなわず、最終補綴物を光学印象後すぐに製作した(図15)。アバットメントは臼歯部であることからチタン性のチタンベースアバットメントをもちい、ジルコニアクラウンとレジンセメントにてラボサイドで接着した(図16)。製作された補綴物はスクリュー固定にて装着され、確認のデンタルX線を撮影した(図17)。図18は装着後の咬合面観である。SPIインプラントの特徴であるアクセスホールの細さが観察される。この特徴により補綴物の頰舌側の厚みが十分に確保でき、チッピングや破折が軽減されるのもSPIインプラントの利点である(図19、20)。
図1 初診時の咬合面観-
図2 初診時のX線写真 -
図3 抜歯後6週の口腔内写真 -
図4 INICELL® エレメントLC(φ4.0mm、L8mm)
図5 INICELL® インプラント パッケージ-
図6 術中写真 -
図7 術直後CT写真 -
図8 術後4週の口腔内写真
図9 光学印象前の口腔内写真-
図10 光学印象前の口腔内写真(ヒーリングキャップ撤去時) -
図11 術後5週のX線写真 -
図12 トーメンスキャンアバットメント装着時の口腔内写真 -
図13 光学印象時 -
図14 光学印象データ(TORIOS® 3 3shape) -
図15 ZrCrownの設計(Dental Designer, 3shape) -
図16 完成したZrCrown(チタンベース使用) -
図17 装着後のX線写真 -
図18 装着後の口腔内写真(アクセスホール封鎖前) -
図19 装着後の口腔内写真(アクセスホール封鎖後) -
図20 装着後の側方面観
この記事はモリタ友の会会員限定です。登録すると続きをお読みいただけます。
残り 602 文字
同じ筆者の記事を探す
【 原 俊浩 】モリタ友の会会員限定記事
同じテーマの記事を探すインプラント 】
【モリタ友の会会員限定記事
- 177号 Clinical Report 即時荷重インプラント治療と共振周波数解析装置
- 174号 Clinical Report インプラント安定指数(ISQ 値)を用いた患者参加型インプラント治療の提案
- 174号 Trends 迅速かつ効果的なチェアサイド・コンディショニングを可能にしたイニセルインプラントのメカニズム
- 174号 Case Report SPIイニセルインプラントを骨吸収が著明な上下無歯顎に応用した一症例
- 171号 Field Report 患者さんに“優しい歯科治療”を提供するインプラントシステムと手術用ドリルビット
目 次
モリタ友の会会員限定記事
- Contribution 歯科用CBCT “3DX multi image micro CT” 発売20周年を迎えて―不可能に挑んだ開発の軌跡―
- Contribution 患者説明に活かすCBCT画像
- Case Report 非吸収性メンブレンの臨床応用
- Clinical Report Erwin AdvErL EVOの臨床応用の有用性と実際
- Trends 「クリアフィル® マジェスティ® ESフロー」 ユニバーサルシェードの特長-使いやすさはそのままに、シェード選択、在庫管理の手間を軽減-
- Dental Talk 「歯科がスポーツから学べること」特別座談会②「 義歯は噛むだけのもの⁉~義歯臨床での筋機能知識の有用性を考える~」
- Seminar Review 歯科がスポーツから学べること 義歯臨床で役立つ筋機能知識のいろいろ
- Dental Talk 予防歯科特別座談会 高齢者の予防歯科とリスク把握の重要性
- Field Report 患者さんを笑顔へと導く、高濃度フッ素配合ペーストを活用したPMTCの一例
- Close Up 「摂食嚥下障害」を学ぶため自院を一時閉院し、単身大阪へ
- Field Report 独自に「指導マニュアル」を作成し質の高いセルフケア実践をサポート
- Field Report 歯石を探知し、確実に取り除く SRPに有効なスケーラーの選択と使用法
- Column 患者さんファーストの予防歯科講座 〜いつも同じ口腔衛生指導をしていませんか?〜 第2回:プロケアアイテム選択のポイントと使い分けについて
- Contribution 歯根端切除術におけるCBCTの有用性
- Contribution 歯内療法におけるCBCTの有用性
- Clinical Report INICELL®インプラントの特徴を活かした臨床応用
- Clinical Report 即時荷重インプラント治療と共振周波数解析装置
- My Recommendation リピーター続出! 患者さんの満足度を上げる歯面清掃用器
- My Recommendation ウイルス感染症対策の一つとして刺激の少ない鼻腔洗浄を提案
- Clinical Report 2液性ボンディング材「クリアフィル メガボンド2」を使用した接着治療
- Clinical Report デジタルデンティストリーシステムとインプラントガイドシステムの活用
- Trends 菌の増殖を2週間持続的に抑制する 新しい粘膜調整材 「ティッシュコンディショナーCPC」
他の記事を探す
モリタ友の会
セミナー情報
会員登録した方のみ、
限定コンテンツ・サービスが無料で利用可能
オンラインカタログでの製品の価格チェックやすべての記事の閲覧、臨床や経営に役立つメールマガジンを受け取ることができます。
商品のモニター参加や、新製品・優良品のご提供、セミナー優待割引のある、もっとお得な有料会員サービスもあります。